恋
もうすっかり馴染んだわが家、日瑠間家に戻りました。
玄関の靴棚に三足な男性靴が並んでいた。確かわたしが外出する時はそこにはいなかった。
「おかえり、みどり!」
冬弥さんの気配を気付かず、声が耳で拾うと既に目の前まで来ていた。
「ああ、加久良とその親友が来ましたよ。」
靴棚を気にしてるわたしの考えを見抜いた冬弥はそこに指を指し謎を解いた。
加久良さんは常連ですから、楽羽まで来たのか。冬弥さんは楽羽への疑いはまだ晴れていないはず…
「こっちだよ。」
案内された先は食事とるには必ず用いる長いテーブルのとこだ。例の二人はおもてなしのケーキを食べている最中だった。
「よう、お邪魔しました。」
加久良さんは楽羽の肩に手を乗せ、にこりながら言った。楽羽は手と口の動きを止めずに目元の笑みで最大限のあいさつをしてくれた。この人、甘いものが好きというのは百も承知していた。
「らくちゃん、口にクリームがついた。」
言ってるうちに加久良さんはそれを手で拭いてくれた。される人も何もないようにただ「ありがとう」と礼を言った。
このふたり…いったい何を見せようとするの?
「加久良とそこまで仲良くなれなかったことは感謝するよ。」
冬弥さんは笑いをこらしながら小さく呟いた。
「瑩さんの知人って、個性な方が多いですね。」
ゆきみさんもつっこみに入った、もちろんわたししか聞こえないですが。
「そうですね、多分わたしもその中の一人です。」
心の中で呟いた。
「では、先の話の続きをしよう。」
冬弥さんはわたしの手を引いて、長いテーブルは隔てて、加久良さんと楽羽の真向こうに誘導し座らせた。
ああ、わたしもケーキを食べたいな…
楽羽はわたしの目を気付き、わざと最後の一口をゆっくり吟味しながらわたしを見つめた。
こいつ、ムカつく!
「みどりの分はちゃんと取って置いたよ、後、ふたりで食べよう。」
となりの冬弥さんは察したように言い出した。
「冬弥はやさしいですね。」
わたしの代わりに、ゆきみさんは感想を語った。心の中で猛烈に頷いて賛成した。
「先も言ったのですが、もうそのキーホルダーをおれの手元にいない、それに、そのキーホルダーについた不運喰いはそんな悪いやつじゃない、どうせおれの言うことを信じるつもりはないだろう?」
楽羽は冬弥さんを真っ直ぐに見つめて言った。
「悪いが、ぼくたちはそのキーホルダーを追っている、今あなたから情報を得るしかないんだ、もっと詳しいことを教えてくれないか?」
冬弥さんも真剣な目で見つめ返した。
楽羽は嘘をついていないとわたしは信じます、冬弥さんの気持ちも理解できます、さすがにフウンの所在を言えないし、もう…
「はいはい、おまえたち、本当に相性が悪いね。話はループになったぞ、ぼくとしてふたりとも信じるが、これ以上言い合っても何も出ないと思うよ。みどりちゃんはどう思う?」
急にわたしに話題を振る加久良さんの真意を汲まれず、強引に話題を変わった。
「実は、わたしからも知らせがあります。」
違う方向から三人の視線をわたしに集めた。そこで、紗綾さんたちとの遭遇や人殺しの監視カメラの確保について短く説明した。
「みどり、本当にどこにも怪我はないよね。」
直ぐ傍にいる冬弥さんは心配そうな目で言った。
「ははっ、いい男に肩書きだ。赤彦の妹だから、そんなにやわじゃないよ。でもね、みどりちゃん、危ないことをするのはほどほどしてね、こいつ、きれると怖いんですよ。」
半分冗談に聞こえる加久良さんの言葉。自分が取った行動をどれほど危ないか、終わった時点でいや程悟った。
「うん、今度何があったらちゃんと考えてから動く、できる限り冬弥と相談するから。」
冬弥さんは満足そうに微笑んでわたしの手を握った。
加久良さんはこれ以上邪魔するのは悪い、責任を持って楽羽を見張るからと言って、退散することを切り出した。
