21 マスターが直談判に来た
七層はグリフォンとかハーピィとか明らかに今までの雑魚とは一線を画す魔物が混ざるようになった。
スリングショット弾では一撃で倒せないので、砲丸を『射出』で打ち込むのだが、今までと違って緩急付けて襲い掛かってくるのでなかなか捉えるのが難しい。途中からは二、三発同時にぶち込んだり、“爆発”の『加護』を与えたりで対処している。
「もう範囲攻撃で、エリア内の魔物全部吹き飛ばしてやろうか」
「出来るならやってもいいんじゃないの?」
「うーん、一度そうしてみるか。どういうのがいいかなぁ」
近くの魔物を先制で潰して安全を確保し、少し考えてみる。
「そうだ。スキル生成『エターナルフォースブリザード』」
「そう来たか……」
有名な「僕の考えた最強呪文」である。リキャストタイムを一日くらいに設定しておけば、楽しく使えると思うけど、今はとりあえず五分にしておいた。
しかし、声に出してみると、中二臭くてかなわんな。
「んじゃ、使ってみるから近くに来ててね」
攻撃範囲は俺の周囲一メートル以外の全てで、射程はある程度自由にしたが一番遠くて一キロにした。これなら最強の名に恥じない性能だろう。
エルと彩花ちゃんがしっかりと範囲内にいるのを確認して叫ぶ。
「『エターナルフォースブリザード』!」
すると、一瞬にしてあたりが真っ白に包まれ、すぐに戻る。
外では全てが凍り付く氷の波動が外へ向かって走っているはずだ。見た目の派手さは無いが、辺りに一瞬にして死を振りまく恐ろしい魔法だ。
対象が目に見える生物だけなので空気が凍って固体になったりとかはしないけど、一歩間違えたら自分まで死ぬ要員がるんじゃないかと、中々に恐ろしいものがある。
辺りで魔物がぽろぽろと落ちてくるのが見える。
「……ヤッバい」
「ヤバいわね」
やりすぎた感がある。一気に魔物をつぶせた爽快感よりも先に罪悪感が出てくる感じだ。
何とも言えない光景に暫く呆然として、それから、この魔法を再び使う時が来ないことを切に祈った。
「……でも転移とかで逃げられる人とか、強力な結界が張れるなら効かないだろうし、そんなに強いとも言えないかも」
「弱いとは全く言えないけどね」
「そうだね」
ちなみに、エルが何も言わないのは質問していないときは話さないように、奴隷の主人として命令したからだ。子供っぽい対応かもしれないけど、話すだけでも疲れちゃってね。
しかし、言葉を発せなくとも、エルのその顔にはしっかりと驚愕が刻まれている。
「楽できたのは確かだし、とりあえず進もうか」
「そうね」
罠だけは残ってるので、それを避けつつ七階層を突破する。
そして階段を上って八階層に着いた時、地下でも見た光の体のダンジョンマスターが待っていた。
「降参だ。俺の負けだよ。全く、これじゃあ勝ち目が無いじゃないか」
そいつは俺を見つけるなりそう口にする。
「かけていた呪いは消されるし、せっかく出したとっておきのミノタウロスまであっさりと片付けられた。それでもまだやりようはあると思ったけど、あんな魔法まで見せられたらもう万策尽きたって感じだよ」
「そりゃどうも。だからってわざわざここまで来て話しに来る意味が分からない。別に待ってればこっちから行くのに」
折角いいところ(?)だったのに。
「いや、待ってても良かったんだよ。でも君がダンジョンにいてもマイナスしかないんだ。せっかく召喚しておいたモンスターたちは次々殺されてしまうし、そのコストに比べるとキミから得られる魔力はゼロに等しい。もう、これ以上ダンジョンに入っていて欲しくない。だからこその降伏宣言だよ」
「それが理由でダンジョンに入ってから今まで一つも宝箱がなかったのか」
「それは、君たちが拾っても殺してしまうから意味ないと思ってたからね」
「なるほど」
理解はしたが納得はできん。
「こちらから降伏したんだ。何か要求があれば受け入れよう」
何だかんだ上から目線なのは、自分が安全圏にいるからなのだろうか。
「そうだな。彩花ちゃん、何かある?」
「うん? 何かって言われてもね。私はこうやって冒険できてるだけで結構楽し――」
そこまで言って、ハッと思いついたような顔になった彩花ちゃんは言いなおす。
「べ、別に欲しいものは無いわね」
久しぶりのツンデレ。ごちそうさまです。
「じゃあさ、出せるもので一番高いものって――」
突然、『危機察知』が大音量で警告を鳴らす。
下から何か飛び出してくるようだ。
咄嗟に横に避けると、影の中から黒いものが飛び出して俺の首があった位置を鋭い物で切り裂いた。
