20 ハーレムは一日にしてならず
エルの好感度の低さに若干落ち込んでお菓子をやけ食いした。
そして、ようやく立ち直った俺は道具を片付けて言う。
「ほいじゃあ行きますか」
「了解」
「ワクワクするわね」
彩花ちゃんが楽しそうで何よりだ。
俺は入る前にボス部屋について確認する。
「たしか、普段ならゴブリンキャプテンがいるんだよね」
「ああ、最初に遠距離攻撃で仕掛けないと集団戦になってキツイ戦いになる」
「その通りのボスだったら、彩花ちゃんも敵を減らすのは手伝ってね」
「分かったわ」
「基本的に何が出てきても、エルが前衛で立ち回りつつ、俺と彩花ちゃんが後ろからちまちま撃っていけば多分大丈夫でしょ」
「任せておけ」
エルはレベルが35なので、大抵の魔物なら対処できる。その上、防具を『加護』で強化したので大丈夫だろう。
エルに頼んで扉を開けてもらう。
その先にあったのは何もいない空間だった。
「何もいないだと?」
「あえてここは素通りさせて、次から一気に強くなってるとかじゃない?」
「何でもいいや、さっさと行こうか」
そう言って俺たちも先行するエルの後に続いて中に入る。
すると、後ろの扉がバダンッと大きな音を立てて閉まった。今日一びっくりしたぜ。
「――ッ!? 上からくるわ!」
突如、彩花ちゃんが大声を上げる。
――ドォオオオン!
と大きな音を鳴らして何か大きなものが落ちて来たかと思うと、
「グュワァアアアア!」
と叫び声をあげた。
大きな斧を構えてこちらを見据えたその牛の怪物は――
「――ッ!? ミノタウロスだと!?」
ミノタウロスだった。
「はー、すげぇな」
「Bランクの魔物よ! エルは下がって!」
俺が感嘆していると、彩花ちゃんがエルに指示を飛ばした。
突然Bランクとか、ちょっとダン支ー。張り切りすぎぃ。
彩花ちゃんの指示を聞いてエルが後退したのを見てミノタウロスはにやりと笑うと、目にも止まらない速さでその斧を振り落とした。
直撃こそしなかったものの、エルはその衝撃で吹き飛ばされ、壁に体を打ち付ける。
「彩花ちゃんはエルにこれ渡して」
そう言って、彩花ちゃんにポーションを投げて渡す。
「ちゃっちゃとやっちゃってよねチートさん」
「あいよ」
会話している間に、ミノタウロスは体勢を立て直して、こっちを見ていた。
俺は、小手調べにと砲丸を五つ生成し、高速で『射出』しようとする。
「あれ? 出ないぞ」
砲丸が出てこない。
「もしかして、スキル制限空間とかかな?」
魔法とか転移の制限なら分かるが、スキルを制限してしまうなんてバランスブレイカーもいいところである。
俺が何もできなかったのが可笑しいのか、ミノタウロスは油断してニタニタ笑っている。
「まぁ仕方ないか、スキル生成『フィールド無効化』」
スキル生成は使えた。もしかしたら、ギフトスキルは制限できないのだろうか。
しかし、これで俺の手の内は相手に知れ渡ってしまっただろう。
俺は『家具生成』で砲丸を十個生成し、すべてに“爆発”の『加護』を付けた。
「さーって、そこで間抜けに笑ってるミノちゃんは何発まで耐えられるでしょうかね」
そう呟いて、砲丸を一発ずつ『射出』する。
一発目は咄嗟に避けたのでわき腹で爆発。二発目は斧でガードして斧ごと後ろに吹き飛ばす。三発目は胴体に大きな傷をつけて、四発目でガードしようとする手を吹き飛ばし、五発目で無防備なミノタウロスの頭を吹き飛ばしてチェックメイトだ。
……五発でしたね。
ふぅ、危なかったな。スキル生成が使えなかったり、ミノタウロスが油断してなければ、普通に死んでたわ。部屋に入る前に『危機察知』が反応してなかったのでそこまで大事にはならないと思ってたけど、中々恐ろしいものである。
「へーい、どうよ俺、強くない?」
「途中めっちゃ焦ってた様に見えたわよ。ミノタウロスも笑ってたし」
「……終わり良ければ総て良しってことで、とりあえず褒めてくれったっていいじゃん」
「はいはい、凄い凄い」
軽くあしらわれた。
エルはポーションを掛けられているから外傷は消えているが、目を回して倒れていて俺の雄姿は見ていなかったようだ。
その事を悲しみつつも、以前と同じく氷袋に“回復”の『加護』を付けて彩花ちゃんに渡す。
