第13話 越の風華 第三部 ~ヤコブ予言殺人事件~ 後編
《大和太郎事件簿・第13話/越の風華・第三部》
〜ヤコブ予言殺人事件〜
=後編=
『三ぜん世界一同に開く梅の花、艮の金神の世に成りたぞよ。梅で開いて松で治める、神国の世に成りたぞよ。』 (明治25年旧正月、大本教教祖・出口なお 大本神諭・初発の神勅)
越の風華126;
2013年7月8日(月) 午前10時ころ マカオ半島のペドロ邸での十人会議
切妻屋根のある洋館2階の会議室でブラッククロスの十人会議が始まった。
円卓のある会議室中央には大和太郎が盗聴器を仕掛けたアンコール・ワットのジオラマ模型が置かれている。
「今年の4月8日にギリシア・デルフィ遺跡で請けたアポロンの神託に従い、それ以前から行っていたナンバーエイト計画をナンバーテン計画に変更して推進中ですが、計画の成功には、あと2人の生贄である犠牲が必要です。ナンバーエイト計画では厄神スサノオ、すなわちアレキサンダー大王の復活で『終わりの日』を導く予定でした。しかし、デルフィ遺跡で請けた神託を優先させ、一気に世界を変えることにしました。
『十の犠牲と十の祈りが世界を新しく導く。この謎を解くものが終わりの日から新しい世界を導くことになる。』それがアポロンの神託でした。そして、アポロンが謂うところの正体不明のホワイト・クロスも計画を進めているはずです。我がブラッククロスが世界の導き手となるのです。ホワイト・クロスに先を越されてはなりません。さて、残り2名の候補者は見つかりましたか、ナンバー・テン?」とナンバー・ワンが訊いた。
「はい。ヤコブの子孫、失われたイスラエル十氏族の血を引く男で諜報活動をしている人物2名を見つけました。先日、特別行動要員には実行命令をくだしました。ほどなく、報告が届くことになるでしょう。」とナンバー・テンが言った。
「結構です。成功を祈りましょう。」とナンバー・ワンが言った。
「十の言葉とはモーゼの十戒の事かどうかですが、どのように考えたのですか、ナンバー・ワン?」とナンバー・セブンが訊いた。
「現在のところ、モーゼ十戒の可能性も考えイスラエル産の白い石板を用いているが、石板が問題なのではないのです。『祈りの言葉』の内容です。それがどのような言葉なのか。モーゼの十戒なのかどうか・・・。そのヒントはアンコール・ワットの十字回廊にあると考えています。『終りの時、イスラエルの神・ヤハウェは十戒の石板が納められた失われた聖櫃のあり場所を示す。』と云う予言者・エレミヤの言葉があります。古い世界の終りの時とは新しい世界が始まる時なのです。その時、聖櫃の中にある十戒の言葉があらためて必要なのでしょう・・・、たぶん。
そして、十の犠牲者に関しては、ヤコブの予言にある失われた十氏族に関する人物でなければならないと私は推理しました。
なぜなら、ヤコブは次のように言いました。
『集まりなさい。終りの日に貴方がたに起こることを告げる。』そう、終りの日、すなわち失われた聖櫃の在り処がわかるときにイスラエル十氏族に何か事件が起きると、イスラエルを名乗るヤコブは言ったのですから。予言は実現しなければなりません。」とナンバー・テンが答えた。
そして、続けた。
「カンボジアのアンコール・ワットは日本の鶴岡八幡宮の映し鏡です。それは日本の宇佐八幡宮に端を発し、石清水八幡宮、そして鶴岡八幡宮へと遷移しました。八幡宮の祭神は八幡大神であり、この神はヤハウェではないかと考えられます。宇佐八幡宮の在る地が神ヤハウェが現れたシナイ山。石清水八幡宮が在るところがイスラエル・ソロモン王時代のエルサレム。それは現在のシリアの地・パルミラ。ローマ帝国時代はシルクロードの東西貿易の隊商都市として栄えた。それはローマ帝国が支配する以前の古代都市の時代からのこと。旧約聖書やフラウイス・ヨセフス『ユダヤ古代誌』第8巻には当時タドモルと呼ばれていた現在のパルミラにはソロモン王が創建した都市があったと記されている。そこにあった古代神殿、それこそが聖櫃の置かれていたエルサレムのソロモン神殿なのです。石清水八幡宮のある男山がモリヤの丘に相当します。そして、鶴岡八幡宮こそがソロモン王が失われた聖櫃を隠した地に相当します。アンコール・ワットが建っている土地には、それ以前にソロモン王が建てた神殿のあったはずです。12世紀にアンコール・ワットが建設された時代には、何かの遺跡が残されていたはずです。ヤハウェはソロモンの建てた神殿が朽ち果てたためにアンコール・ワットに作り替えさせたのだと、私は推理しました。だから、モーゼの十戒が十の言葉である可能性があります。それが十の祈りの言葉のはずです。なんとしても、ナンバーテン計画は成功させなければなりません。みなさん、ブラック・クロスによって新しい世界の幕開けを告げようではありませんか。」とナンバー・ワンが強く言った。
越の風華127;
2013年7月16日(火) 午前10時ころ 東京・溜池のアメリカ大使館会議室
マカオ半島のペドロ邸での盗聴内容をCIAのジョージ・ハンコックがプロジェクト『BC』の残り6人のメンバーに対して報告した。
「残りの二人の国籍と名前は判らないのか?」とアメリカ人私立探偵のスティーブ・キャラハンが訊いた。
「ああ。不明だ。」とハンコックが言った。
「ブラッククロスは神託に基づいて計画を立てていたのですか。『十の犠牲者と十の祈りの言葉』。それで世界制覇を狙っている・・・。そんなことが可能なのだろうか・・・?」とアメリカ海軍情報部のナンシー・イーストウッド中尉が呟いた。
「神による加護がなければ世界の指導者などにはなれません。」とイスラエル人私立探偵のヘンリー・コーエンが言った。
「しかし、ブラッククロスはアレキサンダー大王の復活を最初には計画していたのか。日本のスサノオ復活伝説は西洋のアレキサンダー大王の復活なのか・・・。厄神スサノオは自分の子供である八将軍神を連れて末代、すなわち終わりの時に舞い戻るのだったな。とすると、厄神スサノオの復活は(1+8)のはずだ。しかし、アレキサンダー大王の復活は(1+7)なのか・・・。ブラッククロスはどのような考え方をしたのだろう。また、アランが考えたように(1+7+10)だとすると・・・。よく判らないな・・・。京都へ行って、西洋の神話も研究している藤原教授と鞍地研究員に話を聞いてみるか。」と大和太郎はハンコックの報告を聞いて思った。
「ところで、シシリー島のパレルモにあるアラブ風大邸宅への潜入調査計画の進み具合を報告願います。」とハンコックが言った。
「あと3カ月後にはナンシーがガーデナーの一員としてそのアラブ風大邸宅に潜入出来るだろう。現在、大邸宅内の庭園の植栽にMI6のリチャード・ドイルの協力を得て、工作を施しているところだ。」とフランス対外治安総局・DGSEのアラン・ギャバンが言った。
「庭園の植栽に工作?」と大和太郎が呟いた。
「ああ、英国風の庭園が邸宅内に造られている。そこに2ヶ月後には事件が起きることになっている。ところでナンシー、英国風ガーデニングの勉強は進んでいるかい?」とアラン・ギャバンが言った。
「現在、特訓中よ。まかしておいて。」とナンシーが答えた。
越の風華128;
2013年7月23日(火) 午後3時ころ 京都・D大学藤原研究室
大和太郎と藤原大造教授、鞍地大悟研究員が会議室で話している。
「アレキサンダー大王の復活ですか・・・?聞いた事はありませんね。」と鞍地が言った。
「さて、あの人かな?」と教授が呟いた。
「あの人とは?」と太郎が訊いた。
「トゥーレ財団のカール・クリューガー氏だ。彼は、地中海でアレキサンダー大王が持っていたゴルゴン三姉妹の末娘・メドーサの首のレプリカを探していました。私が、北緯35度58分のライン上でキプロス島北部の地中海を探してみるようにアドバイスをしました。そして、そのメドーサの首と一緒に勝利の女神ニケの霊魂が宿っているはずと教えました。」と教授が答えた。
「それが、アレキサンダー大王の復活とどのように関係するのですか?」と太郎が訊いた。
「アレキサンダー大王はアジアに眠ると謂われている失われた聖櫃を求めてインドから東南アジアを目指して進軍していましたが、ギリシア人将兵の反対でインドの手前でスーサに引き返しました。そこで、病に倒れ、33歳の若さで死亡しました。しかし、その思いを断ち切れておらず、生まれ変りを希望していたとしたらどうでしょうか。カール・クリューガー氏がメドーサの首を発見し、何らかの方法でアレキサンダー大王が復活を願っていたことを知ったとしたら・・・。」と教授が言った。
「カール・クリューガー氏ですか・・・。」
「先日、世界ペトログラフ(岩刻文字)学術協会の2013年度総会の特別ゲスト講演者として中東のドバイへ行った時、彼にお会いしました。」
「何か面白い話でもしたのですか?」
「かれは厄神となって復活する日本の神・スサノオについて訊いてきました。しかし、彼はスーサの王であったアレキサンダー大王の復活を考えているのだと、私は直感しました。何故にメドーサの首が、鹿島神宮の明石海岸・見目浦と同じ緯度にあるのかです。ゴルゴンのメドーサ、彼女は、本来は美女であり、海神ポセイドンが見染めた女性でした。たぶん、アレキサンダー大王は、メドーサの首と勝利の女神ニケの霊魂をポセイドンに渡すことによって、復活の力をポセイドンから得る約束を取り付けたのではないでしょうか? 単なる私の推理ですがね・・・。」と教授が自分の考えを太郎に言った。
「なるほど。教授の直感は当たりますからね・・・。」と太郎は感心しながら言った。
「ところで、(1+7)の1がアレキサンダー大王として、7は何ですかね?」と太郎が唐突に訊いた。
「なんんですか、その(1+7)とは?」と教授が訊いた。
「詳細はお話できませんが、今、取り組んでいる事件に関する問題なのです。」
「そうですか。何かの事件を解決するためのヒントを探しているのですね。判りました。」
「よろしくお願いします。」
「1がアレキサンダー大王だとすれば、7は古代の戦車ですかね。北斗七星は日本では柄杓の形をしていると解釈しますが、西洋では荷車や王の戦車として捉えられています。7がアレキサンダー大王の乗る戦車と考えるならば、スーサの王であったアレキサンダー大王の復活は戦争が引き起こされると云う意味かも知れませんね。また、北斗七星は七剣星とも呼ばれており、武器でもあります。」と鞍地研究員が言った。
「別の視点もありますよ。アレキサンダー大王は戦闘用の防護具・イージス(アイギス)にメドーサの首のレプリカを嵌め込んで戦っていました。イージスはギリシア神話では鍛冶・金属の神・ヘパイトスによって作られ、アテナ神に与えられた防具のことです。古代ギリシアを征服したアレキサンダー大王はアテネのパルテノン神殿に祀られていたアテナ神像のメドーサの首から彼女自身の霊魂をメドーサの首のレプリカに遷し自分のイージスに縫いこみました。ちなみに、アテナ神のイージスを作ったのはヘパイトスと云う鍛冶の神です。また、アテナ神像に止まっている翼を持っている勝利の女神ニケの霊魂を得て、連戦連勝を重ねます。ところで、日本の鍛冶・金属の神様は南宮大社に祀られている金山彦神です。南宮大社には七王子神社と云う摂社があります。七王子は大山?神、高?神、闇?神、中山?神、麓山?神、正勝山?神、錐山?神です。高?神、闇?神、は白龍と黒龍となって姿を表します。中山?神、麓山?神、正勝山?神、錐山?神の詳細は不明です。ところで、鍛冶・金属の神・ヘパイトスはシシリー島のエトナ火山の地中に住んでいました。鍛冶の神ですから火に関係することもありますね。」と教授が言った。
「南宮大社の摂社・七王子神社ですか・・。大山?神は瀬戸内海の大三島にある大山?神神社の祭神ですね。」と太郎が言った。
「そうです。大山?神社には過去の武将たちが奉納した刀剣・弓矢・甲冑などの武具が多くあります。日本の神社全体に奉納された刀剣の80%がこの神社にあるとされています。天智天皇の時代の朝鮮半島白村江の海戦、平安時代の藤原純友の乱、源平の檀の浦合戦、鎌倉時代の元冦の役などにはこの大三島が海軍の基地となっていました。大山?神神社は水軍の神様でもあります。」と教授が付け加えた。
「大山?神は富士山の祭神である木花咲耶姫命や榛名富士の祭神である石長姫命の父神でしたよね。」と太郎が言った。
「そうですが、大三島には関係がないでしょう。」と教授が言った。
そして、藤原教授が会議室の壁に貼ってあるA0サイズの日地図と世界地図を見ながら面白い推理を話した。
「ところで、日本は世界の縮図と云う観点で考えると、瀬戸内海にある大三島、ここは、イタリア半島の地中海にある、ここシシリー島です。」と日本地図と世界地図の点を指しながら教授が言った。
「その理由は?」と太郎が訊いた。
「瀬戸内海にはイタリア半島に相当するような半島は見当たりませんが、自衛隊の基地がある呉がローマ、と考えると、江田島と能美島がコルシカ島、倉橋島がサルジニア島、そして、ここの広島市から竹原市につづく海岸線の島々がイタリア半島に相当すると考えると、大三島がシシリー島に相当します。シシリー島には、3個のテラモーネと呼ばれる人像柱があります。テラモーネは高さ7.75mの石積みの柱で、オリンピコ神殿の横梁を支えていた石柱です。その3個はそれぞれ、『アジヤ』、『アフリカ』、『ヨーロッパ』を表象しているとされています。世界規模で考えると、『アジヤ』、『アフリカ』、『ヨーロッパ』はそれぞれ三つの大きな島とかんがえられます。ですから、神の意志によって、瀬戸内海のこの島は大三島と命名されたのです。ですから、世界のシシリー島の縮図は日本の大三島と推理できます。そして、この島は古代には水軍の拠点だったことでも共通します。」と教授が言った。
「なるほど、そう云うことですか。いずれにしても、(1+7)は戦乱と関係がありそうですね・・・・。」と太郎が腕組みした。
