10 ダラダラする。変な人に会う。
さて、お昼だ。「エル」という鮮やかな赤い長髪の巨乳美女と喫茶店で会話こそしたが、俺は食事を取っていない。っていうか、実質お茶だけで銀貨五枚近く持ってかれた。かろうじて、砂糖が高い世界じゃなくてよかったか。
それはそうと、俺のスキルの一つ『毛玉ナビゲーター』の彩花ちゃんもご飯を食べたいだろうし、屋台でおいしそうなものでも買いながら宿に戻るとしよう。
「それなんだけど、お金も入ったことだしもっといい宿にしない?」
彩花ちゃんが提案してきた。
「うーん、その気持ちも分かるし、お金が盗まれるか心配するのも嫌だけど、昨日の今日でグレードアップするのもなぁ。ベッドが嫌なら出せばいいだけだし」
「そんなこと言ってて、お金が盗まれたら元も子もないでしょうが」
実はその心配もほとんどしていない。スキル生成で『財布』を作ったからだ。効果はその名の通り、自分の所持金をスキル内に格納するというものだ。格納と言ってもゲームのようにデータとなり、出したい金額調度が出せてしまう優れものでもある。今はまだ彩花ちゃんには内緒だ。
「そうだね、彩花ちゃんの言う通りだ」
だから、怪しまれないように提案に乗っかっておくことにしよう。
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で、
「アンタねぇ……。今度は何をしに来たんだい?」
昨日最初に来た冒険者ギルド横の宿に来た。
昨日と同じおばちゃ――女将さんが、俺を見て呆れた表情をしていた。
「もちろん泊りにですよ。当たり前じゃないですか」
「昨日の今日でなんでまた急に……って、そういうのは詮索しないもんだったね。今のは聞かなかったことにしといてくれ」
「別にいいですけど」
別に話しても構わないんだけどな。
「そうだ、まとめて数日分払うから安くしてくれない?」
「すまないねぇ。うちはギルド直営だって知ってるだろ? いざという時のためにそう言うのはやってないんだよ。面倒かもしれないけど、毎日延長を申請しとくれ」
「そりゃあ残念だ」
「ちなみに、Bランク以上はその制限に入らないから、頑張ってなってみるんだね」
「へーい。あ、これお代の銀貨ね」
現在進行形で頑張ってないおかげで、当面の間Eランクのままな気がする。
「はい、これが部屋のカギだよ。無くしたら追加で銀貨二枚になるからね」
「はーい」
「部屋は二回の真ん中あたりの203ってとこだ。鍵にも書いてあるから忘れないだろうがね」
心配性のオカンみたいな人だ。っていうか心配しすぎである。
「あたしにとっちゃここの冒険者はみんな子供みたいなもんさね」
「そうなんですか」
「あたしも昔冒険者だったからね、まぁこの話はあとだ。聞きたかったらまたおいで」
「いや、いらないです――あだっ」
――無言で頭をひっぱたかれた。
「機会があれば善処します」
「棘のある言い方だねぇ。もう一回ひっぱたいてやろうかい?」
「いずれよろしくお願いします」
「もうそれでいいよ。ほら、早く部屋に行きな」
おかみさんの話が止まらないから行けなかっただけなのに、しっしって手で追い払われて、釈然としない気分だ。
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一度荷物を置いて、屋台に行って昼飯(串焼き肉など)を食べ終わった。
なんとなく昼食後はだらだらしたいので、俺はベッドにダイブした。
「ふぃー。藁に比べたら、このベッドはふっかふかだなぁ」
「そうねぇ」
彩花ちゃんは今人型妖精モードである。
……同じ布団に男女がいる。これはもしや、もしかするんじゃ?
「でも、私は昨日のソファーでいいわ。もう出しておいてくれない?」
もしかしなかった。
「へいどぞー」
『家具生成』でソファーを取り出し、部屋の空いてる所に置く。
「あーどーも」
彩花ちゃんはソファーを見つけると、体を脱力させて羽だけで飛んで行った。鳥か何かに運ばれているようで、見ていてとてもシュールだ。
「彩花ちゃん。体動かすの忘れてるよ」
「あーそうね。毛玉期間が長いとつい忘れるわね」
冗談のつもりで言ったのに、本当に忘れてるなんて意味が分からない。俺も空飛ぶ毛玉になってみればわかるのだろうか?
