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事件の終結へ

 チュウニパーティを留置所に入れて、しばらくしたころのことだった。

 冒険者ギルドの頑丈な扉をたたき壊す勢いで、ミケ姉さんが飛び込んできた。



「サラは居る!?」



 びっくりして扉の方に目をやった私とばっちり視線がかち合うと、姉さんは一直線に走ってきて私に抱き着いてきた。

 うーん。ミケ姉さんとのハグは久しぶりだなぁ。ふんわり温かいというより、ぎゅうぎゅう苦しい。



「お姉ちゃんだ! どうしたの今回は早かったね?」


「どうしたも、こうしたもないわよ! かわいい妹が、ふざけた冒険者連中に脅されたとか聞かされたら、心配して戻ってくるに決まっているでしょう!!」


「……あ」



 ギルドマスターがミケ姉さんたちに連絡するからなと言っていたことを今更思い出した。半分は解決したけれど、元凶がギルド地下の留置所に居ると知ったら檻の中が血の海になるだろうなと思い、ミケ姉さんが落ち着くのを待つことにした。

 キースさんが訴えるような視線を寄越しているから、多分その判断で問題はないだろう。

 


「お兄ちゃんはどうしたの?」


「んー? 道中で襲いかかってきた不届き者がいたから、そいつを縛り上げているところよ」



 ミケ姉さんはいつも通り私にくっ付いて離れなかった。いつも一緒の兄さんがどこに居るのか首が動かせる範囲で探してみたが、見当たらなかったので聞いてみることにした。ミケ姉さんは相変わらず結構物騒なことを言っているが、当の本人は私のほっぺたをむにむにスリスリしている。

 さすがに周囲からものすっごいほほえましいものを見る目で眺められるのも次第に恥ずかしくなってきた頃、ようやくキースさんが助け船を出してくれた。キースさんは単純に不届き者が誰だったのかが知りたかっただけだと思うけど。



「不届き者って何があったんだ?」


「ザなんとかの仇だーって切りつけて来たのよ、まぁそこそこ強いくらいの実力だったし、気配も一人だったからね。旦那に任せてきたのよ」



 思わずキースさんと顔を見合わせてしまった。

 姉さんが言う『ザなんとか』っていうのは、おそらく以前討伐されたザシャのことで間違いがなさそうだ。

 とりあえず、姉さんには離れてもらいギルドマスターを呼びに行く事態になってしまった。今日は何処の酒場にいるだろうか(遠い目)





 ギルドマスターを呼びに行ってくれたのは、笑顔が素敵な受付事務員のフレディさんだった。

 男性社会の冒険者さんたちは受付カウンターにお嬢さんが居るとテンションが上がるので、セリアさんやシルヴィさんが出かけるよりは自分が探してきた方が良いだろうとのことで、留守にしがちなギルドマスターを探しに行ってくれるとてもいい人だ。

 フレディさんがギルドマスターを連れて戻ってくる前に、兄さんが簀巻きにした不届き者を引き摺ってやってきた。不届き者の人は切られたというより、顔面をぼこぼこにされていて顔を見ただけでは誰だか分からない状態になっていた。道中を邪魔されたからってここまで徹底的に手加減してボコらなくてもいいんじゃないか心の中で思った。

 不届き者をその場で放置するわけにもいかず、カイジさんが留置所に放り込んだ。



「ギルドマスターはやっと戻ってきたのか」


「はい、寄りによって領主様と酒盛りを……」


「ちょっとくらい、いいじゃねぇか。領主様だって久々の酒盛りだったんだからちょっとくらい羽目を外したってよ」


「護衛が護衛になっていませんでしたけどね……」



 ギルドマスターはごく一般的な下町の酒場でこの街の領主様と酒盛りをしていました。床にはへべれけになった護衛の人たちが転がっており、死屍累々のありさまだったと呆れた様子のフレディさんが言っていた。ものすごく想像できる光景だったので、みんなでため息をついてしまった。



