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後編

 ここまでミケさんの話を聞くと、もう私の過去を隠すこともないなと思って、少しだけ肩の荷が下りた気がした。

 ミケさんも意図せず発動させてしまったとはいえ、私の過去を除いてしまったのを気に病んでいたため、この機会に洗いざらい話すことにした。それこそ、実母に捨てられ実父に売られて勇者に買われるまで全部。





――本当はお母さんに好かれたかった。


――あんなクソ親父のところになんか行きたくなかった!


――なんであんな奴の尻拭いで私が奴隷に落とされなきゃいけなかったの!?

 

――勇者様に買われた時は、あの人に救ってもらえたと思ったのに、あの人は私の気持ちすら考えない最低な人だった!


――聖女は私が買われた時に勝手に私をライバル扱いして奴隷な私をおとりにしてやろうかって笑っていたのも知ってた!


――私はあの人たちなんか仲間なんかになりたくなかったのに、嫉妬されたりしなくちゃいけなかったの!?


――なんで私がこんな目に合わなきゃいけないの!?





 もう終わったことだし、自分でもそれほど気にしていないよ?というスタンスだったけれど、私の人生波乱万丈すぎてだんだん悲しくなってきた。

   


 今まで気が付かないふりをしていたのに、むき出しになった記憶が私の押し殺していた感情が溢れて止まらなかった。

 ミケさんは大泣きする私をそっと抱きしめると、一緒になって涙を流してくれて、ロビンさんはそんなに泣くと目が解けるぞと言ってハンカチを出して私の涙を拭ってくれた。



「なぁサラ、俺は勇者がクソだって知っている。もちろん、ミケもだ」


「そ う、なの?」



 号泣の余韻でしゃっくりが止まらない。小さい子をあやすようにトントンと背中を叩いてくれるミケさんのおかげで、だいぶ落ち着いてきた。

 ロビンさんもミケさんの隣に座り私の頭を撫でながら、当時のことを思い返す様に話をしてくれた。

 一般的に勇者は品行公正で民の為に戦っている人だと言われているので、ロビンさんが勇者はクソだと知っていたので大変驚いた。



「俺たちはこの国の貴族の爵位も領地も貰えない妾腹の子でね、独り立ちするには騎士になるか冒険者になって家を捨てるかのどちらかしかなかったんだ」


「幼馴染だった私もロビンも親には良くしてもらっていたから、家や国の為を思って騎士になってそこそこの腕を持って隊を率いる立場になったの。でも、そこで魔王の復活と勇者の召喚でおかしくなっちゃった」


「サラには俺とミケは恋仲だって言ったよな?」


「うん」



 私は頷いた。乗合馬車からの短い付き合いだけど、このお二人のらぶらぶっぷりがとどまるところを知らなかったし。



「私はね、勇者の剣術指南役だったのよ。勇者の指導役になったことで、勇者たっての希望で私が勇者のパーティの一員に選ばれそうになったの。私はロビンと離れるのは嫌だったから勇者には一応志願制と言われたしパーティに入るのは断ったんだけど、そうしたらロビンが降格されて挙句の果てに死地に送られそうになってね……」


「俺にも降格の心当たりなんかなかったし、何故かと思って調べたら勇者がミケに懸想しているのがわかったんだ。国の上層部に訴えたとしても救国予定の勇者と中位貴族の妾腹の子で隊を率いていた騎士程度ではどちらを取るかわかりきっていたから、思い切って騎士団を辞めた」


「私もそういう圧力をかけてくる奴は大嫌いだから、ロビンを追いかけて騎士団を辞めて一緒に冒険者になったの」



 ロビンさんは当時を思い出したのか、眉間に深い皺を寄せて苦々しく冒険者になった経緯を話してくれた。ミケさんも部下や勇者関係者にはずいぶん引き留められたと言っていたけれど、ミケさんとロビンさんは責任ある立場や、名誉を捨ててまでも一緒にいることを選んだのだ。

 私はなんてかっこいい生き方をする人だろうと思った。



「さて、むかつく昔話は置いといて、今後の対策を考えましょうよ!」


「突っ走ったお前が言うことでもないけどな」


「あははは」



 元気が戻ったミケさんにロビンさんが突っ込みを入れた。私は声を上げて笑った。



「とりあえずサラちゃんの話を聞く限り、今回の検問は貴女を探しているのは間違いないでしょうね」


「たぶんそうだと思う。あの人たち散財ばっかりしていたから、資金管理役だった私がいなくなるとものすごく困ったことになると思うし……」


「少なくともこの国さえ出てしまえば、勇者の影響力も薄れて追手もなくなるだろうが、サラの姿と名前は伝わっているだろうな」


「ねえ、ロビン? 解放奴隷って戸籍がないんじゃなかったっけ?」


「いや、俺に聞かれても……」


「ミケさんの言うとおり、奴隷に落とされた人は戸籍を抹消されます。解放奴隷は元主人の姓を名乗るのが通例ですけど、そんなことになったらハーレムの人たちから殺されそうだったし、追手がかかるだろうし、それにあんな奴の名前は嫌だったので、ダメ元で奴隷商人に姓なしでお願いしたので今の私はただのサラです」



 少し困惑気味のロビンさんでしたが、奴隷にかかわらない人は知らない知識だもの。

 その代り私は知っている。熟知していると言っていい!

