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敗者復活の鐘が鳴る  作者: 齋藤翔
15/43


 翌日の朝。


 一年B組の教室には疲れた雰囲気が漂っていた。


 皆、この場所に来て二日目である。俺たちのように昨日は寝る場所を探して苦労した者もいるかもしれない。


 ただ一つ良かったと思うのはクラスメイトが誰一人欠けていないということだ。


 夏には新入生の半数が減る。


 それは昨日のルジーとヘレナの話だ。


 クラスメイトの皆は大荷物をどこかに置いてきたようであった。


 教卓の前にはカリフが立っていた。やはりあごひげをいじっている。


「皆の衆、昨日はよく眠れたかの?」

「ふざけんな!」


 前の方の席の背の高い男子が言った。


「そうよ。先生、なんで私たちに十分な説明をしてくれないの?」


 窓際の真ん中あたりの女子も言った。


「殺したくなるのう」


 カリフはつぶやいた。声はつぶやいたようなものだったが言葉は危険そのもので教室に肌を刺すような空気が立ちこめた。


 背の高い男子も女子も二の句をつむげなくなる。他に文句を発言するような度胸のある者はいなかった。だから、


「やってみろー」


 俺は遊びで言って伸びをした。


 クラスメイトの全員が一瞬でこちらに顔を向ける。


 空気がしびれた。


 カリフが着ている浴衣の裏からナイフを取り出す。


 おお?


 俺は座ったまま両手を前に構えた。


 彼の目が殺気だった蛇のように変わる。


 俺の瞳もまた変わる。


 睨みあった。


「ほう」

「ふーん」


 彼はナイフを教卓においた。音が鳴る。


「一人いるようだのう」


 彼の言葉の意味はよく分からなかった。


 生徒たちが体を前に向ける。


「まあ良い。それより皆の衆」


 彼はごほんと咳払いをした。居住まいを正すように身じろぎをする。


「今日いまからをもって、新入生狩りが始まるのう」


 クラスメイトの全員が脳裏にクエスチョンを浮かべたことだろう。


 俺はその言葉を聞いて本当か嘘か判断に迷った。もし冗談であればカリフは相当な面白いおじいちゃんである。


「先ほどの不満の声にこたえて、少しサービスで説明をしようかの」


 彼は人差し指を立てた。


「今日これから、お主たちにとっては初めての敗者復活戦が開催されるのう。敗者復活戦がなんたるか、という説明はさすがに省くが。手のひらサイズの鐘が二つ、どこかにある。探すと良いのう。そして明日のこの八時丁度の時間に持っていたものは天国へ行ける、らしいのう」


 彼は窓の外を眺めた。まるで今日の天気の話をしているように緊張感が無い。また生徒たちに顔を向ける。


「先輩たちは、とりあえず弱い者をつぶすのう。兵法の基本じゃ。分かるのう」


 新入生狩りとはそういうことか。


 俺は納得して頷いた。


「この東校エリアの地図を配ろうと思っておったんじゃが」


 彼は俺に顔を向けてほくそ笑んだ。


「先ほどの挑発的な言葉を聞いて、わしは心より安心した。こんな心強い生徒がいるクラスじゃ。先輩たちを倒すなど、ちょちょいのちょいじゃろう。地図を配る必要は、無いのう」


 クラスメイトの何人かがゆっくりとこちらを向いた。その目は殺意に満ちていた。


 おお怖……。


 カリフがゆったりと教壇を降りた。


「皆、全滅しないようにの。それでは、また明日だのう」


 扉を開けて去って行った。


 いち早く背の高い男がこちらへ歩いてくる。


「てめーどうしてくれるんだ! 地図が配られなかっただろうが」


 俺は両手を頭の後ろに組んで背もたれによりかかった。そして言い返す。


「いやお前気付よ。先生は地図なんて持って無かったぞ?」

「なんだと!」


 男子の顔に迷いが生じる。


 そして彼の後ろからルルアが出てきて俺の頭をはたいた。


「貴方何してるのよ。殺されるところだったんじゃない?」

「ご、ごめん」


 ルルアには弱い俺だった。


「馬鹿じゃないの。全く本当に、はー」


 ため息をつく。


 ルルアの後ろからアノンが登場する。


「リントちゃん! リントちゃんのせいで地図が配られなかったじゃないの!」


 ピンク色の髪を揺らして怒っていた。


「お前その言葉、二回目というより二人目だからな」

「どうしてくれるの、どうしてくれるの」


 頭をぽかぽか叩かれる。


「地図あるよ」


 少し前の席でケイスケが手を上げていた。クラスメイトの視線が引きつけられる。


「昨日、とある先輩からもらったんだ」


 彼はどうしてか俺を見て口の端をつりあげる。眼鏡が太陽に反射して光った。


 ルジー先輩からもらったのだろうか?


「コピー取ってくるよ。クラスの人数分でいいよね」


 コピー機。天国の産物であり電子機器だ。


 ケイスケが教室を出て行く。


「あ、ありがとう」

「すげー、マジサンクス」

「神様、神様だ」


 クラスメイトが次々に賞賛の声を上げた。そして次に俺を見、顔をしかめる。


 なんだろう、この温度差は。


 これがいわゆる、いじめだろうか?


「いじめ、格好悪い」


 俺は格言のようにつぶやいた。


「貴方はねえ」


 ルルアが俺の机をはたいてため息をつき首を振った。


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