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荒ぶるシルヴィさん

 私が商業ギルドに顔を出してから3日程経った頃。

 例の冒険者たちは相変わらず私を探す様に受付カウンターの中を覗き込みながら、私は居ないのかとキースさんに良く聞きに来る。キースさんはのらりくらりと話を逸らしながら買い取り品の査定をしているようだった。

 ただ、あまりに頻繁に聞いてくるので偶々居合わせたカイジさんがお前は幼女趣味なのかと茶化したところ、ものすごく顔を真っ赤にさせて怒り出したらしい。当たらずとも遠からずかも知れないねと物騒なことをキースさんが言っていて怖かった。

 彼らの動きはキースさんからしてみれば一般的な冒険者とは何ら変わりは無いようだった。



 私は任された裏方業務を行っている時に、にわかに受付カウンターが騒がしくなったのに気が付いた。



「何かあったんですか?」


「ああ、落盤事故で行方不明になった冒険者の遺体が見つかったみたいなのよ」


「え、本当?!」


「あ、サラちゃんはまだ表に出ちゃだめよ? 今、いろんな人がバタバタしているからね」


「はい」



 近くに居たセリアさんに話を聞くと、行方不明になっていた冒険者が身ぐるみを剥がされた遺体で見つかったらしい。地下水脈につながる崖のところに遺体が引っかかっており、発見した場所が崩落現場よりも離れているため、詳しい現場の確認を冒険者ギルドと街の警邏隊の人でするとのことだった。



「ああ、こんなところに居たんだ」


「キースさん、どうかしましたか? 仕事ならもう少しで仕訳が終わりますけど」


「俺が行方不明だった冒険者の現場を確認しに行くことになってね、遺留品とか現場の鑑定できる奴が俺だけだから、3日くらいサラに鑑定を任せることになりそうなんだ」


「なるほど」


「カイジにカウンターの近くで仕事をしてもらうように頼んだから、大丈夫だと思うけど」


「大丈夫です。今回は何か言われたら大声出しますから!」



 鑑定スキル持ちのキースさんは事件があった時に警邏隊の人に協力をすることが多い。事件現場で何か手がかりになる証拠がないか徹底的に洗い出すのに、鑑定スキルは必須なのだ。一歩手前の目利きスキルを持っている人は多いのに、鑑定スキルを持っている人は本当に少ないのだなと思った。

 一応私も鑑定眼だけでなく鑑定スキルを持っているから協力ができないこともないのだが、体力も自衛手段もないので警邏の人たちに迷惑がかかるから初めから頭数には入っていないのだ。



 そういう経緯もあり本日よりキースさんが居ないため、買い取り業務の復帰することとなった。近くでお目付役に徹することになるカイジさんは、書類仕事が大の苦手であるため、この機会に全部終わりにしてしまえと、シルヴィさんからカイジさんの溜まりに溜まった書類処理の見張り役をしてくれともお願いされた。



「なんかこう、倉庫に居た方が良くないか?」


「駄目ですよ、シルヴィさんがこーんな風な目をしていたんですから、倉庫なんか行かれたりしたら私が怒られちゃいますよ」



 シルヴィさんが珍しくカイジさんに対して怒っていたので、相当な量の書類を貯め込んでいたんだろうなぁと簡単に予想が出来ました。

 そんなカイジさんを監視しながら買い取りカウンターのお仕事を進めていると、顔なじみの冒険者さんたちがいつものように声をかけてきてくれた。大体は、|キースさん(男)に査定してもらうより可愛い子の方が良いという話でしたが、笑いながら相槌を打っていると例の冒険者たちが姿を見せた。