 素面ではないがギルドマスターが戻ってきたので兄さんたちは別室で今回の一件の話を聞くことになった。

 不届き者の目が覚める前に身元を確認をしてしまおうということになり、所持品を鑑定することに。身に着けている物の中には魔法鞄があったのでそちらを開けてみると、所有者が不自然な盗品と思われるアイテムが次々出てきた。これにはキースさんがまた残業だと嘆いていた。



「どうする、ザシャの残党で間違いなさそうだぞ?」


「そうだな……。さっきの奴、名前が分かるものが何もなくってさ、サラちゃん悪いけど人物鑑定してくれない?」


「わかりました。留置所ですか?」


「そうだよ、俺が一緒に行くから安心してくれな?」


「……ベルガさんヘタレですもんね」


「それは、言わないでくれ……」



 ベルガさんが申し訳なさそうに私に声をかけてきた。

 鑑定スキルはアイテムにしか効果を発揮しない、こういう時は私の鑑定眼がとても便利なのだ。捕まえた犯罪者を調べるときなんかに、稀に呼ばれたりすることがある。仕事とはいえ犯罪者の取り調べに同行してほしいっていう依頼は子供の仕事ではないと思うが、こういう場合は仕方がないと割り切っている。

 隠し部屋の小さい窓からのぞいて人物の鑑定をするのだが、その小さな窓は留置所の換気孔で結構高い位置にあるため私じゃ身長が届かないのだ。踏み台はあっても私サイズのものはないため、いつも誰かに肩車してもらって確認をしている。

 


 鑑定の結果、本名が分かったものの冒険者ギルドにも登録されていない名前だった。冒険者ギルドに登録した名前がないため、チュウニパーティと同様に偽名で登録したものだと思われた。

 不届き者の身柄に関しては、冒険者ギルドへの敵対行動を取り盗賊団のザシャの一味である可能性が高いことから、しばらくはギルドで身柄を預かることになった。

 この街に来た人物なら、各ギルドの受付カウンターの人たちや警邏隊の人が逐一記憶しているそうなので、ボコボコになった顔が元に戻るまでこのまま留置所に入れておくことになったらしい。そう考えると兄さんは後のことを考えずにやりすぎたんだろうなと思った。




 チュウニパーティと不届き者が拘束されてから二日ほどのことだった。行き詰っていた調査が意外なほど早く進展したのだ。

 まず、チュウニパーティが訴えていたブライアンという人物が不届き者と同一人物だったのだ。ギルドの留置所で顔の腫れが引いてきた不届き者を、チュウニパーティが居る隣の檻に移したところ、チュウニパーティの人たちが騒ぎだし不届き者がブライアンであるということが分かった。

 そこからチュウニパーティの人たちの証言を元に、不届き者の冒険者ギルドに登録してあった名前が判明し、調査をするとザシャとの関係も分かったらしい。

 ブライアンという人物はザシャの部下として盗品を売りさばく役割をしていたらしい。丁度他国に盗品を売りに行った際にザシャが倒されたという情報が流れ、討伐に関わった人物たちに復讐をしようと狙っていたとのことだった。

 行方不明になっていた冒険者も討伐隊に参加していた人で、崩落現場で身動きが取れなくなっていたところをブライアンが発見し、とどめを刺して身ぐるみ剥いで捨てたというのが話の顛末だった。



 あとは、私がチュウニパーティに脅された件も、ブライアンがチュウニパーティをそそのかしたことが原因だった。

 討伐の関係者で特に有名人だった兄さんと勇者の関係者だった私は、二人をおびき寄せるための餌として使われそうになっており、チュウニパーティが思いもよらぬ馬鹿で私が警戒してしまった結果その計画は流れたようだ。

 ロビン兄さんへの復讐に関しては、まんまと釣られたのである意味計画の4分の1は成功したと思われるが、返り討ちに会ってしまっては世話ない。

 ハニートラップに引っかかりまくりの勇者は兎も角として、ロビン兄さんを倒したければ食事に毒を盛るとか罠を張るとかしないと倒すのは無理だと思う。



 このような顛末で、一連の事件は幕を閉じたのだった。



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