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22 二件落着


「さて、とりあえず奴隷にしておくか。……男の奴隷とかマジでいらんけど」

「それだけ便利だからね、隷属の首輪」


 彩花さいかちゃんの言う通り、隷属の首輪は便利だ。特別なスキルでもない限りこちらに不利益の無いよう相手の行動を制限し続け、命令があれば無理やり従わせる。ふらついて崖から落ちる、みたいな不意の自殺まで防止するってところがマジですごい。


 俺は『家具生成』で隷属の首輪を生成し、未だ涙を流す元ダンジョンマスターだったイルスの首に付ける。

 近くで見ると、ただのイケメンと言うより中性的でちょっとガキっぽい感じがある。身長も低いし、意外と幼いのかもしれない。


 そんな事を考えつつも、念の為「逃げるな」と命令してから、『加護』付きボールで付けた状態異常を全部取り消す。


 イルスは隷属の首輪をつけ終わった頃には泣き止んでおり、改めて喚き散らすなんて事は無かった。


「スキルに鑑定は残してるんだし、一回自分の事鑑定してみたら?」


 イルスは何かぼーっとしたような顔をしていて、何を考えているのかよく分からない。


 奴隷になったら急に無口になったな。

 まぁ、元々そういう奴だったんだろう。力を得て増長していたに違いない。


 こいつに聞きたいことが幾つかあったのだが、俺がダンジョンマスターの権限を手に入れてしまったので既に聞きたいこともない。


 ……あ、一つあった。


「こっちの奴隷のエル……本名はライラだっけ、ライラの俺に対する態度がおかしい気がするんだけど、元々男嫌いだったりした?」


 本人に聞かないのは、あまり主人としての命令を使いたくないからだ。こういう個人的な話は絶対してくれないだろうし。


「呪いをかけたって言った……ましたよね? あれ、本当はダンジョンでの支配契約なんだ……です。そこで、おまえ……タ、タイチ……ご主人様をハニートラップで落とそうとしたん……ですが、万が一にもおま……ご主人様に好意を持たないように命令で少しずつ思考を歪めたんだ……です。おま……ご主人様で治せないってことはもう、素の人格として刻まれてるんだ……でしょう」


 敬語を使おうとしてかえって聞き取りずらいが、結構すごいことしてたのは分かった。ビックリだ。

 しかし、そういう事だったのか。絶対俺を好きにならない性格になってるって逆に凄いな。


 ……これは、思考の修正と言う建前で、俺のことを好きな状態に洗脳するチャンスなのでは?


 いや、止めておこう。嫉妬を通り越して、彩花ちゃんに完全に呆れられかねない。

 ハーレムのバランス感覚ってめっちゃきつい。


「そうだ、お前奴隷になってこれからどうしたい?」


 考えてることを変えるために、無理やり違う話題をイルスに振る。


「え? どうしたいって……?」

「どうしたいかだよ。俺は男の奴隷を侍らす趣味なんてないからな。かと言って生かしておく選択をしたんだから、放置するわけにもいかんでしょ」


 完全に俺の都合だから、出来るだけ相手の意見は尊重したい。一般的には衛兵に突き出す方がいいのかもしれないけど、俺は元とはいえダンジョンマスターなんてレアキャラを逃す人間ではない。

 かと言って放置して死なれるのも精神衛生上良くないからな。


「僕は……」


 イルスが答えに迷っていると、彩花ちゃんが話を振ってきた。


「ねぇ、あんたダンジョンマスターになったんでしょ? とりあえず、この辺に魔物が来ないようにしてよ」

「ん? ああそうか、遠くでこっちを窺ってる奴らがいるんだったね。えーっとどうすればいいんだ?」


 俺がダンジョン操作用の半透明なモニターと睨めっこしていると、イルスが声を上げる。


「右下に、転移のボタンがあるから転移先を指定して飛べば楽だと思う」

「お、おう。サンキュー」


 命令してもいないのに教えてくれた。

 どうしたんだろう、さっきの敬語と言いこいつは俺に媚びて釈放を迫る方針に決めたのだろうか?


