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4 初めての人里にはしゃぐ


 草原をひたすらバギーで走り、途中から森になっているのを迂回したら川と街道を見つけたので、それに沿って移動する。川の下流が町だ。


彩花さいかちゃん。町まであとどれくらい?」


 俺はゴーグルをつけ、皮手袋をはめてハンドルを握っている。見た目だけだが、形から入るのは大事だ。

 俺が声をかけると、横にある後付けのドリンクホルダーから五センチほどの球体の毛玉がひょこっと出てきた。


「あと二キロも無いわ。目の前の森は見た目よりも浅いみたいね」


 毛玉からは声が聞こえてきた。


「へぇ、異世界で初めての人里か。楽しみだね」

「あんたの言葉に同意するのは癪だけど、私も楽しみではあるわね」


 彩花ちゃんと最初に話した時はもっとよそ行きの可愛いらしい声だったのに、いまじゃツンツンしっぱなしだ。それもまた可愛くはあるんだけども。


「あ、そうだ。町の中で彩花ちゃんはどうする?」

「何が?」

「いや、さすがに魔法のあるファンタジー世界でも彩花ちゃんみたいな毛玉は目立つかなって」

「あんたの着崩したタキシードの方が目立ちそうだけどね」

「じゃあ、ここらで休憩がてら着替えようか」


 俺は森の前にバギーを止めて『携帯できる家』を呼び出す。見た目はただの木製の小屋だけど。


 ----数分後----


「どう? 旅人っぽい?」

「あーまぁそうかもね。割とどうでもいい」

「ふむ、別にカッコ良いとは思は無いが、一緒に歩く程度なら問題ないと」

「ちょっと! 分析しないで」


 彩花ちゃんはツンデレさんだ。猫みたいで本当に可愛い。

 そんなことを思いつつ、『家具生成』で鞘付きの木刀を取り出し、ベルトにさしておく。


「木刀なんて差してどうするのよ」

「観賞用の模造刀や扱えない日本刀よりも、いざとなったら簡単に使えて折れにくい木刀の方がいいかと思ってね」

「意外と考えているのね。腹立たしいことに」


 別によくある剣術の極意とかをスキルで出してもいいけど、死ぬ気になって頑張れば手に入るスキルは使ったら可哀そうかなって思うし(上から目線)。

 今のところは突然暗殺されることも無いだろうと楽観してるから、とりあえず無駄なスキルは作っていない。

 それでも、事故で死ぬ可能性はあるので「絶対防御」みたいなスキルは作りたいが、生死がかかってないと冒険のロマンが無いので保留だ。


「彩花ちゃんはこのマフラーみたいな布の先っぽで毛玉しててね」

「アクセサリーに擬態しろってこと?」

「そうそう。ちょっと可愛くなっちゃうけど、全然許容範囲だ」


 彩花ちゃんがマフラーの先っぽの毛玉に擬態したところで、バギーと『携帯できる家』を消し、歩いて森の中へと向かう。


「旅人っぽくなるために登山用具持ったけど、結構重いから止めようかな」

「まだ五歩しか歩いてないわよ! もうちょっと我慢しなさいよ!」

「はーい」


 そんなわけで、俺はえっちらおっちら杖を突きながら森の中の街道を歩いていった。


 ----約三十分後----


「ついたー! 異世界の町!」

「門と門番がいたのに素通りできて拍子抜けしたけどね」


 なんとこの街、通行量がタダでした。まぁ、商売できそうなほど大荷物ならその限りではないのだろう。


「あと、この街の人の言葉が分からないわ」

「あーそうだね、さすがに言葉くらいはいいかな」


 さっき努力して手に入るスキルは作らないと言ったな。あれは半分嘘だ。


「スキル生成『マルチ言語』」


 小声でそうつぶやく。すると、さっきまでガヤガヤとしか聞こえていなかった町の人々の声がしっかりと聞こえる。『マルチ言語』はありとあらゆる言葉を聞き、話し、書けるようになってしまう不思議でものすごいスキルだ。

