テンプレ×トリプレ×三ツ輪さんっ!?
来る。三ツ輪さんがもうすぐここに。
なぜ分かるかって? 田上のヤツに頼んで、彼女が教室を出るタイミングを教えるように仕込みを入れているからだ。制服のポケットの中で掴んでいたスマホが震える。「GO」のスタンプ、OKだ、でもさらにその下にメッセージがぽんと出た。何だ?
<きをつけろみつわ三>
とだけの文面、何焦ってんだ田上は。ちょっと待ってみるものの、それでメッセージは途絶えてしまう。何だ?
いや、気合いを入れろ僕。計算によればあと92秒で、僕が潜む第二校舎棟一階東廊下を、三ツ輪さんが通過する。放課後のこの時間、この薄暗いじんめりとした通路を通る人間は少ない。駅方面じゃない東門を使う数少ない中の、真っすぐに帰宅する人間に限られるから。
人目の無さ。それをまず第一に考えた。僕がこれから為そうとしていること、それは出来る限り人のいない、静かな場所で行われることが望ましい。なぜなら、
……僕はこれから、告白をしようとしているのだから。「告白」と言っても、不穏な暴露や、カミングるアウトな事柄ではなく、いたって普通の「恋の告白」というものであり。
ちょうど一週間前に、小雨の降りしきる土手べりで偶然、僕は彼女を見かけ、そして、
……恋に落ちたんだ。
ありきたり過ぎると、笑いたいなら笑えばいい。現にその話をしたら、弟にすら、何それテンプレ? と笑われたけれど。
ありきたりでも何でも、僕は本気だ。待ち伏せして真っ向からぶつかり合うというこのやり方も、かなり昔のありきたり手法と言われようとも。
思いは真正面からぶつけないと伝わらない……そう信じている。崇高な決意とは裏腹に、柱の陰からスマホのカメラレンズ部だけを覗かせ様子を伺っているこの姿は、きわめて卑劣なピーピングっぽい雰囲気を醸し出してしまっているかも知れないけれど。
!! ……通路の向こう側の入り口、小春晴れの陽光が差して逆光気味の光の正方形の中に、人影が現れた。計算通り。
でも、楽しそうに喋り合う複数の声が連なっている。人影は三つ。計算通りじゃなーい。
先ほどの田上からの「警告」を思い出す。あれは三ツ輪さんが三人連れだってこっちに向かっているということだったのか。どうする? 日を改める? いや、もうここまで来たんだ、あとのお二人にはちょっと先行って待っててもらって……いやもうこの勢いのまま、行くしかないっ!! スマホをしまい込み、素数を数えて気持ちを落ち着けつつ、接近の間合いを測る。そして、
「み、三ツ輪さんっ」
距離2.5m。それが僕の弾き出した絶妙の「告白距離」。そこに達したと感じた瞬間、僕は廊下の中央へと華麗に躍り出る。
「一週間前っ、室川のほとりで貴女を見た時からッ!! 僕は貴女に恋をしたッ!! もしよろしければ、この僕とお付き合いしてくださいっ!!」
これまたありきたりな告白かも知れなかったが、その言葉も、そこに込められた思いも本物だ。伝わって……くれ。
顔を上げた僕の正面、驚いた顔の三ツ輪さんと目が合う……少し頬を上気させている……? 可憐だ。でも、あれ? 視点が定まらなくなっているのか? 可憐な顔をした三ツ輪さんが三つに分かれて見える……
「……それって」
「どの三ツ輪に言ってんのかな~?」
そんな混沌思考の僕に、左右の三ツ輪さんがにやにやとした笑みを浮かべながら、そんなステレオ的に言葉を投げかけて来るけど。
忘れていた。いや、話には聞いていたけど、いざ対峙するとこれほどまでかと驚愕してしまうわけで。
「……」
そうなのだ、三ツ輪さんは三つ子。顔かたちは、それはそれは良く似ていて見分けがつかない。三人が横に並んだ様は、さながら分身の術が如し……!! いや例えが古&陳腐すぎるけど。
しかし何で三人揃って下校ッ!? 各々、各々の学校生活とか人生とかあるでしょうよォッ!!
「あ、えーと、三ツ輪、碧子さん、です……」
心の中で慟哭しつつも思わず固まってしまった僕だが、ひとまず問いにぽつりと呟くようなかたちで述べてみる。
目指す相手は、僕と同じクラスのそのヒトだ。たぶん真ん中の……だよね? でもそんな希薄な自信は呆気なく霧散していくかのようで。
「うちらってさ」
「自分らで言うのもなんだけど、結構かわいいじゃん?」
「右」と「左」が僕の方を悪戯っぽく見つめながら言ってくる。うん、それは重々そうなんだけれど。
「せやから、外面だけ見て言い寄ってくる奴多いんだわ、三人の内のどれでもええわ的な」
……それは僕に限って、断じて……無い。よ? というか「右」は何故エセっぽい関西弁を操るのだろう……育ちがキミだけ違うの?