「あー、やっと買い取りカウンターに戻ったんだぁ、サラちゃん」


「ええ、まぁ」


「今日はお目付け役が居るみたいだけど、ここのギルドは皆君のことを知っているだな」


「当たり前ですよ。別に元奴隷だったことは隠していませんから」


「……」


「大体何が目的ですか? 査定の金額を上げてほしいのであれば、この国では交渉すれば済むことです」



 言い返されるとは思っていなかったのだろう。私が睨みつけながら口答えをすると驚いているようだった。カイジさんはこちらに視線を向けてはいないけれど、耳がこちらの方を

向いているので初めから話を聞いているようだった。獣人の聴力は侮れない。



「あー、ホント利口な子は扱い難いな……」


「褒め言葉として受け取っておきます」



 アイリッシュさんから昨日届いた報告内容には、例の冒険者には苦情のようなものが上がってきていることはないけれども、護衛任務の失敗が何度かあったということのみ分かった。今回のことは脅迫とは言っても直接的なことは何も言われていないということを考慮した結果、私の訴えは履歴として残る形となり、現状では彼らに対して何等かの処置をすることは難しいという結果になった。

 一応その辺りは想定の範囲内だったため履歴に残っただけでもよしとした。

 それから報告の内容にあった彼らの失敗した任務の内容は、護衛の依頼中に盗賊に襲われ商人とパーティメンバーが負傷。積み荷が盗られたという内容だった。それなら他の冒険者とは何ら変わりのないことでしょうが、私は盗まれた積み荷の内容が気になった。

 それでシルヴィさんにお願いして依頼の内容を聞いてみたところ、宝石商の護衛だったことが分かった。王国でも有数の宝石の産地から王都に向かう街道での出来事だったようだ。護衛依頼は大商人であれば失敗は契約金の変換くらいで済むが、依頼を引き受けた際の契約次第で積み荷の弁償もあり得るのだ。

 推測にはなるが失敗した依頼の商品を弁償しなければいけない契約内容だったのであれば、この冒険者たちは借金持ちということになる。職員を脅迫するのは手段として最悪であるが、単純に買い取り金額を上げてほしかっただけなのかも知れないと思った。



「おい、話があるなら別室でやれ」


「いや、俺たちは……」


「わかりました、今は会議室が空いていましたよね」


「キースが居ないからあまり留守にするのは問題があるが、こっちも人手不足なのは常連には分かってるだろうから、仕事の方は心配するな。シルヴィを連れてくるわ」


「ありがとう、カイジさん」


 

 あまりに長居をしている彼らにしびれを切らせたのか、カイジさんが声をかけてくれた。確かに仕事中に話をしているのは問題であるため私はカイジさんの提案を受け入れることにした。自分の味方の陣地に入れてしまえば、どういうことか聞き出すことも可能だろうと思ったのだ。

 冒険者たちは第三者が介入したことで狼狽えておろおろとしていたが、カイジさんに首根っこを押さえつけられて会議室に連行された。


 さて、この冒険者ギルドの会議室はトラブルになると真っ先に通される部屋でもある。私の隣には鬼の形相のシルヴィさん。向かいには冒険者の4人組が座っています。この街に付いたときは5人だったのだが鉱山ダンジョンの攻略で一人抜けたらしい。

 私に対して脅迫をしてきた人はパーティのリーダーであるアーノルドという人だった。彼は私の正面に座っており、シルヴィさんの後ろに立てかけられた血塗れの鈍器にチラチラと視線を送っている。



「さて、楽しいお話をするっていうので呼ばれたんだけど?」


「いや、俺たちは特に何もしていな――」



 ドカンという音と共に机の一部が破壊された。ぱらぱらと砕け落ちる長机の残骸とシルヴィさんの握り拳。あの重たそうな鈍器を操る腕力は健在だった。

 流石の私でも不意打ち過ぎてびっくりした。



「嘘を言ったら、こうだからね?」



 女神の微笑み(怖)を浮かべているシルヴィさんを凝視している彼らは、首振り人形のようにかくかくと上下に振った。

 相手は現役Bランクの冒険者だが、引退したとはいえ元Aランクの冒険者だったシルヴィさんには敵わなそうな勢いだった。



「サラちゃんには悪いけど、例の事件のことも含めての調書になるけどいいかしら?」


「あ、はい。大丈夫です!」



 あ、微妙に声が裏返っちゃった……。

 どうぞどうぞお構いなくおすすめくださいと言わんばかりに、私はシルヴィさんに話の主導権を任せることにしたのだった。

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