俺は、今出せる最高の速度で幾つかのスリングショット弾に“眠り”の『加護』を付けて『射出』する。
それは黒いものに当たり、一瞬でそれを昏倒させた。
ダンジョンマスターはやらかしたって顔をすると、あっと言う間に消えた。
俺は一息ついて声を漏らす。
「危なかったぁ」
「驚いたわ。急に出てくるんだもん」
『危機察知』は俺が助かるタイミングで鳴るようにしてるとはいえ、ギリギリ過ぎて今のはいくらなんでも怖すぎた。
「彩花ちゃん。こいつは一般情報にある?」
「こいつはシャドーね。陰の中を移動して、後ろから切りかかってくる魔物よ」
「見たまんまだね」
そう呟きつつもスリングショット弾で攻撃していくと、シャドーは粒子になって消えた。
「物理体制が高いだけで、実態はあるんだな」
「そのようね」
さて、あのクソダンマスめ。何とまぁ卑劣な手を。放っておいたら後で何されるか分かんないし、殺すか奴隷にでもするかその他か。どうせなら、このまま人間不殺を貫くのも悪くない。
「彩花ちゃん、こっそり近づいてくる魔物がいないかマップを見ておいてね」
「うん、わかったわ」
マップを見ていてもらえばほとんどは大丈夫だ。いざとなったら『危機察知』も発動するだろうし……。
「さて、あのクソ野郎を引きずり出してやる。スキル生成『指定召喚』! からの早速発動!」
自分の知ってる人なら誰でも呼び出せる召喚魔法だ。控えめに言って、これだけでもチートスキルである。
目の前に魔法陣が出来て、その中にさっきの男が現れる。
それと同時に“麻痺”と“スキル封じ”の『加護』を付けたプラスチックボールで動きと魔法を封じる。
「なっ!? どうなっているんだ! 僕を転移させる召喚魔法なんて有り得ない!」
「頭悪いんじゃないの? 俺のこと見てたらわかるだろ、そのくらい余裕だって」
こいつは多分、さっきなのかもっと前からなのか分からないが、転移に対しての耐性を取っていたのだろう。まぁ、俺のスキルのが上だったってことか。
って、こういう場面になるとついイキってしまうな。反省反省。
あくまで冷静にいこう。
「ぱんぱからったてーてーてー。正直に喋っちゃうライト~」
若干ふざけすぎた。冷静って難しい。
彩花ちゃんは呆れているが、流石にハリセンは飛んでこなかった。
俺はその“正直者”の加護を付けた懐中電灯をダンマスの額に当てる。催眠術的な雰囲気で。
最初は効き目があるか確かめておこう。相応の効き目があるように『加護』を毎回定義してるので大丈夫だとは思うけど。
「お前の名前は?」
「イルスだ」
「居留守? ああ、イルスね」
アクセントは「イ」だ。
「じゃあ、本題。お前のことを見逃してやったら、お前らは二度と俺達に干渉しないと誓えるか?」
「無理だ」
あえて脅さないことで、本心が聞けてしまう。俺って天才――じゃなくて後から思いつきました。
「無理だってさ。どうしようか?」
「私に振るの? えーと……」
彩花ちゃんに振るのは酷だったな。
「ごめん、俺が決めるよ」
優柔不断な男とは思われたくないからな(若干手遅れ)。
とりあえず、相手に直接聞いてみよう(早すぎる前言撤回)。
「どうやったら俺達に干渉しないと誓える?」
「お前らが死ぬなら」
こいつ……殴りたい。
「僕はここの支配者なんだ! そう易々と従ってたまるか!」
「そっか、なら支配者じゃなくなればいいのか」
「は? バカじゃねぇの」
良い事思いつきました。
「スキル生成『剥奪』、すかさず発動」
よくある「強奪」系スキルだ。もう出尽くされて出涸らしみたいなもんだと思ったけど、やっぱり便利なのに代わりはないね。
「ダンジョン支配者(マスタ―)と、そのほか必要なさそうなスキルやステータスは頂きました」
「そんなこと出来るわ…け……!?」
この子ったら、直ぐに常識に戻るんだから。俺が非常識な存在だっていい加減骨の髄まで刻み込んだ方がいいと思う。
「な、何でこんな……」
「何でじゃないだろ。ほっといたらお前が殺しに来るだろが」
「だったらなぜ僕を殺さない」
「別になんだっていいだろ?」
ここに来て、再び殺すか迷うとはね。迷ってる間は殺さない方針でいるので、その隙をつかれるなんてありがちな事は無いと思う。
黙り込んでしまったイルスの様子を油断せず窺いながら何を質問しようか考えていると、イルスは涙を流し始める。
そんなに悲しかったのかと思いつつ、泣く声がうるさかったので“沈黙”の『加護』付きボールで容赦なく黙らせた。
一章は書き終わったので、他の作業次第で順次投稿することにします。




