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番外 とある話。その一


 目が覚めると、私は何処ともと分からない真っ白な部屋の中にいました。

 そこにいるのは何やら体が透けてしまっている私と、怪しく微笑む謎の男。


 私がどうしたものかと口を閉ざしていると、男が話しかけてきました。


「俺の名はタイチだ。君の名前を聞いてもいいか?」

「……赤の他人に名乗りたくはないですね」


 男は何となく偉そうな人ではあったが、少しいやらしい目をしているのが気になったので私はそう言った。


「そ、そうか。これは脈なしだな」

「はい?」


 脈無しとか言ってるのでやはり下心のある男だったのだろう。

 ……ああ、気持ち悪い。

 今までナンパされたことなどなかったが、これほど不快なものなのだな。


「まぁ一応聞こう。俺の従者になる気はないか?」

「無いです」

「だろうな。では君のいく先を決めよう」

「は?」


 この男は何を言っているのだろう? 何で赤の他人に自分の道を決められなくてはならないのか。


「ん? もしかして気が付いていないのか?」

「……」

「君は死んでしまった。だから、俺は君に転生先を選んでもらおうと思ってね」

「……」


 異世界転生ってこと? 最近アニメでやったから見かけたけど、そんなの結局物語でしかないと思ってたんだけど。

 しかも、自分でいつ死んだか記憶がない。


「選べる先は五つだ。異世界か、元の世界か、天国に行きたいか、無に還りたいか、俺の従者になるか」

「……その五つ以外は?」

「贅沢だなぁ。思いつくなら言ってみてよ」

「……」


 これは夢なのか、それとも本当に死後の世界なのか、一体どちらだろうか?

 いや、この際それはどうでもいいか。今私がどれを選びたいかだろう。


「では、無に還らせてください」

「え、マジ? これ選ぶ人いないと思って冗談で言ってたのに」

「いいんですよ。死んだ時の記憶はありませんが、生きてたって苦しいだけです」

「そ、そうなの? チートスキル持って異世界で楽に生きることもできるのに?」

「そういう問題ではありません。私は決めたんですよ? 早くしてください」


 夢ならいつか覚めるだろう。その時絶望したら嫌だし、何より私は生きている事に疲れた。これで消えて無くなるのならその方がいい。


「……まぁいいか、別な担当の人に送るね『魂転移』」

「……」


 願わくば、これが夢でないことを願おう。



------------


「ふぅ、本当に消してしまうんじゃないかと肝を冷やしたわい」


 今度はそんな老人風の声が聞こえた。

 何も聞かなくても分かった。


 ――この人は神様だと。

 ――そして、これはまごうことなく死後の世界であると。


「しっかしワシを冥界の担当者扱いするとは、自覚のない癖に随分な奴だのう」


 この神様を見れば、さっきの男など唯の有象無象に過ぎないと理解させられてしまう。


「お主、本当に消えたいのか?」


 神様は、私を見透かすように言った。


「あ、あの、いいえ」

「だろうな、本来ならこんな事はしないのだが、しかしこれも縁だ。お主も異世界に送ってやる。何か欲しいものは無いか?」

「平和に人生を過ごせるならそれで構いません」

「ふむ、そうなるように調整しよう。若干の不幸はあるが、それくらい一々気にしなければ楽しい一生になるはずだ」

「ありがとうございます」


 いろいろ気になることを言われているが、前世と違って楽しく平和な一章になることを保証してくれたのだ。あまり気にしないことにしよう。


 そんな事を考えているうちに私は意識を失った。



------------


 フレストと言う町に生まれた私は、剣と魔法の世界ですくすくと育ち十六年の歳月が流れた。


 その半生は正に順風満帆。当然ケガや病気にも掛かったが、命にかかわったりなどせずに楽しい人生だった。

 神様が気を回してくれたのか、やたら丈夫な体を持っていてあらゆる才能に恵まれていた私は、中庸なスローライフを送るためにその才能をひた隠して過ごした。

 この世界では十五で成人するので、その時には冒険者ギルドの職員になった。世界を股にかける大企業ともいえる冒険者ギルドに就職すれば、安定した生活が遅れることを約束されていたからだ。


 しかし、これは少し失敗だったと初めは思った。見た目がそれなりにいい為に、やたら冒険者の男に声を掛けられるのだ。慣れてくれば自尊心を刺激してくれて悪くは無いが、時々いる無駄に臭い男だけは勘弁だった。



