13 美味しいお酒と料理で歓迎された
----とある女性の手記----
張り込んでいた宿から出てくるターゲットを見つけた。前情報通り、度々自分のマフラーと会話している。ボスの見立通りなら、あれはアーティファクトの一種なのだろう。
部下に尾行を指示し、自分は確認が取れたことを報告するため、一度拠点に戻る。
部下の報告によると、ターゲットはマルゲリー商会に入ったようだ。ターゲットは冒険者だと思われていたが、商人か職人でも兼ねているのだろう。そういう冒険者はどの町にも少なからず存在している。
重そうな金袋を抱えて出てきたと報告があった。やはりアーティファクトを持ち歩く人間だ。何かしら秘密があるのだろう。銀貨だとしても相当な量だったらしい。隙あらば奪いたいが、アーティファクトの所持者だ。弱そうに見えても、どんな手ごまを隠しているかわからない。籠絡して奪い取る作戦を取ることも考え、自分も出動することにする。
部下を使って襲わせようとしたが、奥の手があると見えて、怯えている振りができる程に余裕がある。やはり自分が出ることにした。
お礼という形で喫茶店に連れ込まれることに成功した。隠しているつもりのようだが、時々こっそりとマフラーと会話している。周囲の人間ではない第三者の言葉がうっすらと聞こえたことから、マフラーはアーティファクトであると断定した。こっそりと探りを入れてみることにする。
途中、自分で名乗った偽名に違和感を覚えて変な顔をしてしまったが、特に問題はなかっただろう。
結果として、ターゲットと距離を縮めることに成功したが、アーティファクトについて尋ねるには至らなかった。
しかし、高級店だけあって、ルーマイタイソンは絶品だった。是非ともターゲットを利用して、もう一度食べておきたいものだ。
今は、別の部下に追跡させている。
尚、ターゲットがマルゲリー商会に持ち込んだ商品もアーティファクトであることが判明した。
時間をかけて接触し、落とすとしよう。そうすれば、組織の財政はかなり向上する。
早く良い知らせをボスに届けたいものだ。
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ターゲットとの最初の接触から十分に時間が経過したと考え、次の作戦を実行することにした。
今回はあくまで偶然を装い接触する。若干体の線が出る露出の多い服にすることで、ターゲットの視線をくぎ付けにし、魅了させたい。前回の接触では過剰に胸を凝視されていたので、効果は十分に期待できる。
結果から言うと、今回の作戦は大成功だった。
前回の目標であるアーティファクトの情報収集に加え、次に会う約束をすることまで成功した。
会話のできるアーティファクトの正体は、とあるスキルによって作られた物のようだ。話の途中で得られた情報によると、ターゲットは今まで確認した物以外のいくつものアーティファクトが生産できるようだ。
その中にはインプを単身で倒せる武器も有るようだ。それが手に入れば、組織が世界中を支配することも夢ではない。
そうなったらルーマイタイソンが食べ放題だ。
次回の接触では家に連れて行き、酔わせ、手籠めにする。それがダメそうなら、次回に持ち越すか、酒で判断が鈍っているところを部下に襲わせるかどちらか判断しよう。
確実性を高めるために惚れ薬を手に入れなくては。
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次の日は朝からきっちり起きて、冒険者ギルドに向かった。
結論から言うと、初めての依頼「スティールラットの駆除」を行ったわけだが、これと言って面白いこともなかった。
一応、Eランクの依頼の報酬は大銅貨数枚が普通だ。今回の依頼は破格の銀貨一枚が報酬だったわけだが、今となっては端金である。
「意外と時間あるし、着ていく服でも買いに行こうか?」
「私用の服なんて売ってないけどね」
彩花ちゃんはご機嫌斜めだ。
「裁縫道具とか欲しいなら出してあげるよ?」
「うぐっ。私、裁縫はちょっと……」
「あれま」
まあ、今どきのJKが裁縫できる方がすごいよな。エルさんも裁縫とか得意に見えないし、そろそろ異世界の定番である奴隷を買いに行こうかなぁ。
なぜ今まで買いに行かなかったって言うと、単に忘れてただけだ。お金があるうちに買わないと普通意味ないよな。
奴隷と言えば……
「結局、一度も亜人を見たことないな」
「そう言われればそうね」
「あ、彩花ちゃんも広い目で見たら亜人か」
「……そうね」
「ちょっと探してみてよ。その為の昨日の改造でしょ」
「ああ、忘れてたわ。ちょっと待ってね」