「たしか、南宮大社には蛇山神事という5月5日の例大祭がありました。御旅社への神幸から戻って来た神輿を蛇山の龍神が迎える儀式でした。神輿には主祭神・金山彦神、摂社二の宮祭神の大己貴命、摂社三の宮祭神の木花咲耶姫命とニニギノ命が乗っていました。」と鞍地大悟研究員が言った。
「龍神が金山彦神・大巳貴命・木花咲耶姫命を迎える神事ですか。何か意味があるのですかね・・?」と太郎が言った。
「さあ、どうでしょうか・・・? 龍神の毛髪や腹部は赤色で作られていますから赤龍ですかね・・・。摂社・二の宮は樹下神社と呼ばれていますが、江戸期までの神仏習合時代には十禅師神社と呼ばれていました。」と鞍地が言った。
「十禅師ですか・・・。」と太郎が呟いた。
「十禅師の十の意味は10人の僧侶を意味するとされていますが、私は十字架と関係するのではないかと想像しています。」と鞍地が言った。
「十字架ですか? その意味は?」と太郎が訊いた。
「終わりの時、救世主が現れる。十禅師とは救世主です。それが大巳貴命であるのかも知れません。終わりの時は新しい時代の始まりの時でもあります。」と鞍地が言った。
「終わりの時、新たなる時代の始まりを迎える神業を終えた金山彦神・大巳貴命・木花咲耶姫命を赤龍が迎えると云うのが蛇山神事の意味ですか・・・。なるほど、鞍地研究員は大胆な発想をしますね・・・。」と太郎は感心した。
「たしか、1987年2月に日本を訪問した予言者のリトル・ペブルは、白い十字架を持った7位(7名)の天使たちと紫のガウンを身に付けたイエス・キリスト、そして、紫のマント着た聖母マリアを幻視(霊視)しました。そして、富士山の上空に白い十字架が現れた一週間後に富士山が爆発するとキリストから告げられたと云うことです。(1+7)の7は7位(7名)の天使を意味する訳ですか・・・。1は救世主ですかね。鞍地君は面白い発想の持ち主ですね。」と藤原教授が言った。
「藤原先生。リトル・ペブルの予言は実現しないので有名ですよ。リトル・ペブルが主宰する『聖シャーベル修道会』はいろいろと問題を起こし、バチカンから解散要求を出されています。また、性的教義を掲げるなど、社会的にも信用をなくしています。ほんとうに富士山が爆発するのですかね・・?」と鞍地研究員が疑問を呈した。
「さて、そこです。リトル・ペブルは自称です。本名はウィリアム・カムと云います。1950年にドイツのケルンで生まれたことになっています。」と教授が言った。
「ケルンと云えば、ホロスコープ(占星星座)の啓示を解読してエルサレム近郊のナザレを訪問し、イエス・キリストの誕生を祝った占星術師・東方の三博士の遺骨を納めた黄金の棺があるケルン大聖堂がありますよね。」と太郎が、キアッソ事件を思い出しながら言った。
「その通りです。18歳の時、リトル・ペブルは神の啓示を受けたと言われています。ケルン大聖堂の影響かどうかは判りませんが、紫の衣服を着用したイエスや聖母マリアを幻視したのが事実とすれば、リトル・ペブルの存在は何を意味するのかです。皇祖皇太神宮を主宰した竹内巨麿の例もあります。竹内巨麿は北茨城、富山滑川、岐阜鷺山に皇祖皇太神宮の本社・分社を設置し、キリストの墓地を特定し、指定しました。その意味は以前にお話した通りです。社会的意見に振り回されずに真実を見極める目を養わねばなりません。ここで、リトル・ペブルの予言を持ち出したのは、予言が実現しない可能性の方が大きいと云うことですが、気になるのが『白い十字架が富士山の上空に現れる』と述べている件です。何故に白い十字架が現れるのかです。それは何を意味するのかを推理する必要があります。」と藤原教授が言った。
「白い十字架ですか。」と太郎は鞍地研究員の姉・鞍地麗子がブラック・クロスに誘拐されたかけた事件を思い出していた。 (第10話・鞍馬月光を参照)
「あれは確か、ブラック・クロスが関係する7人の山伏たちが秋田県の八郎潟にある海抜0mの大潟富士と呼ばれる人工の小山に木の十字架を立てていたのだったな・・・。それは何の儀式だったのだろう。そして、木の十字架は青森県の十和田湖の方面に向けられていた。十和田湖の近くには竹内巨麿がキリストの墓がある場所と言った新郷村戸来の里・十来塚があったな。そこにはイスラエルから贈られた白い石が埋められていた。そういえば、十来塚に立てられていた木の十字架には白く塗装された痕跡があったな・・・。何故に白く塗られたのか・・・。あれは、いつ頃に立てられた十字架なのだろう。」と太郎は青森県にあるキリストの墓を思い出していた。
そして、藤原教授の話を聞いた鞍地研究員が、ケルンに関する世界の縮図の話を始めた。
「最初に大和探偵から出たアレキサンダー大王の復活の件ですが、ドイツのケルンは日本の島根県佐田町に相当します。佐田町には須佐之男命を祀る須佐神社があります。かつて、東方の三博士がナザレをイエスの誕生を祝いにエルサレムを訪れた時、『ユダヤ人の王が誕生される印の星を見ました。』と言いました。東方の三博士は『(世界の)王』と言ったのです。イタリアのミラノからドイツのケルン大聖堂に運ばれた東方の三博士の遺体は『スーサの王』・アレキサンダー大王の復活を暗示していると考えられます。それが、島根県佐田町に須佐神社がある意味です。かつて、13兆円のアメリカ国債をケルンに運ぼうとしたキアッソ事件の意味が『スサノオ』の復活を実現するための数字『13』なのではないでしょうか。『13』とは有効である事を示す数字です。」と鞍地が自分の推理を言った。
越の風華129;
2013年7月24日(水) 午後4時ころ 東松山駅前の大和探偵事務所
京都から今、大和太郎は埼玉県東松山市にある探偵事務所に帰って来た。
そして、事務所のドアーを開けた時、事務机の電話が鳴った。
太郎は事務机まで行き、電話を取った。
「はい。大和探偵事務所でございます。」
「毎朝新聞の向山だが、大和探偵か?」
「はい、そうです。ご無沙汰しています。」
「その後、自殺したとされる松永雅洋金融担当相の件の調査は進んでいるのか?調査料を払わないから、そのまま放っているのだろう。違うか? 前回の報告から8カ月も経っているが、どうなっているのだ。」と、やや憤慨している声が電話から聞こえてきた。
「報告が遅れて申し訳ありません。優先すべき仕事のため、報告が遅れていますが、新たな情報を掴んでいます。明日、貴社にお伺いいたします。時刻はいつがよろしいでしょうか?」
「そうだな。午後3時ころでどうだ?」
「かしこまりました。では、明日午後3時に訪問いたします。」
越の風華130;
2013年7月25日(木) 午後3時ころ 毎朝新聞社・会議室
大和太郎、社会部部長の向山正邦、鮫島姫子の3人が応接テーブルを挟んで話している。
「『週刊真調』に松永雅洋金融担当相の愛人問題の記事を書いたルポライターの大木吾朗が6か月前から行方不明になっていることが判明した。彼の実兄から警察に捜索願いが出されたようだ。
」と社会部部長の向山が言った。
「記事の真偽を知っている人物が姿を消した訳ですか。」と太郎が言った。
「大木吾朗は独身者だが、友人たちに何の連絡もなしに行方を晦ますとは考えにくい。記事を書かせた人物か組織に消されたのかも知れん。『週刊真調』の編集長にも聞いたが、大木の行方は知らないそうだ。」
「そうですか・・・。」
「まあ、大木の件はさて置いて、その後の報告を聞こうか。大和探偵のご意見に従って、中村竜の尾行を中止したのだからな。確か、中村竜の背後にいる組織はアラビアン・ビークルと夜来香貿易だったな。その辺の状況から聞こうか。」と向山部長が言った。
「判りました。岡山県玉野市T団地にあるAV総業の工場のことはご存じでしたよね。」
「ああ、半田警視庁との会議の時に訊いた企業だったな。そこに、正体不明の外人たちが集合していたのだったな。そこまでは8カ月前に聴いた。」と向山部長が言った。
「その工場の中に疑似パルテノン神殿が建てられていました。ギリシアのアテネにある本物のパルテノン神殿の二分の一くらいのサイズでした。中村竜を含む11人の人物はその疑似パルテノン神殿である種の儀式を行うつもりだったようです。しかし、それを妨害する対立組織によって妨害されたものと思われます。疑似パルテノン神殿に祀られていた木製のアテナ神像は燃やされてしまい、儀式は失敗しました。そして、その11人は富山県高岡市にあるオメガ教団日本支部の前に放置されているのが発見されました。オメガ教団高岡支部は日本国内ではオメガ教団本部とされていますが、本来の本部はモンゴルのウランバートルにあります。まあ、もともとの母体があのアルファ真理教ですから、日本に実質の本部があるのが当然ですがね・・・。それで、警察がAV総業の工場を家宅捜査した時には、疑似パルテノン神殿は残っていましたが、解体をする直前だったようです。そして、燃えて黒く崩れ落ちた木製のアテナ神像がその中にあったそうです。これは、半田警視庁からの情報です。」と太郎が言った。
「その対立組織の正体は、判っているのですか?」と姫子が訊いた。
「神威示現斎こと岳内太郎が関係する護国組織です。」と太郎が言った。
「あの岳内太郎が動いているのか・・・。」と姫子は思った。
「中村竜はオメガ教団と関係があった、と云うことは、アラビアン・ビークルと夜来香貿易もオメガ教団の手先企業と云うことになるな。」と向山が言った。
「その儀式の目的は何だったのでしょうか?」と鮫島姫子が訊いた。
「私の推理ですが、ゴルゴン三姉妹の末娘、メドーサの魂を復活させることだったのではないかと思います。」と太郎が言った。
「その理由は?」
「本来のアテナ神像にはメドーサの首が飾られていました。そして、メドーサの首には勝利の女神・ニケの霊魂が宿ると謂われていました。」と太郎が言った。
「メドーサが復活すれば、何が起こるのだ?」と向山が言った。
「メドーサは、本来は美女でした。海神ポセイドンが見染めて、アテナ神を祀るパルテノン神殿で事に及んだため、アテナ神によって怪物に変身させられたのです。メドーサの魂を海神ポセイドンに捧げる事によって、海神ポセイドンの力を借りるのが目的だったのではないかと、私は推理しています。」と太郎が言った。
「海神ポセイドンの力を借りるとどうなるのですか?」と姫子が訊いた。
「スーサの王であったアレキサンダー大王の復活です。」
「すなわち、厄神スサノオの復活と云うことか。末世立法・オメガ教団の終末思想の実現か・・・。」と向山部長が言った。
「たぶん。」と太郎が同意した。
「話は変わるが、キアッソ事件を追っていた松永雅洋金融担当相の件はどうなっている?」と向山部長が訊いた。
「これも、オメガ教団が関係していると思われますが、確証はありません。」
「オメガ教団のヒットマンが松永金融担当相を自殺に見せかけて殺したということか?」と向山が言った。
「日本人の正体に近づいていた松永金融担当相を殺したのではないかと思います。情報源は明かせませんが、イタリアとスイスの国境にあるキアッソ駅で拘束された二人の日本人はオメガ教団の傘下企業から臨時アルバイトとして雇用され、日本からイタリアに出向いています。」と太郎が言った。
「その二人は、イタリアのミラノからスイスのチューリッヒまで行くつもりだったのだよな。」と向山が言った。
「姫子さんからの情報ではそうですが、私の得た情報では、もう一人、オメガ教団に雇われた人物がいたようです。」
「3人いたのか・・・。」と姫子が呟いた。
「3人の日本人が持っていた切符ではイタリアのミラノからスイスのチューリッヒまででしたが、本来の目的地はドイツのケルンだったと推理しました。チューリッヒで3人は合流する手はずだったようです。」と太郎が言った。
「どういうことだ?」
「ドイツのケルン大聖堂には、イエス・キリスト誕生を祝った東方の三博士の遺骨が保存されています。」
「占星術師の東方三博士ですか・・。」と姫子が呟いた。
「オメガ教団に雇われた日3人の本人は東方三博士を意味します。13億円の国債を引き出物にして東方三博士の復活を計画していたと推理しました。」と太郎が言った。
「東方三博士が復活したら、どうなるのだ?」と向山が訊いた。
「救世主イエス・キリストを再臨させ、自分たちのために救世主を自由に操る計画では無かったかと私は推理しています。」と太郎が言った。
「救世主の再臨か・・・。」と姫子が呟いた。
「大和太郎の推理か・・・。松永金融担当相を殺した犯人はオメガ教団のヒットマンか。この話の裏(証拠)を取るのは難しいな。新聞の記事には出来ないかな・・・。」と向山部長が考えるように言った。
「部長。推理小説して連載にすればどうですか?フィクションですが、松永金融担当相事件を連想させると云うのはどうですか?」と姫子が言った。
「なるほど。豊玉姫子女史の推理小説か・・・。行けるな・・・。」と向山が呟いた。
「どうです?」
「姫子。一週間以内に構想をまとめろ。それを基にして専務を説き伏せ、文芸部を動かしてみる。」と向山が言った。
「判りました。」と姫子が嬉しそうに言った。
越の風華131;
2013年9月26日(木) 午後1時ころ アメリカ・ニューヨークの繁華街
一人のロシア人男性が昼食終えてレストランから出てきた。
そのロシア人に一人の女性が近づき、話しかけた。
そして、何かを話しかけながら白い小さな石板を手渡した。
そして、女性がロシア人男性から離れた時、男性は突然に倒れた。頭から血が流れている。
近くを歩いていた通行人が倒れた男性を覗き込んで、叫んだ。
「救急車を!」
この男性に話しかけていた女性はすでに姿を消している。
ブラッククロスが求める第9番目の犠牲者はロシア人であった。
越の風華132;
2013年10月1日(火) 午後4時3分ころ 池袋西口広場近く
北辰会館本部での空手の稽古を終えて、大和太郎が『弁慶寿司』に向かって歩道を歩いている。
歩道わきに立っていた一人の白人女性が大和太郎を呼び止めた。
「Can I ask a favor of you?」(おねがいがあるのですが?)
