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14 悪戯は程々に


----エル(?)視点----


「ふぅ。もうお腹いっぱい。ごちそうさまでした」


 その声に、アタシはハッとする。サイカの食べ方があまりにも可愛くて、思わず見惚れてしまっていた。

 慌てて返事を返す。


「お粗末様だ。どうだ、満足できたか?」


 そう聞いてみたが、よく考えれば既にサイカは自分の体よりも多くの食べ物を食べている。腹は膨れているに決まっていた。


「はい、美味しかったですよ」

「意外と食べられるのだな」

「え、ええ。太らないかちょっとだけ心配ですけどね」


 サイカの女性らしい感想に思わず笑ってしまう。


「フフッ。そのような事も気にするのだな」

「ええ、そうですね」


 サイカはまだ少しだけアタシの事を警戒しているようだ。勘が鋭いのかもしれない。

 タイチの方を見ると、すでに目がとろんとしていてぼーっとアタシの事を見つめている。しっかりと、惚れ薬で魅了出来ているようだ。

 サイカの飲み物にも入れたのだが、どうもそっちは全く効いていないようだ。


「ねぇ、アンタ大丈夫? 酔ってるの?」


 サイカがタイチに話しかけているが、既に深い魅了状態だ。ちょっとやそっとじゃ起きないだろう。


「タイチ殿は酒に弱かったのか?」

「いえ、今まで酒を飲んでる様子はなかったので分からないです」


 これは好都合だ。酔っているという設定で話が進められる。


「ふむ、ならば弱いからあまり飲まないようにしていたのだろう。悪いことをしてしまったな」

「節度を持って飲めないこいつが悪いんですよ。気にしないでください」

「そうか。だが、この状態の彼を宿へ送るのは大変だ。今日は泊っていくと良い。幸いなことに部屋は余っている」

「……うーん。確かに私じゃ無理だし、かといってエルさんに頼むのも同じことだし――なら、お言葉に甘えさせてもらいますね」

「ああ、構わない」


 さて、これでタイチはアタシのモノになっただろう。

 だが問題はサイカの自我が思ったよりもはっきりしていた事だ。それで魅了も聞かないのであれば、どうやってモノにしようか……?

 用意していた魔物用の檻でも大丈夫だろうか? 変形するのであれば、更に小さくなって逃げられる可能性もある。小さめの奴隷用の隷属の首輪でもあれば良かったのだが、人型になれると思っていなかったから仕方がない。


「流石にタイチ殿を運べるほど大きくはなれないのだな」

「そうですね。大きくなるのはこれが精一杯ですよ」

「では小さくなるのは?」

「どの変身も殆ど大きさは変わりませんよ」

「そうか」


 案外、檻だけでも大丈夫そうだ。だが、他の物にも変身できるようなので注意は必要だな。


「とりあえずタイチ殿を運ぶとしよう」

「すみません。お願いします」



------------


 タイチを空き部屋に運んだ後、サイカに別の部屋を用意した。眠る必要はないが、寝ることができるので夜は普段寝ているらしい。

 サイカは出来ればタイチ同じ部屋では寝たくないらしい。一人の女子として嫌だとか。

 寝ているときに捕まえられるのなら、思ったより簡単に事が運びそうだ。


 そして夜。日付が変わった頃。


 サイカに与えた部屋へこっそりと入り、用意していた魔物用の檻の中に毛玉を入れた。

 この檻は、中に魔封じと弱体化の結界が施してあり、中ではスキルが使えなくなっている。高い物だが、サイカはそれ以上に高く売れることだろう。

 どうでもいいが、奇麗に整えられたベッドの上にポツンと毛玉がある光景は中々シュールだった。


 次はタイチだ。ベッドに運んだ後、水と称した追加の惚れ薬を飲むように指示しておいたので、魅了の効果は未だ続いている。

 部屋に入ってみてみると、ベッドに寝転がってはいるものの、ボケーっと天井を見つめている。

 これまた用意していた隷属の首輪を取り出し、タイチの首に取り付ける。そして、自分の血をたらし契約を完了させる。


「起きても部屋から出るな。分かったならもう眠れ」


 そう言うとタイチはすぐに寝息を立て始めたが、目は空いたままだ。気味が悪いので瞼を下ろしてやる。


 そこまでして、アタシはふぅーっと息を吐く。

 作戦は一段落だ。あとは、サイカが逃げ出さなければ何も問題はない。


 彩花を次の競売に出す。これだけでもアタシも幹部昇進間違いなしだ。

 今回はそれだけでなく、自由にアーティファクトが作れるようになる。そうなればもはや、ボスの座を奪うことすら可能だ。


 今日は準備にいろいろ忙しかったのでとても眠い。大きくあくびをして、アタシは部屋を後にした。



----タイチ視点----


 夜が明けた。


「見慣れない天井だ」


 異世界に来て最初の日は自分で作った部屋の中だった為に、いつも見ている天井だった。宿で寝た時も、起きた時は彩花ちゃんが目の前にいたから、やっとこのネタが使えたぜ。


 っと、喜んでる暇はない。ここはどこだ?


