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8 こけしを売ってお金持ち


 ――スパァアアン!


 異世界生活三日目の朝だ。俺は小気味良い音に目を覚ますと、目の前でハリセンを持った『毛玉ナビゲーター』妖精スタイルの彩花ちゃんが空中からこちらを見つめていた。


「やっと起きたわね。聞きたいのだけれど、何よこの大量のこけしは」


 大量と言っても、俺が作ったのは三つだ。モデル用にプロが作ったものを十個くらい出したけど。おかげで、元から狭い部屋はごっちゃごちゃである。


「おはよう彩花ちゃん。今日も可愛いね」


 ――スパァアアン!


「ほざけ! あんたの戯言は聞き飽きたわ。いいから私の質問に答えなさいよ」


 顔を赤くしてそんなことを言うが、少し嬉しそうになっているのを俺は見逃さない。


「俺が作ったんだよ。三つだけだけどね」


 そう言って、モデルの十個と使った絵の具や彫刻刀を消す。残った三つは削り出しのせいで何処か歪な形である。


「あんたホントにこけし好きなのねぇ」

「こけしバカにすんなよ。子宝祈願に厄除けと、二つも縁起を担いでいるんだぞ」

「別にバカにしてないわよ。馬鹿にしてるのはあんたの事よ」

「尚悪いわ!」


 なんだか段々彩花ちゃんが横暴になってきている気がする。やはり早く二人目のハーレム要員を見つけなければ。

 どこかに可愛い女の子いなかなぁ。三歩譲って男の娘でもいいけど、先に巨乳さんを確保したい所だ。


 俺は朝ご飯用にシリアルを『家具生成』で出すと、同じく出した器にぶち込み、牛乳はないのでそのまま食べる。もちろん彩花ちゃんの分も出してある。


「やっぱり飲み物が欲しいわね。口の中がパサパサするわ」


 俺はストリートビューのマップと睨めっこしながら、無言で災害用保存水とコップを出す。なんと、牛乳は出せないのだ。


「……ありがとう」

「どいたま」


 中々見つからないものだ。まぁそれはいったん終わりにして、お昼にでも続きをやろうか。

 ついでに、こけしを買い取ってくれそうな場所を探してみようかと思った。だが、それは彩花ちゃんに頼んだ。


「はーい、お安い御用よ」


 彩花ちゃんには俺はマップを見ることしかできないと伝えてあるので、『マッピング』の全機能を掌握していることは知らない。

 だからこそ、快くオーケーしてくれるのでそれで問題はない。

 何もしないより、仕事があったほうが落ち着く性格なのだろう。


 ふっふっふ。余裕ぶっていられるのも今のうちだぞ彩花ちゃん。新しいヒロインを前にして、嫉妬に狂うがよい。フハハハハハ。


 ------------


 それから、にやけた顔を罵倒してきた彩花ちゃんを余裕の笑みでスルーして、俺たちは宿を出た。お金が足りないので一時的にチェックアウトすることになったが、致し方無い。

 再びマフラーの先っぽに擬態した彩花ちゃんの案内で到着したのは、どう見てもこの町のほかの建物と同じ商店には見えない場所だった。


「ここなの?」

「ええ、地図ではマルゲリー商会って書いてあるわよ。この辺りの土産物の仲買をやってるらしいわ」


 それなら適任のはずだな。

 入り口のドアをガチャっと開けて入る。


「たのもー」

「はいはい、どのようなご用件でしょうか?」


 やってきたのは、ふっくらとした体形に裕福さを窺わせるいかにも儲かってそうな商人であった。


「あなたが店主さん?」

「はい。わたくしがこのマルゲリー商会の長、タピッザ・マルゲリーでございます」


 大変おいしそうな名前だ。


「こちらで土産物を扱ってると聞いてやってきたんですけど、この場で買い取りはできるのでしょうか?」

「物にもよりますが……まぁとりあえず、商品のほう鑑定させていただいてもよろしいでしょうか?」

「はーい」


 とっても話しやすくていい人だ。商人は信用第一だもんね。

 俺はバックパックを下ろして、中に詰め込んで手拭いで包んだこけしを丁寧に取り出す。こっちだって商品価値を上げる工夫の一つや二つはするものだ。

 手拭いを丁寧に剥がして、こけしが見えるようにしてから手ぬぐいごと商人に手渡す。


「こちら“こけし”と言う私の故郷の品です」

「ほぅ、作りに粗さがありますが、どこか神聖なオーラを感じますね」

「わかりますか。私はまだ修行中の身でして、師匠のようなきれいな品ではなくて申し訳ない」

「これをあなたが? 確かに粗いですが、これは中々の品ですよ。では鑑定いたしますので少々お待ちください」

「はーい」

「……そんなアホな……」


 彩花ちゃんの唖然とした声が聞こえる。

 まぁただの日本人が見たら粗々のこけしでしかないからな。むしろ、見ただけでこのこけしの素晴らしさを見抜いた商人に感服である。


「こ、これは!?」


 店の奥から驚いたような声が響いてくる。

 マルゲリーさんはこけしを丁寧に抱えながら、いそいそと戻ってきた。


「残り二つも改めさせても?」

「ええ、どうぞ」

「……ああ、こちら二点も!?」


 鑑定具の水晶を片手に再び驚く店主マルゲリー。


