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サラの訴え

 商業ギルドに行った次の日、冒険者ギルドで行方不明者の捜索に当たっていた人から連絡があった。

 鉱山ダンジョンの枝道に崩落の痕跡があり、現場から大量の血痕が見つかったらしい。しかしその場所に行方不明者はおらず、荷物さえも残っていなかった。行方不明者は遺留品や遺体が早々に見つかることが多く、今回の場合は残された遺体が魔物に食われ遺体を見つけた者たちが遺留品だけ持ち去ったのだと思われた。

 迷宮のダンジョンなら遺体はそのまま放置されてもダンジョンに吸収されて遺留品だけ残るため、後続の冒険者たちに回収される。しかし、この街のダンジョンは鉱山が魔素の影響でダンジョン化したのだが、迷迷宮のダンジョンとは異なりいわゆる魔素溜まりの影響で空間がねじ曲がった場所である。そのため、迷宮ダンジョンとは異なり遺体を早々に回収しないと魔素溜まりが増えて魔物の発生率や空間の歪みなどの危険度が跳ね上がる傾向があるらしい。



「早く見つかってくれればいいんだがな……」


「獣人のパーティに声をかけて一帯を捜索してもらうことになるだろうな」



 崩落の現場となった枝道は魔物避けが設置されている安全地帯で死肉をあさる獣は魔獣は近寄れないため、現場に遺体が残っていないのはおかしいという話だった。



 ギルと一緒に帰る途中で昨日保留になっていた件の話を聞きに商業ギルドに足を運ぶことにした。

 今日の護衛もシルヴィさんである。カイジさんの当番だったのに押しのけたと胸を張って言われた。



「商業ギルドに何の用事?」


「昨日、例の冒険者の件で色々と手続きを取ってもらおうと思いまして」


「へぇ~」



 鍛冶屋ギルドに所属しているギルは商業ギルドにあまり馴染みが無いようで、周りをきょろきょろと見渡しながら私の話を半分聞き流している状態だった。一人前の鍛冶師になってお店を持つまではあまり縁がない場所だろう。



「ああ、きみは昨日の」


「はい、昨日の件で話が決まったかと思いまして」


「少し待っていてね、ハーゲンさんに確認をしてくるから」



 昨日会った気の弱そうな職員さんに声をかけると上司であるハーゲンさんを呼びに行った。

 部屋に通されるとハーゲンさんに嫌な感じの笑みで迎えられた。通された部屋は昨日と同じで既に職員さんから連絡が言っていたのか、資料と思われる書類が机の上に並べてあった。

 この人が元からこういう笑顔なのか、悪いことを考えているから変な顔に見えるのか、私にはいまいち判断が付かない。


 ギルは直接関係がないから受付のある場所でお留守番。職員さんは一緒についてきたシルヴィさんに対して呆気にとられたような視線を向けていたが、兄さんたちが居ないときはシルヴィさんとカイジさんが保護者になっているためその点は問題ない。

 脅迫をされていたのは事実である、脅迫の内容を聞いたわけではないが状況を説明できるシルヴィさんが来てくれて助かった。少し嫌な予感がするが、シルヴィさんが居るから多分何とかなるだろう!(腕力と冒険者ギルド幹部のけん制的な意味で)



「まずは事実確認ですが、脅迫されたというのは事実ですか?」


「はい。こちらのシルヴィさんは直接脅迫の内容を聞いてはいませんが、その時の状況を良く見てらっしゃいましたので、一応証人としてお連れしました」


「では、脅迫されたという内容については?」


「想像はついていらっしゃるんでしょう? 私の過去について。商業ギルドには記録が残っていますでしょうし」



 ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべたハーゲンさんは、私の過去に奴隷だったことを知っているようだった。事実確認と称しながらも、私自身に奴隷だった時の話をさせようとしているのがまるわかりだった。



