23 事後処理
俺たちは少し遅いお昼をゆっくり食べた。
途中から元ダンジョンマスターでガキっぽい中性的な顔の男と一緒に食べることになってしまった。
羨ましそうに見ているのに彩花ちゃんが気が付いてしまったので、仕方なくだ。
イルスは、近くに来ても結局そわそわと俺の様子を窺っていたので、あまり読んでも変わらなかった気がする。
一応敵だし男なので、俺はあまり信用していないってのもあって俺にとって落ち着かない時間だった。
そうしてお昼も食べ終わると、これからの事を話し合うことにする。
「さて、計らずもダンジョンに入るという目標も達成してしまったことだし、荷物をまとめて明後日にでもこの町を出ようと思う」
「ええ、いいわよ」
「アタシも問題ない」
「……」
イルスは何か言いたげだが、今回は関係ないのでスルーだ。
ふと思い出したが、「問題ない」と言った奴こそが問題なくはないと思う。
「そういえば彩花ちゃん、エルの名前は決めた?」
「あー、それね。もうエルでいいんじゃない? 呼びやすいし。ライラのLって言えばいい感じだし」
「ライラのエルとはなんだ?」
「あー異世界の文字で『ライラ』と書くと頭文字がエルなのよ」
「異世界の……!」
エルは最初に名前を決めた時よりうれしそうな顔をしている。
「あの、質問してもよろしいでしょうか?」
急にイルスがそう言った。
特に断る理由もないので許可しようか。
「どうぞ」
「ありがとうございます。マスターは異世界の魔王なんですか?」
「……ゴフゥッ」
「あれは冗談よ。異世界出身ではあるけどね」
不意打ちと言うか、これはブーメランなのかもしれない。
「そうなんですね。今思うと、途轍もない強さでしたし、サイカさんみたいな不思議な存在も一緒にいますから魔王と言われても疑いようがありませんね」
フォローに似せた追加攻撃が来た。
「……イルス。お前も、二度とその異世界の魔王とかで呼ぶなよ」
「は、はい。心中お察しできず申し訳ございませんでした」
素直な奴隷っていいね。これで男でなければどれほど良かったか。
「ちょっとしか話してないのに物凄く疲れた。とりあえず俺は冒険者ギルドに行って、ダンジョン踏破でランクが上がらないか直談判に行ってくる。みんなはどうする?」
「私は付いて行くわよ。待ってても仕方ないし」
「アタシは、元部下たちを……そういえば、組織の幹部はどうした?」
あーそういえばすっかり忘れてたな。
「幹部は貴族や有力者が殆どなので捕まえるのは難しいと思います」
「そうなのか。残念だが、証拠もないし諦めるか」
俺としてはどうでもいいので、諦めるのも問題は無い。
「……そうだわ。エル、部下を衛兵に突き出すのは待ってね。状況によっては一網打尽にする方法を思いついたわよ」
彩花ちゃんは怪しく微笑んで作戦内容を話した。
要約すると、幹部会を開いて全員集めて、その場で捕獲するってだけだ。
俺は同意する。
「まぁいいんじゃない?」
「部下と患部に直接のつながりは無いから、近日中に実行すれば成功する可能性は高いな」
「それでは、招集をかけておきますね」
部下の代表であるエルと組織のトップであるイルスが同意したので、恐らく成功するのだろう。
「ほんじゃ、必要そうなアイテムがあればじゃんじゃん出すよ」
幹部の中にはAランク冒険者もいるらしいので、最低限無力化に使えるアイテムは必要だ。
ボールやスプレー、ライトなどに麻痺やら眠りやらスキル封じやらの『加護』を付与して渡す。
「こんなもんで大丈夫かな?」
「ああ、これだけあれば私一人でも問題ないかもしれん」
「マスター、僕のしたことの後始末に手を掛けてくださって、ありがとうございます」
「いやいや、気にすんなって、アッハッハッハ」
俺はいい気になって笑う。頼られるって凄い快感だね。
「あんまりテンション上げすぎると、また無意識に黒歴史作るわよ」
「……そっすね」
努めて冷静になろうとする。
「んじゃ後は頑張ってね」
「了解した」
「了解しました」
奴隷二人の返事を聞いて俺は頷く。
「それじゃあ、彩花ちゃん。俺たちも行こうか」
「ん、ちょっと待って。何故かダンジョンの前に人が集まってるみたい」
「どゆこと?」
「ダンジョンの前にギルド職員と冒険者がやってきて、入り口を封鎖してるのよ」
「あ、それ、マスターがやってくる前に中にいた冒険者を一度追い出したからだと思います」
イルスはエルと一緒に作戦を詰めていたはずだが、こちらの話も聞いていたようだ。
「それで冒険者が警戒態勢に入ったってこと?」
「いえ、ダンジョンをたまに構造変化させているんですけど、それで探索者を巻き込んでしまったことがったらしくて、それ以来その兆候があるとみんな出て行くんです。それを利用して追い出したので、魔物が出てこないか見張りながら、今は変形が終わった後の調査隊の編成をしているんだと思います」
