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15 そっちかぁ


 さて、彩花さいかちゃんのお陰で、エルさんが俺と彩花ちゃんの事を奴隷にしようとしていたことが分かってしまった。

 分かったからどうしようか?


「これからどうするつもり?」


 彩花ちゃんも聞いてきた。

 しかし、どうと言う事は無い。


「変わらないよ。エルさんをハーレムメンバーその二にするだけさ。まぁ若干待遇は悪――」


 ――スパァアアン!


 ハリセンの小気味良い音があたりに響く。


「人を勝手にハーレムメンバーに加えないでもらえる!?」

「……別に彩花ちゃんが一人目とは言ってないんだけどなー。あー彩花ちゃんて自意識過じょ――」


 ――スパァアアン!


「次は何が飛び出るか分からないわよ?」

「……さーせん」


 俺には、謝るしかなかった。



----エル(?)視点----


 ……うぅむ。


 目を覚ますと、鉄格子に囲まれていた。


「え?」


 寝ぼけて見間違えてるのかと思い、目をこする。


「檻だな」


 ――檻だった。

 一度上体を起こしてよく見まわす。檻は鳥籠のような形をしているようだ。

 どうしてこうなったのか、全く身に覚えはない。しかし、この檻の大きさを無視したとき、その形状に覚えがある。彩花を捕まえるのに使用したものだ。


「そうか、夢だな」


 これは、サイカに対してアタシが抱いた罪悪感が見させる悪夢なのだろう。そうに違いない。


「こういう時は、全裸になって布団に飛び乗りながら、『びっくりするほどユートピア』って叫ぶといいぞ」

「そんなの誰が信じるのよ」


 ふと、部屋のドアが開いてそんな声が聞こえてきた。声の主は、昨日招待して確保していたはずのタイチとサイカ。二人は檻も首輪もなく、悠々と歩き、飛んでいる。


「いや、これでもハードル下げたし、案外やるかもよ?」

「現実を見なさい。唖然としてそれどころじゃないみたいよ」

「……そだね」


 今更この程度の事でこんな夢を見てしまうほど、アタシの心は脆弱だっただろうか?


「おーい、エルさん? 聞こえてるの?」


 タイチの問いに声を返そうと思ったが、頭が混乱して何を言っていいか分からなかった。


「声が出せないんじゃない?」

「えー、驚いただけでそんなことあるか?」

「もう十分驚いたみたいだし、仕返しもこの辺にしましょ?」

「うーん、まぁいいか」


 タイチは手を檻にかざす。それだけで一瞬にして檻は消えた。


「な、な、なんなのだこれは!?」


 やっとのことで出せた声はそれだけだった。


「彩花さん。こいつ白を切るつもりっすよ。どうしてやりますか?」

「いや、これも驚いてるだけでしょ。あれだけ大きい物が急に消えたら誰でもこうなるわよ」

「そんなもんかな? エルさん、もしかして朝弱い?」

「それも夜が遅かっただけでしょ」

「……ねぇ、彩花ちゃんはどっちの味方なわけ?」

「あんたがしょうもない事しか聞いてないから、私が代わりに答えてるだけでしょうが!」

「なるへそ」


 二人のよく分からないやり取りを聞いてる間に、アタシの心もようやく落ち着いてきた。

 そして、これが夢でないことを確信する。


 アタシに今できることは一つだ。


 ――ダッ!


「あ、逃げたわ!」

「大丈夫だよ。窓は開かないようにしたから」


 後ろからそんな声が聞こえてきた。しかし残念。逃げ道は窓ではないのだ。


 アタシはクローゼットの中に逃げ込む。そして、中にある小さな扉を開け、地下につながる階段に飛び込んだ。

 急いで階段を駆け下りるが、二人が追いかけてくる気配はない。


 二人の様子だと、アタシが二人を奴隷にしようとしていたことは分かっていたはずだ。なのに何故追いかけてこないのか、理解できない。しかし、隠密系スキルで追いかけてきている可能性もあるので、急ぐ足は止めない。止めた時は、今度こそ捕まる時だ。


 階段を降り切ると、地下道に出る。ここまで来れば、追手がいたとしても簡単に巻ける。隠密スキルを使っていたとしても、封鎖された道も通るので追ってきていたら、簡単に分かる。

