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プロローグ

イナロと申します。

久しぶりの執筆になるのでいろいろと至らない点が多々あると思いますが、温かい目でご覧ください。



 あ~誰だよ、現代社会が人手不足だって報道してるのは。

 誤報もいいところだっての。


 やっぱり元引きこもりが社会デビューするのはハードルが高すぎるのだろうか?

 高校卒業で資格もない。

 周りの目からしたら俺なんてアルバイト歴2年の社会不適合者ってか?


 俺は求める。

 働きやすい日本を!

 引きこもりに優しい社会を!


 ま、実際にこんなことは起こらない。

 分かっている。


 でも、いいじゃないか。

 考えることも放棄した、何もしなったあの頃よりは。


「電車が来るまで後2分か」


 家の冷蔵庫は空だったな。

 ラーメンでも食べて帰るか。


 今年で27歳になり、同い年の奴らは結婚だの子育てだの仕事だのといろいろと忙しいらしい。

 今じゃ連絡を取らなくてもSNSで近況を知ることができる時代だ、俺のような底辺の人種は妬むしかできない。


 心の中で強く思う。


 リア充爆発しろ、と。


 そう思った瞬間、足元が気持ち悪く流動したのを感じた。

 最初は地震の初期微動かと思ったが、違う。


 何かが這いずるような感覚だ。


 反射的に何かまずいと思い、移動をしようとした矢先に鉄が引きずられる音が轟く。


「ま……」


 マジかよ。

 その一言が出なかった。


 何故なら来るはずの電車が火花を散らしながらもの凄い速度で向かってくるではないか。

 俺の周りにいた人たちは我先にと逃げて行く。


 だが、俺の身体は動かない。

 目の前の現実を受け入れられずに見入ってしまっている。


 電車が横転を始め、周囲に衝突しても速度は止まらずに向かってくる。


 不思議と俺は冷静だった。

 いや、諦めてしまったのだ。

 もはや逃げられる距離ではない。


 走馬燈のように時間の感覚が伸びた世界で俺は自分の一生を思い返す。

 決して良い人生ではなかった。

 高校卒業後に引きこもって両親を困らせ、25歳の時に両親が事故で死んだ。

 結局、親孝行の一つもしてあげることも出来なかった。


 両親の墓の前で泣きながら決意したのが切っ掛けで脱引きこもりができた。

 本当に情けない俺だけど、前を向いて少しは社会人として生きることができたと思う。


 あの世で両親に少しは褒めてもらえるだろうか。


 ……何て思えるはずがないだろうか!!


 俺は決意したはずだ!

 親の墓の前で、最後まで足掻き続けると!


 刹那に伸びた時間の中でも出来ることなどたかが知れている。

 数歩の移動が関の山だろう。


 でも、俺は諦めない!


 そう思った俺の行動は自身の俺でさえも予想できないモノだった。

 こともあろうにこちらに転がってくる電車という鉄の塊に向かって足を進めたのだ。


 もはや後には引けない。

 進むだけだ!


 これは賭けだ。


 命を賭した可能性の限りなく低いギャンブルとも言えないただの無謀な賭け。


 転がってくる鉄の塊がバウンドする瞬間が好機。

 一瞬でも躊躇したらミンチになる。


 恐怖で目を閉じたくなるが目を閉じたら駄目だと思い、意思の力でこじ開ける。


 今だ!!


 俺は顔面から転がっている鉄の塊と地面の間に飛び込んだ。


 そして……。


「は、ははは、アッハッハッハッハ!!」


 俺は賭けに勝った。


 ゴロゴロと転がり、天井を見上げて笑い声をあげた。

 生きてる、生きてるぞ!


「痛って~~!?」


 が、代償は大きく利き手の右腕と左足が潰れていた。


 このままだと出血多量で死ぬ。

 止血をしたいが……。


 痛みでどうにかなりそうだ!


 くそ、あの状況をどうにか回避してもこの状況かよ。

 一旦、冷静になり周りを見る。


 轟音は止まりサイレンの音が聞こえる。

 人の声も聞こえるが、どれも助けを求める声ばかり。


 電気系統がダメになったのか暗い。

 真っ暗ではないが、非常灯が付いたり消えたりを繰り返している。

 すぐに助けが来るような状況じゃない。


 ダメだ。

 このままじゃ死ぬ。


 止血する決意を決める。


「うぐぅ……」


 起き上がるだけで身体に痛みが走る。

 着地のことを考えずに頭から地面にダイブした俺の身体はボロボロ、頭を打ったのか意識がふら付く始末だ。

 ここで気絶したら終わりだ。


 激痛はあるがアドレナリンのおかげか頭を打ったせいかは分からないが、痛みは我慢できない程ではない。

 