昨日の魔改造により、『毛玉ナビゲーター』の彩花ちゃんは一般情報の閲覧機能を得た。案内人なのに知識背景を知らんとはどういうことだ、的なノリで。今までも建物の説明などはマップで分かるようにしていたが、今回はその更に詳しいところまでわかるようになったのだ。
鑑定作れって? あれは面倒なわりに面白くない。
「……ええと、この国は獣人排斥が強いんだって。だから、奴隷でも獣人は見ないみたいね」
「ドワーフとかエルフも含めて亜人って言ったんだけど、そっちは?」
「……見た目じゃわからないけど、ハーフならちょくちょくいるようだわ」
「ほーぅ。純血はほぼおらんと?」
「そうね」
この国に長居する意味がなくなったな。
徐に俺は遠くに見える塔を指さす。
「んじゃ、あのダンジョンを攻略でもしたら、外国に行こうか」
「いいんじゃない? この町も粗方観光したし」
「その前に、エルさんと会わなくちゃな」
「はぁ~、そうね」
何故かため息をつく彩花ちゃん。
まぁ悔しいのか、嫉妬してるのか、そのどっちかだろう。
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そんなわけで夕方。日も傾いて人がにぎわっている中、俺たちは噴水のおっさん像の前に立っている。
服を買うといったが、この辺でフォーマルな衣装はやはり高かったので、ただ新しい旅に使える服を買っただけだ。
「まだかなぁ?」
「まだ四時半よ。フランス人なら絶対来ないわ」
待ち合わせは五時である。
「五分前行動は常識でしょ?」
「聞いてる? 今は三十分前よ。それとここは異国どころか異世界、OK?」
「おーけーおーけー。ザッツプリチィライト」
「その英語合ってるの?」
「知らなーい。おいら英語は五段階評価で三」
そんな雑談をしつつ五時になった。夕日に照らされて、その豊満なおっぱいと一層鮮やかな赤髪を揺らしながらエルさんはやってきた。今日も、前回みたいに少し露出の多い服だ。
――眼福です。
「おお、もう来ていたのか。ちょっと早めに来たつもりだったが、正解だったな」
「いえ、俺もさっき来たばかりですよ」
一度言ってみたかったんだ。これ。
「……さっきとは――」
「――そう、さっきさっき」
彩花ちゃんはナチュラルにバラそうとしなくていいの。
「ハハハ。では早速案内するとしよう」
「はい、お願いしますね」
着いたのはごく普通の民家。その辺に腐るほどある奴である。住んでる人がいるので、どこも腐ってはいないけども。
「一人で暮らすには大きいですね」
「まあな。だが、宿屋に住むよりは安上がりだからな」
「それもそうですね」
具体的な価格は知らんけどな。
「「お邪魔します」」
「ああ、いらっしゃい」
玄関に入り、そのまま近くのダイニングに入る。
「あ、彩花ちゃん。もういんじゃない?」
「それもそうね」
そう言って彩花ちゃんは人型妖精モードへ変身する。
「――ッ!? 驚いたな。サイカ殿はそんなことも可能だったのか……」
「はい、この状態だと食事ができるんですよ」
「本当にすごいな……」
エルさんが食い入るように彩花ちゃんを見つめている。
「あ、あの。そんなに見ないでください」
「ああ、すまない。よくできていると思ってな」
ほめるなら俺をお願いします。
――俺そっちのけで彩花ちゃんばっかり見ないでぇ。ホントに俺がついでだったみたいじゃん。
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「どうだろう。気に入ってもらえただろうか?」
「はい、おいしいです」
「……美味しいです」
彩花ちゃんは悔しそうだ。屋台飯と比べると断然うまいから当然である。
目の前に並んでいるのはシチューにパンにサラダにチキンなど、なんとなくパーティらしい感じのオーソドックスなものばかりだ。
エルさんは彩花ちゃんばかり見ている。
そりゃ、大きな食べ物をちまちまと食べていく姿はとても可愛い。でも、そんなとろけ切った笑顔で見つめるもんじゃないと思うの。
……俺が嫉妬してる。あっれぇおかしいなぁ。
「こ、このお酒もおいしいですね」
「おお、気に入ってくれたか。それは私が好きな酒でな。今日はいつもより高いやつを買って来たんだ」
「え、なんかわざわざすみません」
「いや、いいんだ。喜んでくれるのが一番だからな」
……話す間も、視線が度々彩花ちゃんに行くのは良くないと思うの。泣きそう。
でも笑顔がとても素敵です。
見てるとなんだか凄くドキドキしてきたし。
何だか、頭までぼーっとしてきた……。
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