「はぁ~、エルが見てたら惚れ直したかもしれないのに」
「ふふっ、ドンマイ」
笑うなんて失礼だと思う。
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エルは三十秒ほどで目を覚ました。額に乗っていた氷袋を吹っ飛ばして起き上がるった。まるで仮病だったかのようだが、“回復”の効果がすごいだけである。
「ミノタウロスは!?」
「安心して、もう倒したわ」
「おお、ありがとうございます、サイカ様。そして、未熟なわたくしをお許しください」
「倒したのは俺なんだけど!?」
エルがこちらに向けるその目は、耳元で飛び回る蚊を見るような目つきだった。
……何かがおかしい。
「さ、彩花ちゃん……」
「……分かったわよ。エル、ミノタウロスを倒したのも、貴方を直したポーションを出したのもあいつよ。お礼を言うならあっちに言いなさい」
「くっ、彩花様がそういうのなら仕方がない」
そう言って、エルは再び虫でも見るような目をこちらに向けた。
「ご主人、ありがとう」
「…………わかった、もう喋るな」
流石に腹に据えかねて俺はそう命令した。
俺は二人に背を向けてドロップ品を見に行く。落ちているのはミノタウロスの角と青味がかった奇麗な銀色のインゴットだった。多分ミスリルだろうそんな見た目である。
まぁミスリルだろうがオリハルコンだろうがどうでもいいので、さっさと袋に詰め込もうとして気が付いた。
「これデカすぎて入らないじゃん」
ミノタウロスの角がでかすぎて、用意していた袋では入らない。ドロップ率が低かったお陰で今までは何とかなっていたが、流石にこれは無理だ。
「スキル生成『無限収納』」
あえて今で作らなかったのはただの縛りプレイだったが、折角のアイテムを無駄にしたくないので、今更ながら作る。
今までドロップ品を入れていた袋と、ミノタウロスの角を『無限収納』で出した虚空の穴に突っ込む。
「勝利したというのにこんなにも虚しい。敗北を知りたい」
そう一人で上段を言って、俺は彩花ちゃんたちがやって来るのを待った。
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第六層からは雰囲気がガラッと変わり、見通しのいい天空の通路のようなそんな感じだ。下を見れば闇で真っ黒に染まっているが、落ちても五階層のボス前のセーフルームに繋がっているらしい。だからと言って別に安全ではなく、当たり所が合悪ければ死が待っている。
だったら落ちなきゃいいって話だが、ここには飛行系の魔物がうじゃうじゃいて、偶にある罠をよけつつ進む冒険者たちを容赦なく突き落そうとしてくる。
まぁ、落とそうと真っ直ぐ飛んでくる敵など、的でしかない。罠の位置どころか、見通しがいいお陰で全体のマップが分かるので、奇襲もなく最短ルートを進める。
六層も無事突破し、階段に着いたところで一息つく。
「ふう、この的当てゲーム楽しいな。何かもやもやしてたけど、結構スカッとした」
「良かったわね」
俺のちょっと落ち込んだ雰囲気を感じ取っていたのか、ここまでの彩花ちゃんはいつもより優しかった。
スカッとして冷静になったところで、無言でついてくるエルの処遇について考える。
とりあえず、我ながら子供っぽい対応だったかなと一応反省した。
でも、助けてあげたのにあの対応は無いと思う。
ダンジョン連れてきてるんだからマッチポンプだろと言われたら何も言えないが、俺のかっこいいところを見せれば少しは惚れ直してくれると思ったのだ。結果は無残なものだが。
元々エルとは相性が悪いのかもしれない。残念ながらそれを埋めるほどの魅力は俺にない。
それでも、俺の事を嫌いすぎている気がしなくもない。
何か原因はあるのだろうか……? もしあったとしたらここのダンジョンマスターが原因だろう。
……ダンジョンマスターには聞きたいことが増えたな。
まぁそれで何も関係なさそうなら適当なタイミングで別れることにしよう。出会った女の子が相性のいい相手である可能性の方が低いのだ。でなければ、ハーレムなんぞ日本でも簡単に作れていた。
俺は、そう割り切って行動することにした。




