㉓
思い出したくないことを思い出してしまった。
俺は起き上がろうとして失敗する。頬に柔らかい感触がした。見ると膝があった。
「ナージュ?」
膝枕されているようだ。
「リントさん。気づきましたか?」
「ああ」
「さっきのこと覚えていますか?」
「ああ」
ケイスケに背中を刺されて、その後ケイスケが本当はケイという名前だったことをば暴露して、後はよく覚えていない。
「出血は止めましたが、その前に出血しすぎていますわ。何か、血になるものを食べないと」
「ルルアは、アノンは?」
「……、すいません。殺されてしまって」
「はあ!?」
俺は大声を出した。背中の傷に響いて悶絶しそうになる。
「痛ったー!」
「大声を出しますから」
「……はぁ、はぁ、今の嘘だろ?」
「本当ですわ」
「嘘だな」
「……何でそう思いますの?」
「だってお前は」
俺の声は細くなる。
「昔から、嘘つきじゃないか」
「っ!?」
ナージュが身じろぎした。
「覚えて、ますの?」
「今思い出した。ローゼンのことも。俺たち、知り合いだったんだな」
「あっちは忘れているようですの」
あっちとはローゼンのことだろう。
「ルルアさんには助けられましたわ」
「助けられた?」
「私は途中で気を失いましたが、おそらくルルアさんが上手くやって、敵をどこかに誘導したのでしょう」
俺は立ち上がろうとして両手を砂浜につけた。ふんばってみる。
「おやめください。傷が開きますわ」
「んなこと言ったって、助けに行かなきゃ。どこに行ったんだ? ケイの野郎は」
「分かりません」
ナージュは首を振る。
「お前、魔法書使いだろ。トレーススキルは?」
「……よく知ってますのね」
「前線の仲間に同じセレスのやつがいるからな」
「前線? 詳しく教えてくれますか?」
「またいつかな。今は仲間を助ける方が先だ」
「助けて、どうしますの?」
「助けて、その後のことは分かんねーよ」
「そんなことよりも」
ナージュの瞳は海の底のように青く揺らいでいた。
「一緒に」
俺は聞きたくなかった。
「一緒にサンテットに帰りましょう、ですわ」
「痛だだだだだ」
俺はまた反転し、両手で体を支える。
「無理しないでくださいまし」
「男には」
俺は歯を食いしばって立ち上がる。
「戦わなきゃ、いけない、時が、ある」
「はい」
「好きなものを守る時だ」
「はい」
「勇気だけじゃ足りない」
「はい」
ナージュが目尻をぬぐう。
「勝利する強さも必要だ」
俺は両手を結ぶ。印を作る。呪文を唱えた。
「挑戦者には応援を」
「リントさん?」
「勝利者には祝福を」
「何を?」
「敗北者には断罪を」
ナージュが不思議そうな顔をしている。
「今を生きる力。オーバードライブ!」
「お、お待ちください!」
俺の首から垂れているネックレスが虹色に光った。やがて表情に動きが戻る。血色は良くならないが痛みは治まった。頭も冴え渡る。今から二十四時間俺は調子の良い気分でいられる。そういうスキルだった。効果がきれたときに何倍もの苦痛があるが。
「オーバードライブ? スキル?」
「これはアークなんだ。ボスモンスターからドロップした」
俺はネックレスをつかむ。
「ボスモンスターですか?」
「カスパーだ」
そして俺は腰にささっているアーク、変身ワンドを右手に持った。
「最後に、お前に言っておくことがある」
「なんですか? 最後?」
「ナージュちゃん」
俺は言った。
彼女がぽかんとする。
「また会えたね。そして、さよなら」
俺は岩場へ向かって歩き出した。




