⑲
校舎からずいぶんと離れた東の森の中ケイスケはやっと立ち止まった。大剣を背負う。
「はぁ、はぁ」
荒れた息を整えている。
ルルアが追いつく。
「はぁ、はぁ、ケイスケくん、はぁ、もしかして」
「見てよ」
彼はにんまりと笑って右手を差し出し手のひらを開いた。
金色の鐘がのっている。
「でかしたわ」
「あらまあ」
「すごいすごい!」
「おー」
俺たちは歓喜した。
「どうやったの?」
ルルアが微笑みを向ける。
「僕が一番、竜の顔の近くにいたからさ」
ケイスケは左手を後ろ頭にのせた。
「ふーん。でも、なんで陣形を崩したの?」
それは責められるべきだった。
「いや、あの、ごめん。隣のギルドの号令を聞いていたら、頭がパニックになっちゃって、興奮しちゃって」
「そ、そっか」
「でも、素晴らしいですわあ」
「うんうん、これで一人、天国へ行けるね」
「ふーん、誰が行くんだ?」
皆が笑顔を解いて顔を見合わせる。
「そ、それは、ど、どうしよ、っか?」
ルルアはさっきから困惑してばかりだ。
「決めて無かったね」
アノンは難しそうに眉を八の字にしている。
ナージュは涼しい顔をしていた。彼女は地球に行きたい気持ちが無いのだろうか?
「まあ、取った奴のものになる、って言うのが普通じゃないか?」
俺は至極全うなことを言ったつもりだった。
ルルアは泣きそうな表情になる。
「いや、ここは」
ケイスケはルルアの右手を取り、鐘を渡した。
「リーダーの、ルルアが決めてよ」
いつルルアはリーダーに就任したのだろうか? しかし特に異存は無かったので何も言わずにおいた。
「いいの?」
ルルアが感激していた。
「うん」
「そ、そうねえ」
ルルアは皆を見回す。
本当は自分自身が地球に行きたいのだろう。表情をぴくぴくさせている。
俺は地球に行くことに興味が無い。だから鐘を受け取るのは誰でも良いと思っていた。それでもあえて選ぶのならばケイスケが行けば良い。理由は、地球に行くということはもう会えなくなるからだ。彼と会えなくなることはどうでも良かった。
「とりあえず、この鐘を誰かに気づかれる前に、ルジーさんたちの元に持って帰りましょう。決めるのはそれからでいいと思う」
「そうだね」
「うん」
「そうですわね」
「ああ」
俺たちは納得し合いまた山を登った。途中、
「リントさまーあ」
ナージュが俺の左手に抱きついていた。離れろと言っても離れない。ふくよかな胸が当たっていた。
「どうして、隠していたんですかあ?」
「そうよ」
ルルアが目を鋭くする。
「うん、そうだよね」
アノンが両腕を組んだ。
「何のことだ?」
俺はぽりぽりと鼻をかく。
「あんなお強い姿に変身できるなんて」
ナージュが顔を俺の腕にすりすりとする。
「騙してたのね。貴方」
ルルアが両手を開く。
「うん」
アノンが頷く。
「いや、それは違うぞ」
俺は首を振った。
「なーにーがー違うの?」
ルルアが睨みつけてくる。先ほどから口調がきつい。
「今日初めて見せただけじゃねえか」
俺たちは昨日会ったばかりだ。ルルアとは再会であるが。
「ジャガリュー、君強いの?」
ケイスケは口をへの字にした。彼は変身の姿を見なかったようだ。
「最強ですわあ」
ナージュが瞳をキラキラとさせた。
「反則だわ」
ルルアが表情を険しくする。しかしすぐに笑みをたたえた。
「うんうん」
アノンが何度も頷く。
「そんなに褒められてもなあ」
悪い気分では無かった。
川の上流、あの岩場へたどり着く。
「ジャガリュー、先行っていいよ」
後方を歩いていた俺とナージュの後ろにケイスケがまわる。
「あ、ああ、ありがと」
ケイスケは鐘を手に入れて機嫌が良いのかもしれない。
岩場の下をくぐり、ツルをつたって足場にたどり着いた。そこからまた少し歩く。
「何か、胃が痛い」
アノンが胸を手で押さえていた。
「大丈夫?」
ルルアが心配する。
「うん、平気」
アノンはすぐに顔を上げた。
池にたどりつく。
そこで目にした光景は慄然たるものだった。