「ほう、そうなのか」
うまいことやったもんだな。
「その構造変化に巻き込まれて出れなかったってことにして外に出ましょうか」
「そうですね。それなら、構造変化が終わったことを知らせることもついでに出来ますし」
彩花ちゃんとイルスが提案してきた。
俺もそれに乗っかるとしよう。
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「おい、だれか出て来たぞ!」
ダンジョンから外へ出ると、そんな声が聞こえてきた。
「おい、お前。大丈夫か?」
少し疲れた雰囲気を出しながら出て来たので、そんな心配した声も聞こえた。
「はい、大丈夫です。突然構造変化が起こって一時的に出口が無くなってしまっただけで、今ようやく出られたところです」
俺は決めていた言葉をそのまま言う。彩花ちゃんもついてきているが、今は毛玉モードなので俺一人で色々対応する必要がある。
「おお、それじゃ構造変化は終わったんだな」
「はい、それはもう終わりました」
俺の言葉を聞いた偉そうなおっさんは振り返って、声を上げた。
「構造変化は終わった! これより調査の為の先遣隊を突入させる! 細心の注意を払って進むように!」
「「「「「おお!」」」」」
無駄にデカい歓声が聞こえる。そして、三人ほど俺の後ろにある入り口から中に入って行った。
すると、再びおっさんがこっちを向いた。
「そういえば、お前、見ない顔だな。冒険者じゃないのか?」
「いえ、冒険者ですけど特別入場許可証で入ったEランクですから、知らなくても――」
「はぁ? Eランクなら大人しくランク上げろよ。それでこんな目に合ってんじゃ意味無いだろうが」
おっさんは頭をガシガシとかいた。
「じゃあ、初対面だな。俺はラソルだ。このフロストの町の冒険者ギルドの長だ」
「へー、偉い人なんですね。俺はタイチって言います。肩書はさっきの通りですけど、俺、このダンジョンの天辺まで言って来たんですよ」
「分かったよ。今は冗談に付き合う暇は無いから後にしてくれ」
「じゃあ証拠を見せますよ」
そう言って、虚空に空いた穴に手を突っ込み、ミノタウロスの角を取り出す。
「これです」
「お前、これ何処で盗んできた」
「ちょっと、人前でなんてこと言うんですか。正真正銘、俺が倒したんですよ」
「ほんとかよ。とりあえずそれは仕舞え。他の人が見たら何を思われるか分からん」
とりあえず、角を穴の中に戻す。
「おい、だれか頼む。あ、アリエでいいや。こいつさっきダンジョンから出て来たばかりだから、買取とかしてやってくれ」
アリエって名前、どこかで聞いた気がする。
「チッ、何で寄りにもよって」
「あーいつもの受付さんだったか」
そういえば、虫好きのセクトさんがポロっと名前を言ってたな。
俺は受付さんの後に続いて歩き、仮設テントの中に入る。冒険者委ルドでも見た道具が一通り用意されていて、ここでも色々対応できるようになっていた。
机の向かいに座るなり、受付さんは言葉を発した。
「で? 何でEランクのあなたがダンジョンにいたんですか?」
「昨日のネズミ退治のときにもらったんですよ。この特別入場許可書をね。ギルドで話したら、絶対止められると思って隠してました」
そういう設定にした。
「はぁ、許可を持っているなら咎める理由はありませんね。それでは無罪放免と言う事で、お帰り頂いて構いませんよ」
「いや、買取と討伐証明が欲しいんですよ。俺、さっきミノタウロス倒してきたんですから」
「寝言はいいので、先にギルドカード出してください」
俺は、言われたとおりにギルドカードを差し出す。
このギルドカードには討伐数を記録する機能がある。ネズミ退治のときも、それで討伐証明になったので、死体を持ち歩かずに済んだ。
受付さんはそれをプリンターみたいな台座において、操作する。
「……? ……こちらのカードは故障してるみたいですね」
「現実を認めてください」
誰かに持ってもらって倒しても討伐にカウントされないようになっているので、俺が倒したことが分かったはずだ。
「こちら、ダンジョンでの討伐証明になります。買取もささっと済ませますので早く出してください」
俺は、討伐数の書かれた紙を受け取ってバックにしまうと、代わりに虚空からドロップ品を詰め込んだ袋とミノタウロスの角を取り出した。
結局、それらは全部で大金貨一枚と銀貨一枚に銅貨三枚になった。
大金貨一枚は全てミノタウロスの角とミスリルインゴットで、残りはその他のドロップ品だ。残り物でも銀貨になったので、それなりに高いものも混ざっていたらしい。
内訳はどうせ覚えられないので聞いていない。
俺はそれを受け取って外に出ると、再びギルド長の元へ向かった。
次で一章終わり。




