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12 辛辣受付さん再び


 俺達はエルと会った後、一度部屋に戻ってきた。彩花ちゃんは人型妖精モードでソファに座り、くつろいでいる。

 そんな彩花ちゃんに俺は声を掛ける。


彩花さいかちゃん。エルさんの家にお呼ばれしちゃったよ!」

「知ってるわよ。何度目よ、それ言うの」


 彩花ちゃんは少し考えるように間を置いて、再び声を出す。


「前にも言ったけど、あの人は止めた方がいいわよ」

「何だ? 嫉妬か? 可愛いやつめ」


 ――スパァアアン!


 今日もまた、彩花ちゃんのハリセンが炸裂した。


「どうなっても知らないって前に行ったけど、やっぱり一応言っておくわ。あの女は絶対あんたのお金目当てよ。でもそれで一回痛い目見るといいわ!」


 彩花ちゃんに嫉妬してもらえるなんて、ぼかぁ幸せだなぁ。――ハリセンなら痛くないし。


「エルさんはそんなじゃないだろ」

「そんなだから心配してんのよ――って、今は心配するだけ無駄よね。だから、あんたの好きにすればいいわ」


 うんうん、わかったわかった。やはり、俺がほかの人に取られそうで心配なんだな。


「大丈夫だよ。俺も前に行ったけど、俺は彩花ちゃんのことが好きだから。他の人の方が好きになるなんて有り得ないよ」

「あーはいはい分かったわよ。それは前も聞いたわ」


 そう言う彩花ちゃんは前と違って少し顔が赤い。やはり、嫉妬を自覚することで俺への気持ちに気づいたんだな。ハリセンも飛んでこないし。


「それより、結局今日も冒険者ギルドに行かないつもり? 依頼一度も受けてないけど、除籍になったりしない?」

「確か一月は大丈夫だったよ。……でも午後は行こうか、ホントはそのつもりで宿を出たはずだったんだしね」


 初めからエルに会いに行くつもりだったが、そこを気にしてはいけない。


------------


 結局、冒険者ギルドには虫退治くらいしか依頼がなかった。


「ねぇ受付さん。何でここは虫退治依頼ばっかりなんですか?」

「そんなことはありません。あなたがEランクだからです。他の掲示板を見ればわかるでしょう?」


 そんな事も分からないのですか、と言わんばかりの視線である。


「いや、そうじゃなくてもうちょっと弱い魔物の盗伐とかあってもいいでしょ?」

「どこの組織だって、人がやりたがらないことや雑用は下っ端に回ってくるものです。面倒なのでこれ以上説明させないでください」


 つまり、このギルドの方針と言いたいわけだな。仕方がないのでそれで納得しよう。

 でも、まだ疑問だったことがある。


「だいぶ前に来た時から張られっぱなしの依頼があるんですけど、あれって大丈夫なんですか?」

「チッ」


 うわぁ。舌打ちされたぁ。


「受付さん? 聞いてますか?」

「本日はどのようなご用件でしょうか?」


 素晴らしい営業スマイルだ。思わず惚れてしまいそうである。


「だいぶ前から張られっぱなしの――」

「――本日はどのようなご用件でしょうか」

「この前換金し――」

「――本日はどのようなご用件でしょうか」


 ……おぉう。RPGのNPCみたいなの止めて。


「あの――」

「やぁ。久しぶりじゃないかッ。えー、すまない、名をまだ聞いていなかったようだねッ」


 もう一度声を掛けようとしたら、突然後ろから変な奴が声を掛けてきた。


「あー、お久しぶりですセクトさん。俺はタイチですよ」

「そうか、タイチか。素敵な名だねッ」


 このセクトさんは変態的なまでに虫が好きな人である。その為、殺してしまう事に悲しみを背負いながらも日々虫たちを駆除するこの地域の有難いお人でもある。

 それと彩花ちゃん。俺にしか聞こえないように「うわっ」とか言うのは良くないと思う。


「それで、どうしたんだい? 何かあったなら話を聞くよッ」

「いや、大した事でもな――」

「――そ、そうか。話を聞くからとりあえず席に着こうかッ!」


 セクトさんは何やら冷や汗をダラダラ流して、焦ったように俺の言葉にかぶせてしゃべってきた。よく見ると、俺ではなく、ちょっと後ろを見ている。

 気になって振り向くと、笑顔の受付さんがいる。


 俺は顔を戻すと、セクトさんはさっきよりも冷や汗の増えた顔で席のテーブルのある方を見ていた。


 ……なるほど。


 事情を察した俺は試しに第三の目で後ろを向くと、そこには恐ろしい形相でセクトさんを睨む受付さんがいた。

 ここはセクトさんに恩を売るつもりで話に乗ってあげよう。


「そうですね。とりあえず席へ向かいましょうか」

「あ、ああ。ありがとう」


 とっさにお礼が出てる当たりヤバいと思う。


------------


 席に着くなり、セクトさんは自前のハンサムフェイスを近づけて小声で話しかけてきた。


「タイチ君。気を付けた方がいい。あの受付のアリエはとんでもない人だ」