 着ている服を脱いで破り縛る。

 縛る時に気を失いそうになるが、唇を噛んで耐えた。


 今更傷が増えようが関係ない。


 なるべく傷を直視しないようにしたが、つぶれた手足はもうダメかもな。

 何とか繋がっている状態だ、素人の俺でも分かる。


 潰れた腕の範囲は肘下からで足は膝上から潰れていた。

 念のため息子の安否を確認したが、ちゃんと付いてるし潰れてもいなかった。


 未経験で紛失は勘弁してほしい。


 さて、冗談はこれぐらいにして移動しよう。


 本来なら安静にした方が良いのだろうが、地面の奥底から今も感じる何かが這いずるような気配が気がかりだ。

 早くこの場を離れた方がいい気がする。


「うぅ……」


 立ち眩みがする。

 完全な止血とは行かず、血が漏れている。


 とにかく上へに行かないと。

 この暗さにも少しは慣れてきたから障害物を避けたりするのは問題ない。

 問題があるとすれば階段が塞がっていないかどうかだが、どうやら問題はないようだ。


「たす……けて……」


 声がした方に目を向けると電車と地面の間に下半身が挟まれた女性が俺に向けて手を伸ばして助けを求めていた。

 よく見ると彼女が挟まれている隙間から止めどなく血が流れている。


 涙を流しながら俺に手を伸ばす彼女の顔は化粧が崩れてお化けのようになっているが、それでも必死に助けを求めて俺の向かって救いを求めていた。


「助け……て……おね……が……い」

「……すまない」


 一言、それだけを言って俺はその場を離れた。


「おね……がい……」


 後ろからはそれでも助けを求める声が止まらない。


「うぅぅ……」


 心の中で俺は何度も謝罪を重ねる。

 いつの間にか涙が頬を伝い、泣いていた。


 そして気が付いた時には声は止んでいた。

 後ろを振り向くと彼女の手は地面に置かれ、彼女の薬指の指輪が鈍く光ったのが見えた。

 頭部も項垂れたように地面に伏していた。

 


 うっすらと彼女の顔が見える。

 恐怖と苦しみと絶望が混ざったような顔。


 俺は目をそらさずに脳裏に刻む。


 俺はこの時を決して忘れない。

 名前も知らない彼女を俺は死ぬまで覚えている。


 この無力感を俺は忘れない。


 絶対に……。


 そう心に誓い、歩みを進めた。


 電車が階段に突っ込んでいたが、隙間があり問題なく階段を上がることができた。


「なっ!?」


 俺は階段を上がって騒然とした。

 こんなことってあり得るのか?


 事故のあったホームから階段を上った先は地面と岩壁でできた洞窟だった。


 ここは駅地下だから壁が崩れたり崩落すれば地面が見えるのは不思議ではないのは分かっているが、通路すべてが地面と岩壁はおかしいを通り越して異常だ。


 ここはどこなんだ?

 本当に日本なのか?


 電車の事故で異世界にでも飛ばされたか?


 ダメだ。

 冷静になれ。

 頭を正常に動かすんだ。


「階段がない……ふざけやがって」


 そう。

 階段がないのだ。


 ホームを上がってすぐに改札に繋がる階段があるはずなのに塞がっていた。


 とにかくここを脱出しなくては……。

 横穴でもあれば出られるのに。


 ふら付く足と頭に喝を入れ、ゆっくりと壁を伝って歩みを進める。


「はぁ……はぁ……」


 どれほど歩いただろうか。

 1時間か30分か。

 もしかしたら5分しか経っていないかもしれない。


 ふら付く頭じゃ時間の感覚など曖昧だし、進んでも変わらない風景で同じところをグルグルと回ってるんじゃないかとさえ思えてくる。


 血の跡がないからそれはないと思おうが、今の状況が俺の夢とかだったら笑いものだな。


 そんなことを考えていると洞窟の先に扉らしきものが見えた。


「出口……」


 助かった。

 これで外に出られる。


 重かった足が嘘のように軽くなり、徐々に扉に近づく。

 ぼんやりとしか見えなかった扉は次第に輪郭が姿を現し、焦点が合う頃にはその扉が出口でないことを悟った。


 足を引きずりながら扉の前に到着するとそれは門のように重厚で威圧的な作りになっていた。


 そう。

 ゲームで例えるならラスボス手前の門のよな感じだ。


「いや、そんなわけ……」


 目の前の現実に動揺したのがいけなかったのか、俺の意識は一瞬だけ飛んだ。

 そして目の前の扉に手をかけてしまった。


 見た目からは想像もできないほどスムーズに扉は開いてしまった。

 扉を支えにしていた俺は倒れるように中に入った。


 中は暗いと思っていたが、想像以上に明るくて目を細める。

 目が慣れて見渡すとバスケットコートほどの広さの部屋の中心に何か蠢くものがいた。


 音もなく崩れては形を戻そうと流動を繰り返してまた崩れるという一連の動作を繰り返していた。


 蠢く何かは俺に気が付いたのか俺に近づいてくる。


「********」


 ゆっくりだが俺に何かを喋りかけてきた。


 すぐに危険を感じで起き上がろうとするが腕に力が入らない。

 血を流し過ぎたか。


「********」


 なんなんだ、この生き物は。

 そもそも生き物なのか?

 なに言ってんのか全く分からない。


「俺を食べる気か? 腹を下すぞ」


 もう起き上がれない。

 食われるのだろうか?


 この後に及んで女々しいが痛いのは嫌なんだ。

 ダメだ、意識が……。


「********」


 目の前が真っ暗になり、変な生き物は何かを言っている。

 痛みは薄れて身体は暖かい。

 もの凄い眠気が込み上げ、抵抗する間もなく眠りに落ちた。

 


読んでいただきありがとうございます。


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