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巌頭の鵜  作者: 梔虚月
30/32

05 謎解き

 笠間は警棒を下段に構えると、供養塔を背にした私に手を煽った。

「弓田さん、こんなところで何をしているんですか?」

 それは、こちらの台詞である。

 崖から身を投げた邦久の遺体は高知市警察が海から引き揚げており、現場検証も終わっていれば、一介の駐在が一人で日島にいる訳合いがない。

「駐在さんこそ、なぜここにいるのですか。区長も和尚さんも不在だから、島民の面倒だって色々あるでしょう」

 官帽を目深に被り直した笠間は、警棒を腰に戻して大きく肩を下げる。

「弓田さんが、駐在所の前を思い詰めた表情で通り過ぎるから跡をつけてきたんですよ。弓田さんまで死んでしまったら、私の面目が丸潰れなんです」

「ああ、自殺ですか。しかし私には、自死する訳合いがありません」

「そんなことはわかりません。お連れの進駐軍を守れなかったり、貴方の上陸で大勢の犠牲者を出していれば、崖から身を投げる理由なんて幾らでも思いつきます」

 笠間は私が自害するに相応しい訳合いを並べ立てると、俯き加減に『それで、どうして日島にいるんですか』と顔を覗き込んだ。

 なるほど、駐在は訳合いを話さなければ、先に述べたような理屈で崖から突き落とすと脅している。

 いやいや、私が訳合いを話したところで、拳銃で脅して崖から突き落とすのは決定しているのだろう。

 ホルスターから南部十四年式拳銃を抜いた駐在は、墓場の方を顎で指し示している。

「弓田さんが進駐軍や市警察が引き揚げた日島に上陸した理由は、埋蔵金が日島にあるからなんでしょう? 記憶喪失なんて嘘で進駐軍を欺いて、宝を掘り起こす頃合いを見計らっていたんですね」

「私の正体は、神戸で貿易商を営んでいた西谷和人らしいです。弓田宗介は、どうやらGHQの見誤りだったようです」

「いやぁ、今さら誤魔化さなくて良いじゃないですか。私も人を騙すのに手慣れていますが、進駐軍の目を欺いた弓田さんに遠く及びません」

 誤魔化すも何も、私が過去を思い出せないのは事実だし、今となっては弓田ではなかったと確信しているのだが、笠間は詐病の私が人払いした後、埋蔵金を島から持ち逃げすると、最後まで生かして様子を窺っていたようだ。

 故に分け前に預かりたい彼は『弓田さん』と、いつでも親しげにしていたのだろう。

 お人好しの駐在とは、とんだ食わせ者だ。

「金の在り処を素直に白状するなら、二人で山分けして助かる道もあります。野上のお嬢さんと、島を出て仲良く暮らすことだって出来ます」

「やっぱり駐在さんが、耕造さんたちを殺した真犯人だったのですね」

 笠間に銃口を突き付けられた私は、邦久が身を投げした崖の切先に立たされた。

 この期に及んで仲間になれとは、随分と甘く見られたものだし、そうとあって油断しているのならば、事件の謎解きを聞かせて確信を得る好都合である。

「やっぱり? そうか、誰も助けられなかった悔し紛れに強がりを言ってんだな」

「いいえ、耕造さんが殺された夜には、あなたも容疑者の一人だと疑っていました。ただ確信が持てなければ、悪戯に刺激して犠牲者を増やすつもりがなかっただけです。なぜなら島を逃げ出す手段もなければ、あなたはピストルを持っていますからね」

