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悲鳴は校舎の外から聞こえた。五人全員が振り向く。
「今のは?」
ルルアがアノンから体を離す。
「ひどい声、まるで、断末魔みたい」
アノンが自分の体を抱きしめる。
「行ってみよう」
ケイスケが歩き出した。
「待て」
俺は彼の右腕をつかんで静止をうながす。
「不用意に動くのは危険だぜ」
「君には言われたくないな、ジャガリュー。君はトランプでもして遊んでいたらどうだい?」
ケイスケは俺の手を振り払った。
「いや、ケイスケくん」
ルルアが歩み寄った。
「私が先頭、ディフェンダーだから」
「あ、そうか」
「昨日の夜、考えたの」
ルルアはこちらを振り返った。
「陣形は、ディフェンダーの私が前、その後ろにアタッカーのケイスケくんとナージュ、その後ろに回復役のアノンと変身のジャガイモ」
「それがいいね」
「う、うん」
「分かりましたわ」
「俺はアタッカーが良いと思うんだけどなあ」
「隊列は」
ルルアが人差し指を立てる。
発言が流されてしまった。
俺の評価は低いのか?
「先頭が私。後ろに、ケイスケくん、ナージュ、ジャガイモ、アノン。これはきちんと守って。守らずに死んだら、墓も建ててあげないから」
「オーケー」
「了解ですわ」
「いいのか?」
「う、うん。皆の命は、私が守るんだから」
回復役のアノンが胸を張った。
「それじゃあ、行きましょう」
ルルアが背中を向ける。金髪がなびいた。彼女を先頭に教室を出て行く。階段を降り、廊下を歩いて玄関を出た。
玄関前には大勢の人間が集まっていた。
ルルアは右手を上げて俺たちに止まるようにうながす。
ギルド名を書いた旗を持っている者がいる。額にハチマキを巻いている連中もいる。どれも同ギルドで固まれるように、人間を識別する印なのだろう。
恐竜の鳴き声のようなものがグラウンドの方から聞こえる。
誰かが声高に会話している。
「引いてる?」
「引いてる引いてる」
「グラウンドに引っ張る気か?」
「グラウンドが戦場だな」
「竜みたいだぞ」
「マジかよ。いきなり竜って。新入生かわいそー」
先輩が後輩に説明している姿もあった。
「大概、鐘はボスクラスのモンスターに持たされているんだ。それを皆で倒すんだ」
「は、はい」
後輩の女子が気をつけして震えていた。新入生だろうか?
「もちろんモンスターは一つしか鐘を持っていないから。竜を倒した後に、ギルド同士の奪い合いが始まる」
「は、はいぃ」
「死にたくなければ、後ろに下がっていなさい」
「わ、分かりました」
女子が遠くに走って行く。
ルルアがこちらを振り返った。
恐怖におののいているかと思った。
逆だった。野性的に微笑んでおり、鼻の上にしわを寄せている。
「皆、行くわよ」
「もう行くの?」
ケイスケが目をまん丸くしていた。
「勇気の無いものは、ここで立ち尽くしているといいわ」
「おい」
俺は水をかけるように言った。ルルアが歯を光らせている。どう猛な野獣のようだ。
「慎重にな」
「誰に言ってるの?」
ルルアは前を向いた。
「私は、鉄壁のルルアよ」
歩き出す。
「は、はわわ、はわわわわ」
アノンがおびえていた。それでもついてきている。
校舎をの角を一つ折れてまっすぐ行くとそこはグラウンドだった。昨日ルルアとケイスケが戦った傷跡が地面に残っている。
ラスティネイルと英語で書かれた旗を持つ一軍がなにやら儀式をしていた。総勢に二百名はいるのではなかろうか。皆、立派な鎧を着ており、それぞれの武器を手にしている。小さなこれも竜にまたがる槍を持った男が指揮していた。叫んでいる。
「兄弟たちよ! おびえるな! 我らはラスティネイル! 最強の刃もって、地獄の竜を打ち払う者なり!」
ルルアがグラウンドの端で立ち止まる。
竜の歩く地響きがもう迫っている。
「どうした!? 臆病風に吹かれたか!? 逃げたい者は逃げるが良い! 我らは勇気の子! 今日を勝つために修行してきた! 決して負けるために苦労した訳ではない!」
俺たちに言ってる訳では無いのだろうが俺まで鼓舞されてしまった。人が必死に叫んでいる。その姿を笑うことなんてできなかった。
ついに赤い竜が木を折り倒して出てきた。でかい竜だ。グラウンドの三分の一はその巨体で埋まってしまうのではなかろうか。何人かの人間が鎖を引いている。鎖の先は銛なっているのか、竜に差し込まれていた。炎のブレスがかかり鎖を引く男が一人黒い灰になって消える。ここに来て初めて人が死んだ姿を見た。するとすぐに立ち替わりの男が鎖を持ち、竜を引っ張る。必死に何か叫んでいる。ついに竜の体がグラウンドの中心に来た。
「天国は来た! さあ、行こう! 進め! 勇気の兄弟よ! 今こそ鍛錬の成果を見せろ!」
「「おおー!」」
ラスティネイルの一軍が咆哮のような声を上げて竜に突進していく。
まずいな。
俺は仲間の一人一人を見た。顔が高揚している。
ラスティネイルの勢いに当てられている。
「行くわよ」
ルルアが言った。彼女もまた竜に向かって駆けていく。
もうやるしかない。
死んだらそれまでだ。
ルルアの後ろにナージュが続く。俺とアノンも続く。
一人欠けていることを気にする暇が無かった。どこかではぐれたのかもしれない。




