17 (笑)
数分走り続けて、漸く裏組織の本部があると思われる扉にたどり着いた。体力も人並みな俺は武闘派のエルと、空を飛ぶ彩花ちゃんに追いつけるわけもなく、途中からトロッコでの移動である。
やっぱ洞窟と言えばトロッコだよな。線路は無いが、当然のように走る不思議仕様である。罠については、トロッコに“罠不感知”の加護付けたので安心である。
「初めからこうすればよかったね」
「全くもってその通りだ」
鮮やかな赤い長髪の巨乳美人であるエルは、あれだけ走ったにも関わらず、涼しい顔で返答してきた。
「まさに、骨折り損のくたびれ儲けってね」
「捻挫だから、骨は折れてないけどね」
「おーい、エル君。彩花ちゃんの座布団一枚持ってって」
――スパァアアン!
今日も『毛玉ナビゲーター』人型妖精モードの彩花ちゃんは俺にハリセンを振るう。
「ギャグを言ったつもりじゃないんだけど?」
「そっすね。さっさと扉に入りますか」
彩花ちゃんの怒りをスルーして、目の前の無駄に重厚な鉄扉に手を掛ける。
…………びくともしねぇ。
「重くて開かない。エル、よろしく」
「うわぁ、カッコわるぅ」
彩花ちゃんに笑われてしまった。
「流石は異世界の魔王(笑)だな、ご主人よ」
「ちょっ揚げ足を取るの止めて!」
ぐぬおおお、また黒歴史が増えてしまったぁ!
エルは俺の言葉にフフっと笑うだけで、俺の開けられなかった鉄扉を軽々と開けていった。
中にあるのは大きな長机。入り口とは反対の席には一つだけ大きく豪華な椅子があった。その他には何もなく、他に出入り口がある様子もない。
「あちゃー、遅かったかぁ」
「そのようだな。全く、ご主人が軽率な行動をとるから……」
「彩花ちゃんがやれって言ったんだ。俺は悪くねぇ! 俺は悪くねぇ!」
「某親善大使は黙ってもらえる? 私、一つ面白いことに気が付いたわよ」
彩花ちゃんは急にそんなことを言う。
「何?」
「マップにも反応は無いかなと思って見たんだけど、ここ、ダンジョンの真下にあるのよ」
「え、マジで?」
「マジよ。あの不自然に罠が多くて、何故かほんの少しだけ明るい地下道がダンジョンだったって言われれば、簡単に説明つくと思わない?」
え、何、あの地下道が、地上にある塔型のダンジョンから木の根の如く伸びてたってことか?
「この世界のダンジョンってあんな感じなの?」
「そうだな、確かに洞窟型のダンジョンはあのような雰囲気だと聞いたことがある」
「一般情報を覗いた感じでもそうみたいだわ」
おぉう。この世界のダンジョンの運営者が何者か知らんが、裏組織を作って市街地まで侵入してるなんて、ロクなこと考えてるとは思えないな。
おそらく、組織のボスとやらがダンジョンの運営者、もしくはそれに近しい者なのだろう。
そんなことを考えていると、突然、長机の反対側にあった豪華な椅子の周りに光が集まりだし、徐々に人型となっていく。
「歓迎会かな?」
「そんなわけないでしょ」
そんな事を言っている間に、人型の光はちょっとイケメン風の男を形作って、俺たちに話しかけてきた。
「ここまでご足労ありがとう。そして、よくも僕の集めた下っ端たちを捕まえてくれたね」
「どいたま」
「まぁ、組織のトップである僕がいる限り、何度でもやり直せるから少々面倒が増えただけの事でもあるがね」
「そっすか」
「でも、君たちを放って置いたら再び壊滅されかねない」
「そうでしょね」
「それ以前に、僕が君たちに報復をしてやらなくては腹の虫が収まらないんだ」
「蟯虫検査したら?」
「そこで、君たちに招待状と言う名の果たし状を送ろう」
「ご丁寧にどうも」
「別に来なくても構わないが、その場合はそこの裏切り者が予め掛けておいた呪いで死ぬ事になるだけだ」
「なるほど」
「期間は五日だ。それ以内に塔の最上階にある僕の元へ辿り着かなければ、その時もその女は死ぬ」
「ほう」
「ああ、もちろん僕の事を他言した時も同じだ。せいぜい足搔いて見せることだな。はーはっはっは!」
光は十二分に笑い声を響かせながらぷつっと消えた。そして、空中からひらひらと封筒が落ちてきて、机の上にとまる。
「よし、面倒だし放置しよう」
「アタシが死ぬのだが!?」
「あっはは。冗談だよ。もともとダンジョンには潜るつもりだったから、予定が早まっただけだな」
「そもそも、ダンジョンはDランク以上の冒険者しか入れないのだぞ!?」
そうなのだ。誰が決めたのか、冒険者ではDランク以上の者しかダンジョンに入ることが許されていないのだ。
「まぁとりあえず、招待状とやらを見てみようじゃないか」
「そうね……一つ疑問なんだけど、あんたは何で人の話に変な茶々を入れるのよ?」
「聞いてますよーってアピールする為かな?」
「あれ、やられる方はイライラするからやる相手はきちんと選びなさいよ?」
「へーい」