「Sure.」(いいですよ。)
そして、その女性がハンドバッグから白い小さな石板を取り出した。
それを見た瞬間、太郎は女性の鳩尾に左手で『当て身』の一撃を加えた。
女性は気絶し、その場に倒れた。
太郎は一撃を加えると同時にその場を離れ、近くの建物の影に走り込んだ。
「何処かに狙撃手がいるはずだ。どこだ・・・? あのメトロシティホテルのどこかの一室に居るのか・・・?」と思いながら、太郎は周辺を見渡した。
昨日、ジョージ・ハンコックからニューヨークでロシアの諜報部員が狙撃によって殺されたことを聴いていた太郎は、その話を思い出していた。
「俺が狙われている・・・。」と太郎は思った。
「どこだ・・・。」太郎は焦りを抑えて、深呼吸をした。
そして、数分がすぎた。
「逃げたか・・?」と太郎は思い、建物に沿いながら移動し,倒れている女性を眺めた。
すでに、倒れている女性を5,6人の通行人がやや離れて取り囲んでいた。
誰かが携帯電話で119番通報をしている。
「すいません。私の知り合いです。」と言いながら太郎はその囲みの中へ割って入った。
しかし、横たわっている白人女性の頭からは血が流れ出ていた。
「気絶して倒れた時に頭を打ったか・・・?」と太郎は一瞬思った。
「違う。この頭の穴は銃弾が頭に命中した痕だ。狙撃手に殺されたな。死人に口なしか・・・。」と太郎は思った。
そして、太郎は救急車が到着する前に女性の持ち物を調べた。
白く小さい石板は自分のポケットに入れたが、身元を証明するパスポートなどは見当たらなかった。
そして、救急車のサイレン音が遠くから聞こえてきた。
越の風華133;
2013年10月3日(土) 某所の書斎
ブラック・クロスのナンバーワンがソファーに座って緊急報告書を見ている。
「日本人私立探偵の大和太郎を殺すのに失敗したのか。導き役の女性は始末したようだが・・・。明らかに自分が狙われていると判断して建物に身を隠したと思われる、のか・・・。何故、大和太郎は自分が狙われたと判断出来たのだ? 事前に情報を得ていたのか・・・。事前の調査報告ではアメリカ大使館に出入りし、CIAの下働きをしていた経験があるとの事だったな。CIAから一連の殺人事件の情報を得ていた訳か・・・。しかし、現在、アメリカ大使館に出入りはしているものの、大和太郎がCIAの仕事をしていると云う情報はなかったが・・・。アメリカ大使館のCIAと云えば、ジョージ・ハンコックと云う男がいたな。ジョージ・ハンコックはビッグストーンクラブのメンバーではないかと噂されている男だったな。ビッグストーンクラブが動いているのか・・・?もう少し詳細に調査する必要があったかな。さて、これからどうするかだが・・・。日本人はナフタリ族の血を受け継いだ藤原氏族が住む国だが・・・。そして、現在の日本人には藤原の血が流れているはずだ。別の人物を探すか・・。日本の自衛隊の情報部門の人間を探してみるか・・・。
『十の犠牲と十の祈りの謎を解く者が終わりの日から新しい世界を導く。』
それがアポロンの神託であった。
とすれば、終わりの日のヤコブの十人の息子たちが十の犠牲のはずだ。
父の床を汚したルベンは中国人。
王権を持つ獅子の子ユダはアメリカ人。
国々の民が従うシロとは、CHIRUと書ければ、赤い葡萄がCHINA(中国)、白い乳がRUSSIAだろか? 中国とロシアはアメリカに対抗するための上海協力機構の主要な構成国だったな。
シドンにまで至る広大な地域に影響力を有する海辺の帝国イギリスは、たぶんゼブルン。
シドンとは現在のシドニーとロンドンのことだから。
麗しい地に伏し、重荷を背負う奴隷イッサカルはイスラエル共和国。
周辺の脅威に恐怖する路傍の蛇・ダンは檀君神話を信じる韓国朝鮮人。
人間の踵を襲うガドは人を食べる龍の生きる伝説があるミラノ公国イタリア。
イタリア国土は長靴の形をしている。
王の御馳走を作るアシェルは料理の先進国フランス。
神の祝福があり、弓が弛むことのないヨセフは強い通貨マルクを有する国ドイツ。
獲物を噛み裂く狼であるベニヤミンはロシア。
そして、美しい子鹿を産んだ藤原一族の血が流れる日本人がナフタリ。
そして、ヤコブの墓はカナンの地に面した畑地にある。カナンの地から産出する白い石板がヤコブの墓石。イスラエルと呼ばれたヤコブはそこに眠りながら終わりの日の祈りが奉げられるのを待っている。最後の犠牲者ナフタリの血を・・・誰にするのか・・・。」
「それにしても、調査部からの報告ではアンコール・ワットの十字回廊からは何も発見されていないな・・・。学術調査団を行かせる手配をする必要があるか・・・。」とナンバーワンは考えを巡らせていた。
越の風華134;
2013年10月8日(木) 午前10時ころ 東京・溜池のアメリカ大使館会議室
プロジェクト『BC』のメンバー会議が6人で行われている。
「今回より当面の間、アメリカ海軍のナンシー・イーストウッド中尉は欠席になります。」とジョージ・ハンコックが言った。
「無事、シシリー島の大邸宅に潜入出来たということですね。」と太郎が言った。
「そういう事です。彼女からの情報によっては、皆さんに新たな行動を起こして頂くことになると思いますが、その時期は不明です。よろしく、お願いします。」とハンコックが言った。
「それで、今日の議題は何ですか?」と私立探偵のスティーブ・キャラハンが訊いた。
「実は、ブラッククロスに大和太郎氏が命を狙われました。第10番目の犠牲者として狙撃されました。しかし、接近して来た女性が白い石板を出したので、太郎はこの狙撃を察知し、無事に身をかわしました。このことから、ブラッククロスが第10番目の犠牲者としているのは日本人であると推理できます。今後も大和探偵が標的とされるのかどうかは不明です。現在、大和探偵にはCIAからボディガードを付けるようにしています。」とハンコックが言った。
「一度狙撃に失敗した標的人物を再度狙ってくる可能性は低いのでは・・・?」とアラン・ギャバンが言った。
「とすれば、新しい標的が選ばれるまでに時間があるのかな・・・?」とヘンリー・コーエンが言った。
「それは判りません。いずれにしても、十人目は日本人でしょう。」とハンコックが答えた。
「それで、白い石板は手に入れたのか、太郎?」とMI6のリチャード・ドイルが訊いた。
「ええ。しかし、その石板は日本の警視庁に証拠として取られました。」と太郎が言った。
「第9番目の犠牲者の石板に書かれていた文字は『YHWH 呉人』だったな。第10番目の石板には何と書かれていたのだ?」とヘンリー・コーエンが訊いた。
「『鶴岡八幡宮 呉人』でした。」と太郎が答えた。
「殺された十人の持っていた石板に共通する言葉は『呉人』と云うことか・・・。」とスティーブが言った。
「『呉人』とは『西から来る人物』を意味していると推理しています。」と太郎が言った。
「西から来る人物とは誰のことだ?」とヘンリー・コーエンが訊いた。
「古代中東地域の征服者・スーサの王であったアレキサンダー大王かもしれませんね。」と太郎が藤原教授の話に出てきたトーレ財団のカール・クリューガーの名前を思い出しながら言った。
「アレキサンダー大王・・・?」と一同が太郎を見詰めた。
越の風華135;
2014年1月1日(水) 東京都調布市の京王線・調布駅前
東京都府中市にある大国魂神社へ初詣に出かけた帰り道、田中義一が実家のある京王線調布駅に降り立った。彼にとって、大国魂神社への初詣は子供のころからの欠かせない行事であった。
田中義一が駅前の繁華街を南に向かって歩いている時、一人の日本人女性が彼に話しかけた。
そして、女性が去り、白い小さな石板を受け取った田中義一がその場に倒れた。
田中義一の手に握られている白い石板には『再来十字回廊 呉人』と書かれていた。
越の風華136;神託
2014年2月11日(火) 南宮大社の二の宮・樹下神社祠前
岐阜県不破郡垂井町に南宮大社がある。本殿の主祭神は鍛冶・金属の神様である金山彦命である。
その本殿の北側脇に二の宮・樹下神社がある。明治時代に神仏習合が廃止される以前は十禅師社と呼ばれていた。祭神は大己貴命である。
本殿の南側脇には三の宮・高山神社がある。祭神は木花咲耶姫命とニニギノ命である。
また、本殿の背後・西側には七王子神社がある。祭神は大山祗神をはじめとして七神である。
なお、南宮大社の現在の神紋は十六弁菊花紋である。しかし、昔は三つ巴紋を使っていたらしい。
二の宮・樹下神社祠の前で南宮大社の神職である青山深雪こと宝達奈巳が朝の祈りをささげている。
その時、神からの声が宝達奈巳の頭の中にイメージされていた。
『火継の祭を日置の地で行え。お前は日置族の血を引く者。準備は整っておる。その時が来た。』
越の風華137;
2014年2月17日(月) 午後6時ころ 東京杉並区青梅街道井草八幡善福寺交差点付近の食事処『越路』
二人の霊能者・青山東雲と青山深雪が食事をしながら神託を受けた『火継の祭』の話をしている。
「どこで行えば善いと思いますか、伯父さん?」と深雪が訊いた。
「日置の地としての候補地は数か所あるね。出雲半島か能登半島、兵庫県西宮市の夙川流域か芦屋神社がある芦屋川流域、そして埼玉県比企丘陵などだね。これらの地は古代に日置族が治めていた土地だ。日置族と云うのは天穂日命の子孫たちのことだが、深雪は日置族の子孫という事らしいな。天穂日命は大己貴命こと大国主命に仕え、大国主命を斎き祀った天照大御神の御子神。菅原道真も日置族だから亀戸天神にも天穂日命が祀られているね。大国主命を祀る出雲大社の本殿裏には天満宮がある。」と東雲が言った。
「大己貴の大神様は、準備は整っていると申されました。準備が出来ている土地は何処かですね。」と深雪が言った。
「どのような準備がされているのかだな。『火継の祭』のための人、物、施設のすべてが神によって準備されている場所がどこかだね。現地調査が必要だな。調査にはちょっと時間がかかるぞ、これは。」と東雲が腕組みをしながら言った。
「伯父さん、手伝ってくださいね。」と深雪が言った。
「ああ、大丈夫だ、任せておけ。しかし、どの程度の規模で火継神事を行えば良いのかだ。大己貴大神の神託か・・・。」と東雲が考えるように言った。
越の風華138;
2014年5月1日(木) カンボジアのアンコール・ワット
1000万ドルと云う多額の寄付をカンボジア政府にした民間の学術調査団・トウォーレ歴史研究会から派遣された人々がアンコール・ワットの十字テラス近くに設置された大きなテント小屋内に機材を運んでいる。
機材には壁や石床の背後にある空洞の存在を調べる超音波探索機が含まれている。
調査団は参道に続く基壇部や十字テラスから第一回廊、十字回廊、第二回廊、第三回廊などの床面を超音波探査する予定であった。
越の風華139;
2014年6月2日(月) 東京溜池のアメリカ大使館内の会議室
プロジェクト『BC』のメンバー会議がナンシー・イーストウッドを除く6人で行われている。
「ナンシーからの情報によると、先月、ブラッククロスによってアンコール・ワットで大掛かりな調査が行なわれたようだ。しかし、目的のものは発見されなかったそうだ。CIA本部で調査したところではトウォーレ歴史研究会という民間団体が実施したようだ。しかし、トウォーレ歴史研究会の実態は不明だ。シアトルに事務所が存在することになっているようだが、住所はでたらめだった。」とジョージ・ハンコックが言った。
「目的物とは何の事か?」とリチャード・ドイルが訊いた。
「たぶん、モーゼの石板が納められている失われたアーク(聖櫃)だろう。今年の1月にモサドの情報部員である日本人・田中義一が十人目の犠牲者として殺された。その後は白い石板を渡される殺人事件は発生していない。田中義一が最後の犠牲者とすれば、ブラッククロスの目的はモーゼの十戒が書かれた石板を手に入れること。昔から、世界の征服者となるための必要条件は失われた聖櫃に納められている十戒石板を手に入れることとされている。まあ、それが事実かどうかは不明だが。ブラッククロスの狙いは、たぶん世界支配だろう。」とハンコックが言った。
「それで、いつごろ、シシリーの大邸宅に乗り込むつもりなのだ?情報部員が十人も殺されているのだぞ。」とアラン・ギャバンが訊いた。
「現在、シシリーの大邸宅がブラッククロスの傘下にあるのかどうか、そして、十人の殺害に関与しているのかどうかの確証が得られていません。いずれにしても、乗り込むのはブラッククロスの組織の全体像の見極め、ブラッククロス壊滅計画が出来てからです。その前に、シシリーの大邸宅はどのような役割を果たしているのかを知らなければなりません。」とハンコックが答えた。