「それを強がりと言わずに、何と言うんだ。あんたは、これっぽっちも俺の犯行を疑ってなかったじゃないか」

 笠間は肩を竦めると、荒い口調で私を見くびった。

 駐在は最後まで騙し通せたと考えているので、私の言葉には苛立ちを感じているようだ。

「そもそも私に与えられた任務は、弓田宗介の所属していた組織の解明と、彼が隠匿した宝の発掘なので、殺人事件の犯人探しは関係ありません」

「まあ、あんたが事件の真相を知ったところで、生きて日島を出るには俺の仲間になるしか選択肢がないんだ」

「あなたの仲間になり、埋蔵金を差し出せば命を保証するのですね」

 笠間は頷いたものの、端からそのつもりがないのは明らかだ。

 しかし私は『わかりました』と、埋蔵金の在り処と引換えにした取引に応じた。

「どうして私が、あなたの犯行に気付いたのか、その訳合いを聞かせましょう。あなたも、気になるでしょう」

「それが『冥土の土産』というなら、あんたが貰う方だけどな」

 銃をチラつかせた笠間は、好きにしろといった様子だ。

 駐在は形勢逆転が有り得ないと、完全に勝ちを確信している。

 そういうことならば、こちらの推理を披露しよう。

「まずは耕造さん殺しの件ですが、これは清美さんが遺体を発見したとき、浜側にいる人物しか犯行が出来ません。つまり葵さんを除いた野上家の方々、和尚さん、駐在さんだけです」

「与吉の船で上陸した邦久の犯行だって、あんたらは信じていたんじゃないのか」

「いいえ、集落の無線機が破壊されていたのだから、犯人が船が寄港する以前から迫根島に上陸しているのは明らかです。それに撲殺という犯行手口から考えれば、耕造さんと与吉さんを殺害した実行犯は男性だったと思いました。となると妻のサキ、義理の娘の清美さんの犯行なら、それぞれ共犯となる男がいなければなりません。例えばサキさんに忠実な下働きの男、清美さんと葬儀相談をしていた和尚さんですね」

「おいおい、それは邦久の協力者が集落側にいれば犯行が可能だろう。市警の岡部だって島民に協力者がいると、そう言ったじゃないか」

「防空監視所の無線機を破壊するのは、確かに島民の協力者がいれば可能です。しかし殺しの実行犯だけは、やっぱり浜側にいた者にしか犯行が不可能なのです。つまり私は最初から和尚さん、駐在さん、そして下働きの男が実行犯だと疑っていました。与吉を殺害して上陸した第三者の犯行を疑わなかった訳ではありませんが、それにしても防空監視所の無線機が破壊されているのならば、島と無縁の者の犯行では有り得ません」

 笠間は話が長くなるのを覚悟したのか、銃口を向けたまま後退りして墓石に腰を下ろした。

 騙し通せたと考えていた彼は、よもや数々の間違いに気付いてなかった様子で、私の謎解きに耳を傾けている。

「最も疑わしいのは、邦久の犯行を主張した和尚さんでした。迫根島に埋蔵金があると知らなければ、まず宝の独り占めなんて口にしないでしょう。それに和尚さんならば、本家に向かう前に防空監視所の無線機を破壊出来ます」

「深夜のうちなら、俺にも可能だな」

「ええ、でも駐在さんは容疑者の一人に過ぎません。しかし犯人が複数犯であれば、ピストルを持っている貴方を挑発する訳にもいきません。誰と誰が、繋がっているとも限らない。だから私が貴方の単独犯だと気付いたのは、組長さんが殺されたときなのです。そう考えて貴方の発言を注意深く思い出せば、貴方の言動は杜撰なことばかりでした」

「杜撰?」

「ええ、貴方は、自分を賢い人間だと高を括っているのでしょう。しかし私を騙すには、お粗末なものでした」

「俺の何がいけなかったのか、後学のために聞かせてもらおうじゃないか」

 私は先ず以て、なぜ宝探しの部外者だった笠間が埋蔵金の存在を知り得たのか、そしてGHQの上陸を知った彼が、それを利用して埋蔵金を横取りの企んだ手口を語ることにした。

 

 ※ ※ ※


 迫根島には本土との連絡用に二台の無線機が設置されており、一つは宝探しの仲間がアジトにしていた防空監視所、一つが笠間が寝起きしている駐在所である。

 邦久が宝探しの仲間となったのは、本人も引き入れた耕造も亡くなっているので想像ではあるが、炭鉱崩落事故前に本土へ戻った兄が生きている可能性があれば、仲間にして損がないと考えてのことだろう。