彩花ちゃんと会話しながら歩き、封筒を手に取る。
表にはこの世界の言葉で達筆に「招待状」と書かれていた。
封を破って中身を取り出すと、冒険者ギルド発行のダンジョンの特別入場許可証が入っていた。
……思ったよりも招待状だった。
「これは……持ってた人がダンジョンで死んだときに奪っておいた、とかかな?」
「そんなところじゃない?」
「あの、ご主人。あのダンジョンは熟練者でも三日は踏破にかかるのだが? あまりのんびりして欲しくないのだが!?」
「まあまあ、そんなに焦る事は無いさ。まだエルの正式な名前だって決まってないんだ。もっと気楽に構えてさ」
「この際、名前なんてどうでもいいのだが!?」
いや、言いたい事は分かってる。
「サイカ様からもご主人に言ってはくれないか?」
「あー、そうね、エルが言った通り最低三日はかかりそうだし、少し急ぎましょ?」
「そうか……彩花ちゃんが言うんじゃ仕方ないな。ひとまず宿に戻って準備しなくちゃね」
少し意地悪が過ぎたようだ。
「みんなトロッコに乗って、さくっと帰ろう」
「ちょっと待って、地下道に何かいるみたいだわ。多分、さっきの男が罠の代わりに配置したんだと思うけど」
「ダンジョン探索はもう始まってるってことか」
「ん? それだけじゃなくて、どうやら道も変えられてるみたいで、このまま行っても外には出れないみたいね」
「え!? それでは、このままダンジョンの攻略をしろと言う事か!? お、終わった……」
エルは地面に手と膝をついてしまった。
「まぁそれなら、ここで準備してから進むことにしようか」
俺はそう言って、椅子の一つに勝手に座る。
「ねぇ彩花ちゃん。この世界のダンジョン攻略って、どんなものが必要になりそう?」
彩花ちゃんが一般情報を見ながらふわーっとこっちに飛んで来て、長机に座る。
「食料と回復道具、それに罠の解除に使う道具なんかが主ね。後は、お金のある人だとマジックバックって呼ばれる見た目以上に物が入るアイテムなんかを持ってくるみたいね」
「なら、防災グッズがあればいいよね。罠はどうせマップで分かるだろうし」
そう言って、俺は袋に詰められた防災グッズを三つほど『家具生成』で出して、その中から食料だけを一つのカバンに詰めなおす。
そして、ポーションも『家具生成』で出せたのでこれも大方袋に入れて、少しだけ腰にある小物入れに入れる。こっちはあってもいらない気がするが、気分の問題である。
なんか、遠足の準備してる時みたいで楽しくなってきた。
「ご主人、私の事はもういい。諦めてサイカ様と逃げてく―――なんでそんなに物資があるんだ?」
「いや、俺の力を忘れたのか? インプを倒したって話もしたし、道中でも色々やってたじゃん」
「もしかして、アタシも助かるのだな!?」
「え? 知らん。あいつの匙加減でお前を殺せるなら、俺にはもうどうすることもできな――」
――スパァアアン!
「どうせその呪いも消せるんでしょ? 今のうちにやっときなさいよ」
彩花ちゃんにはバレていたか。
「へーい、ほらエルちゃん呪いを消したげるからおいで」
「そんな『飴ちゃんあげる』みたいに言われても困るのだが……ホントにできるのか?」
「今更、疑うこともないさ」
俺はやれやれと首を振って言葉をつづける。
「なんかもう彩花ちゃんは俺が何しても驚かなさそうだからバラしちゃうけど、俺、最低限この世界の誰かができることは全部出来るぞ」
「はぁ!?」
案の定彩花ちゃんは「そんな気はしてた」みたいな顔である。俺がかっこつけようとしてた時の会話で既に、強いという部分を否定してなかったしな。家具を好きなだけ出せるだけの人間が強いなど微塵も思わないのが普通だからな。
それでも、驚いてくれないのはなんか悲しい。
「ここもダンジョン領域だったら盗聴されてるだろうし、正確な事は後で教えるよ」
「私も、こいつの事は信用できないけど、こいつの便利さは信用してるわ。だから大丈夫よ」
その言い方は酷いと思う(自業自得)。
「サイカ様がそう言うならそうなのだろう。ご主人、どうか呪いを解いてくれ」
「えぇ? それが人に物を頼むときの態度ですかぁ?」
「くっ、この男、つけあがりおって……。ご主人、いや、ご主人様、どうかこの哀れな奴隷にお慈悲を」
最初の言葉は小声だったがばっちり聞こえている。そんなんで助けてあげるわけがない。
「んー? 聞こえな――」
――スパァアアン!
「そのくらいで助けてあげなさいよ!」
彩花ちゃんからお叱りを受けてしまった。
「それがねぇ、もう呪いは解いてあるんだよね。じゃなきゃこんな悠長なことやってる間に殺されかね――」
――スパァアアン!
「だったら早く言いなさいよ!」
「へーい」
「流石は異世界の魔王(笑)ね」
「いやマジでその呼び方は勘弁してください」
記憶操作系のスキルを作ろうか迷った瞬間であった。