「それでは何時になるか判らないな。ナンシーも頑張らないと当分は帰って来れないな・・・。」とスティーブ・キャラハンが呟いた。
「それでは、そろそろこのプロジェクトも解散しますかね・・・。」とリチャード・ドイルが嫌味っぽく言った。
「失われた聖櫃は十字回廊には無かったということか・・・。藤原教授の推理は外れたのか・・・? しかし、何処にあるのかな・・・?エレミヤの予言では、終りの時、神がその在り処を示す、とされているが・・・。終りの時、それは新しい時代の始まりの時・・・。占星学では、すべての悪が洗い流される水がめ座の時代から幸福が訪れるうお座の時代への変遷の時。うお座のシンボル図は2匹の魚。それは霊魂を意味し、肉体と精神の象徴。そして、天球の太陽の軌道・黄道上を移動する月を含めた十個の惑星が十二星座宮の中をどのように動く時なのか・・・。もう一度、藤原教授と鞍地研究員の意見を聞いてみる必要があるかな・・・。推理する為の条件に何が欠けていたのかだが・・・。」と太郎は考えを巡らせた。
越の風華140;
2014年7月16日(水) 午後3時ころ 京都のD大学藤原研究室
八坂神社の祇園祭の見学をかねて、大和太郎は京都に来ていた。
いつものように、宿泊先は知人のホテル支配人に部屋を斡旋してもらった京都駅前にある京都Tホテルである。
もちろん、京都に来た目的は、失われたアークの所在を藤原教授たちと推理することであった。
太郎は烏丸今出川にあるD大学の西門を通って内学に入り、神学部のある建物に向かって歩いている。夏休みの為か、歩いている学生の数は少ない。
太郎は赤レンガ作りの建物の玄関をくぐり、藤原研究室のドアーを開けて中に入った。
「藤原教授はいらっしゃいますか?」と太郎は目の前の机に座って本を読んでいる男子学生に訊いた。
「大和太郎さんですか?」と学生が訊いた。
「そうですが。」
「そちらの会議室で先生と鞍地さんがお待ちです。」
「そうですか。はい、これはお土産です。」と言いながら太郎は東京駅構内で買ったお菓子を学生に渡した。
「ありがとうございます。」
そして、太郎は会議室のドアーを開けて中に入った。
藤原教授と鞍地大悟が壁に貼ってある世界地図と日本地図を見ながら会議テーブルを背にして、椅子に座って話している。
会議テーブルの上にはアンコール・ワット関連の書籍や文献、日本の道路地図などが置かれている。
「日本地図上の鶴岡八幡宮の位置は、世界地図ではアンコール・ワットの位置に間違いはないでしょう。」と鞍地が言ったところで、太郎が会議室に入ってきた。
「やあ、いらっしゃい。アンコール・ワットで聖櫃は見つからなかったそうだが、誰が調査したのかな?」と教授が太郎を見て、確認するようにいった。
「CIAの情報ですので、詳細は聞いていません。」と太郎が言った。
「トウォーレ財団のカール・クリューガー氏じゃないのかね?」と教授が言った。
「どうして、そう思うのですか、教授?」と太郎が訊いた。
「今年の4月にドバイであった国際会議でカール・クリューガー氏に会った。その時、鶴岡八幡宮の話をしたのだが、彼も鶴岡八幡宮とアンコール・ワットの関係を知っていたと私は感じた。それだけだよ。」
「アンコール・ワットを調査したのはトウォーレ財団ではなく、トウォーレ歴史研究会と云う民間団体でしたが、その実体は不明のようです。トウォーレと云う名称から推察すれば、確かに、カール・クリューガー氏が関係しているトウォーレ財団との関係がある可能性はありますね。」と太郎が言った。
「まあ、それはどうでもいいことです。アンコール・ワットにモーゼ十戒石板の入った聖櫃が無いとするならば、いったい、それは何処にあるのかです。」と教授が言った。
「今までの知識を総ざらいいたしましょう。」と鞍地が言った。
「アンコール・ワットに聖櫃があると推理した理由は、日本の八幡大神はユダヤ人の神ヤハウェ(YHWH)であると云う仮定が基本でした。大分県宇佐市の宇佐神宮に舞い降りた八幡大神は、京都府八幡市の石清水八幡宮へ勧請・遷宮され、更に神奈川県鎌倉市の鶴岡八幡宮に勧請・遷宮されました。宇佐神宮は世界地図ではエジプトのギーザの三大ピラミッドに相当します。石清水八幡宮はシリアのパルミラ遺跡。鶴岡八幡宮はカンボジアのアンコール・ワットと推理しました。それで良いですね。」と鞍地が言った。
「ヤハウェ(YHWH)が舞い降りたのはエジプトのギーザではなくて、エジプトに隣接するシナイ山です。日本地図では九州大分県の国東半島に相当します。」と太郎が言った。
「そこだがね、宇佐は国東半島の付け根にあり、ギーザはシナイ半島の付け根にあることから宇佐神宮と三大ピラミッドが重なると推理した訳です。モーゼがシナイ山でヤハウェ(YHWH)から十戒石板を納める聖櫃を製作したのはシナイ山の麓のユダヤ人たちの宿営地です。そして、その地の幕屋の祭檀に聖櫃を置きました。すなわち、シナイ山の付け根の位置にヤハウェ(YHWH)は祀られたと考えられます。ただ、エジプトのユダヤ人奴隷を引き連れてエジプトを出るエクソダスをモーゼに命じたのはヤハウェ(YHWH)であり、エジプトのギーザがエクソダスの出発点と考えた訳です。」と教授が言った。
「もう少し付け加えますと、宇佐神宮に祀られている比口羊神三女神はギーザの三大ピラミッドに祀られている神と同じと考えられるからです。」と鞍地が言った。
「それはどういう事ですか?」と太郎が訊いた。
「白昼夢予言者のジーン・ディクソンが1952年7月14日の夜に見た『知性と荘厳さを感じさせる幻の蛇』の白昼夢です。『その蛇は黒と黄色の縞紋様でけばけばしく彩られ、頭は小型のピラミッド形であり、光輝く目で智恵と理解を得るためには東方に目を向けよと教えていた。』と云う事でした。この夢の謎を解けば、ギリシア神話に登場するゴルゴン三姉妹は極東の日本に坐ます比口羊神三女神と云うことになります。黒と黄色の縞紋様の蛇は海蛇です。鹿島明石海岸沖の見目浦の海中岩座に坐る比口羊神三女神の一柱である市杵嶋姫命はゴルゴン三姉妹の末妹のメドーサです。鎌倉の江の島神社八角堂に祀られている妙音弁財天・市杵嶋姫命は蛇と共に祀られています。怪物のゴルゴン三姉妹を見たものは石になってしまいます。そこから、石で作られた三大ピラミッドに祀られているのはゴルゴン三姉妹だと推理出来ます。
もう少し違った視点から考えましょう。ギリシアの哲学者プラトンが書いた書物からエジプトの神官の話に登場するアトランティス人が三大ピラミッドの作り方をエジプト人に教えたと推理できます。幻の王国アトランティスが崇拝する神は海神ポセイドンでした。海神ポセイドンは奈良県の三諸山と呼ばれる三輪山に祀られた大神神社の海神・大物主大神です。そして、その神使は蛇です。大物主大神は大巳貴命と少彦名命の前に太陽のように光輝く船に乗って海上に現われた神です。美人のメドーサは海人ポセイドンとパルテノン神殿で契ったためにポセイドンの妻神とアテナ神の怒りを買い、怪物ゴルゴンに変身させられたのです。そのとき、メドーサを守ろうとした二人の姉も怪物ゴルゴンに変身させられました。その後、改心して美人に戻った三姉妹は日本の比口羊神三女神となったのです。ですから、世界の縮図の宇佐と世界地図でのギーザが同じ位置と考えるなら、三大ピラミッドは比口羊神三女神と繋がる神殿であり、三諸山とも繋がりがあると云うことになります。」と鞍地大悟が言った。
「なるほど。大胆な推理ですね。鞍地の考えを聞いていると竹内巨麿が書いた竹内文献を思い出します。」と太郎がいった。
「私の想像では、竹内巨麿に憑依した京都の鞍馬寺魔王尊が竹内文献を書かせたのですがね・・・。」と藤原教授が自説を述べた。
「確か、藤原教授の意見では鎌倉時代に居た常陸坊海尊や江戸時代に居た残夢老人にも魔王尊が憑依しているのでしたね。鞍地さんにも鞍馬の魔王尊が憑いていますかね・・・。」と太郎が冗談を言った。
「そうかも知れません。子供のころから鞍馬寺は私の遊び場でしたから。」と鞍地大悟が平然として言った。
「・・・・・・・・。」と教授と太郎は黙って顔を見合せた。
「また、ジーン・ディクソンが見た『幻の蛇は紫色の異様な光に照らし出されていた』と云う事です。紫色は救世主の色です。救世主、それはイエス・キリストです。」と鞍地大悟の言葉に熱気が帯びてきた。
「アンコール・ワットには失われた聖櫃が無かった。それでは、何処にあるのか、と云う事でしたね、大和探偵。」と鞍地が言葉を続けた。
「そうです。十字回廊の床下にあるのではないかと想像していたのですが、違ったようです。」と太郎が言った。
「それの答えは青森県の戸来塚にある救世主イエス・キリストの墓です。」と鞍地が言った。
「竹内巨麿がイエス・キリストの墓の場所だと言った戸来塚ですか?」と太郎が言った。
「そうです。戸来塚は十和田湖の東方にあります。アンコール・ワットの十字回廊は上から見れば『田』の字の形をしています。十和田の意味は『十』の字と『田』の字を和することです。『十』の字は祈り、『田』の字は十字回廊を意味します。すなわち、十和田湖は水濠に囲まれたアンコール・ワットを示しています。そこから少し離れた場所に救世主の墓があるのです。救世主の墓とはモーゼの十戒が書かれた石板を意味します。白い墓石です。戸来塚にはイスラエル国のエルサレム市から贈られた白い石板が置かれています。」と鞍地が言った。
「と云うことは、アンコール・ワットの近くにある墓所に聖櫃はあると云うことですか?」と太郎が訊いた。
「そのはずです。現在の鶴岡八幡宮に神殿を建て、現在の元八幡・由比若宮社祠の場所からそこに八幡大神、比口羊大神、神功皇后を遷したのは源頼朝です。京都の石清水八幡宮から鎌倉の地に勧請・遷宮したのは頼朝の父である源頼義です。その場所は現在の鶴岡八幡宮から南へ少し下った由比浜近くにある由比若宮神社だったのです。アンコール・ワットが鶴岡八幡宮とすれば、アンコール・ワットから南の方角にある墓所、あるいは霊廟に失われた聖櫃は眠っているはずです。」と鞍地が自分の推理を言った。
「そこはどこかだね・・・。」と言いながら、藤原教授は会議テーブルの上にある山川出版社・アンコール ワットの本を開いた。
「この本によると、アンコール・ワットのすぐ南にあるシェムレップ町の東方13kmの地点にロルーオス村があり、その村に三つ遺跡のバコン、ブリヤ・コー、ロレイと呼ばれる三つ遺跡がある。ロルーオス村は昔には『ハリハラーラヤ』と呼ばれた都であたらしい。バコンには881年にインドラバルマン1世王によって建立された中央寺院があるようだ。ここは明らかに先祖を祀る墳墓風の霊廟であるらしい。七頭蛇のナーガの石像もある様だね。ここが由比若宮社祠に当たるのかね。」と教授が言った。
「『ハリハラーラヤ』の都がイスラエルのソロモン王の作った町で、そこに、聖櫃があるのか・・・。『ハリハラーラヤ』とはどういう意味だろう? どこか、ヘブライ語の発音に似ているな・・・。」と太郎は思った。
「確か、十和田湖のすぐ南にある古代文明都市跡とされる迷ケ平から15Kmくらいの場所に戸来塚・キリストの墓がありました。十和田湖がアンコール・ワットの十字回廊を意味するとすれば、位置関係もバコン遺跡と戸来塚は似ていますね。」と鞍地が戸来塚へ車で研究旅行した時のことを思い出しながら言った。
「ところで、十和田には別の意味も考えられますね。」と太郎が言った。
「別の意味ですか・・・?」と鞍地が言った。
「東京の亀戸天神の神告によると、『株立ち』の『株』の字には『十』の字を用いよ、ということです。『株立ち』とは、『株』すなわち『太宰府天満宮』の分祠・分社を創建・勧請することです。人間が子孫・後継ぎを作るのと同じことです。すなわち、世嗣、継嗣、日嗣です。そして、十字回廊の『田』の字は木浴を意味し、心身を清めることを意味しています。すなわち、『十和田』とは新しく生まれてくる日嗣御子たちを清め、祝福することでもあるのでしょう。」と太郎が推理を述べた。
越の風華141;
2014年9月1日(月) 午後6時ころ 東京都杉並区青梅街道井草八幡善福寺交差点付近の食事処『越路』
「古代の日置族が治めた出雲地方と能登半島の周辺を約6か月掛けて調査したが、『日置の地』と思える場所は見当たらなかったよ。」と青山東雲が言った。
「次は埼玉県の比企丘陵ね。」と青山深雪こと宝達奈巳が言った。
「そうだね。比企丘陵がある東松山市には私立探偵の大和太郎氏が住んでいるね。彼をこのレストランで最初に見た時、『日置の風』の香りを感じたのを覚えている。彼に比企丘陵を案内してもらおう。」と東雲が言った。
「それが良さそうですね。良い結果に繋がればいいのですが・・・。」と青山深雪が言った。
越の風華142;比企丘陵?
