18 ダンジョンマスターは困惑した
今回はずっと敵視点で解説です
「まさか、こんなに早く気付かれるとは」
塔の頂上にある玉座に座り、そう呟く男がいた。
男の目の前には映像がモニターのように浮かび上がっており、そこには男が一人、女が一人に、見た目は女の妖精のようなアーティファクトだと思われる存在も一つ映し出されていた。
そいつらは地下道を罠を避けながら進んでおり、今まさに玉座の魔に座る男を悩ませている存在でもあった。一度は罠にかかったのだが、それからは完璧によけられている。
「マスター、如何なされますか?」
突然、男の耳に無機質な声が流れる。
「そうだな……潰した方がいいのは分かるのだが、如何せんこいつらの底が知れない。鑑定しても、能力値は雑魚未満だがスキルが読み取れない。罠は当然のように避けられているし、ハニートラップで送り込んだ部下をかえって手駒にすらしている。あの裏切り者はまだ利用価値があるからそれはそれで問題ないがな……」
「それでは、小手調べとしてB級のモンスターを地下会議室に送り込んではどうでしょうか? そのくらいでしたら今のマスターにとって大した痛手にもならないでしょう。それに、同じB級であるインプを倒した事が本当かどうかも分かります」
「ふむ、それは悪くない手だな。ではどれを召還するとしようか」
男はそう言いながら、空中に手をかざしメニュー画面を呼び出すと、召喚できる魔物のリストを見始める。
侵入者は罠をひょいひょいと避けているとはいえ、その進行速度は蟻が歩くのと変わらないほどだ。だから十分に時間を掛けようとしていた。
――その刹那、男の頭の中にビービーと警告音が鳴り響く。
咄嗟に男はさっきまで話していた声に事情を尋ねる。
「どうした、何があった?」
「異常事態ですマスター。地下道の情報が上から書き換えられました」
「何!? そんな事が有り得るのか!?」
男はそう叫ぶと同時に、魔物リストを見るためにどけていたモニターを引き寄せ様子を窺うと、侵入者の男が手を地面に付け何らかのスキルを発動している事が窺える。
「一概には言えませんが、現状では有り得ない事です。そのようなことが可能なスキルはこの世界に未だ存在しないどころか、どのような経緯を経ても取得は不可能です」
「と言う事は奴のギフトスキルか?」
「それ以外にあり得ませんが、未だその前例がありません」
この世界のスキルは「ギフト」と呼ばれるものとそれ以外の努力によって獲得可能な通常のスキルに分けられる。つまり、ギフトスキルでなければどんなスキルも入手が可能ではあるが、勿論才能によって向き不向きが存在する。
ギフトスキルは多くが生まれながらにして持つものだが、神の祝福によって後天的に得られるものも一部存在しないわけではない。いずれにせよ新たなギフトスキルが発見されたというのは、報告されていない事だった。
二人が会話している間に、侵入者は立ち上がり地下道の奥へと走り出す。
「どうやら罠がすべて露出させられたようです」
「はぁ!? 罠を発見する為だけにそんな謎のスキルを使ったのか!?」
「そのようです。情報が書き換えられて罠が露出しましたが、以前と同様にダンジョンとしての効果は失われておりません」
「それが奴のスキルの限界なのだろうか?」
「肯定しかねます。侵入者が殆ど魔力を消費したようには見えませんが、それ以上の事が出来るのであればそれを実行しない事が理解できません」
男は玉座で頭を抱える。
「くっ、今は考える時間もない。一先ず時間稼ぎをしよう」
男はそう言うとメニューを開きなおし、アイテム欄を開いてメッセンジャーを侵入者の目的地である地下会議室の自分の椅子に設置する。
そうすると男は再びモニターに目を移し、侵入者の監視を続行する。
しばらくすると、侵入者の男が疲れたのか、立ち止まって膝に手をつき、肩で息をしている。あの程度の能力値であれだけ走れば当然である。
そのことに玉座に座る男が安堵したのもつかの間、男はどこからかトロッコを取りだし、それに乗って移動を始めた。トロッコは明らかに罠に触れているにもかかわらず、何故か罠が発動しない。
「今度は何なんだ!?」