「ええ、ええ。こちら三点。全てとても素晴らしい品でございましたました」

「それは、しがない一職人としてこの上ない誉め言葉です」

「えー、それで買い取り価格になりますが、こちらでよろしいでしょうか?」


 タピッザ・マルゲリーは指を一本立てる。このこけしの効果からして、おそらく金貨一枚の事であろう。

 別に見栄は張っていない。あのこけしにはそれだけの価値がある。

 ――が、俺は指を五本立てる。


「いや、やはりこれくらいはいただきたい。これを売るとすれば貴族が相手になるでしょう?」

「いやはや、御見それしました。しかし、貴族に売るとなればそれなりに準備が必要となります。どうかこれでどうでしょうか」


 なんてやり取りを無駄に繰り返し、結局は指二本と小数点以下八本に落ち着いた。もしかしたら、それ以上の高値が付いた可能性もあるが、流石にこれで十分だと思われる。


「ではこちらにお代を用意させていただきました。お改めください」


 店主マルゲリーからお金の入っているであろう袋を受け取る。

 ものすごくずっしりして重い袋の中身を見ると、きちんと大金貨八枚、金貨四枚が入っていた。


 ……あれ?


 ------------


 俺はマルゲリー商会を出ると、行き止まりの路地裏に隠れる。そして、もう一度中身を見た。


 ……やべぇ。


「ねぇ、一体いくら入ってたのよ? すごい顔してるわよ」

「……大金貨八の金貨四で、計金貨八十四枚分」

「…………はぁ?」

「銀貨にして8400枚」

「はぁ!? どうやったらあの歪なこけしにそこまでの価格が付くのよ!」


 俺が聞きたいといいたいところだが、これにはきちんとカラクリがある。


「いや、俺でも過小評価だったみたいだ」

「だから、どうしてそんなに高いのよ!?」

「それは――」


 それは昨日の事である。何とか完成したものの、角材からの手彫りなせいでガタガタなこけしが出来上がってしまい、売れる気がしなかったのだ。そこで、付加価値をつけることを考え新たに作ったスキル『加護』を用いて、“子宝の恵み”と“身代わり守”の二つの加護を付けたのだ。

 要するに、実際に効果が保証された安産祈願のお守りである。

 鑑定具にもそれがしっかり現れていたのだろう。


「魂関係に続いて、加護を与えるスキルまで持っていたなんて……あんた、何で神様じゃないのよ」

「とにかくチートなスキルが欲しいって言ったからかな」

「理由になってないわよ……。それにしても、日本円換算で八千四百万円……ってこと?」

「そうなるね」


 やべぇな。交渉の途中で旅に出る前に後三つ作るって言っちゃったよ。

 貴族って、子供一人確実に生まれるなら最低三千万出すのかよ。


 あれ? 金貨見て思い出したけど、金貨とあの指輪って二倍も重さ違わない気がするんだが、もしかして、めっちゃ買い叩かれたかな? ……あの受付さんならやるかもしれない。


「私ならこんな大金、怖くて持ち歩けないわよ……」

「え、いや、気持ちはわかるけど、あーでも銀行なんてないだろうし……」


 路地裏であたふたする俺たち。

 そこへ――

 

「おう、兄ちゃん。俺たちがその金預かってやろうか?」

「そうだぜ、俺たちならお前より大事に使ってやれるぜ」

「ゲハハハハ!」


 お金をチャリチャリ言わせながらあたふたしてたせいか、悪い人たちがやってきてしまった。話した順に禿とノッポとデブの三人だ。


 しまった。まだ攻撃スキルがない(二回目)。

 一般人な身体能力の俺ではチンピラ三人に勝てるわけがない。


「……ちょっと、大丈夫なの?……」

「……あんまり」


 一回だけなら、彩花ちゃんに不意打ちをさせられるが、さすがに三人は無理だ。

 ナイフと木刀は飾りだし、この狭い路地裏じゃガンタ〇クも出せない。『加護』は非生物用で触れなくては使えないから、戦闘に使えるようなものでもない。使えるのは『家具生成』だけである。


 ん? 十分か。インプは障子紙のようにタンスを引き裂いたけど、チンピラ如きではタンスですら十分な壁になる。いやー感覚が狂っておりましたねぇ。

 問題はいつ仕掛けるかだな。不意を打てるように怯えたふりをしたままにする。


「やっぱ大丈夫そうだ。彩花ちゃんは大人しくしててね」

「あー、分かったわ」


 さーってと、どう料理してやろうかな?


「おい、何ぶつぶつ独り言言ってんだよ」

「さっさとその金渡せばなんもしねぇって」

「ゲハハハハ!」


 とりあえず、目くらましのタンスを――


「お前ら! そこで何をしている!」


 凛とした女性の声が響いてきた。

 目を向けると、思わず「おお」と言葉が漏れる。

 そこには長い赤色の髪を風になびかせた美しい女性が立っていた。


「なんだぁ? 俺はこいつと話をしてるだけだが?」

「そうれとも、ねえちゃんが俺たちの相手してくれんのか?」

「ゲハハハハ!」


 つーかデブ、お前笑う以外出来ないのかよ。



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