2014年9月9日(火) 午前10時ころ 東松山駅前の大和探偵事務所
東武東上線の東松山駅の西口階段を降りると、目の前にある3階建ての小さなビルが目に入る。
そのビルには『大和探偵事務所 〜よろず相談、調査を安価でお請けいたします〜』の看板が架かっている。
大和探偵事務所はそのビルの2階にある。3階には大和太郎の居住室がある。
青山東雲が大和探偵事務所を訪問している。
事務所内の応接ソファに座り、二人が話をしている。
「お電話の話では、比企丘陵に火継神事を行うのに良い場所があるかどうかと云うことでしたが・・・。」と太郎が確認するように言った。
「そうです。青山深雪が南宮大社・二の宮の祭神である大巳貴大神から神託を請けました。その神託によれば、日置の地に準備した場所があると思われます。日置の地としての出雲と能登は調査しましたが適切な場所は見つかりませんでした。埼玉県の比企丘陵にはどのような場所があるかを大和探偵に教えていただきたいのです。」と東雲が言った。
「そうですか、判りました。比企丘陵は北丘陵と南丘陵に分かれています。北丘陵は東松山市と吉見町にまたがっています。この地図のこのあたりです。南丘陵は東松山市と鳩山町にまたがっています。北丘陵のポンポン山は大巳貴尊とその御子神である味?(あじしき)高彦根尊を祀る高負彦根神社があります。このあたりにポンポン山があります。そこの近くの八丁湖付近には原伏見稲荷神社もあります。この八丁湖付には大きな岩場があり、古代には火継神事が行われていた可能性があります。」と太郎が埼玉県道路地図を目の前に広げながら説明している。
「南丘陵はどうですか?」と東雲が訊いた。
「南丘陵は埴輪や土器、瓦を造った窯跡が多くあります。」と言いながら太郎は地図帳のページを捲り、説明を続けた。
「私が知っている範囲では、南丘陵には火継神事が行えるような岩場はありません。ただ、南丘陵のすぐ近くにある毛呂山町には大巳貴命と天穂日命を主祭神とする出雲伊波比神社があります。神社の参拝のしおりには大名牟遅神は国造りの神、天穂日命は出雲臣武蔵国の祖神と記されています。倭建命が東国を平定した後、侍臣・武日命に命じて創健させたのがこの神社です。その時、比々羅木鉾を奉納したとされています。古代、祭祀は出雲臣武蔵国造の一族が行ったとされています。この出雲伊波比神社は古墳と思われる小高い山・臥龍山の上にあり、本殿は東北方向を背にして建てられています。あと、鳩山町赤沼宮山台と云う場所に村社・氷川神社があり、祭神は建速須佐之男命、火之迦具土命、大雷命です。この氷川神社の近くに鳩山窯遺跡があります。」と太郎が地図で神社の場所を示しながら説明した。
「なるほど。とりあえず、それらの場所に案内していただけますか?」と東雲が言った。
「レンタカーを借りておきましたので、車でご案内します。それから、もう一点付け加える話があります。」と太郎が言った。
「何でしょう?」と東雲が訊いた。
「実は、2年前の9月に兵庫県西宮市にある越木岩神社境内で鎮魂帰神法が実施されました。この時、私も臨席していました。そして、霊媒である巫女の口から神託が述べられました。その結果、西宮市にある藤沢家の神棚が比企丘稜に遷されました。その神棚の祭神は江戸時代に大和郡山にある薬園八幡宮の神主に出雲大社から授けられ白巳です。巫女の口からは『大神様が舞降りる御座・神代』と述べられていました。現在、その神代が鳩山町の水沼家に祀られています。」と太郎が言った。
「出雲大社から授けられた白巳の神代が鳩山にありますか・・・。」と東雲が唸るように呟いた。
「はい。水沼家にも連絡入れてありますので、訪問することは可能です。」と太郎が言った。
「ぜひ、訪問しましょう。ところで、鎮魂帰神法を実施した越木岩神社境内の詳細な場所はどこですか?」と東雲が訊いた。
「天照大御神の遥拝社祠と六甲山菊理姫の遥拝社祠に挟まれた、市杵島姫大神を祀る祠の前で行われました。審神者の背後には天照大御神の遥拝社祠、巫女の背後には六甲山菊理姫の遥拝社祠がありました。巫女は白山家の国華さんでした。」と太郎が言った。
「白山家の国華さんが霊媒巫女でしたか。なるほど・・・。」と東雲が何かを考えるように言った。
越の風華143;比企丘陵?
2014年9月9日(火) 午後2時ころ 鳩山町へ向かうレンタカーの車中
青山東雲と大和太郎は比企丘稜の北丘稜地域を調査したあと、レンタカーで南丘陵地域に向っていた。
残暑の季節であり、外気温はまだ高いので車に備え付けのエアコンを入れているが、換気のために外の空気を社内に取り入れる為に4つある車窓を少しづつ開けて走っている。
「高坂ニュータウンにあった埴輪窯遺跡の付近は如何でした?」と太郎が車を運転しながら訊いた。
「北丘稜と同じく、火継神事を行う場所は見当たらなかったですね。南丘陵に期待しているのですが・・・。」と東雲が考えるように言った。
「これから、鳩山町と東松山市の境にある標高135mで比企丘陵最高峰の物見山とその頂上近くにある岩殿観音と呼ばれる岩殿山正法寺に行きます。718年ころの開基である正法寺には千手観音様が祀られています。鎌倉時代には廃寺となっていた正法寺は鎌倉幕府を開いた源頼朝の命で比企能員が復興させ、坂東33霊場の第10番札所とされました。観音堂には千手観音が祀られています。観音堂千手観音は頼朝の妻である北条政子の守り本尊として鎌倉幕府によって庇護されたようです。なお、観音堂は東北方向を正面にして建てられています。観音堂の東南側30mくらいの場所に直径5mくらいの湧水池があります。岩殿観音へ行った後は、鳩山町赤沼にある氷川神社に行き、その後で水沼家による心算です。」と太郎が言った。
「よろしくお願いします。ところで観音様の話ですが、6次元の正観音様は富士山頂に坐ます。5次元の聖観音をご本尊とする東京の金龍山浅草寺には年一回、正観音様が舞降りられます。浅草観音のご本尊は西歴628年(推古天皇36年)に隅田川から漁師の網によって引き揚げられた小さな観音像ですが、実は、白山菊理姫様の分魂です。ですから、浅草寺には清々しい風が吹いています。そして、4次元では観世音菩薩となって現われます。観音様は33相に化身されます。その33観音様の代表となるのが聖観音様です。人霊や龍神、天狗などが衆生を救おうと発願すると何かの観音様に化身する場合があります。」と東雲が観音様の次元変化・名称変化の話をした。
二人は物見山周辺を見た後、車を走らせ、赤沼の氷川神社に向かっている。
ケヤキ並木の坂道を登ると、走向方向の右手には針葉樹が生い茂る広大な敷地のH製作所中央研究所がある。走向方向の左手には欅、楢、椚などの高い広葉樹木が生い茂る雑木林が道路に沿って連なっている。
車はその小高い里山の舗装道路を走っている。
その時、霊能者・東雲が声を上げた。
「今、強い『日置の風の匂い』がします。ここで車を止めてください。」
太郎はブレーキを踏んで、車を道端に停めた。
太郎と東雲は車から出て、近辺を見渡しながら道路上を歩いた。
そして、近辺をキョロキョロと見渡しながら、太郎が訊いた。
「『日置の風の匂い』とはどのような匂いですか?」
「真夏の照り輝く太陽の下で成長しつつある緑色の稲穂が発する香りに似ています。それは、天穂日の大御神さまが出す霊的な香りです。」と東雲が答えた。
越の風華144;比企丘陵?;ステンレスヘンジ
2014年9月9日(火) 午後2時15分ころ 比企郡鳩山町「銀河の丘」
「あそこに見える銀色のモニュメントは何ですか?」と東雲が指さした。
雑木林の重なり合う樹木の向こう陰に銀色のモニュメントらしき建造物が部分的に見えている。
そして、雑木林への散策道の入口を通ってそのモニュメントの場所に行った。
「おお、これはヘンジです。ヘンジ(Henge)とは巨大を意味する英語hugeと遺産を意味する英語heritage、そして、太陽が昇る朝を告げる鳴き声を上げる雌鶏henを合わせた意味合いを持つ言葉です。」と東雲が言った。
「イギリスにある石柱群古代遺跡のストーンヘンジならぬ、日本の新しい遺産となるステンレスヘンジですかね。」と太郎が洒落て言った。
占聖術の12の各星座を表すシンボル図絵がエッチング彫りされている、銀色に輝き、高さの異なるステンレス角柱が12本、半円形状になるように等間隔に並べて建てられている。角柱の高さは左右両端が3mくらいで隣の柱に行くに従って徐々に高く成り、中央部の左右端から六本目にあたる2本の柱は7mくらいの高さになっている。角柱の半円形状の正面向きの面のみがステンレス地のままでピカピカ輝いているが、他の3面は銀白色に塗装されている。12星座の絵がエッチングされた角柱は左端(南側)から右端(北側)に向かって、かに座、しし座、おとめ座、天秤座、さそり座、射て座、やぎ座、みずがめ座、うお座、おひつじ座、おうし座、ふたご座の順に、内半径5mくらい、外半径8mくらいになるような半円形を形作るように並んでいる。
なお、星座の描かれたそれぞれの角柱はコの字を地面に伏せる様に立っている。すなわち、角柱は一本づつ円周に沿ってくぐり抜けられるようにコの字形をしている。それは角柱板をくりぬいてできた廊下の様でもある。人がくぐり抜けられる内穴幅は約2m、高さは2m以上になっている。半円形廊下の中心にはステンレス製の半球ドームが大きなお椀を伏せたように置かれている。それは天球儀の半球であった。直径が3.4mの半球ドームには、夏至ラインと冬至ライン、そして、その中間に春分・秋分ラインが描かれている。また天球儀天辺には太陽を模した方位を表す線画がエッチングされている。
ステンレス天球の周囲床面には等間隔で太陽周りの9惑星である水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星のシンボル記号が描かれた30cm正方のプレートが埋め込まれている。なお、占星術で吉凶を占うのに用いる惑星は水星、金星、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星と月と太陽を加えた10個である。地球は除かれるので注意されたい。
そして、天球儀の半球ドームは鳩山ニュータウンの家々を見下ろす様な高台の位置にあった。
「ニュータウンの向こう側から太陽は昇ってくるようですね。」と太郎が言った。
「そうですね。このステンレスヘンジが向いている正面の方向を確認しましょう。」と言いながら東雲はポケットから方位磁石を取り出した。
「この天球儀の正面は真東から丁度15度北に振れていますね。と云う事は、春分の日から約30日後にこのステンレスヘンジの正面から太陽が昇ってきますね・・・。4月22日頃ですかね・・・。」と東雲は考えるように言った。
「あちらにも何かモニュメントがありますよ。」と太郎がステンレスヘンジの50mくらい南側にある鉄骨と木板で組まれたフレームのみの建造物を指さした。
二人は30m×50mくらいの芝生が生えている広場を通り抜けてその建造モニュメントの前に立った。
そこにあるモニュメントの形状は下記の様である。
左端部は高さ1.4mくらい、直径20cmの4本の円柱が2.5m四方に建てられ、4本の円柱は4本のI型鉄骨で繋げられた枠組みモニュメント。
中央にはピラミッド状の高さ1mの四角錐の骨組みが載っているモニュメントがある。四角錐は高さ3.3mくらい、直径20cmの4本の円柱に乗っており、3m四方のI型鉄骨で繋げられた枠組みモニュメントが中央部にある。
右端部は高さ1.6m、直径20cmの9本の円柱の上に幅10cm、厚さ5cmの木板を並べた床が張られた5m四方のI型鉄骨枠組みモニュメント。木板が並べられているのは右端部のモニュメントだけである。
