6 お金が欲しい
「宿は取ったし、とりあえず飯だ!」
「私は食べられないけどね」
あーお腹空いた。なんかいろいろあったせいで余計に疲れてしまったが、休む前に飯だ!
俺のスキルである『毛玉ナビゲーター』の彩花ちゃんは、見た目はただのマフラーの先のポンポンに擬態してる毛玉だ。当然食事の必要はないが、それでも食事機能が欲しいのかもしれない。
「彩花ちゃんも異世界ご飯食べたい?」
「別に、食べたくないわよ」
ちょっと落ち込んでいる。やはり食事機能は検討の必要があるようだ。旅のナビゲーターにも旅を楽しんでほしいからね。
どういう食べ方にするかが問題だがそれは後回しだ。今は俺の飯が先だ!
------------
適当に買って宿の中に戻ってきた。
買ってきたのは串焼き肉と串焼き肉と黄色いけど柑橘系でないフルーツとケバブみたいな料理だ。
串焼き肉は何の肉かわからないけど牛っぽい感じのと鳥っぽい感じのやつだ。どっちも少し臭みがあるけど、燻製のような匂いがあるからそんなに気にならない。
フルーツはよくわからないけど、リンゴっぽい甘酸っぱい味がした。もうリンゴでいいと思う。
ケバブみたいな料理も薄く焼いたナンみたいな生地に焼いた肉を挟んでいるので、これもケバブでいいよ思う。まるでカップ焼きそば現象だな。
総評は……まあまあだな! まずくはないので全然オッケーだ。
俺がそんな到底食レポではない感想を述べている間、終始彩花ちゃんは羨ましそうな雰囲気を醸し出していた。
「ふぅー、食べたなぁ。ごちそうさまです」
「――ごくり」
彩花ちゃんは何か言いたげだが、後でこっそり食事ができるようにするので今は無視だ。
「さて、俺はこの冊子を読み流してから、冒険者に必要そうなものを買いに行くけど、彩花ちゃんはどうする?」
「どうするって聞かれたって、私にできるのはマップを見るか、空を飛ぶか、話すかしかできないじゃない」
「あーそれもそうだね」
食事機能と一緒にその対策もするか。
「それもそうだねって……まぁここで文句言っててもしょうがないわね。うーん、じゃあ空から街の様子でも見てくるわ」
「行ってらっしゃーい。二時間もあれば読み終わってゆっくりできると思うから、それまでに帰ってきてね」
彩花ちゃんは擬態しているマフラーから外れて、空いている窓から外へふわふわと漂うように飛んで行った。
「紙をケチってるのかもしれないけど、もうちょっと大きく書いたらいいのに」
もらった冊子に向かってそんな文句を言いながら、俺は黙々と読み始めた。
----彩花視点----
「この世界にやってきて一日が立ったけど、なかなか慣れないものね」
これは、ただの毛玉でしかない体のことではない。むしろ、この体は動かす部分が存在しないので、人間だったころよりも気楽に動かせるぐらいだ。
だから、私が慣れないと思っているのは、精神的な面のことだ。
もともとゲームが好きだったから、異世界に転生する話を見て自分も少なからず憧れていたのだ。なので、こうして異世界に実際にやってきて旅ができるのは本当にうれしい。
嬉しいのだけれども、同行者が問題だ。
私のことを騙して毛玉にすると、人間に戻りたければ死ぬ必要があると言い出した。この体は死なないみたいなこと言われたので、おそらく後者は嘘なのだろう。つまりは詐欺師に連れて歩かれているようなものだ。
それだけなら逃げるか、人間に戻すよう必死に頼んでみてもいいのだが、そもそもこの世界に一度死んだ自分を転生させてくれたのも彼なのだ。
とても嫌な奴なのに、恩人でもあるということだ。
「この行き場のない複雑な気持ちは、どうすればいいのよ」
街の様子を見てくるとは言ったが、少し高くまで飛べば町全体が視界に入るので、簡単に『マッピング』ができる。そうすれば、後でストリートビューを見放題だ。
川の流れに逆らって泳ぐ渓流魚のように、私は上空の風の流れに逆らうように飛ぶ。
あの軽率で適当な男が、私は嫌いだ。
------------
「おーやっと帰ってきたか。本当にきっかり二時間遊びに行かなくてもいいのに」
窓から入ってきた毛玉を見て、俺は声をかけた。
「別にいいでしょ」
「いいけどさ。もう少し遅かったら、警察に捜索願出すところだったよ」
「本気で言ってんの?」
「まさかー」
そんなわけないだろと俺は笑う。
彩花ちゃんは外を散歩してきたはずなのに、どこか浮かない表情(?)をしている。
「外で何かあったの?」
「何でもないわよ。買い物に行くんでしょ? 早く行きましょ」
うーむ。気になるけど、教えてくれないんじゃなぁ。
まぁいいか。夕飯までに食事機能をつけてあげれば、少しは元気になるだろう。
「あ、そうだ。見て見て。このもらったギルドカードこうやって魔力を込めると、ステータスが表示されるんだよ。受付さんは冊子を渡したことで完全に職務放棄してるよね」
「そうなんだ」
「……ほかにも、この無印のカードはEランクを表してるんだって。Sランクまであるから、せっかくだし目指してみようよ」
「そうね」
……こりゃダメかもしれない。故障や病気のはずはないし。
つまりは心の問題? いわゆる女心ってやつか。
…………あっ(察し)
「俺は彩花ちゃんのこと好きだよ」
「……えっ?」
「え?」
あれ? 違った? てっきり俺のことが好きになっちゃったのかと。ということはまさか。
「彩花ちゃんが好きな人を思う気持ちよりも、俺は彩花ちゃんのことが好きだ」
「……はぁ?」
「え?」
あるぇ?