 兄の恒夫が埋蔵金の在り処を知っているならば、いつか上陸して宝を運び出されてしまうかも知れない。

 しかし弟の邦久が唯一の渡航手段である与吉の船で働いていれば、恒夫が舞い戻ってもすぐにわかる。

 そして本土と島で宝探しをしている彼らの連絡手段が無線機を通じて行われていれば、そのきっかけはともかく駐在の笠間が傍受するのは容易かったはずだ。

 こうして赴任した迫根島に埋蔵金があると知った駐在は、自らも宝探しに興じることになる。

 それに弓田の組織が土佐国の息のかかったもので、高知市警察が土佐藩閥の勅令憲兵であれば、そもそも埋蔵金の捜索が彼に与えられた任務だったかも知れない。

 駐在が埋蔵金を捜索していた裏付けは、彼の言動を思い出せばはっきりする。

 立入禁止にしていた八番目の坑道では、先行して案内を買っていたし、高明和尚ですら禁忌地として何があるのかわからない月島を指して『何もない』と、まるで見てきたかのように語っているのが、その証拠である。

 島の地形を把握するのが仕事だとしても、地盤が脆く何人も立入禁止にしていた坑道や、地元の島民が忌み地として踏み込まない場所を詮索するのは行き過ぎだ。

「あなたは、GHQから渡航の連絡を受けて埋蔵金の捜索に来たと考えた。そこで一芝居を打って、宝探しに興じていた耕造さんたちの内紛を装い、目障りな彼らや渡航してくるGHQを一網打尽にする策を練った」

「ほう、どんな策なんだ」

「あなたは呼び出した漁船を沖合に確認すると、まず耕造さんを庭で撲殺して遺体を隠して港に向かう。それから操舵室にいた与吉を背後から襲って、船員の邦久をピストルで脅して八番目の坑道に追い込んだ。この順番で殺さなければ、邦久が騒ぎを大きくすれば耕造さんを殺すのが難しくなる。幸い邦久はまんまと坑道を抜けて日島に逃げ込んでくれたので、一番厄介な区長の殺害が成功したのです」

「野上の旦那の遺体が見つかれば、その時点で計画が台無しじゃないか」

「第一の犯行目的は、宝探しを主導していた区長を邦久の仕業に見せかけて殺すことでした。後先が逆になれば、区長殺しを仕損じるかも知れません」

 耕造の遺体は、一先ず縁側の下や物陰にでも隠しただろう。

 清美の悲鳴で駆けつけた耕造の傷口の血が乾いており、操舵室の与吉の血が鮮血だったのは、港から上陸した邦久の犯行だとすれば違和感を覚える。

 邦久に濡れ衣を着せるために呼びつけた犯人とっては、区長を殺すことが何よりも重要だった。

 邦久に濡れ衣を着せたところで、船頭の与吉だけを殺しても無意味なのだ。

「邦久を坑道に追い込んだ後、本家に戻って遺体を人目に晒すと、あなたは少し道を戻って騒ぎを待った。清美さんの悲鳴で駆けつけたと装って、そこにいた和尚さんを連れて駐在所のサイレンを鳴らした。あなたは当初、犯人が集落から来て船を奪って逃げるつもりだと言ってますよね。当初の計画ではGHQの連れが埋蔵金の在り処を知る弓田宗介だと思わなかったので、私たちにも濡れ衣を着せるつもりだったのでしょう」

 野上家や大勢の島民は実際、私たちが犯人だと言わんばかりに敵意を剥き出しにした。

 笠間は私たちに疑いが向くように振る舞っていたし、そうした疑念を持たれるように同行した高明和尚には、加藤の犯行を匂わせる見立てを披露している。

 邦久に濡れ衣を着せると同時に、私たちの自由も縛り付けた駐在は、今にして思えば言葉巧みに浜側の捜索を買って出た。

「そのとおり、あんたらに耕造殺しの汚名を着せて射殺しても良かったんだよ」

「でも計画に歪みが生じた。加藤さんが連れてきたのが、宝の在り処を知る弓田だった。私がGHQを欺くために記憶喪失を装っているなら、上手くすれば金の在り処を聞き出せるかも知れない。だから、あなたは私に好意的に振る舞うことにした」