この板張り床のモニュメントには人が昇れるように簡単な幅2m、長さ4mの木製傾斜板が右端部右横側に造られている。木製傾斜板には人が昇る時の滑り止め用の階段木が6本打たれている。
そして、3つのモニュメントはそれぞれに重なり合う部分があり、繋がっている。
上空から見れば、東寄りに一辺が2.5mの正方形、中央やや南寄りに一辺が3mの正方形、西寄りに一辺が5mの正方形が、それぞれに一部が重なり合う形で製作されている。
「これは三ぜん世界を表している神殿ですね。天界と霊的に繋がっています。」と東雲が言った。
「三ぜん世界とは?」と太郎が訊いた。
「左端が仏霊界、ピラミッド屋根のある中央が神霊界、右の板張りの部分は我々が住んでいる現実(顕現)界です。そして、重なり合うことで、それぞれの世界には繋がりがあることを表しています。」
「三ぜん世界とは仏界、神界、現界のことですか。」と太郎が呟いた。
「過去、現在、未来でもあります。」と東雲が言った。
そして、三ぜん世界を表すモニュメントの前の芝生上には、直径19mくらいの円形の平坦な窪みがある。
「この窪みは何ですかね。UFOでも着陸した痕ですかね。」と太郎が言った。
「ちがいます。たぶん、火焚を行うために準備された場所でしょう。」と東雲が言った。
「火焚とは?」
「世の穢れを清める為に杉の木や松の木をカゴメ(六芒星)紋の形に置いて燃やします。」
「京都の鞍馬寺本堂前広場の床面に描かれているカゴメ紋と目的は同じですね。」と太郎が言った。
芝生広場を横切り、ステンレスヘンジに戻って来た東雲と太郎は半円形状の両端前から続いている64段の階段を降りた。
階段は1段が15センチメートルくらいの段差である。
階段の段数は下から12段+23段+19段+10段=64段で構成され、更に3段上がってステンレス天球儀と星座柱が埋め込まれ床面となる。
そして、丘の麓に降り立ったところにある名前表示板の文字を見た。
そこには『銀河の丘』と書かれていた。
その後、東雲はポケットから小型のデジタルカメラを取り出し、銀河の丘の主要な部分を写真撮影してまわった。火継神事を行う事になる銀河の丘にあるモニュメント類を青山深雪に見せるためである。
そして、思い出したように東雲が太郎に訊いた。
「この銀河の丘の標高は何メートルでしょうかね?」
「あそこに見えている物見山が標高135m、その横に見えている埼玉県平和資料館シンボルタワーの頂上展望室が147.5mですから、ここは80m〜100mくらいですかね・・・。」と太郎が言った。
「正確な数値は判りませんかね?」
「町役場に行けば標高が判る地図があるかも知れませんね。氷川神社に行ったあとに役場へ行きましょう。町役場の場所は知っています。」と太郎が言った。
越の風華145;比企丘陵?
2014年9月9日(火) 午後4時ころ 鳩山町赤沼の水沼家
建速須佐之男命、火之迦具土命、大雷命を主祭神とする赤沼宮山台・氷川神社に参拝した後、鳩山町役場に寄り、名前表示板のある銀河の丘の麓で標高75m、星座天球儀モニュメントのある場所が標高85mくらいである事を確認してから、大和太郎と青山東雲は鳩山町農村公園近くにある水沼家に来ていた。
「この神棚に祀ってあるのが、江戸時代に出雲大社より藤沢家のご先祖である大和郡山にある薬園八幡宮神職へ出雲大社より贈られた巳様です。この小さな木箱の中に白い巳のミイラが納まっています。ミイラですから御身体は黒くなってしまっています。」と水沼武日が言った。
「御身体がこちらに安置されて何年くらいになりますか?」と東雲が訊いた。
「2012年の10月29日に兵庫県西宮市から我が家に遷移して来られ、翌日に祭祀いたしました。ですから、1年と11カ月くらいです。」と水沼武日が言った。
「そろそろ2年になりますか・・・。」と東雲が呟いた。
「ところで、ご当主のお名前の『武日』ですが、何か意味がおありですか?」と東雲が訊いた。
「我が水沼家では代々、当主は『武日』を名乗るのがしきたりです。これには謂れがあります。我が家の南西方向には毛呂山町の出雲伊波比神社があります。出雲伊波比神社は第12代景行天皇53年(西歴123年)に倭建命が東国を平定した際、侍臣・大伴武日に命じて臥龍山と呼ばれる、高い古墳と思われる丘の上に『比々羅木鉾』を奉祀する祠を創健させました。これが出雲伊波比神社のはじまりとされています。我が水沼家は大伴武日の血筋であり、日置族の血筋でもあります。そして古代よりこの地で窯業を営んで来た家柄です。」と水沼武日が言った。
「毛呂山にある出雲伊波比神社がここから南西の方角にありますか・・・。」と東雲が考えるように言った。
「ええ、出雲伊波比神社の本殿は東北方向を背にして鎮座しています。」と水沼武日が言った。
「東北方向、すなわち、艮の方角ですな・・・。このあたりの地図はありますか?」と東雲が水沼武日に訊いた。
「ふつうの道路地図帳くらいしかありません。」と水沼武日が言った。
「インターネットを見ることができますか?」と太郎が訊いた。
「ええ。隣りの部屋にパソコンがあります。そちらに行きましょうか。」と水沼武日が言った。
東雲たち3人はパソコンでインターネットにある地図を見ている。
「ここが出雲伊波比神社。その東北方向に銀河の丘がありますが、45度から少し角度はずれていますね。出雲伊波比神社を起点にして真東から55度くらい北の方向ですかね。銀河の丘から少し離れたところに池がありますね。角度としては出雲伊波比神社を起点にして真東から60度くらい北の方向ですか。東北方向の45度からは15度増加していますね。」と東雲が言った。
「ああ、この池ですか。H製作所中央研究所の敷地内にある調整池ですね。」と水沼武日が言った。
「調整池ですか。」
「H製作所中央研究所は昭和53年ころに建設されたのですが、調整池のある場所は、かつては小さな池があった場所です。当時は基礎研究所と呼んでいましたが10年くらい前から中央研究所の名前になりました。その池の中央には浮島がありました。晴れた日が続く時には池は無いのですが、雨が降ったあとに赤く濁った池が現れるので赤沼と呼ぶ人もいたようです。H製作所基礎研究所が出来る時に今のような調整池が造られたようです。現在の調整池の中央には噴水装置があり、その横に以前にあった浮島の名残の小さな浮島があります。」と水沼武日が言った。
「その池が気になりますか?」と太郎が東雲に訊いた。
「この池は銀河の丘のモニュメントの正面方向のライン上にあります。東西を結ぶ線から15度北に振られたライン上にある訳です。ちょっと気になる池ですが・・・。それと、この地図によると、銀河の丘の緯度は北緯35度58分近辺ですね。これは鹿島神宮の明石海岸沖にある見目浦の海中磐座がある緯度と同じです。この池と海中磐座が関係するのかどうかは判りませんが、ちょっと気になる池です。」と東雲が言った。
「確か、銀河の丘のモニュメントもH製作所中央研究所が建設された頃に造られたと記憶しています。」と水沼武日が言った。
「出雲伊波比神社と銀河の丘を結ぶ延長線上には岩殿観音と東松山市の箭弓稲荷神社がありますね。」と太郎が言った。
「三ぜん世界である仏霊界、神霊界、人霊界が銀河の丘のモニュメントで一体化すると云うことでしょうかね・・。ところで、水沼様のこの御自宅の場所はこの地図上ではどこになりますか?」と東雲が考えるように訊いた。
「ここです。」と水沼武日パソコン画面上に出ている地図の一点を指さした。
「銀河の丘から調整池へと結ぶ直線の延長上にありますね。」と太郎が言った。
越の風華146;
2014年9月16日(火) 午後2時ころ 南宮大社社務所内の応接室
青山東雲が青山深雪こと宝達奈巳に写真を見せながら火継神事の話をしている。
「だから、この場所が神の準備した火継神事を行う場所で間違いないだろう。」と東雲が言った。
「この芝生広場の三ぜん世界モニュメントの前にある直径19mの平坦な円形の窪みは何か意味があるのでしょうか・・?」と奈巳が東雲に訊いた。
「たぶん、火焚を行う場所だろう。」
「火継の清めを行う火焚広場ですか・・。」と奈巳が呟いた。
「しかし、銀河の丘の麓にはニュータウンの家々が密集しているので、ここで大掛かりな火焚きを行うことは火災を心配する消防署が許さないだろう。」と東雲が言った。
「良い考えがあるわ。今年の11月8日に京都の伏見稲荷大社で火焚神事祭があるわ。そこで、火焚祈祷のお札を授かってきます。それを、火継神事での火焚の代わりにしましょう。」
「それは良い考えだね。それで、火継神事を実行する日だが、このステンレスヘンジの正面が東から15度北寄りになっているので来年の4月22日と云う事になる。この日、ヘンジの正面から太陽が現れるはずだから。」と東雲が言った。
「雨でなければよいのですが・・・。」と奈巳が言った。
「心配はいらない。大神様が付いている。必ず、太陽は姿を現わす。」と青山東雲が言いきった。
「そうね。毛呂山の大巳貴大神が三諸山の大巳貴大神とすれば、大神神社の三柱のご祭神のご加護がありますわね。それに、この南宮大社・二の宮のご祭神である大巳貴大神の御神託で行う火継神事ですものね。」と宝達奈巳が言った。
「それよりも、神事を行うことによってどのような霊的現象が起こるのかが楽しみだよ。」と東雲が言った。
越の風華147;
2014年11月8日(土) 午後2時ころ 京都伏見稲荷大社・火焚祭
午後1時から始まった本殿での火焚祭が無事終了し、午後2時から五穀豊穣・万物育成の神恩に感謝する火焚神事が神苑斎場で行われている。
火焚神事は修祓、火焚串を庭燎床に奉納、司人への忌火授与、庭燎床に点火、大祓詞の奉唱、榊葉・塩・水の庭燎床への投入、心中祈念、神楽奏上の順で行われる。
宝達奈巳と白山泰子、そして大賀美登璃の三人が群衆に混じって、神事を見ている。
玉砂利が敷かれた広い神苑斎場には庭燎床と呼ばれる杉の葉で四角く囲まれた、火焚串を燃やす3メートル四方の煙火囲いが数か所に分かれて配置されている。
半円形金色金具に杉葉扇の頭飾りを着けた二人の巫女が鈴を振りながら、燃え上がる庭燎床群の間で『火焚の舞』を舞っている。
白山泰子は火継神事で神に奉納する『火継の舞』を考案するため、その参考としての『火焚の舞』を真剣に見入っていた。
越の風華148;
2015年4月10日(金) 午前6時ころ 氷川神社末社の天満神社前
埼玉県大宮氷川神社境内には3つの摂社と10の末社がある。
その末社の中に天満神社がある。祭神は菅原道真公である。
天満神社は2kmの長さがある氷川神社参道の二の鳥居近くにある祠である。
それは本殿から南に500mくらい下ったところである。
天満神社と書かれた扁額のある祠の両開きの左右扉には、それぞれ丸く白い円で構成された5弁梅花のシンボルマークが大きく描かれている。
宝達奈巳は梅の花が描かれた扉を開いた。
二礼二拍手一拝。
そして、天津祝詞を奏上した。
「高天原に神留座す・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・天津神、国津神、八百萬の神等共に
聞食せと恐み恐みも申す」
そして、天満神社の祭神に感謝の御礼を述べた。
「30体の埴輪土偶たちのご提供に御礼を申し上げます。有難うございます。善き神事が行えることに感謝いたします。」と、奈巳は出口王仁三郎が晩年に三千個の美しい楽焼玉?(らくやきちゃわん)を製作したことを思い浮かべながら祈りを捧げた。
一礼。
そして、天満神社祠の扉を閉めた。
祠の扉に描かれている五弁の梅シンボルを見た奈巳は大本教の九曜神紋を連想していた。
「5弁梅神紋と九曜神紋。弁の数が違うけれど似ているわね・・・。」
その後、奈巳は氷川神社本殿に参拝し、後日に行う火継神事の成就を祈った。
※著者注記:祝詞とは
江戸時代の国学者の本居宣長は「神に申し上げる言葉」と言い、
