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敗者復活戦学校の校舎はずいぶん大きかった。前に住んでいた町の病院ほどある。外壁の色は白く四階建てのようだ。
幼い頃に絵本で見た城のようだと思った。最上階にはお姫様がいて貧乏人の俺は彼女に恋をするのである。
あほらしい妄想だった。
だっだっ広いグラウンドがある。これだけ見れば小中学校とあまり変化は無い。あるとすれば校舎が林の中にあるということぐらいだ。いや林というよりもこれは森である。
玄関前はちょっとしたお祭りムードだった。人間の群れがプラカードを持って新入生にアピールをしている。
(ギルド・ラスティネイル 長いものに巻かれよう 最古ギルド)
(ギルド・白虎隊 強き者を求む)
(ギルド・漢 男のみ!)
ギルドとはなんのことだろう。
こんなものもあった。
(ギルド・現実逃避 地球は天国じゃない。だからあきらめよう)
玄関前に出されているホワイトボードを見る。一年B組のところに自分の名前を見つけた。出席番号十二番。人々の群れを無視して玄関に入る。下駄箱はなく外履きのまま廊下に上がれるようだった。廊下を歩き階段を四つ上った。すぐそこの二つ目の教室が一年B組だった。ガラガラと扉を開ける。
異様な雰囲気がした。
先に到着していた新入生のクラスメイトたちが何人かいる。制服は無く皆私服である。鎧を着ている者も多い。誰もが大荷物を持って来ている。この学校に寮なんて無い。それは事前情報で皆が知っていることだろう。事前情報というのは学校から公式に送られてくるような書類ではない。ハイガクで天国に行けなかった卒業生たちの体験談である。
勝てなかった者はどうなるのか。
一言で言うなら地球に行けずリアラに残るということだ。
俺は十二番の席を見つけて、その隣に大荷物を降ろした。
席につく。
良い緊張感だと思った。
クラスメイトたちの瞳がぎらぎらと光っている。まるで獣のようだ。戦争に行く戦士のようだ。そしてその言葉は比喩では無い。ここは獣の荒野なのだ。
左肘を机につけて顎を手に乗っける。あくびをかみ殺した。
机が新入生でうまっていく。その中の一人にあの子を発見して俺はびっくりした。キラキラとした金色の長い髪をしたツリ目の女の子。さっき俺がパンツを届けたところの女子だ。
彼女は俺の視線に気づくとはっと口を開けて下を向いた。カァーという音が聞こえた気がした。顔が耳まで真っ赤になる。そのまま自分の席につく。彼女の席は窓側の前の方だった。比べて俺は廊下側の最後尾だ。
男性の教師が入ってきた。
新入生の全員が顔を上げる。ぴりっとした沈黙があった。教師が教壇に立つ。
「ふーむ、よろしいか?」
教師はおじいちゃんだった。仙人のように白いあごひげを伸ばしている。
「わしの名前は、カリフ」
カリフはあごひげをさわる。
「お主たちにヒントを二つ与える」
彼が右手の人差し指と中指を伸ばす。
「一つ目に、毎日この時間にこの教室にくることじゃの。二つ目に、分からないことは誰でも良いから聞くことじゃ。聞かなければ誰も教えん。以上じゃの」
彼は教壇を歩き、トンと下に降りた。
「わしは、校舎のどこかにおるから。聞きたいことがあれば捕まえることじゃのう」
教室を出て行った。
それだけか?
誰もが思った疑問だろう。
室内にまた沈黙が訪れる。
誰かが立ち上がり教室を出て行った。もしかしたらカリフを捕まえに行ったのかもしれない。疑問を質問しに行ったのだろうか。その人につられてまた一人と同じようにする。
俺は両手を頭の後ろに組んで背もたれに寄りかかった。さてどうすべきだろう。
クラスメイトたちは次々に室内を出て行く。あるいはどこかのギルドに加入しに行くのかもしれない。
三十名ほどいたクラスメイトの半数以上が出て行ったところでふと違う動きをする女子がいた。ちびっこい女子だ。体の線も細い。
女子はボブカットのピンク色を揺らしながら、教卓の前に立った。
「皆さん! 待ってください!」
舌っ足らずな声だった。