 笠間は何かにつけて加藤を不審がっていたが、敗戦国の国民が進駐軍に抱く劣等感ではなく、私と加藤の仲を推し量っていたのだろう。

 駐在は抜け道がないかと尋ねた私に『進駐軍の犯行を疑っているのか』と、聞いてきたのはそういう訳合いだった。

「あんたは野上の旦那たちが防空監視所を拠点に宝探ししていたことを見抜いたが、なぜ連中の仲間割れとは考えなかったんだ」

「私は日島に通じる桟橋までの山道は、折から降り続いた雨に乗じて人為的に塞いでおいたと考えているのです。そうすることで、事が済むまで濡れ衣を着せるために用意した邦久を、駐在所の先にある袋小路の日島に閉じ込めておける。つまり、これ以降の殺人は全て島に上陸した邦久の仕業と、皆を騙せると踏んだ訳です」

「だから、なぜ仲間割れじゃないと――」

「犯人が宝探しの仲間の誰かだとしたら、防空監視所に無線機や炭鉱の地図が無造作に置かれていた説明がつかないのです。GHQが視察に来ることは邦久も心得ていたし、あなたから宿の手配を頼まれた野上家も存じていました。勘が働く人間なら炭鉱を探る者がいると気付かれてしまうのに、アジトだった防空監視所には無線機や地図が放置されています。用意周到に山崩れさせて日島の道を塞いだ犯人が、集会の痕跡を残すような手抜かりする訳がありません」

「そんなことは、わからんじゃないか」

「話は、まだ終わっていません。つまり真犯人は、犯行の直前まで無線機を壊すことも、洋平さんが記した地図も、彼らのアジトから持ち出すことが出来なかった。なぜならアジトの備品に手を付けてしまえば、彼らに自分たち以外に秘密が筒抜けだと悟られる危険があったからです」

 笠間を見据えた私は『真犯人は彼らに警戒されないように、アジトに置かれた無線機も地図も見過ごさざるを得なかった』と、わざと念を押した。

 駐在は、被害者たちに宝探しに興じる第三者の存在を知られる訳にいかなかった。

 なぜなら私と加藤が防空監視所を捜索する前に、無線機や地図が無くなれば、それを捜索した私たちが口にすれば、被害者たちは誰がアジトを引き払ったのか、必ず見つけ出そうとする。

 そして駐在所にも、無線を傍受出来る無線機があるのだから、駐在が真っ先に疑われるのが必定だった。

 村の雑事にも精を出す気の良い駐在は、最後まで善人として事を成就するために、島民に一欠片の疑念も抱かせたくなかったのである。

「市警察の岡部が言ったとおり、仲間割れの可能性があったはずだ」

「有り得ません。彼らの誰かが邦久の共犯だったとしても、それこそ一銭も手に入らない埋蔵金のために、殺人を犯す道理などありませんよ。それこそ、彼らの探していた埋蔵金の総取りを企む者以外にね」

「くっ」

 邦久が犯人でも、高明和尚が犯人でも、逃げ場のない孤島で自分以外の仲間を皆殺しを企む訳がない。

 だから私は、最も疑わしい和尚を容疑者から外した。

 こんな単純な理屈に辿り着かないのだから、笠間はよほど自分の犯罪計画に自信があったのだろう。

 いやいや、腰にぶら下げている拳銃の威力と、国家権力を行使する身分に、と言ってやった方が良いのかもしれない。

 拳銃という殺傷能力の高い武器と、いざとなれば濡れ衣を着せて殺せる立場が、駐在に万能感を与えて隙が生じた。

「そして八番目の炭鉱で殺された組長たちの遺体が、坑道入口より先で転がっていたのは、彼らを襲った犯人が駐在所の方から訪れた証拠です。組長はともかく、もう一人の見張りが坑道を這い出してくる犯人を出迎えるはずがなければ、気を許して近付いてくる顔見知りの犯行を疑います」

