16 かっこよくなりたかった
結果的に、エルは俺の奴隷になった。状況的に言えば、命乞いしてきた犯罪者を勝手に奴隷にした形だが、それついては対応策を考えてある。
「おい、ご主人。アタシに名をつけろ」
大層な態度の奴隷である。赤い長髪の巨乳美人なのに、奴隷に出来てもちっとも嬉しくない。
「名前ならあるだろ?」
「奴隷は新しい名前を付けられるのが普通だからな。ちなみにエルは偽名で、本名はライラだ」
本名を言ったってことはそれに近い名前が良いってことか?
「んじゃあ……間を取ってエラだな」
――スパァアアン!
「適当すぎるでしょうが!」
彩花ちゃんのハリセンが炸裂した。
「じゃあ、彩花ちゃんがつけてあげなよ。エルライラもその方が喜ぶだろうし」
「おい、ご主人。名前を繋げるな。――それとタイチに同意するのは癪だが、アタシはサイカ様が名前を付けてくれるのなら、なんだって嬉しいぞ」
エルライラは俺に対する言葉が低く威圧的なのに対し、彩花ちゃんに話しかけるときは媚びた声になるようだ。
「え、急に名前って言われても……難しいわね」
「はーい、それが分かったならさっき殴ったの謝ってくださーい」
――スパァアアン!
おかわり頂きました!
「名づけの苦労をかなぐり捨てた人に言われたくないわねぇ」
「さーせん」
それから、彩花ちゃんは考え込んでいるのかうんうんとうなっている。
「……とりあえず保留にして、今のところは呼びやすいエルにしましょう」
「ありがとうございます!」
エルはとても嬉しそうだ。
ある意味、自分でつけた名前であるけども。
「そういえば、ここにいたアタシの部下はどうしたんだ?」
「ああ、それなら――」
そう言いつつドアを開ける。
「――こんな感じで所々に寝てる」
ドアの先には一人の男が壁にもたれかかって寝ている。眠りの加護を付けたプラスチックボールをぶつけて意識を刈り取った。
「分かっていたが、殺してないんだな」
「まぁな。俺にはチートがある。他人を甘えさせてやれるほどのチートがな」
「……カッコつけてるとこ悪いけど、そんなにかっこよくないわよ」
何!?
「だってよくあるじゃん。人を殺さないのは甘さじゃなくて強さだとか。だからほら『俺は歯向かう敵ですら殺さなくても問題ないほどの強者ですよ』ってことになるじゃん」
「ほほう。これからアンタは魔物も倒さないと?」
「ちょっ、そういうんじゃないじゃん。自分の弱さがゆえに現代的な価値観を捨てざるを得ない人間じゃないですよアピールがしたいだけなんだよ」
それを聞いた彩花ちゃんは「はぁ」と溜息をつく。
「分かってないわね。ああいうのは王道だからこそ好かれるの。無理やり捻じ曲げたところで、強さこそあれど、好かれはしないでしょうに。ちょっと違うけど、ピンチを未然に防いでしまうヒーローみたいなものよ。ついでに言えば、チートチートって結局借り物の力じゃない。そういう所が三下っぽいのよね」
…………。
「な、なんだってぇ!?」
その発想はなかったぜ。
「あ、じゃあ今から貧弱アピールのために殺――せるわけないじゃん! いや、でもこのままじゃ殺すべき時に殺せない未熟者っぽくなってしまうんじゃ?」
「ならないわよ。別に私たちが何かしなくたっていいじゃない。悪事の証拠もその辺にあるだろうし、ちゃっちゃと捕縛して、衛兵に突き出しましょ?」
「……そだね」
かっこよさとは何か。――難しい問題だ。
「あんたはその辺で寝てる奴らをこの隣の部屋にでも集めといて。エルはこいつらを衛兵に突き出せるだけの証拠持ってきなさい」
「へーい」
「承知した」
リーダーの座が奪われていることに気が付いたのは、寝ている盗賊を粗方集め終わった時だった。
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「あー、めっちゃ重かったぁ」
「そんなんでかっこよさをアピールしようと思ってるんだから可笑しいわよね」
寝てる人の体ってすごく重いんだぞ。俺は体が一般人だから、マジできつかった。一輪車を出してもきつかった。
中には例の貧弱な語彙力をしたデブもいて、そいつに関しては一輪車まで持ち上げられなくて、台車に乗せて運んだ。
俺は近くに来たエルに声を掛けた。
「あの時読んだ衛兵もチンピラもグルだったんだな」
「まあな、自演に使った部下をそのまま牢屋に送ったりなどしない」
そりゃそうだ。
エルは彩花ちゃんの方へ振り向いて、言葉を続けた。
「こっちも証拠は集め終わったぞ」
エルに関しては組織にもぐりこんだスパイだった、そんな感じの言い訳を立ててこっそり連れ出すことになった。その分だけ証拠が改ざんしてあるが、気にしてはいけない。奴隷にして、本名のはずの「ライラ」の方が偽名だったとも出来るのは良かった。
それに、今からエルの握る情報をもとに組織の本部をつぶしに行くのだから、スパイだったってことにしても問題はない。
「よし、行くか。確か、地下道から行けるんだよな?」
「ああ」
「道案内よろしくね、エル」
「お任せください、サイカ様」
