サラの休日
番外編2話目です。
今、私は冒険者ギルドの買い取りカウンターの仕事をしている。
本日は仕事が休みで、市場調査をしに市場にやってきている。冒険者ギルドで働いていても、市場調査は商人の重要な情報収集の場である。
「今日はお休みかいサラちゃん!」
「こんにちは、エルダー爺ちゃん。久しぶりにお休みなんだー♪」
「そうかい、今日は広場の方に吟遊詩人が来るみたいだから、暇があったら行ってみるといいよ」
「わかったー、ありがとうエルダー爺ちゃん!」
古書を扱っているお店のエルダー爺ちゃんが、本の虫干し中に声をかけてきた。
扱っている古書の中には今では作り出すことのできない魔導書といったとても貴重な本があるため、鑑定がてら時々本の整理を頼まれたりすることもある。
本日は特にそういった用事がないようで、少しだけ雑談をして別れた。
なるほど吟遊詩人が来るのか、それは少し見に行ってみたい気がする。
ここに越してきてしばらく経ち、この街の人たちは良い人が多いと感じた。中には頑固な人や偏屈な人もいるけれど、そういう人たちは職人さんに多いと思う。
職人さんたちは、きちんと彼らの仕事ぶりを見て出来上がった作品に対する意見や評価を言える人に対しては、おぬし話が分かるなという感じでガードが緩んだりする。商人みたいに腹の探り合いになる事も少ないから、案外付き合いやすかったりする。
特に鍛冶屋ギルドの人たちには、孫を見るように猫かわいがりされていると思う。
そんなこんなで鍛冶屋ギルドの前を通ったら、案の定知り合いに声をかけられた。
「おう! サラ久しぶりだな。ゆっくり茶でも飲んでけ!」
「ドミニクさん、首根っこ掴まないでください。歩けないですー」
「おお、すまんすまん! ちょっと話があってなぁ」
「えー、私今日はお休みなんですけど……」
「いや、話はすぐ終わるから大丈夫だ!」
ほえるような大声で話しかけてきて私を釣り上げたのは、鍛冶屋ギルドのドミニクさんだった。せっかくの休みなのに仕事の話になりそうでちょっと頬を膨らませると、ドミニクさんは気まずそうに髭を撫でた。
他の人から見たら少女の拉致現場だぞコレ!と思いながら下手に動くと首が締まるのでされるがまま状態で、釣られた状態で鍛冶屋ギルドの執務室に入る。
さすが鍛冶屋ギルド、微妙に金物臭い。
ドミニクさんは私をふっかふかのソファーに降ろし、気まずそうな顔をした秘書さんがお茶を持ってきたところで、ようやく話が聞ける体制になった。
「つまり、最近質の良いミスリル銀が商業ギルドに流れているから、もう少し鍛冶屋ギルドに融通してほしいと?」
「簡単に言えばそうだ。こっちは商業ギルドほど資金があるわけじゃねえからな、その代り、何か整備するものがあればこちらに回してもらって構わん」
ドミニクさんの話はというと、商業ギルドに優先的に流れているダンジョン産のミスリル銀をもう少し鍛冶屋ギルドに融通してほしいとのことだった。下っ端の私にする話でもないんだけど、キースさんが自慢するから微妙に渉外窓口化している気がする。そんなに長いこと働いていないのに、ここまで信用してもらえるのはものすごくこそばゆい気分になる。
とりあえず、商業ギルドの方が金払いがいいんだけど、金品でもらわなくても武器の整備をお願いできるならいい契約な気がするぞ、そろそろガタがきている備品類が結構あった気がする。そのあたりはカイジさんの管轄でもあるから、そちらに聞いてみるのもいいかもしれない。
「とりあえず、キースさんたちに一度相談してみます。私が決められる話でもなさそうなので」
「そらそうだ、キースの坊主にはくれぐれもよろしくと言っといてくれ。時間貰って悪かったな、いい休暇を!」
「はーい!」
ドミニクさんと別れて市場の露店を冷やかしながら歩く。中には掘り出し物があったりするからそういう物を買って転売することにしている。
冒険者が多い街だけあって、ダンジョンから発掘されたアイテム、流れの品や骨とう品。中には盗品も置いてあったりする。
こういう場所を見て回るのは楽しい。
++++++++++++++++++++++++++++++++++++
名称:魔石化サファイアのネックレス
等級:Sランク
状態:蓄積魔力の枯渇
効果:魔力増(大)
蓄積された魔力がない状態だとくすんだガラクタのように見えるが、魔力が溜まった状態で本来の力と美しさを取り戻す。小粒ながらも良質なサファイアを使用しているため、宝飾品としての価値も高い。
×△国○○朝の魔導師が作った品で、歴史的価値もある。
++++++++++++++++++++++++++++++++++++
あ、これは良いものだ! 即買い物件だ!
しかも、店主がこのネックレスの価値を知らないから結構安い!
後で魔道具屋のアランさんに魔力の注ぎ方を教えてもらおう。
そういえば、前に偶々兄さんが私の転売待ちのアイテムが入った箱の中身を見たことがあった。そのとき微妙にひきつった顔をしていたけれど何故だろうか。
ちなみに、転売予定商品の購入資金は勇者から貰ったおこずかい。現在、資金洗浄中!
一度、闇市というところを見てみたいけど、たぶん無理だよね。つかまって売り払われちゃうのがオチだ。危ない所には近づかないでおこう。
お昼ご飯は屋台で済ませて、いろいろと近隣の街の情報を聞いておく。
行商の人も交じって話をしているところもこっそりと耳をそばだてておくのも忘れない。
あとは、エルダー爺ちゃんに教えてもらった吟遊詩人でも見に行って、今日は早めに帰ろうっと、今晩は兄さんと姉さんが帰ってくる予定である。
黒猫亭のおばちゃんに料理を教えてもらったので、今日は腕によりをかけてご飯を作るんだ♪
次回は、ミケ姉さんのヴェールの話を書こうかと思います。