 まぁ、異世界モノってだいたい一つの共通言語で統治されてるから、こんなにすごい意味はない気がするけども。

 こっそりと『毛玉ナビゲーター』の彩花ちゃんにも『エディット』をつかって『マルチ言語』を組み込む。


「あれ? 急に言葉が話せるようになった?」

「『毛玉ナビゲーター』をアップデートしておきました」

「アップデート? スキルレベルが上がったってこと?」

「似たような物かな」


 勝手に勘違いしてくれるなら、折角だしそれに乗っかっておこう。


「さーて、まずは冒険者ギルドだよなー」

「やっぱりそうよね」


 一人と一つでうんうんと頷く。

 異世界と言えば冒険者ギルド、これは切っても切り離せない関係だ(偏見)。


「とりあえず、門番さんに場所を聞いてみようか」

「そうね、お金も無いからあんまり屋台の人に聞いたりできないわよね」


 俺は踵を返して槍を持ってたたずむ門番のところへ戻る。


「すみませーん。冒険者ギルドってどこですか?」

「なんだ、お前この街は初めてか。教えてやってもいいが、そうだなぁ。銅貨一枚でど――」

「失礼しましたー」


 ダメかぁ。


「金にがめついおっさんね。そのくらい教えてくれたらいいのに」

「まあまあ。チップって言う日本人には理解しがたい文化があるのかもしれないじゃない」


 仕方ない。『マッピング』もアップデートしようか。


「彩花ちゃん。またアップデートしたから、主要な建物の場所は分かるようになったはずだよ」

「そんな都合よくポンポンスキルレベルが上がるものなの? あ、ホントだ。この通りをまっすぐ行った突き当りにあるみたいね」


 奇跡とご都合主義は自分で起こすものだよ。ほっほっほ。


「一つ思い出したんだけどさ」

「なんですかな、彩花さん?」

「何それうざっ。冒険者ギルド行ったら登録するでしょ? でも、その場合って登録料が必要なことが多くない?」

「…………あっ」


 その発想はなかった。それと、さりげなく心にナイフを投げつけるのを止めて欲しい。


「一度ダメもとで行ってみよう。それでだめなら、こけしでも売れば金になるんじゃない?」

「こけしは売れないと思うけど、『家具生成』で金目の物は出せるでしょうから問題ないわね」


 こけしはダメかー。一度作ったことあるから自信あったんだけどな。


 ----数分後----


「いい匂いの屋台が多くてお腹が空くぅ」

「何回それを言うのよ。私まで何か食べたくなってきたじゃない」

「知ったこっちゃない。こちとら朝からカップ麺一つしか食べ取らんのやぞ」

「まだ昼前なんだから十分でしょうが!」

「でも、食べたの夜明け前だし」

「あぁ、それもそうね」


 はたから見たらひとりで二人分喋る痛い人だよなーと思いつつも歩く。彩花ちゃんはそう見えるであろうことを見越してあえて話しかけてるのかもしれない。

 でも、そんなの関係ねぇ。俺は早く飯が食べたい。


「あとどれくらい?」

「それをさっき聞いたのが五十メートル前よ」

「そのボケた老人を相手にするような素っ気無い態度、マジでキツイっす」

「そう? 大変ね」


 うがぁあ! 死んでまうう。こころの痛みに耐えきれずしんでまうぅ。


「そんな死にそうな顔してないで食べ物だしたらいいじゃない」

「ああいうのは人前で使っていいスキルじゃないの。最近の若いもんはテンプレも知らんで、はぁ嫌になりますねぇ」

「同年代でしょうが!」

「そやったね」


 話し相手がいるっていいなぁ。

 彩花ちゃんを呼んで本当によかったと思う。言葉のナイフがもう少し尖ってなければ尚よかった。


「ほら、ダラダラしながらだから変に時間かかったけど、目的地はすぐ目の前にあるわよ」

「あー、あれかぁ。剣と盾とハンマーが交差してるー」

「ゲームによっては武器・防具屋の可能性があるタイプの看板ね」


 異世界なのに、何だか知ってる場所にいるような気分だ。どっちかというと、聖地巡礼か。


「のりこめー」

「わぁい」


 ――はっ!? テンプレに反応して体が勝手に建物の中へ。


 見回してみると、ごついお兄様方に奇異の目を向けられている。


「……彩花ちゃん」

「はい」

「すごく恥ずかしいです」

「……はい」


 おかげで、冒険者に絡まれるテンプレまで逃してしまった。解せぬ。



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