昭和時代の国学者の折口信夫は「神の発する命令の言葉」としている。
いずれにしても、日本では古来より言葉には霊があるとする言霊の思想が定着している。
天津祝詞は神様に人間界の罪、穢れを清めていただく願いを奏上する言霊である。
※著者注記:埴輪土偶とは土で作った人形。
古代、天穂日命の子孫である野見宿禰が天皇崩御の時に出す殉死者の代わりに土偶埴輪を天皇の古墳墓の飾ったのが始まりである。これにより、殉死者と云う人身犠牲を出す必要がなくなった。
本小説では、30体の埴輪土偶を犠牲者の象徴として宝達奈巳が火継神事に利用しようと考えたのであろう。
大本教の教祖・出口王仁三郎は死の直前に3000個の楽焼玉?を作ったようである。
本小節の宝達奈巳は王仁三郎が『新しい時代の到来には犠牲者が必要にあるが、楽焼玉?を作ることによって犠牲者をなくしたい。』と考えていたと想像していたのであろう。
※著者注記:5弁梅神紋と九弁九曜神紋
天満宮の梅神紋は梅の花弁の形で地球上にある五大陸をあらわし、
大本教の九曜神紋は太陽とそれを回る九惑星を表している。
(九惑星:水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星)
二つの紋の形は、中央に円を配している。
地球を表す中央円の周辺に5個の大きな円が等配されているのが天満宮の梅紋である。
太陽を表す中央円の周辺に九個の小さい円が等配されているのが大本教の九曜紋である。
「九つの花が咲きかけたぞよ、九つの花が十ようになって咲く時は、万古末代しおれぬ生花であるぞよ。」との大本神諭がある。
越の風華149;
2015年4月21日(火) 午後3時ころ 鳩山町の水沼家
明日の神事に関する打合せが行われている。
出席者は水沼武日、青山東雲、大和太郎、藤沢三男、武庫茂、宝達奈巳、白山泰子、大賀美登璃の8人である。
そして、明日に行う火継神事の背景を宝達奈巳が説明をしている。
「私たち8人は天安河原で誓約を行った須佐之男命と天照大御神の御子神です。天照大御神の勾玉を須佐之男命が噛み砕いて生まれた五人の男神と須佐之男命の十拳剣を天照大御神が三段に折って噛み砕いて生まれた宗像三女神です。しかし、スサノオが厄神となって戻ってくる時に連れてくる八将軍神ではありません。この事が重要です。この神事を司るのは毛呂山町にある出雲伊波比神社の主祭神である大巳貴命と天穂日命です。そして、赤沼氷川神社の主祭神である建速須佐之男命、火之迦具土命、大雷命の三神が神事を推進するお役です。皆さんはそのことを理解したうえで神事にご参加ください。そして、『六根清浄』を唱えていただきますが、その狙いは『心に不浄を思わず』と云う言霊に集約されます。『思』と云う文字は田の下に心があります。『田』とは十の字が口の中にあります。十は亀戸天満宮の神託に述べられた『株立ち』による分株です。すなわち、新しく生まれて来る命を意味します。また、救い主をあらわす十字架でもあります。心は『和魂・幸魂・奇魂・荒魂』の四魂です。すなわち、思いは新しく生まれてくる霊魂を清める祈りでなければなりません。そのことを念じて『六根清浄』を唱えてください。明日の神事は三ぜん世界、すなわち、神霊界、仏霊界、顕現界を一度に開くための火継神事です。よろしくお願いいたします。」と宝達奈巳が言い終えた。
「それで、宝達様からご要望がありました松の若木6本と30体の土偶は隣の部屋に準備してあります。また、ご指示に従い、三種類の人形土偶を10体づつ同じ形で造り、合計で30体を準備しました。高さ2mの若木6本は裏山から切り出して、枝を切り落とし幹木だけにしてあります。幹木からは松ヤニが出ていますので、横にある白い手袋をはめて持って下さい。また、我家の鳩山窯で焼き上げた土偶は30cmの高さの人形風に仕上げ、赤いベンガラを塗ってあります。この後、松と土偶を裏の車庫に止めてあるワゴン車まで運びたいので皆さんにお手伝いをお願いしたいと思います。」と水沼武日が言った。
「水沼には、いろいろとご準備をしていただき、ありがとうございます。それで、明日はこちらの神棚に祀られてあります巳様も現地にお遷しいたします。」と奈巳が言った。
「はい。神棚にある巳様の座納箱をこの白絹に包んでお運びいたします。」と藤沢三男は言いながら白絹の風呂敷を手にとって見せた。
「それでは、明日は午前4時に現地に集合してください。朝が早いので、今日は早い目に寝るようにしてください。」と青山東雲が言った。
そして、一同は松の木と埴輪をワゴン車に運び込んだ後、散会した。
宝達奈巳、白山泰子は白いフェラーリに乗り、青山東雲、武庫茂と大賀美登璃はモスグリーンのジャガーに乗って隣町の坂戸市にあるホテルへと戻った。
藤沢三男は間借りしている水沼家の離れ家屋に戻り、大和太郎も東松山市の事務所兼自宅へとレンタカーを運転して戻って行った。
越の風華150;火継神事
2015年4月22日(水) 午前4時過ぎ 比企郡鳩山町・銀河の丘
ステンレスヘンジの背後にある雑木林に面したケヤキ坂通りの路上端に、白のフェラーリ、モスグリーンのジャガー、白いワゴン車、レンタカーが駐車している。
東の空が白み始め、周囲が少しずつ明るくなってきた。
上空には紫雲が広がっているが、雨雲ではなさそうである。
日の出時刻には雲が晴れると信じている白の修験装束姿の6人と頭飾りを着け、紅い袴を穿いた巫女姿の2人がステンレスヘンジ周辺で忙しそうに動いている。
ステンレスヘンジの中心にある天球儀の東側正面北寄りには『VENUS(金星)』のシンボル記号が描かれた30cm正方の彫刻ステンレスプレートが床に埋め込まれている。そのすぐ横の天球儀東側正面の床には無地の30cm正方の白いプレートが埋め込まれている。その上に出雲大社から授けられた巳様が納められている木製の座納箱が太陽の昇ってくる方向に向けて置かれた。
三ぜん世界神殿モニュメントの前にある直径19mの円形窪みの火焚場中央には6本の松の若木で組まれた六芒星紋が造られている。
宝達奈巳は六芒星紋の中心に伏見稲荷大社から請けたお札を小さな三宝台に載せて置いた。
縦長のお札には稲荷火紋の下に『稲荷大社御火焚祈祷之攸』と朱文字が書かれている。
六芒星紋の頭は北向きで、その30m先にはステンレスヘンジがある。
そして、平坦な円形窪み火焚場の円周上には等間隔で30体の土偶が円外に向いて置かれた。
「準備は整いました。神事を始めたいと思います。」と宝達奈巳が言った。
そして、8人は三ぜん世界神殿モニュメントと火焚広場の間に一列に並び、広場の北側にあるステンレスヘンジに向かって『六根清浄』を唱えた。
『目に諸々の不浄を見て、心に諸々の不浄を思わず、
耳に諸々の不浄を聞いて、心に諸々の不浄を聞かず、
鼻に諸々の不浄を嗅いで、心に諸々の不浄を嗅がず、
口に諸々の不浄を言いて、心に諸々の不浄を言わず、
体に諸々の不浄を触れて、心に諸々の不浄を触れず、
意に諸々の不浄を想いて、心に諸々の不浄を思わず。』
その後、国華・白山泰子と杜女・大賀美登璃が神殿モニュメントの西端のある人間界神殿モニュメント台上に上がった。
そして、二人の巫女は『火継の舞』を踊り始めた。
国華は右手に鈴、杜女は左手に鈴を持っている。
そして、二人の巫女は互いの姿が鏡像になるように舞っている。
二人の額には日輪を中央にして左右に鷲の翼を真直ぐ水平に広げた黄金に輝く頭飾りが着いている。
白山泰子は神鳥である鳳凰、大賀美登璃は鸞凰を演じていた。
宝達奈巳は六芒星紋の横に立ち、ステンレスヘンジに向かって天津祝詞を朗朗と奏上し始めた。
残りの男性5人は火焚場の円周上に等間隔で五角形の頂点位置に立ち、中心にある御火焚祈祷之攸を見つめている。五角の星紋は魔除けを意味し、五人は火焚場を守護する形を取ったのである。
「高天原爾神留坐須 皇賀親神漏岐神漏美命以知? 八百萬神等乎 ・・・・・・
・・・・・・・・・ ?給比清給布事乎聞食世登白須」
天津祝詞の奏上を終えた宝達奈巳はステンレスヘンジの前の64段の階段を降り、標高75mの高さにある『銀河の丘』表示板の前に東15度方向を向いて立った。
残りの7人はステンレスヘンジ天球儀の前に横一列に並び立ち、太陽の昇ってくるのを待った。
時刻は午前5時になっていた。
まだ、紫雲が朝空に広がっている。
「アマテラスオオミカミ、アマテラスオオミカミ、アマテラスオオミカミ、アマテラスオオミカミ、アマテラスオオミカミ、アマテラスオオミカミ、アマテラスオオミカミ、アマテラスオオミカミ、アマテラスオオミカミ、アマテラスオオミカミ、アマテラスオオミカミ。」と奈巳が『十言の咒』を唱えた。
そして、東の地平線上がオレンジ色に光り始めた。
そして、紫色の東雲を背景にオレンジ色に輝く太陽が頭を出した。
時刻は午前5時5分であった。
オレンジ色に輝く太陽の光がステンレスヘンジのステンレス壁や天球儀に当たり、周辺全体に反射光を放っている。
一度、円形姿全体を見せた太陽も、すぐに紫雲の背後に隠れた。
その時、北緯35度58分の明石海岸沖鹿島灘の海面から白龍が立ち昇り、真西にある鳩山町のステンレスヘンジに向かって高速で飛翔を始めた。
同時に、岩殿観音堂の横にある湧水池から黒龍が現れ、物見山上空を周回飛翔している。
また、H製作所中央研究所内にある調整池から赤龍が立ち昇った。
白龍がステンレスヘンジの上空に姿を現すと、黒龍、赤龍も白龍に寄り添いながら上空を旋回し始めた。
旋回の中心から、毛呂山町の出雲伊波比神社・臥龍山から飛び出した青龍が現れ、ステンレスヘンジの柱の回廊の中を通過し、ステンレス天球儀の前に置かれていた巳のミイラが納められている木箱に吸い込まれるように入った。
『握一点・開無限か。』と青山東雲が呟いた。
その時、東15度の方角の天空に大神が紫雲に載って現われたのを青山東雲と宝達奈巳は視た。
そして、青山東雲が大神に名前を問うた。
「あなた様のお名前をお聞かせ下さい。」
「我は奈良の三諸山に坐ます三神の中の大巳貴命である。日継の神業をこの地で行いしを善しとなす為に顕われた。」と言い終えると、大神は紫雲と共に姿を消した。
いつの間にか上空の紫雲は消え、青空が見えている。
時刻は午前5時25分になっている。
龍の姿が見えているのは青山東雲と宝達奈巳の二人だけである。
青山東雲が霊視した四柱の龍の動きを他の6人に説明した。
そして、宝達奈巳がステンレスヘンジの前に戻ってきた。
そして、言った。
「三ぜん世界一度に開く火継神事は滞りなく終了しました。蘇民将来。」
越の風華151;
エジプト時間・2015年4月21日(火) 午後10時5分 エジプト・ギーザ
真っ暗な夜空に向かって、203段あるクフ王の大ピラミッドの103段目の北側にある通気孔入口から赤く輝く火玉が3個飛び立った。
大ピラミッドの王の間には宇宙空間の龍座中心にある一番明るいα星・ドラコニスを望む断面積20cm×23cm、上昇角32度30分の小さな孔道がある。地底から沸き上がるエネルギーの火玉が大回廊で増幅され、王の間を通り、北通気孔から夜空に飛び立ち、地中海の方向に向かって走った。
一の火玉はギリシアのアテネのパルテノン神殿へ向かい、二の火玉はギリシア(古代マケドニア領)のテッサロニキ(サロニカ)の西38kmに位置するペラの遺跡ヘ、三の火玉はギリシアのアレクサンドロポリへ向かって飛んだ。
※著者注;
パルテノン神殿はゴルゴンのメドーサ首と勝利の女神ニケを有するアテナ神像があった。
アレキサンダー大王はギリシアを征服し、アテネを支配した。
アテネは日本の世界縮図説によれば岡山県の玉野市に相当すると思われる。
玉野市には玉比口羊神社がある。
ペラ遺跡はアレキサンダー大王が生まれた古代マケドニアの首都で、岡山市西大寺に相当。
アレクサンドロポリはアレキサンダー大王が造らせた港湾都市で、対岸にあるサモトラキ島へ渡るフェリーが発着している。サモトラキ島では首のないニケ像が発見されている。