 ついで加藤を崖から突き落としたのも、顔を白塗りにした駐在である。

 彼は闇夜に紛れて関所の手前に潜むと、分家に戻る加藤を崖から突き落とした。

 私たちは本家で悲鳴を聞いて駆けつけたものの、咄嗟の出来事に縮み上がった人間は叫び声が上げられない。

 身構えて投身自殺する人間だって、悲鳴をあげる者はほとんどいないのである。

 だから、あのとき私たちが聞いた男の悲鳴は、関所に戻り再び身を隠した駐在だったのだろう。

「あんたの見立てに、いちいち口を挟むのもどうかと思うけど、俺は和尚と港で与吉を供養していた」

「ええ、でも和尚さんは、駐在さんが調書をまとめるからと、港の手前で別れたと証言すると思いますよ」

「思います?」

 私は上着のポケットに手を入れると、加藤から預かっていた自動拳銃ベクターCPⅠを取出した。

 日島に上陸して革鞄の中を整理した折、用心のためにポケットに移している。

「お、おいっ、な、なんでピストルを持っているんだ?」

「私が何の備えもなく、あなたを日島に誘い出したりするものですか。私の推理は、和尚さんと本土に戻っている加藤さんにも聞かせています。あなたと港に向かった和尚さんが、犯行が発覚するまで一緒にいたのか、それを確認するようにも伝えてあります」

「な、なんだと……、それじゃあ最初から俺を誘い出すのが目的で、わざと油断させていたのか?」

 私は『もちろんですよ』と、目を見開いて笠間と銃口を向けあった。

 駐在の狼狽が手に取るようにわかると、幾分か心に余裕も生まれる。

 勝ちを確信した悪党を突き放すのは、えも言われぬ趣きがあった。

「あなたの自供がなければ、私の妄想かも知れないでしょう。よもや私が、あなたに遅れを取るポンコツだと思っていたのですか」

「アホか! あんたを自殺に見せかけて逃げることだって出来る。それを忘れてもらったら困る!」

「いいえ、私が殺されたとしても、加藤さんが事件の真相を解き明かしてくれます。私を殺しても、あなたの逃げ場は孤島の何処にもありません」

 私に与えられた任務は、両瞼を縫い付けて盲目として巌頭に置かれた囮の鵜である。

 私の正体を見抜く者があれば、それが逆心の使徒と巨悪を繋ぐ足がかりとなる。

 その逆もある。

 私をかの人物として、接触して来る者もまた亡国を企む輩なのだ。

「死ぬぞ」

「あなたと討死にするのが、巌頭の鵜の役目です」

 銃口を向けあったここが死に場所と思えば、戦場で死に損なった私にとって、それほど悪くない人生の幕引きだった。

 千尋が生きていく日本の平和に利するために、全ての秘密とともに悪党と死ぬのだから。

 ……

 ……

 ……

「やれやれ、これはいけませんなぁ」

 寺の本堂から大挙して押し寄せた高知市警察の警官隊が、笠間の上に折り重なって飛び乗り、必死に暴れる同僚から銃を取り上げている。

 そして歩いて近付いてきた岡部警部補が手を差し出したので、私は加藤から託された拳銃を手渡した。

「お連れのGHQから、これまでの事情お聞きしました。急いで島に引き返したら、この有様です」

「加藤さんが、あなたに事の真相を明かしたのですか」

 迫根島の埋蔵金は戦争中、米国が内乱を引き起こす軍資金として組織に提供されたものであり、当時の為政者や官僚を戦犯などと法廷で裁くGHQが闇に葬りたい醜聞である。

 笠間を生きたまま、それも組織との繋がりが疑わしい土佐国の藩閥だった高知市警察に引渡せば、今回の騒動が新たな動乱に利用されるのか、わかったものではない。

 私はだからこそ、覚悟を決めて駐在と対峙したというのに、これでは台無しである。

「ムッシュは、我々を誤解している。ムッシュが知りたいことを教えますので、私と同行してください」

 腰を抜かした私が蹌踉めくと、肩を貸した岡部が囁いた。


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