 口調が普通に戻っている。やはりヤバいのかもしれない。しかし、気になるので聞いてみる。


「それはどういう……?」


 セクトさんは顔を話してにっこりと微笑むだけで何も言わなかった。

 これじゃあ、余計に気になってしまうじゃないか。


 俺がもう一度質問しようと口を開きかけた時、セクトさんは話しかけてきた。


「それで、タイチ君は何が聞きたかったのかなッ?」

「あー、そうですね。前にあの受付さんに金の指輪を買い取ってもらったんですけど、なんか後で考えてみたらだいぶ安かったので買い叩かれたのかなって」


 本題はこれだった。その前にギルドのちょっとした質問をしていただけである。


「………………勉強代。そう、勉強代だよッ」

「あっ、そっすか」


 物凄い間があったけども。


「そういえばタイチ君、一度も依頼を受けていないそうじゃないかッ。さっき受付さんに話してたのは、それに関することなんじゃないかい?」

「はぁ、まぁさっき質問してたのはそうですけど、本当に聞きたかったのは指輪のか――」

「――そうか、やはりそうなんだねッ。たまに雑用なんかしたくないって、直ぐに辞めてしまう冒険者もいるらしいからねッ」


 うん、まぁいいや。男相手に変に食い下がっても何も楽しくない。


「そうなんですよね。虫退治なんてしたくないですから、どうにか他の依頼を受けられないかなぁと思ってまして」

「そうか。君も虫たちの命をむやみに奪うことに抵抗があるんだねッ」

「いえ、違――」

「僕も初めはそうだったさッ。愛おしくてたまらない虫たちを殺すなんてそんなこと出来るわけがないと」

「あの」

「でも、僕は気が付いたんだッ」

「そうですか」

「真に虫たちの事を考えるなら、無為に殺されるより、僕が丁寧に葬ってあげるべきだということにねッ」

「なるほど」

「だから君も、情けをかけるくらいなら、僕と一緒に依頼を受けようじゃないかッ」

「遠慮します」


 もちろん断る。


「――そうか、だけど僕は一人でもやるさッ。そこに虫たちがいる限りねッ」

「おつかれっす」

「これは僕が迷ってるときに言われた事でもあるんだけどねッ。君は朝の七時にギルドに来るべきだ。多くの依頼は朝に貼りなおされる。その時にたまに変わった依頼が出されるから、他の人に取られる前に来ることをお勧めするよッ。それじゃあ僕にはまだ仕事があるから。また会おうッ」

「さよならー」


 言いたいことを言った後に、最後に有意義なことを告げて、セクトさんは去って行った。


「朝の七時だって、彩花ちゃん」

「起こしてあげるから、ちゃんと起きなさいよ?」

「なんかお母さんみたいだぁ」

「そういう機能があるだけよ! それが分かっててあんたも言ったんじゃない」

「そうだねー」


 彩花ちゃんはお姉ちゃんからお母さんにランクアップした(してない)。


------------


 その後は適当に買い食いして歩き回り、夜になった。


「彩花ちゃん。眠れない」

「知らないわよ。子供じゃあるまいし」

「子守歌歌って」

「いやよ」


 お母さんにランクアップしたのに(してない)冷たいなぁ。こっちは明日が楽しみで眠れないって言うのに。


 ちなみに、シャワー中についてはこの部屋から俺が締め出される形で解決した。『第三の目』で覗いてはいたものの、最近は見てると触りたくなってくるから自重することにする。

 ちょっと肉体がエロすぎた感があるな。好み通りに作るのもあまりよろしくないものだ。体がちっちゃいから何も出来ないし。


「そもそも、寝ようとする時間が早すぎるだけよ」

「そうかな? もう九時だよ?」

「早いわよ! いつも早くて十時じゃない!」


 夜に起きててもすることがないので平均で十時半だ。


「健康的でいいじゃないか」

「それで眠れないってうるさく言われるこっちの身にもなって欲しいわよ!」

「人生ゲ〇ムに集中したいから?」 

「一人でそんなことしてないわよ!」


 人生ゲ〇ムは一昨日当たりの夜に暇だったので出して遊んだのだ。

 ちなみに、シャワールームが設置するだけで機能するように、テレビゲームも出してみると何故か使えた。スキルの力ってすげー。


「一度体を起こしなさいよ」

「で、何がしたいの? ファ〇コン?」

「そうじゃないわよ。ゆっくりしたいだけ――いえ、折角だし、私にも自衛手段が欲しいわ」

「えー? どうせそれで俺の事攻撃するんでしょ?」


 ――スパァアアン!


「最近はハリセンしか使ってないでしょ?」

「流れるように叩かないでよ」


 彩花ちゃんは俺がスキルを再発動すればいくらでも復活できる(試してはいないけども)。けど、何度も死にたい人間なんてそうはいない。それに、何も出来ずに死ぬのは嫌だろうからな。


「分かったよ。彩花ちゃんを信用してあげようじゃないか」


 そんなこんなで、俺は彩花ちゃんの魔改造に着手するのであった。



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