茶会は終わった時
「ああ、そうそう、物語が終わるから戻ると、本を貰えますよ、自分がキャラとして出る本。ほら、これですよ。」
亜希子さんは手にハードカヴァーの本を揺らしながら、楽しそうに言った。それはA5サイズの本、カヴァーの色は赤いワインに近いとても古典的で、しかも銀色の文字が写っている。わあ、これは本屋で見たら、内容はともかく、カヴァーを狙って絶対に買います。
「その本はわたしに見せてくれませんか?」
亜希子さんが出る物語を知りたくて問いだした。
「見せたいのは山々ですが、どうやらこの本は経験した本人しか見えないの。ごめんね。」
亜希子さんは残念そうに溜息をしながら言った。
「そういえば、この本のカヴァーが見てから、無月さんと同じ物語の中にいたことを気付いたね。」
将矢さんも自分の本を出してカヴァーを撫でて呟いた。
「ええー、物語の中でみんなお互いのこと分からないの?例えば、亜希子さんとわたしはもともと知り合いで、同じ本に入ることも前もって知っている、それでも、本番は認識不能なの?」
みんなの視線はまだわたしに集中した。
「違いますよ、瑩さん。本に入ったら、わたし達もキャラの外見に変わるのですよ、いま見ているわたし達と全然違うかも。そのときは誰が誰だか分からなくなるよ。さすがに聞くわけにもいけないでしょう。」
答えてくれたのは茉里ちゃん。
つまり、仮面を着けて他人を演じると言うこと?魂や心の窃盗じゃん!といっても、そっちのほうがやりやすいかも。足元を見ながら心で文句言う時異変が訪れた。
地面から昇ってくる半透明な煙のような気体が段々広がっていく、その煙の中ですぐそばの人も曖昧に見え始めた。
「もう時間ですか。みんな元気でね。物語が終わった後まだ会いましょう。」
最後に聞こえるのは将矢さんのこの言葉。ああ、そうか、茶会は終わった……
今度は意識が遠ざかっていく……