岡山県の牛窓町に相当。
(第11話・38番の玉比口羊神社の霊岩由諸を参照されたい)
越の風華152;
2015年4月23日(木) 午前0時ころ 山梨県甲府市のルル・ラブア邸
古代イスラエルの美少年予言者・ダニエルの生まれ変わりと噂される占星術師のルル・アラブ女史が、テーブル上の置かれている水を湛えた円形の水盤を前にして瞑想している。
照明はテーブル上に配置された7本のロウソクのみである。
水盤の右横には占星術に用いるホロスコープが描かれたパソコン画面がある。
水盤の左横にはミッシェル・ド・ノストラダムスが著した『諸世紀』の日本語版の本が開かれている。そこは、第十章・72番の四行詩が書かれている。
『1999年、第七番目の月
恐怖の大王、天より至らん
アンゴルモアの大王、蘇生すべく
マルスはその前後、大義名分をかかげ統治する』
「1999年の夏の宇宙には惑星による大十字架が黙示される。天に現われる恐怖の大王とは惑星配置が描く大十字架のこと。このホロスコープ上では、月と火星がさそり座に、土星と木星がおうし座に、天王星と海王星がみずかめ座に、そして、太陽と金星と水星が獅子座に会合して巨大な十字配置となっているわ。そして、人馬宮・射て座の第9室にある冥王星が『惑星シングルトン』として、この十字架の外にある唯一の星。占聖学上の冥王星の持つ意味は、死と再生、終りと始め、消滅と創造、破壊と再建、大変動。『惑星シングルトン』の星が世界を牽引する原動力となる。アンゴルモアの大王とはモンゴルに現れる軍神マルスの蘇生。それは、スサノオ命の出現に備えるために中国大陸に渡った出口王仁三郎が馬族として暴れた過去に鑑みれば、厄神スサノオの再来なのかしら・・・?スサノオ、それはスーサの王であったアレキサンダー大王。彼が中国大陸で蘇えると云う事かしら。1999年にその人物が生まれたとして、現在は2015年で15歳の少年になっているのね。」と、ルル・アラブ師は考えを巡らせた。
「第9室の意味は『精神の室・意識の室』で、精神的能力や学問・宗教への指向、霊感・予言・予知能力を表す。また、遠方の土地との通信と交流を暗示し、願望を支配するのであったわね。そう、確か、第五章・53番にはあの詩があったわ。」と思い、アラブ師は諸世紀のページを繰った。
『太陽の法と金星の法は競い
予言の霊を使い、
どちらも聞かれることもなく
大いなるメシアの法は、太陽によって引き継がれる』
「太陽の法とは天照大御神を中心とする日本神道のこと。金星の法とはローマ帝国に認められたバチカンを中心としたカソリック・キリスト教のことかしら。ギリシア神話と結び付いたローマ神話ではビーナス(金星)の話が多くあるわね。でも、この詩の重要な意味は太陽を迎える火継の神事が必要で、それによって救世主の教えが実現する、と云うことなのかしら。それは太陽の法も金星の法も関係していない、第三の法があると云うことかしら。でも、火継神事が実現すれば、15歳の少年も厄神スサノオにならなくて済むわね。」とアラブ師は思った。
越の風華153;エピローグ
2015年5月3日(日) 午前11時30分ころ 毎朝新聞東京本社の応接室
毎朝新聞社会部の向山部長に呼び出されて、大和太郎が松永金融相やキアッソ事件に関するこれまでの活動に関する総合的な最終報告に来ていた。
応接室の前の廊下が騒がしい。毎朝新聞社は日曜日でもかなりの社員、記者が出勤しているようである。
応接室には大和太郎と向山部長のほか経済部の佐古部長、政治部の殿山部長、文芸部の葛城部長と唐木女史、そして、社会部事件記者の鮫島姫子がいる。
文芸部が出席しているのは、2012年に日曜版で特集した『地中海文明と文化』の続編を掲載するために、大和太郎のエーゲ海地域に関係する古代の推理を参考に聞くためであった。もちろん、記事を書くのは唐木女史の助言を受ける鮫島姫子である。
大和太郎はCIAが関係する事件以外の部分で松永金融相の死亡事件とイタリア・スイス国境の町キアッソでの偽国債運搬事件との総合的な関係を推理し、それを披露している。
「どうも、神聖ローマ帝国の国王の子孫がシシリー島のパレルモに住んでいるようです。そのお方がドイツのケルン大聖堂にアメリカ国債を寄付しようとしたのですが、イタリア税関職員に発見され、それを誤魔化すためにイタリア政府に圧力を掛け、偽国債と云う形で幕引きを行ったと私は推理しています。」と太郎が言った。
「そのパレルモの人物の名前は?」と向山が訊いた。
「まだ、人物の名前と正確な住所は判っていません。毎朝新聞社で調べていただければと思います。」と太郎は答えを誤魔化した。
「たしか、シシリー島は神聖ローマ帝国のドイツ国王を辞したフリードリッヒ?世が住んでいた島ですね。その元国王の生まれた土地でもありましたね。確か、赤ひげ王と呼ばれたフリードリッヒ?世がミラノを攻略して、ミラノに在った東方の三博士の遺骨をケルン大聖堂に遷したのでした。」と鮫島姫子が言った。
「ミラノと云えば人を食べる青色の雌の龍が住んでいたと云う伝説がある都市だわね。ミラノ市の紋章にもなっているわ。」と唐木女史が言った。
「イタリアには青色の龍が居るんですか。青龍のほかに赤龍とか白龍とか黒龍などは居ないのですかね。」と太郎は火継神事の時に青山東雲から聞いた話を思い出ながら言った。
「龍について面白い話があるわ。」と唐木女史が言った。
「どのような話ですか?」と姫子が興味有り気に訊いた。
「江戸時代、元禄6年(1893年)ころ、甲府金番藩主の徳川綱豊に仕えていた学者の新井白石が龍の夢を見たらしいの。」
「どんな?」と姫子が身を乗り出した。
「宝永2年5月2日の夢は、『大きな黒雲が湧き上がる東の暁の空を雷鳴と共に金龍が4、5匹の小さな龍を従えて北へ動いて行く』ものだったそうよ。そのほか黄龍、蒼龍(青龍)、雲間の大赤龍などを夢で見たと日記に残しているわ。雲間の大赤龍を夢に見たのは、1710年(宝永7年)6月26日だったようね。」と唐木女史が言った。
「1710年ですか。1+7+10の年ですね。」と太郎が呟いた。
「それがどうかしたのですか?」と姫子が訊いた。
「いや、ちょっと、ある事件の数字を思い出しただけで、意味はありません。」と太郎が頭を掻いた。
「1+7は北極星の1に北斗七星の7ですわね。北極星は救世主を意味する。北斗七星の先斗の長さの延長線上5倍の位置に北極星があり、10は救世主・キリストの十字架と云うことかしらね。アハハハハッ。」と唐木女史が笑った。
その時、天井のスピーカーから音楽が流れてきて、太郎が上を見た。
「ああ、正午を告げる時報の音楽です。お昼を食べない社員や記者が居るのは健康に良くないと云う事で、今月から12時になれば音楽を流すことになったのです。月替わりで楽曲を変更します。選曲は文芸部の私が担当しています。今月は女性ジャズシンガーのジュディ・ロンドンの歌声で『モア』です。『モア』は1961年の《邦題;世界残酷物語》と云うイタリア映画の主題歌です。」と唐木女史が言った。
♪More than the greatest love the World has known ♪
(世界の人々が知っている最も偉大な愛より偉大な愛)
♪This is the love I will give to you alone ♪
(それは私があなただけに捧げるこの愛です)
♪・・・・・・・・・・・・・・・・・・♪
♪I only live to love you more each day ♪
(私はあなたにより多くの愛を捧げるためだけに日々を送っています)
♪・・・・・・・・・・・・・・・・・・♪
♪My arms long to hold you so ♪
(私の腕の中に引き寄せ、あなたを強く抱きしめよう)
♪・・・・・・・・・・・・・・・・・・♪
♪Longer than always is long, long time ♪
♪ But far beyond forever you will be mine♪
(いつもの長い時間より長い時間があるけれど
永遠の時間をはるかに越えて、あなたは私のものになるでしょう)
♪・・・・・・・・・・・・・・・・・・♪
♪I know I have never lived before ♪
♪And my heart is very sure ♪
♪No one else could love you more ♪
(かつて、私はあなたの心の中には存在しなかった
しかし、私の決心はゆらぎません
私以外の人が私と同じようにあなたを愛することは決してできないでしょう)
越の風華・第三部〜ヤコブ予言殺人事件〜
完
(2015年9月24日 午後7時03分 脱稿)
目賀見勝利
参考文献:
旧約聖書 新改訳 日本聖書刊行会 1981年6月 二刷初版発行
「牛鬼蛇神を一掃せよ」と文化大革命 編著監訳・石剛 三元社 2012年3月初版発行
ユダヤ歴史新聞 同編纂委員会 日本文芸社 平成11年4月 第1刷発行
アポカリプス666 ジーン・ディクソン著 高橋良典訳 自由国民社 1983年1月発行
眠れないほど面白い『古事記』 由良弥生著 三笠書房 2013年1月 第1刷発行
エジプト古代文明の旅 仁田三夫ほか 講談社 1996年11月 第1刷発行
図説イエス・キリスト 河谷龍彦 河出書房新社 2000年6月 初版発行
占星学の見方 ルル・ラブア著 東栄堂 昭和49年10月 初版発行
ホロスコープ入門 ルル・ラブア著 青春出版社 昭和52年11月 改訂新版
陰陽師列伝 志村有弘 学習研究社 2000年9月 第一刷発行
超古代史の検証・竹内文書 上杉滋 発行;柳七郎(非売品) 1996年5月 初版
国宝宇佐神宮・宇佐神宮由諸記 宇佐神宮庁発行
神社紀行・宇佐神宮 学習研究社 2002年12月発行
封印されたモーゼ書の秘密 K.V.プフェテンバッハ 著 KKロングセラーズ 平成10年7月 初版
地球の歩き方 アンコール・ワットとカンボジア ダイヤモンド・ビッグ社
アンコール ワット 伊東照司 山川出版社 1993年11月 第1刷発行
戦慄の聖母預言(上)(下) 鬼塚五十一 昭和63年4月 学習研究社
ファチマ大予言 鬼塚五十一 昭和56年12月 サンデー社
日本霊界風土記・浅草 深見東州 平成18年7月 たちばな出版
大本 伊藤栄蔵 昭和59年4月 第一刷発行 講談社
アトランティスの発見 竹内均 ごま書房 昭和53年2月 初版発行
アレクサンドロス大王物語(伝カリステネス) 橋本隆夫訳 国文社 2000年7月 第1刷発行
アレクサンドロス大王の軍隊 ニック・セダンカ著 柊史織訳 新紀元社 2001年1月初版
TBSビデオ新世界紀行 謎と不思議の旅・古代地中海伝説
地球の歩き方 マカオ ダイヤモンド・ビッグ社 2008〜2009年版
地球の歩き方 香港 ダイヤモンド・ビッグ社 2009〜2010年版
地球の歩き方 ギリシア ダイヤモンド・ビッグ社 2011〜2012年版
古代世界70の不思議 ブライアン・M・フェイガン編 北代晋一訳 東京書籍 2003年10月初版
いちばんやさしいギリシア神話の本 松村一男監修 西東社 2013年7月 第1刷発行
増補三鏡 出口王仁三郎聖言集 八幡書店 2010年4月 初版発行
ギリシア・ローマ世界における他社 地中海文化を語る会編 彩流社 2003年9月発行
神々の指紋 グラハム・ハンコック著 大地舜訳 小学館文庫 1999年5月 初版発行
ノストラダムスと大黙示録 フェニックス・ノア 日新報道 昭和56年12月 発行
ノストラダムス大予言原典 大乗和子訳 内田秀男監修 たま出版 昭和50年3月 初版
酒井紀美の夢想の歴史学・新井白石の夢 2015年4月18日(土)付け朝日新聞 e7