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昼下がりの太陽がまぶしかった。岩場の出口である。川沿いには桜が咲いていた。今まで全く気づかなかった。満開の山桜である。
「見事だな」
どこへ行ったら良いだろう。まるで情報が無い。しかし考える頭はある。ミストダガーが次どう動くか。敗者復活の鐘は二つ。ローゼンならば二つとも手に入れようと動く、と思う。
一つ目の鐘は赤い竜が持っていた。もう一つの鐘もボスクラスのモンスターが持っていると仮定しよう。赤い竜は校舎から向かって西に出現した。もう一方のモンスターは別の場所に出現すると考えるのが自然だ。ならば、北東南のいずれかだ。
そしていま俺のいる場所は校舎から向かって東にある。辺りにボスモンスターが出現したような騒々しい音は無い。だから東の可能性も低い。
北南のどちらかだ。
俺は道ばたに落ちている棒きれを拾った。それを立てて手を離す。左向きに倒れた。
「南か」
よし、行く方向は決まった。
俺は歩き出す。
「ケイは北ですわ」
後ろから声がかかった。ゆっくりと振り返る。
「ナージュ」
彼女は魔法書を開いていた。トレーススキルを使ってくれているのだろう。
「リントさん」
「お前も来るのか?」
「行きますわ」
「ここで待ってろよ」
「な、なんでですか?」
「足手まといだから」
彼女はうつむく。
「な、言うとおりにしろよ」
「行きますわ」
「ふーん」
俺は北に向かって歩き出した。獣道もかまわずに入っていく。後ろからナージュがついてくる。
「リントさんは、昔のことを思いだしましたのね」
「ああ、ちょびっとな」
「さぞ、私をお恨みになってることでしょうに」
「恨むとすれば、それは自分の弱さだな」
蜘蛛の巣があった。ワンドを使ってくるくるまわし取り去る。また歩き出す。
「私、変わりましたわ」
「ああ」
「変わった私を、見てくれませんか?」
「知らん」
「私は」
ナージュが立ち止まる。
俺は振り返る。
「どうした?」
「昔の自分が悔しい」
俺はまた歩き出す。ナージュがついてくる。
「リントさんが引っ越しした後、呆然としましたわ。今まで私はなんて、許嫁にひどいことをしてきたのだろうと。正直に言いますわ。私は、リントさんを裏切って自分が楽しい思いをしている時、大好きなリントちゃんもまた幸せな思いをしているはずだと思っていたのです」
「最悪な勘違いだな」
「はい」
「五才で気づいて良かったな」
「はい」
「これからの人生に活かせよな」
「はい」
それからずっと沈黙があった。
獣道を抜けて山道に出る。魔法書を持ったナージュが前に出た。
「こっちですわ」
また獣道に入る。
森の奥深く。そこにアジトはあった。背が高く太い木の柱で囲まれている。門がありこれも木造だ。その前には門番が二人立っている。
俺とナージュは離れた藪の中に潜んだ。
「奴らはアジトに戻ったのか?」
「おそらく」
思考がはずれてしまった。ローゼンたちはてっきりもう一つの鐘を探しに行ったと思っていた。ローゼンとケイの別々行動もあるかもしれないが。
「リントさん」
「俺一人で行く」
「分かりましたわ」
「じゃあな」
「ご武運を」
武器のワンドを背中に隠す。立ち上がって歩き出す。門番が気づいた。俺は右手を上げて頭をぺこりと下げる。敵意の無い来訪者をよそおった。
「お前止まれっ。ここはミストダガーのアジトと知って来たのか?」
坊主の男が言った。片手剣を持っている。
「怪しい奴だな。見たことが無い。新入生か?」
もう一人の門番、ざんばら髪の男が眉間にしわを寄せる。弓矢をたずさえていた。
「俺がここに来たのは」
俺は言った。
「人を殺すためなんだ」
二人の耳元でささやいた。