 そんなある日、今度こそ大失敗だったと思う時が来てしまった。


 冒険者ギルドにはその性質上、変人が多く集まりやすい。しかし、それ自体は大したことではない。


 だが、その日見た変人は、明らかに許容量を超えていたのだ。


「すみませーん。そこの美人の受付さん。ちょっといいですか?」


 意味不明な声を上げながら入ってきたその男は部屋の隅で膝を抱えてぼそぼそと独り言を言ったと思うと、こちらに大声上げながら寄って来たのだ。

 その顔は覚えていた。

 初めに自分を呼び出した似非えせ神のものだ。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」


 偶然だろうと思いつつも、仕事だからと嫌悪感を抑え込みつつ要件を窺う。


「今日は冒険者に登録したくて来たんですけど、どうすればいいですかね?」

「先に聞いておきますが、登録料の銀貨一枚はお持ちでしょうか」


 男の身なりは貧乏な旅人のそれだ。


「越後○菓の切り餅ならありますよ」


 聞き間違いだろうか? 前世でよく聞いたフレーズが聞こえた気がします。


「ご利用ありがとうございました。お帰りはあちらになります」


 無意識に拒絶が口をついて出た。


「いや、すみません。今のは僕の故郷で流行ってる冗談です。えっと今はお金がないので、どこかに民芸品を買い取ってくれるようなお店はありませんかね?」


 同じ日本の事を知っている。そして、あの時見た顔。――偶然なわけがない。


「当ギルドではそのようなご質問は取り扱ってございません。どうぞ、お帰りはあちらです」


 今すぐにでも追い返したかった。

 本当に反吐が出そうでした。


「すみません。ちょーしのってましたー!」


 とても嫌だが話を進めるしかないようだ。


「分かりました。教えますからまず頭を上げてください。民芸品でも、一部アクセサリーは当ギルドで買取が可能な場合もありますよ」

「ありがとうございます!」


 自分の不遜な態度のせいか、妙に相手が低姿勢だ。いや、この世界の人はそうはならないので、流石日本人?である。


「先ほど言った民芸品とは違いますが、旅費の足しにしてくれと親からもらった金の指輪です!」


 ……私は、神様のお陰で魔力の変化とかに敏い。

 明らかにこの男は今、魔法かスキルで何かしていた。

 それも、収納ともまた違う何かだ。


 そんな事を考えたが、顔に出さないように対応しておく。こちらに作用するタイプでもなかったから大丈夫だろう。


「ほぅ、金ですか。それが本当ならこれで銀貨四枚にはなるんじゃないでしょうかね」

「査定、お願いします!」


 査定が出来るように鑑定玉を取り出して、金の指輪を鑑定する。

 純金である。この純度の精練は可能だが、値段は金貨の低い純度のせいで大金貨一枚は下らないだろう。


 ふと、目の前の男の声とは別の声が男の胸元から聞こえた。試しに鑑定してみると、ほぼ全て鑑定できない謎の生物がいる事と、田淵彩花と言う明らかに日本人な名前が分かった。


 もしかすると、あれがこいつの言ってた従者での姿なのだろうか?

 一歩間違えればあれになっていたのだろうか?


 妙にムカついた私は純金の「純」を見なかったことにした。


 ……鑑定玉を使っても精度に個人差はあるのだ。


 後に迷惑料として差額で儲けましょう。


「はい、鑑定が終わりました。どうやら本当に金の指輪のようですね。えーっと値段が銀貨四枚なので冒険者外手数料二割を引いて、合計銀貨三枚ですね」


 念のために探りを入れる。


「計算諦めないで。ちゃんと端数も出して」


 この様子なら自分の用意した指輪が純金であったことに気づいてはいないだろう。


 薄々感づいてはいたが、私が生まれる時間を神様がずらしている。理由はよく分からないが、神様が私の一生を平和なものにするためにやった事だ。何か理由があるのだろう。


 この男の時間の進み方が私と違ったものであるという可能性もあるが、どちらでも私は構わない。


「すみません、なら追加で大銅貨二枚ですね」

「しぶしぶといった様子ですが、ありがとうございます」

「いえいえ、これが仕事ですから。それでは、お帰りはあちらです」

「あ、はいご丁寧にどうも――って冒険者登録に来たんですけど!?」


 騙されて帰ってくれたら楽なのに。

 そう思いつつも、あまり顔を突き合せたくなかったので適当に対応して追い返した。


 その後、自分に近寄って来ないようにと、冒険者を一人捕まえてあの男に遠回しにこっちへ来るなと伝えさせたが、全く効果は無かった。

 それでも変人が一人寄ってこなくなったので、それはそれでアリかと思うことにした。


 それから更に数日が過ぎると、ミノタウロスを倒して特例でCランクに上がったその男は何故かわざわざ町を出ると報告に来た。


「そういうわけだから、俺がいなくなっても寂しがったりしないでよね」


 戯けたことを抜かすその男を、とりあえず鼻で笑っておいた。


 ストレスの原因が消えて悲しむ人がいるでしょうか。



大事なことは書けた。

分かりにくかったら質問してくれるとありがたい(露骨な感想稼ぎ)。

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