 奴隷落ちにかかわった法令は奴隷商人からの説明で聞いたあと、売れるまでは檻の中で解放されるにはどうすればよいか考え抜いて、勇者に買われたあとは自分が売られたときの売買契約書を暗記するまで読み込んだから。



「ひとつ思ったんだけど、検問で探しているのはただのサラちゃんなのよね? どっかの家に養子に入っちゃえば問題なくない?」


「……なるほど。家名は身分が保証された一般市民の証だからな」


「戸籍でも確認しない限り解放奴隷かどうかなんてわからないし、検問じゃそんなの確認しようがないもの」


 ミケさんとロビンさんは妙案を思いついたと言わんばかりに、見つめあってニヤリと笑い合いました。

 


 思いついたが吉日と言わんばかりに、私たちの行動は早かった。

 騎士を辞めた際に実家から分籍していたのはロビンさんだけだったため、私はロビンさんの戸籍に入って、書類上はロビンさんの妹という身分になった。

 その届出を出すのと一緒に、微妙に勇者に狙われているっぽいミケさんもロビンさんの奥さんとして届を出して、私のお義姉さんになった。

 こうして、何ともちぐはぐな家族が私にできた。 


 ミケさんに対しては、結婚式もまだなのに婚姻届だけ出してしまったから少しだけ罪悪感があったけど、二人はいずれ籍を入れるつもりだったし、タイミングが早まっただけだから気にしなくてもいいと言ってくれた。

 いつか私がいっぱい稼げるようになったら、二人をお祝いしてあげようと心に決めた。



 しばらく宿に滞在して役所で身分証ができるのを待った後で、戸籍上ではあるがお兄さんになってくれたロビンさんが後見人になってくれて、商業ギルドと冒険者ギルドの両方に登録をした。

 って言うか、登録の際に二人がものすごく強いことが判明。最初は二人して後見人につくことを冒険者ギルドの職員さんに伝えたら、ギルド受付のお姉さんが卒倒しそうになったほどだった。

 周りにいる人たちもどよめいているから、ロビン兄さんとミケ姉さんにどういうことかと聞いてみたら、二人はSランクの冒険者だった。

 私が今度からは『最強夫婦』だねというと、ミケ姉さんはさすがに照れて私に抱き着いてきた。

 二人して後見人になる私はどんな人物なのかと、ギルド職員さんやら冒険者さんたちからものすごい注目を浴びたけれど、ロビンの義理の妹であると言ったところ何故か妙に納得された。

 ギルドの職員さんは笑いながら「ロビンさんって過保護なのね」と言われたけれど、良く解らなかったから、私は首を傾げつつ戦闘能力は全くありませんがロビンさんの義妹ってだけで戦闘能力が期待されているのかと聞いたところ、ロビン兄さんがミケ姉さんを口説いてきた冒険者を(根こそぎと言ってもいいくらい)半殺しにしたことが原因で、ロビン兄さんが後見人になるということは、私のバックには手を出したら半殺しにしてやるぞと言わんばかりの般若顔のロビンさんが付いているとの証明になるのだとか……。

 それを聞いたら確かに過保護だなと納得するしかなかった。(照


 そして、久しぶりに私の手元に戻ってきた商人ギルドの証! 

 感激しながら手の中でいじくりまわしていたら、ミケさんに笑われちゃった。いいじゃないか、うれしいんだもの!


 身分証も手に入って、国境検問の混み具合も少しばかり空いてきた。そろそろ出国しようかとロビン兄さんとミケ姉さんと話を進めることにした。

 そんなこんなで気になるのが勇者の動向。勇者に因縁がある人が三人も集まっちゃってるからね!

 屋台でご飯を買ったりするときにそれとなく商人さんたちに話を振ってみたところ、詳しくはわからなかったけど噂では王都のあたりにいるらしい。

 何人かの商人さんからそんな噂を聞いたから、たぶん間違いない気がする。行商人さんたちの情報網は侮れないからなぁ……。儲けるためには普通に死地でも未開の地でも行く人いるし。


 ……王都ってことは、たぶん資金が底をついたかな?