わたしはあのふたりを外に見送った。分かる際、楽羽に「フウンがあっちで見つけた、今度接触してみる」とこっそり言いつけた。
「瑩も気を付けてね。まあ、あの冬弥は頼もしいと思うが、何があったら、おれも手伝うから、遠慮せず言ってね。」
これこそわたしの知ってる楽羽だ。加久良さんも一緒ですし、心配はいらないかな。
冬弥さんとその取って置いたケーキを食べた後、一緒に庭に来て、芝に肩を並び星空を見ながら会話を始めた。
「みどりも無茶もするのね。以前はただ活発で頭がよくて、育ちのいい女の子だと思った。新たな一面を知れて、驚くより感心しましたよ。」
「そうですか?冬弥はいつも爽やかで、やさしから、本当に加久良さんの言うとおりきれると怖いんですか?」
「どうかな?怒れせてみます?」
ゆっくりとこっちに顔を向けた冬弥さんと至近距離で見つめ合うことになった。恥ずかしいと認識する前に心の中に暖かさが広がっていった。
「ゆきみさんは冬弥さんのことを好きですか?」
この不思議な暖かさはゆきみさんからの感情と勝手に決め付けるわたしは彼女に聞いた。
「うん、好きです。」
曇りもない返事でその気持ちは十分に伝わってきた。これは恋ですね、ちょっと羨ましいかも…
目の前の将矢さんの顔を見ると、この不思議な状況をどうしたらいいのか分からなくなった。
冬弥さんは小さく笑って呟いた。
「顔、赤くなった気がする。」
「ゆきみさん、どうしよう?何が言えばいいのですか?」
ゆきみさんの笑い声がわたしの脳裏響いた。返事が貰う前に、冬弥さんの声が聞こえた。
「鏡に映った自分は本当に自分なのか、時々考えたことがある。周りのみんなが一緒にいて、みどりにやさしくされて、それを思考の隅っこに置いていた。いま傍にいるものを大切にすると決めた。こんなぼくだから、赤彦さんの前でいつも負い目を感じるんだ。」
冬弥さんは星空に顔を向け、自分に言い聞かせるようにそのセリフをゆっくり言い出した。
たとえここは本の中の世界を気付かなくても、それはきっと将矢さんの本来の行き方でしょ。
「冬弥は冬弥のいいところがあるよ。兄さんと比べる必要はないじゃないか。そ…それに、冬弥はわたしの自慢の彼です。」
「ありがとう、みどり。」
冬弥さんはわたしの手をやさしく握った。
最後の一言はゆきみさんのセリフです。わたしはただ伝言をそのままリピートしただけだ。
「なんか二重デートみたいですね。」
ゆきみさんは嬉しそうに小さな声で言った。
「ゆきみさんと冬弥さんを応援します、何か言いたいことがあったら、わたしはその伝達役を任せてください!」
「いやいや、瑩さんも楽しめよ。あなたは冬弥をその知り合いに見えるのね、そのひとのことをどう思います?」
「茶会に会った人だから、よく分からないよ。でも、冬弥さんのような優しい人と思いますよ。そういえば、もし冬弥さんの中身はずっと将矢さんなら、ゆきみさんが好きになったのは将矢さんじゃない?」
「ああ、それもありえるね、その可能性が見落とした。ちょっと混乱になるかも…将矢と言うんだ。」
どうやらゆきみさんはその見落としたことを真剣に考えてるらしい、暫く声を掛けてこなかった。
満天の星と対視するわたしは突然大事なことを思い出して、冬弥さんに質問を投げた。
「そうだ、冬弥、彩くんと唯ちゃんを知ってる?」
「聞いたことはないな、みどりの友たちですか?」
「ああ、そうですね。今度紹介しますね。」
「いいよ。こうしてみどりと一緒に星空を眺めるのは本当に幸せです。」
冬弥さんはこっち向けて微笑んでみせた。わたしも微笑んで返した。
もしみんながこの物語の終わりに一緒に帰れたら、ゆきみさんと将矢さんはまた会えるといいな。ふたりがこの物語に残して、みどりと冬弥として一緒になれるのもいいね。わたしが決めることではないが、みんなが幸せになれるといいな。