「――プッ。アッハハハハ」
「え、ちょ、何?」
「ちょっと何急に告白してんの。プッフフフ、マジ笑える」
「えええええ?」
やばい、彩花ちゃんが壊れた。乾草の上にシーツをかぶせただけのベッドで笑い転げている。
あーなんか、笑い転げる毛玉ってシュールだなぁ。
「あーもう、ホントおかしい。アハハハ」
彩花ちゃんの笑いが止まらない。毛玉だから、笑いすぎてお腹が痛くなったりしないからだろうか?
そう思ったが、対策を考えつつ転がる毛玉を見つめていると、段々落ち着いてきたように見える。
「はぁー。いやー笑った笑った。おかげでスッキリしたわ」
「それは良かった」
「ちょっとこっち向かないで、また笑っちゃうじゃない」
……そうですか。彩花ちゃんの毒舌が元気になったようで何よりです。何だろう、ホームシックだったのかな?
「何というか、馬鹿な年下の男の子を見てるような気分だったわね」
「弟的な?」
「そんな感じね」
「――彩花おねーちゃん」
「えっ、キモイ」
「あっそすか、すいません」
弟かー。心の距離は縮まったけど、間接的にフラれたなぁ。
いや、俺はいずれハーレムを作るのだ。その過程で嫉妬させた後、なんだかんだでハーレムの一因に加えてみせるぞ。
------------
「ナイフと回復薬、それと胸当てその他もろもろで合計銀貨一枚と大銅貨五枚。残りは銅貨六十五枚分でおよそ六千五百円ってところか」
「明日の宿代も払えないわね」
「俺の心がもう一度金の指輪を売れとささやいている」
「冒険のロマンはどこに行ったのよ」
「戦場……かな?」
「それは大変ね」
「――さてここで問題です。お昼ご飯に使ったのは銅貨何枚分でしょうか?」
「どうでもいいわよ」
答えは五枚分でーす。ケバブ果物セットが三枚と串焼き肉が二枚でーす。
いつも思うけど、こういう一定の相場で交換される貨幣って、ちょうどピッタリ百倍の産出量の差があるってことなのだろうか? 異世界の闇は深いなぁ。
「今日のうちにできそうな依頼がないか見てみたらいいんじゃない?」
「さすがナビゲーターだ。でも、もうすぐ夕方なのに出かけたくない」
「あっそ」
そうは言ったものの、まだ時間はあるので冒険者ギルドに寄ってみる。
――入った途端。昼間と同じ奇異の目が俺に向けられた。明らかに昼間いなかった人にもだ。
「あいつが今日入った変人か」
「ああ、叫びながら入ってきたと思ったら、部屋の隅で丸まってぶつぶつ独り言を言ってたんだ」
「やべーな」
「ああ、やべぇ」
……聞こえてますよ。
俺がそちらを振り向くと、一斉に目を逸らされた。
「日頃の行いの結果よね」
「やかましいわ」
今度はほかの人に聞かれないように小声でやり取りして、俺は依頼掲示板へと向かった。
「Eランクでも受けられるのはこの辺りの依頼書のようね」
「えーっと、畑の青虫取りにトイレ掃除に屋根の修理の手伝い、ハチの巣駆除に工事の手伝いと虫退治、虫退治虫退治……」
「何でも屋さん――虫駆除業者ね」
「……冒険者ってもともとそういうものだから」
頭では分かっていたつもりだった。納得ができない。
「どうやったらランクは上がるのよ?」
「規定依頼数のクリア」
「……ドンマイ」
特に冊子には書いてなかったので、もしかしたら特例のランクアップとかはあったのかもしれない。
「インプ、めっちゃ強かったよな」
「そうね」
「それを証明したら一気にCランクとかないかな」
「あったらいいわね」
……今夜はこけしを作ろう。