「おそらく収納系のスキルであると思われます。侵入者が持っていると思われる生産系スキルであればあの程度の物体を生み出すことは可能と推測されますが、罠に感知されないような魔道具となると一瞬で作るのは難しいので、収納していたと考えるのが妥当かと思われます」
「あ、ああそうか。魔道具か。確かに罠に引っかからないブーツとかもあったな」
「はい。しかし、それだと一つ疑問が残ります、収納系のスキルは何時でも中に入っているものが分かるようになるのですが、それなのに何故今まで使おうとしなかったのでしょうか?」
「……分からん。分からなすぎる」
再び男は頭を抱える。
「すまん、頭が混乱して訳が分からなくなってきた。一度、状況を整理してもらえるか?」
「了解しました。裏組織のボスを捕縛しようとやってきた侵入者が、初めはアーティファクトと思われる存在により罠を感知して回避しておりました。途中から侵入者のスキルと思しき能力によりダンジョンの情報を書き換えて罠を露出させる。最後にはトロッコに似た乗り物を使い、罠を感知させずに地下道を移動しております」
「なるほど、ありがとう」
男は整理された情報をもとに考え直し――そして結論を得た。
「奴の魔道具を作成するスキルは生成系であると考えらる」
「そのような今までのスキルの力関係を崩壊させてしまうスキルを、神が与えるとは思えません」
生成系と呼ばれるスキルは魔力を消費して物を無から生み出すスキルだ。このスキルは今のところギフトスキルでしか存在しない。そして、作れるのは一種類の小物のみで魔道具――魔力を流すことで特殊な効果を発揮する道具――だったことは一度もない。それでも、常人の持つ魔力の三倍近い魔力を消費したり、魔力の他に多くの貨幣を消費する場合もあるので、使い勝手の良いものではないのが基本だ。
「お前は頭が固すぎる。これは純然たる事実だ。生成系であるそのスキルには多大なコストがかかるのだろう。現に、奴は初め自分の既にある物を使い攻略しようとしていた。初めは自立稼働するアーティファクト、次のダンジョンの書き換えはおそらく以前に作っておいた何かしらの魔道具を使った。最後のトロッコは、新しいものを作った方が楽だと考えた結果だろう。そうすれば辻褄が合う」
「御見それいたしました、マスター。以降、侵入者は魔道具生成のギフトスキルを持つと仮定いたします」
「ああ、そうなれば奴の注意すべき点も分かる。最低限、既に存在する魔道具はすべて使用されると仮定しよう」
侵入者の魔道具は驚異的だ。しかし、扱う人間が素人であると分かればその強さは知れたも同然だ。
「スキル封じをボス部屋に使おう。コストは高いが、いくら厄介な奴でも素が雑魚だからな。収納も使えない上に新たに魔道具も生成できないとあっては楽勝だ」
そう言って、男は高笑いする。
「マスター、侵入者が地下会議室に到着しました」
「よし、今のうちに地下道の出口を封鎖して、こっちのダンジョンに繋げてしまおう」
それが完了すると、地下会議室に送ったメッセンジャーを通じて侵入者に宣戦布告を行った。
「……ご苦労様でした、マスター」
「ああ、これであいつらは逃げられない。そして、このダンジョンの糧となるのだ。今のうちから笑いが止まらん」
そう言って男はまた高笑いをする。
「マスター、ライラにかけていた支配契約が解かれました」
「何っ!? チッ、あいつの魔道具か。隷属の首輪でも上書きできないからと安心し過ぎていたか」
正直に言って対応する魔道具を作られないようにと、あえて「呪い」だと強調して脅しをかけたのだが、それが裏目に出たのかもしれない。支配していると素直に言っておけば、隷属の首輪で無理だったからと諦めた可能性もあった。
この時、丁度侵入者の男が「この世界の誰かができることは全部出来る」と言っていたので、どちらにしても解かれていただろうと思いなおした。
「どのみち、転移禁止にしたダンジョン内から出ることは不可能だ。奴らはこのまま塔を上がってくるしかあるまい」
ふと、侵入者が異世界の魔王(笑)と呼ばれていることに気づいた男は、戯れに「タイチ」とマップに表示されてる横に「異世界の魔王(笑)」とタグをつけておいた。