 とりあえず、言われた通りの場所にあった転移のボタンを押して、塔の最上階へ皆を連れてワープする。


 最上階は四方八方に外の様子が覗ける狭いガラス付きの窓があり、ちょっとした展望台のようだ。

 中心には玉座があって、その正面に恐らく十四階層からの物と思われる階段がある。


「だだっ広いな」

「ホント、無駄に広いわね」

「今までここに来た奴は全員大量の魔物で襲って追い返してきた……です。その時はいっつも屋上に隠れて倒すか逃げるかするのを待ってたけど」


 何とも言えん。死にたくないなら万が一にも探索者の前に出ないのが普通だ。けど、あれだけ不遜な態度だった癖に逃げるとか、本当に臆病な奴だったんだなって思った。


 俺は、彩花ちゃんやエルと一緒に一通り窓の外の景色を眺めた後、当初の目的を思い出して玉座の方へ向かいながらイルスに話しかける。


「んで、どうしたいか決めたか?」

「……奴隷の分際で過ぎたことを言うことをお許しください。僕はダンジョンマスターに戻りたいです」


 さっきよりも言葉遣いがなっていやがる。優しさが足りていなかった俺には中々効果的な作戦だ。バレているから意味は無いがな。

 そう思いつつ玉座にドカッと座り込む。

 上々の座り心地だ。


 そうして偉そうにしながらイルスに告げる


「マスターに戻すのは無理だ」

「そう……ですよね……」


 イルスはまたうつむいてしまった。おもしろい。


「でも、さっき見たらダンジョン管理権限の委託、なんてのも有ったしそっちならいいかなと思ってるけど」

「ホントですか?」


 素直なガキっていいなぁ。いじりがいがあるし。


「まぁもちろんタダなわけないけどな」

「……あ、女性型のモンスターでしたらいくらでも呼び出します!」


 ――ゲホッ、ゴホッゴホッ。


「プフッ」


 俺がイルスの思わぬ言葉にむせていると、離れたところから彩花ちゃんの笑い声が聞こえてきた。


「い、いや、そうじゃなくてだな。お前に支配契約をしておきたいんだ。思考を歪めてしまうくらい強力な奴だし結構信頼できるからね」

「それくらいお安い御用です! それで元に戻していただけるのなら、僕は喜んで支配契約を受けます!」


 「せいぜい足搔いてみることだな」とか言って高笑いしてた奴と同じには見えない。

 まぁ、隷属の首輪も支配契約もあるから、演技だったとしても大丈夫なはずだ……。何か抜け穴があったりしないよね?


 そう思ってモニターをいじるが、出て来たのは「支配者の合意無しに解除されない」の文字だった。俺なら解除できるけど、それだけなら大丈夫だろう。


「あの、支配契約なら右の方のボタンだったと思いますよ?」

「いや、違う所を見てただけだ」


 俺は見つけておいた支配契約のところを押して、イルスの前に確認画面を表示させる。

 イルスがささっと押したことで契約は完了である。


「よし、これで完了だな。後は、町で裏組織を作ろうとしなければ、今まで通り好きに経営してていいぞ」

「分かりました!」


 俺が冗談交じりに言うと、嬉しそうにイルスは言った。


「さて、一つ問題が片付いたから次はエルの方だな」


 俺は向きを変えて、未だに窓の外を眺める彩花ちゃんとエルの方へ向かう。


「……何でついてくるの?」

「僕はマスターの奴隷で配下ですから、当然です」


 何が当然なのか分からない。


「最初に言ったろ? 俺は男の奴隷を侍らす趣味なんかないからな」

「そうですか……。申し訳ございません」


 イルスは踵を返し、トボトボと玉座の方へ戻って行った。

 何だろう、構ってあげなかった時の犬みたいだ。


 ――って、危ない危ない。危うく情が移るところだった。どんだけ優しさに飢えてるんだ俺は。


 改めて俺は彩花ちゃんたちの方へ歩きだす。

 彩花ちゃんの元に辿り着くと、声を掛けてきた。


「結局、ダンジョンの経営の管理は任せたのね」

「まぁね。旅に出たいのに、ここで付きっきりになりそうなことはしないよ」

「それもそうね」


 ダンジョン経営も旅が終わったらやるつもりだけどね。


 それと、本題だ。


「エル、自分の性格が歪められてたって分かったはずだけど、直したい? そのままにしたい?」


 そのままにしたいと言ったら、イルスと一緒にここに置いていく。美人なだけの常に俺を嫌ってる女の子なんて連れ歩くなら、一人の方が数倍マシである。


「そうだな……直したとして、このサイカ様を思う気持ちが変わったりしないだろうか?」


 恋する乙女な顔だぁ。対象が俺じゃないせいで、何とも言えない気持ちになる。


「変わらないように気を付ける……よ?」


 俺としては変えたい所だが「LGBT差別とも捉えられかねない」と言い訳を立てておけば何とか自分を説得できる。

 好感度が普通に戻ればまだチャンスはあるし。


「なら、直してくれ。そうしないとタイチは連れてってくれないだろう?」

「なんだバレてたか。決まったんならいい。早速始めよう。スキル生成『精神操作』」


 効果は、人の気持ちをいじくっちゃう、そんな倫理的に最悪なスキルである。

 今回使ったら一旦封印する。

 絶対じゃないのは、今後どうしようもない悪人が出た時に殺さないで対処するためだ。悪人の矯正くらいなら使っても問題ないだろうし、これでもう人間を殺す必要はないからね。


 『精神操作』を使い、好感度パラメーターを表示する。俺へのマイナスに振り切った好感度を固定している針を外して引っ張り上げることでゼロに戻し、施術は完了だ。

 上手くデフォルメしてあって使いやすい。


「どう、後遺症は無い?」

「ふむ、ご主人に対するゴキブリを見た時のような嫌悪感が嘘のように消えたぞ」


 それだと、むしろその嫌悪感に耐えてハニートラップを仕掛けて来た事に関して、感心してしまうじゃないか。

 ……単にあの時はそこまで嫌いじゃなかっただけか。


「治ったようで何よりだ。とりあえずお昼にしようか。今日はたくさんスキル作ったから、結構疲れたよ」


 大学受験の数日前の時くらいには頭が疲れている。


 俺はキャンプテーブルと椅子を再び出してゆったりと座りながら、ダンジョンに入る前に準備して使わなかった水や乾パンを食べ始めた。



一章の終わりまで実質的に毎日投稿できる。

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