 残っている最後の記憶は……エルの手料理を食べていた時だ。


「ああ、酒か」


 以前飲みすぎた時も、飲み始めてからの記憶がスパッと消えていた。今回はあまり飲んでいないような気がするが、アルコール度数が意外と高かったのだろう。


 ふと、首に違和感を感じる。


「なにこれ? 首輪?」


 触ってみると、どうやら金属製のようだ。さっきまでは自分のぬくもりがあったが、既に冷たくなっている。

 首輪なんて付けた覚えがない。誰かに付けられたのだろうか?

 エルさんがこんな事をするとは思えないので、やったのは彩花ちゃんか。いや、エルさんは案外いたずら好きな人なのかもしれない。


「うーん、外れない」


 折角付けてもらったのだ、外すのは勿体ない気もするが、外しておいて驚かせる方が面白いだろう。


「『加護』粗悪品」


 無能の加護を首輪に施す。それだけで首輪は壊れて落ちる。


「『加護』を消去」


 加護を消して証拠隠滅までがワンセットだ。


「折角早起きしたけど、どうしようか?」


 おそらくここはエルさんの家である。勝手に出歩いて心証を悪くする必要はないだろう。


 ………よし、二度寝だ。おやすみ。



----彩花視点----


 いつものアラーム音とともに目を覚ます。

 視界が開ける中、自分が鳥籠の様な物の中にいることを認識する。


「何これ? またあいつの仕業かしら?」


 あいつことタイチは時々変な悪戯やドッキリに近い何かを仕掛ける。その一環で閉じ込めたのかもしれない。

 他人の家でやることだろうかと思ったが、昨日はこっちに恨みがましい視線を送ってきていた。エルさんが私の事ばかりを見ていたからだろう。正直食べづらい事この上なかった。


 エルが見ていたのは自分の料理を食べてくれるのを見るのは嬉しいからだろう。私も家族が自分の作ったカレーを美味しいと食べてくれたことがあるので、気持ちは分かる。自分が独り身だったと仮定すれば余計だ。


 ひとまずこの籠を壊してしまおう。若干気怠くなるように設定・・してあるが、あいつの事だから、私でもギリギリ壊せるようになっているだろう。


 新兵装の丸鋸を使い、檻を壊す。何故かあいつが頑なに魔法だけは使わせんと言ったので、それと引き換えに相当数の現代兵器(?)が使えるようになっている。


 予想外に簡単に抜け出せたことを訝しげながら、私はあいつの部屋に殴り込みに行く。


 他人の家なので扉は丁寧に開けつつ、未だ気持ち良さそうにグーすか眠っているこいつの顔にハリセンを叩き込む。


 ――スパァアアン!


「……おはよう、彩花ちゃん。でもその起こし方はいい加減どうかと思う」

「あんたが先にいたずらしたんでしょうが!」


 こいつはしらばっくれるつもりなのか、心外だと言わんばかりの顔だ。


「あれ? 何かやったっけ? ごめん、酔ってて覚えてないみたい」

「あーそっか。そうよね。これからは悪酔いしないように節度を持って飲むことね。それと……ごめん」

「いいよ、彩花ちゃんも手加減してくれてることだし」


 やったのはこいつだろうから謝る必要も無いかと思うが、酔っていたことを失念して問答無用に叩くのも違うと思ったから一応ね。


「あー彩花ちゃんがその様子だと、この首輪をつけたのはエルさんなのか。案外悪戯好きだったんだな」

「首輪? ねぇ、これって奴隷の首輪とかいうやつじゃないの? どこか禍々しい雰囲気があるわよ」


 エルさんはお金目当てでこいつに近づいているようにしか見えなかった。それも踏まえて考えると、何か寒いものが背筋を走った。

 私がそう言うと、こいつは首輪を手に取って眺め始めた。


「んー? 分かんねぇ。彩花ちゃんの一般情報データベースには無いの?」

「ちょっと待ってね」


 できれば違ってほしいと思いながら、奴隷や首輪に関する情報を思い浮かべる。すると、隷属の首輪と呼ばれる、手元にある首輪と全く同じ物が頭の中に浮かび上がった。

 ついでにと思って、自分が入っていた鳥籠に似たものが無いかと情報を探すと、これまた小型魔物の檻と言う名前で同じものが見つかってしまった。


「……ビンゴだった。これは隷属の首輪って名前の、簡単に言えば相手を奴隷にしちゃう道具ね」

「へぇー奴隷ね。……奴隷?」


 流石にこいつも事の重大さが分かったようだ。


「――ふむ、自分が奴隷になるのも悪くなかったか」


 ――スパァアアン!


 私は何も言わずにハリセンを振るった。



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