 やばい、なんかものすごくありえそうで嫌な予感がする。ここは、すたこらさっさと国を出た方がいい気がしてきた。



「ってことで、急いで出国しましょう!」


「まぁ、ここから王都は割と近いし、念には念を押した方がいいかもしれないね。朝一番の検問ならそんなに混んでないだろうし、明日は乗合馬車も各地に散るだろうからちょうどいいし、旅の必需品はそろっているから問題ないしね。ロビンの方は問題ないよね?」


「俺も大丈夫だ。ところで、サラはこの国を出た後は何処に行く予定だったんだ?」


「えっと、聖国は教会の権力が強くて聖女のコネがありそうだし、エルフの国は論外で、ドワーフの国を目指す予定だったの。仕事も探しやすそうだったし……。それに、あそこの国は特にパーティメンバーのエルフさんが毛嫌いしていたし、鉱山のダンジョンは攻略済みでうま味が少ないって言っていたし、武器や防具は最高級品がそろっているからわざわざドワーフの国まで来ないと思ったし、っていうか勇者の野郎、合法ロリキターとか言っていたけど意味わかんないし、それやったらたぶんエルフさんが勇者を血祭りにあげそうな気がしたし、あ、エルフさんだけじゃなくてハーレムメンバー全員だぁ。チッ、あんな奴さっさとくたばってしまえばいいのに……」


「サ、サラちゃん!?」



 おっかなびっくりと言った様子で、ミケ姉さんが心配そうに私の顔を覗き込んできた。おっといけない、心の闇が溢れだしてしまった。



「とりあえず、言っちゃ悪いけどドワーフって女の人も髭が生えてて見た目がおっさんみたいだから勇者は近づかないと思った」


「ああ、なるほど……」

「それは確かに近づかないわね」


 二人はドワーフの国に行ったことがあったのだろう、好色な勇者がおっさんを毛嫌いしていたことも知っているため、私がドワーフのおっさんと言った瞬間これ以上ない理由づけに二人は妙に納得してしまったようだった。

 ハーレムパーティで生き延びるには人間観察をするしかなかったんだもの……(トホリ

 その後、二人の意見を交えて話し合ったところ、私の意見が採用されてドワーフの国が目的地として決定した。

 


 

 そして、目的地が決まった数日後には特に問題もなく三人そろって検問を突破して王国を脱出が完了した。



 

 その後の私はといえば定住先の鉱山の街で冒険者ギルドの職員として働き始めた。

 仕事が決まった背景にはもちろんロビンさんとミケさんの口添えがあったことは言うまでもない。ギルドマスターがお二人のお友達だそうで、私たちと勇者の因縁やそのほか諸々の事情を説明したところ、勇者には情報を流さないことを約束してくれた。

 まだ成人前ということもあり、仕事時間は短時間で今はまだアルバイトのような感じではあるものの、鑑定眼を持っているため素材の判別などでは引っ張りだこになりつつある。特に鑑定スキル持ちの先輩には泣いて喜ばれた。なんでも、鑑定品が大量に持ち込まれることが多いこのギルドでは、私が来るまでは深夜まで残業しても鑑定が終わらずに体力の限界が来て帰宅すると、翌日には前日の残りとその日に増えた分が上乗せになっていく悪循環に陥っており、鑑定品を置いておく場所も限界になってくると商業ギルドの鑑定士の力を借りるという状態だったらしい。

 それってどんな暗黒企業だろうとおもったけれど、この先輩がだんだん不憫に思えてきて私も頑張って仕事をしている今日この頃。最近になってようやく床が掃除できる状態になった。


 ミケ姉さんとロビン兄さんはというと、相変わらずこの街を拠点にして各地を飛び回っている。最近では職場で『最強夫婦』という名がちらほら聞こえてきて、夫婦になってからも自重しないラブラブっぷりを披露しているみたい。


 ちなみに、勇者と言えば行商人さんから流れてくる噂を拾い集めてみると、王都を出た勇者がものすごく頑張って魔物退治に奮闘しているという情報くらいしか分からなかった。商人さんからは魔王討伐までの肩慣らしだろうと、キラキラした顔で話していたけれど確実に金策目的だろう。


 あ、明日はここで働き初めて最初のお給料日!

 初任給は自分で好きなものを買いなさいと二人には言われているけど、ミケ姉さんのヴェール用の生地を買ってこようと思っている。

 私の事情がなければあの二人はきちんとした結婚式を挙げていたと思う。あのときは切羽詰まっていたと自覚しているけれど、そこは私の大好きなあの二人には幸せな結婚式をしてほしい。

 さすがにウェディングドレスを作るような裁縫スキルはないし、オーダーメイドでドレスを作るようなお金は一応持ってはいるけれど、それは所詮勇者のあぶく銭。あの人たちはただでさえ勇者のせいで苦労をしているのだから勇者が稼いだお金を私は使いたくなかったのだ。

 仕事時間も短いのでそれほど高いお給料をもらっているわけもないけれど、私の恩人であり家族であるあの人たちに私自身が稼いだものでせめてもの恩返しをしたい。

 今は各地を飛び回っている二人だけど、相談ができる受付嬢をやっている先輩に相談をしつつ、次にあの人たちが帰ってくるまでに、ヴェールを作り上げるのが今の私の目標なのだ。











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