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遅春の訪れ  作者: ふるふる
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おはよう


とてつもなく広い大陸の端に位置する半島にある大きな港町、ここが私の世界。


「ゴーンゴーン」

鐘の音が私の世界に鳴り響く。

朝の知らせだ。


日は半分しか顔を出していない。

月は雲に半分顔を隠している。


この時間帯が私はとても好き、この時間はいつも灯台に登るの。


東の海から太陽が這い上がってくる、そして月は雲に呑み込まれる。


「ボーッボーッ」

船の汽笛の音がする。


町に船がやって来る。


何百人の男の人が港に集まっている。


そんな風景を私は後何回見るんだろう何て考えながら家路に付く。


私の家は町中にあるまぁまぁな大きさの家。


家に入るといつも虚しくなる、私は独りなんだと。


不自然に空いた靴箱。

住人の割には合わない椅子の数。

男物の服。


朝食を食べる。

大きなテーブルに一つだけ置かれた皿。


洗濯などを済まし、昼過ぎまでベッドの中で過ごす。


そして仕事に行く。


大きな酒場だ。

仕事では、客の気を取る愛想笑い。

何が楽しいんだよ…


夜になると酒場の仕事が終わり、数ブロック先のストリップクラブで仕事をする。


驚くほど白い肌に、カラフルな服を纏い顔の前には薄い布を一枚垂らし、顔を隠す。


私の出番だ。


細長いステージの上を妖艶に舞う。

さっきまでの疲れがなかったかのように。

違う今のあたしには疲れなんて存在しない、出来ることなら、この空間に一生いたい。


布の切れ目から横目で見る、いつもの人がいる。

私から見てステージの左側丁度中央辺りに立っている。

彼は、いつもこの時間に現れる、そして私に向かって手を招く。だが今の私には、あんたなんて眼中にない。

いつものように前を踊り通りすぎる。

そしてステージの端に行き、観客にお辞儀をしてまた裏に戻る。


そして仕事が終わると、客にバレないように裏口からこっそりと出ていく。


もう朝だ。

そしてまた、いつもの灯台に歩を進める。


灯台を登っていると。


「ゴーンゴーン」


鐘の音が鳴る。


そして灯台を登りきると又いつもの風景が広がっている。

筈だった、そこには一人の男が立っていた。


彼はいつも私を見に来る男だった。

年齢は私と同じくらい、背は180はある、そして顔は不覚にもカッコいいと思ってしまった、単純に私が短髪が好きだからかもしれないが。


「いつもここに来てますよね?」

男の声はとてもとても綺麗だった。


「は…はい」


「緊張してます?」

男はニッコリと笑った、こんな素敵な笑顔を見せられる人なんだ、単純にそう思った。


「少しだけ」


「実は、俺も少しだけ緊張してるんですよ」


「そうですか」

自分でも何だが簡素な返事をしてしまったと思った。


「仕事帰りですか?」


男の質問に私は咄嗟にこう答えてしまった。

「は…はい」


「そうなんですか、俺はちょっとエッチなお店に行ってきたんですよ」

男は再び口角を上に上げた。


「そうなんですか」

私も知らないうちに笑顔になっていた。

笑うなんて何十年ぶりだろう。


私の顔を見て男がすかさず言った。

「可愛い顔してますね」

「好きになっちゃいそう」


「…」

私は声が出なくなった、可愛い…

頬を一筋の涙が走り抜けた。


「あっ、すいません」

男は申し訳なさそうにハンカチを差し出してきた。

「よければこれ使ってください」


私は涙でぼやけてハンカチを上手く取れなかった。

「あっ」

地面に落としてしまった。


拾おうとしゃがんだら

ハンカチの感触が頬にゆっくりと広がっていく。


「涙は似合いませんよ」


男の発言に余計に涙が止まらなくなってしまった。


男は優しい顔で私の涙を全て拭き取ってくれた。


涙が無くなり男の顔がハッキリと見えたとき。


生まれて初めての感覚が私を襲った。

胸のドキドキが止まらなくなった。


「じゃあ、俺行くんで」

男はスッと消えてってしまった。


私も帰らないと、でも

「もう少し、余韻に浸っててもいいよね?」


空にうっすらと見える月、昨日は満月だったんだ。








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