「午後はもう一度依頼を見に行ってみない? 昨日はたまたま虫駆除業者みたいな依頼ばかりだったのかもしれないわよ」
「そうだねぇ。行ってみようか」
お金が入ったとはいえ、使っていればいずれ無くなる。しかし、無いときとある時では心の余裕が違うのだ。心の奥底で、こけしの代金は高すぎるので使う量を絞れと叫ぶ存在がいる。しかし、ロールプレイも大事だが心の余裕の方がもっと大事である事は自明だ。
心の余裕で思い出した。いい加減、攻撃スキルを作らねば。
ひとまず『エディット』を使い、スキルの一覧を見る。
マッピング
エディット
乗り物生成
毛玉ナビゲーター
魂召喚
魂転生
携帯できる家
家具生成
マルチ言語
第三の目
加護
財布
こんなもんか。攻撃に使えるのは乗り物と家具だけだからなぁ。第三の目を攻撃に使えるようにしてもいいが、そうすると、彩花ちゃんのシャワーをこっそり覗けなくなる……?
バラしたら、彩花ちゃんはシャワーを浴びなくなるんだろうか? 気になる――が、今はやめておこう。
魂系はもう使わないだろうし、一度消しておくか。多分上限はないから消す意味もないんだけども。一覧が見ずらくなるからな。削除したスキル一覧を使えば後で見て、思い出して作り直せるから問題ないでしょ。
それと「携帯できる家」だが、よく考えればキャンピングカー一つで事足りる。早めに増築しなければ、全くいらないスキルになってしまう。『エディット』で簡単に増築が可能にしておこう。
とりあえず、思いついたのがあるし、二つだけ新しいスキルを作ろう。
彩花ちゃんに聞こえないように、注意して呟く。
「スキル生成『危機察知』『射出』」
『危機察知』は意識外からの命の危険が差し迫ってることを知らせるだけのスキルだ。既にチンピラにも襲われたし、今のうちに身を守る対策はしたい。でも絶対防御とかじゃ面白くないから察知にしたが、戦闘中に反応されても煩わしいし、相手の攻撃が先にネタバレになっても面白くない。それでも、死の危険だけは未然に分かるのでこのくらいで丁度いいだろう。
『射出』は自分の周囲一メートル内にあるものを好きな方向に打ち出すスキルだ。直線(放物線)軌道のみなので、慣れたら簡単によけられるが、俺の意識の届く限りいくつでも同時に打ち出せるので、よほどの達人を相手にしなければ問題ない。
『家具生成』『加護』を併用する前提なので、相手からすれば、その一撃は見た目では分からない恐ろしいものになるはずだ。
ちなみに、この世界の人はスキル発動に魔力を消費するらしい(エルとの話の流れで聞いた)。まぁ俺には関係なく連発できるのだが。
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その後、すこーしダラダラしてからやってきました冒険者ギルド。
相変わらず変なものを見る目が突き刺さるけど無視だ無視!
「やっぱり虫退治ばかりね……」
「この町害虫多すぎない? 虫駆除業者やってるだけで食っていけるんじゃないかなぁ」
「それはこの季節特有のものだから無理だね。それでも今年は多い方だけどねッ」
「へぇ~そうなん――誰?」
しれっとちょっとキザな白人風イケメンの金髪碧眼君がいた。俺より身長高いし、「君」って感じではないけども。
「ああ済まない! 僕はセクトイーム。気軽にセクトと呼んでくれッ」
「はぁそうですか」
「因みに、君と同じ冒険者さッ」
男の俺相手にかっこつけて喋るのは楽しいのだろうか?
ふと、辺りを見回してみるとセクトは俺以上に視線を集めている。――悪い意味で。
「しがないDランクなのだがね。アッハ!」
いや、何そのよく分からない笑い方! 無駄に癖がすごいな。
「僕は虫が大好きなんだよ」
「はい」
「意外だったかい? だから、毎年この時期はたくさんの虫と触れ合える、いわば僕にとってのパラダイスさッ」
「へぇー」
「しかし、依頼内容が駆除なので、毎年彼らの成長を待たずに処分しなくてはならない。ああ、なんて悲しいんだ」
「ほいほい」
「僕が何もしなくても、いずれはだれかに殺されてしまう。だからこそ、僕が駆除し丁寧に葬ってあげなくてはならないのだッ!」
「大変ですね」
「しかし! 今年はこんなにも多くの虫たちが僕を待っていてくれているッ!」
「そうですね」
「なんて素晴らしい! 最高だ!」
「よかったね」
「では、僕は行くとするよ。ああ、待っていてくれたまえ。僕の愛しい虫たちよ!」
セクトはそう言って優雅にターンしながら、Eランク向けの虫退治依頼書を二枚引っぺがして持って行った。この調子だと、午前中にも二枚分の依頼をやってきたのだろう。大したものである。
イケメン×虫好き=ヤバい。ってのがよく分かった(?)
「専用の虫駆除業者が既にいたみたいだな。この町には」
「そうみたいね……」
そんなこんなで、俺は今日も依頼を受けるのを見送った。
……やっぱり異世界来たんだから、魔物退治でお金稼ぎたい。
(ただし、こけしは可)