「そういうの、うんざりしてるんだ実際。だからキミもさぁ、聞かなかったことにしてあげるから、回れ右して帰ったらって話」
「左」からぽんと紡ぎ出された言葉は僕を揺さぶるのだけれど。いや、でも引けない。ここで引くわけには……僕は改めて三つ並んだ見分けのつかない美麗な顔に向き合う。両側の二人と違って、「真ん中」だけ何かもじもじとした可憐な仕草をしている。そしてまだ言葉を発していない。間違いない。真ん中のヒトこそが、僕が魅かれた、碧子さんだ。
「僕はッ!! 碧子さんに物申しているッ!! どうか、この僕とお付きあ」
「ちょっと待った~、なんつって」
僕の決然たる再度の告白は、「左」によってあえなく遮られたわけで。くっ……この性悪さ……長女 次女は性格最悪という噂は本当だったのか……ッ!!
しかし、想いビト、碧子さんと同じ顔でそんな風に接せられると、何か少し興奮してしまう……いや、興奮しとる場合でもない。向かって左の三ツ輪さんは、にやにや笑いをその美麗な顔に貼り付かせながら、こんな提案をしてくるのであった……
「勝負しよ。私らこれからシャッフルするから、その中から碧子をキミが当てる。そしたら告るもナニするも自由、成就したらその仲をうちらも公認したげる。メリットどか盛り。それだけの、単純でお得なゲーム」
思わぬ展開になってしまったけど、それなら勝算我にあり。浮かべた表情でもう分かるっての。でも、
「……甘く見ん方がええでー。うちら三人はなぁ、誰かひとりの『人格』に同調することができる『能力』持ってるさかい、まあ、見分けんのは無理と思うで」
「右」が言うけど、何だその能力。そんなもの……いや、ある、かも知れない。よく聞く話だ。双子と同時に喋っていると、まるでひとりと話しているというような、そんな感覚。よく聞く。
だが、それでも。僕は碧子さんを……ッ!! だからこのくらいの勝負、受けないわけにはいかないんだ。
「やります」
真っすぐに「真ん中」だけを見つめ、そう言い放つ。瞬間、小さく息を飲む可憐な顔。必ず……あなたを当ててみせますから。
でもどうやって正誤を判定するのだろう……「違う」と居直られたらどうしようもないと思うけど……そんな疑問を呈すると、一理あるなーと「右」が頷いてから、何やら三人でごにょごにょ小声で相談してる。何らかの結論が出たのだろうか、ややあって三人が僕の方へ向き直った。その瞬間だった。
「!!」
「右」の右手が閃いた。と、その指先は素早く「真ん中」の赤いチェックのミニスカートの裾を上方へと摘まみ上げていたのだった……ッ!!。
慌てた素振りで裾を払うように抑えて真っ赤になる「真ん中」だけれど、僕の網膜には純白の何かが刻みこまれたわけで。
「碧子は白。キミはこれはと思ったひとりを決めたら、そのスカートをめくって確認したらいいってことで、どよ?」
何だって~!? それは……僕にメリットしかないのでは……ッ!!
「けど、外したら、その瞬間の写真を全校にばらまく。親呼ばれるか、うちらの血の気の多い親衛隊に何かされるか、警察沙汰になるかは分からないけど、平穏な高校生活を送ること、それだけは無理とだけ忠告しとくわ。それでもやる?」
くっ……そういうことか。このヒトらは慣れている……そして楽しんでいる……(右と左に限り)。
それでも負けじと承諾の意を示すと、なら開始や、と右が告げるや否や、僕は十秒後ろ向いててと言われその通りにする。ええで、の声に振り返ると、そこには、三人が三人、同じ表情を浮かべてこちらを見ている図があったわけで。
「どや?」
「これが同調やで」
「大したもんやろ」
同じだ、驚くべきことに。表情やら言葉のニュアンスが全部あのさっきの「右」になっている……これじゃわからない……
「驚いてるなぁ、ほなら大チャンスあげるわ、『10秒』だけ、何か質問してええでー、それに三人とも答える。どや?」
逡巡の僕に、そんなお言葉が。でも質問したとしても真実を答えるとは限らない。それにそこまで碧子さんのことも知らないことも事実だ。いや、そんなことは無いか。僕は知っている。碧子さんの、その優しさを。
「……小雨の降る室川の橋の下で、捨てられていた子犬に手を差し伸べていた優しい碧子さんが、僕は好きです。あの犬、あの後、里親見つかったんだって。今度一緒に会いに行こうよ」
僕の自然に口から出た言葉に、ぱっと顔を輝かせる「真ん中」。その前に進み出て、僕はもう一度、自分の思いを告げる。
やる気の無さげな左右からの拍手の中、「真ん中」、いや碧子さんは初めて僕の目を見てその可憐な声を響かせるのだった。
「私も……前から好きでした。あの時の優しさもそうだし、サッカーやってる時の爽やかな笑顔も……」
顔を赤らめて言う碧子さん。ひゅーひゅーとまたやる気なさげな左右の声の中、しかし僕は胸の内でこう叫んでいたわけで。
……サッカーやってんのは、双子の弟の聡介のほぁぁぁぁぁぁうっ!!
●テンプレ×トリプレ×三ツ輪さんっ!? ―慟哭する準備は出来ていた双葉駿介(兄)の章― おわり