俺の時だけ投げやりな返事なのをどうにかしてほしい。
ちなみに、彩花ちゃんが案内をしないのは、『マッピング』の見た範囲の地図を製作すると言う効果の都合上、地下でのマップは役に立ちにくいからだ。
エルの案内に任せて歩きだす。地下道に入ると、明かりもないのに中はほんのりと明るかった。
「どこかに明かりでもあるの?」
「いや、聞いてないので分からないが、どこかに魔道具でもあるんじゃないか?」
下っ端のまとめ役のくせに意外と使えなかった。
「彩花ちゃんは何かわかる?」
「どちらかと言うと、この地下道全体が一つの魔道具に近いわね」
「え?」
「私に分かるのは、この空間にほんの少しの明るさを生み出す力があるってことだけよ」
「なるほどわからん」
だが、とにかく不思議な場所だと言う事が分かった。
「この辺りから罠があるから気をつけろ」
「罠まであるの?」
「ああ、ここから先に下っ端が入れないようするためにな」
罠があるって知ってたら、道を間違えないように覚えるしかないもんな。
「彩花ちゃん。罠があったら言ってね」
「あ、目の前に落とし穴――」
――パカッ。グキッ。
鈍い痛みが足に広がる。
「アシクビヲ、クジキマシター」
「殺傷能力のある罠じゃなくて良かったな……」
「ご、ごめん。マップに罠を表示させ始めた瞬間の出来事だったから、プフッ」
「謝るなら笑わんといてーな」
「急にひゅんって落ちて行ったから、結構シュールで、フフッ」
幸いなことに落とし穴はそんなに深くなかったので、自力で這い上がって『家具生成』で氷袋を出し、回復の『加護』を与えて、足首に当てる。
よく考えたら、落とし穴が死ぬほど深かったり、竹槍とツナがあったりしたら『危機察知』が反応したはずなので、あんまり幸いだったとは言い難いかも。
「あぁ^~痛みが引いていくんじゃぁ^~」
「ホントそんなんでよくもかっこよさとか拘ろうと出来るわね」
「サイカ様、それが男と言うものです」
「そんなもんなのね」
なんか凄く惨めだ。ここで彩花ちゃんに八つ当たりしようものなら、さらに惨めになることだろう。
「こ、今度からは罠があったら早めにお願いね」
「分かってるわよ」
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足首を自由に動かせる程度に回復させたら、念のために湿布を張って再び行動を開始する。
「あー、その先は罠ね、左端なら十メートルくらい何も無いわ」
「……いくら何でも罠多すぎでしょ、この組織のボスはどうやって通ってるのさ」
「それは幹部しか知らないことだ。私は幹部にはなっていなかったからな」
万が一にも罠にかからないようにゆっくりと移動している。
あまりにも遅いので、段々と焦れてきた。
「彩花ちゃん。この地下道が一つの魔道具みたいだって言ったよね」
「言ったわね」
「もう面倒だから、この地下道全体に加護を付与して、罠を無効化させてみるのはどうかな?」
「あーうん、いいんじゃない?」
「よっしゃ、いっちょやったりますか」
俺は安全の確認された壁に手をつき、“正直者の加護”を地下道全域に渡って与える。流石に規模が大きすぎたのか、『スキル生成』を使う時と同じくらい疲れた。
「おー、罠が全部見えるようになったわね」
彩花ちゃんの言葉で辺りを見回すと、床にはあちこちに落とし穴と思われるハッチや、何かの仕掛けが作動するスイッチが見えるように出現して、壁にもいかにも何か出てきそうな穴がいくつも開いている。
「見えるようになると、更に多く感じるな」
ふと、エルが何か考えるような顔をしている。
「……なあ、ご主人は何者なんだ?」
ここはひとつ、何かかっこいい肩書を――
「――かっこつけようとして空回る元一般ね」
「彩花ちゃん!? ダサい称号をつけないでよ」
しかし、事実でもあるのが悲しいところ。
「良く言ったとしても、神様かぶれがいいところじゃない」
「それ、全く良く言えてないと思う。まぁ今のところはEランク冒険者ってことでいいよ」
「それは――さらに格が下がっていないか?」
エルが言うのだから、この世界ではそういうものなのだろう。
「じゃあ、異世界の魔王でいいよ」
「……あんた、魔王って器でも無いでしょうに」
「ああ、流石に壮大すぎるぞご主人」
ぐぬぬ。ああ言えばこう言うって感じだ。取り付く島もない。
仕方がないので話を変えよう。
「もうはーやぐ行くべさ。本部の連中さも待ちくたびれてっとぉ」
「方言っぽいの止めなさいよ」
「……そ、そうだ!」
「何? どうしたのよエル」
方言で思い出すとか、里帰りする約束でもすっぽかしてたのかねぇ?
「これだけの事をしたら流石に幹部やボスたちも気づく。急がないと!」
「……あぁ、そこまで考えてなかったぜ」
「いいから走るわよ。早くしないと逃げられるわよ」
「彩花ちゃんは飛ぶから走らないような」
――スパァアアン!
「早く行くわよ」
「へーい」
俺たちは障害物競走の如く、足元の罠をよけながら地下道をひた走るのであった。