 念のために用意されている追手対策をいろいろ使ったが、どうやら地下道までは追って来ていないようだ。


 アタシは漸く安心して一息つく。


「疲れた。一度アジトに戻ろう。しかし、どうやって檻や首輪を抜けたのだろうか?」


 隷属の首輪は魔道具が出来て以来、破られたという話は無い。それだけ優れた魔道具なのだ。

 そうなれば、檻の方が壊されたと考えられる。サイカはアーティファクトだ。何かしらあってもおかしくはなかった。アタシが見張りをするべきだったのだ。


 しかし、そんな事はもはや後の祭りだ。今は公開してる暇はない。急いで二人を殺すか再び捕まえなくてはならない。


 アジトに繋がる階段を上る。

 登り切った先は小さな部屋になっており、さらに進むとアジトの一室の本棚の裏に出ることができる。


 本棚を押して中に入る。


「よっ。遅かったじゃん」

「――ッ!? なぜここにいる!」


 部屋の中にはタイチがいた。傍にはサイカも浮かんでいる。


「最初に紹介しなかったっけ? 彩花ちゃんはナビゲーターなんだよ」

「つまり、追跡は私の機能の一つってことよ」

「……だから初めから追いかけてこなかったのか」

「そうだね」


 初めから逃げ道などなかったのだ。こうなれば実力行使しかない。

 アタシは構えを取る。武器は無いが、アタシが元々得意なのは徒手格闘だ。何も問題ない。


「あー待って待って。エルさんを捕まえる気があったなら初めから逃がしたりしなかったって。ちょっと話聞いてくださいよ」

「ふん、もはや貴様らと話すことは何もない」


 それだけ言って、アタシは距離を詰めようと走り出す。いくら特殊なアーティファクトがあろうとも、タイチが相手なら負ける理由がない。


 突然、タイチの目の前にボールが出現する。


「『射出』」


 その声と同時にボールが飛んでくる。軽そうに見えたので、進みながら片手ではじく。

 ――その途端体が動かなくなり、つんのめって転んでしまった。


「ガハッ」

「うわ、あれは痛いわね」

「麻痺を付与したんだけど……走ってる相手に使うもんじゃないなこれ」


 二人はゆっくりと近づいてくる。

 何とか逃げ出そうと体を動そうとするが、うまく動いてくれない。


 ……ここまでか。



----タイチ視点----


「……殺すなり何なり、好きにしてくれ」


 目の前の赤髪の美女は走っている途中の、それはそれは無様な格好で倒れている。既に相当な辱めであろう。女騎士なら「くっころ」案件だったかもしれない。


「なんか、不憫だな」

「やったのはあんたでしょ」

「そだね」


 俺は隷属の首輪を取り出す。


「ちょっと?」

「何? 彩花ちゃん」

「何しれっと奴隷にしようとしてんのよ」

「だって、好きにしろって言うから」

「普通に仲間にするって話だったじゃない」

「折角あるし、使ってみたかった」

「知らないわよ」


 仕方がないので、首輪をしまう。


「仲間になどなれるわけないだろう?」


 俺達の話を聞いていたのか、エルはそう呟いた。


「なれるなれないの話じゃ――」

「――いいんだ。アタシはしょせんしがない盗賊の一員。貴様らのような表の人間には戻れない。三年前にこの道を進んだ時から分かっていたことだ」


 なんか語りだした。


「アタシだって昔は騎士を目指していた。人を救って名声を手に入れ、安定した収入まである。そんなに良い仕事が他にあるだろうか」

「無いね」

「でもアタシでは騎士になれなかった。アタシは喧嘩は強かったが、剣だけはからっきしだった」

「へぇ」

「本当は剣なんてなくたって、その辺の雑魚騎士なんかなら簡単に勝てるんだ。それなのに、剣が出来ないだけで騎士にはなれなかった」

「どんまい」

「今考えれば、あの時にすっぱり諦めて冒険者にでもなればよかったんだ」

「なってなかったのか」

「以前話したのは聞いた話だったり、盗賊としての仕事をさも冒険者であったかのように語っただけだ」

「なるほど」

「やさぐれていたアタシは今のボスに拾われた。騎士にはなれなくても、ボスはアタシの力を役立てる方法があるといったのだ」

「しれっと話戻したな」

「あれから、当然のように盗賊稼業を続けてきたが、今ほど後悔した事は無い」


 エルは、少し間を置いた。


「冒険者として生活していれば、このまま仲間になってサイカと一緒にいれたのに」


 ……。


「そっちかぁ」

「え、私?」


 こいつはそっちだったのかぁ。


「頼む。今からでも遅くはない。仲間は無理だろうから、アタシをサイカの奴隷にしてくれ」

「はぁ!?」

「ダメなんだ。サイカを見ていると、初めは温かい気持ちに包まれるだけだったが、今ではもう見ていると胸がドキドキしてきて、感情が抑えられなくなりそうになるんだ」

「ちょっと!? 私にそっちの気は無いからね」

「大丈夫だ。一緒にいられるだけでいいんだ。頼む、奴隷にしてくれ。お願いだ!」


 おぉう。やべぇな。


 ……ハーレムメンバーその二にしようと狙ってた人が、ハーレムメンバーその一を好きになってしまった件について。



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