「そうですね。債務奴隷になって商業ギルドの資格の取り消しが記録に残っておりますよ。まぁ、債務奴隷に落とされた者は資格の取り消しをされるというのは商業ギルドの規則ですし? 債務奴隷になった経歴というのは、商人では最も軽蔑されることですが、ね」


「……っ!? 貴様!」


「シルヴィさん、落ち着いてください」


「ま、債務奴隷だったというのは事実ですからな。そんな信用も置けない者の意見など、聞くに値しないということです。おかえりください」



 やはり性格が悪いなこの人。債務奴隷になるということは商人にとっては、資金管理すらできない未熟者であるのと同義で恥ずべきことである。

 話の進め方がまずは私が奴隷だったことを指摘して断るような調子だったので、案の定シルヴィさんがキレた。一応予想の範囲内だが、予想外だったのはキレた瞬間に机を叩き割ってしまったことだろうか。真っ二つに叩き割った瞬間は、いやらしい笑みを浮かべていた目の前の人物も真っ青になっていていい気味だと思ったが。



「サラ、こんな奴に言われて悔しくないの!? せっかく逃げられたのに、今になってこんな目に合うのは理不尽じゃない!!」


「……シルヴィさんの言うとおり、理不尽だと思いますよ? 大体、私が奴隷になったのって8歳の時ですよ? それも親の不始末で借金の清算の為に実父の正妻に売られましたからね! それから、勇者の奴隷になりましたけど、魔物の発生地帯に連れて行かれるわ、幼女趣味がありそうな勇者にいやらしい目で見られるわで散々な目に遭いましたけど?」


「……」


「私を債務奴隷だったと見下しているハーゲンさんにお聞きしたいのですが、さっきお話したのがざっとした私の経歴ですけど、私の何処に非がありますか? 私の債務は両親の借金なのに、商業ギルドは私の借金として処理をしましたよね? 生まれた両親の元が悪かったって言うなら、子供は親を選べません。8歳の私が債務奴隷になったのは私のせいですか? 債務奴隷になった際に私を買った奴隷商人から情報が展開されていると聞きましたがご存じない? 仮に奴隷商人さんが報告をし忘れたら注意するのが商業ギルドの仕事ですよね? それも怠ったうえで私に処分を下したのなら情報収集不足に不備あるのでは? まぁ、その処分を下したのは王国の商業ギルドですが、こちらも債務奴隷だったという経歴ひとつで見下しているということは、同様なお考えなのでしょう。この際はっきりさせましょう。是非、お答えをお聞かせ願えますか?」


「それは、俺の立場で答えられることではない」



 この人は役職的には平職員の一つ上くらいの立場だからそうだと思った。背後にある事情とかその他諸々、私に関するお涙ちょうだい的な二年間を何も知らないくせに、私が債務奴隷だったという事実だけで見下していたのだから本当に笑えた。

 奴隷商人も商業ギルドの一員なのだから、私を買った奴隷商人さんに聞けば裏事情なんか丸わかりなのに。



「あなたは背後にある事実関係を無視して、債務奴隷だったという過去の事実のみで判断をされていらっしゃる。現状、私は債務を完済したうえで奴隷の身分ではありません。その上で脅迫をされたから、訴えを上げているのに取り合うことすらしないのであればお話にならないでしょう。ハーゲンさんの直属の上司の方のお名前は存じ上げませんので、アイリッシュさんを呼んでください。鉱国の王家にも影響があるアイリッシュさんなら本部にもかなりの影響力があるでしょうし、商業ギルドの本部の幹部でもありますよね? あ、居ないという理屈は通りませんよ? 昨日、お店に行って予定を確認してきましたから、今週は確実にこの街に居るはずです」


「……どうしてそれを」



 椅子から動こうとしないハーゲンさんに畳み掛けるようにアイリッシュさんの名前を出すと、次第に顔が真っ青になっていった。自分の不利を悟ったのと上司に自分のミスをさらしたくない恐怖感、あとは出世にも響くという計算もあるだろう。



「調べました。というよりは、商業ギルドの入会する際の規約に幹部の方の宣誓書があってそこにアイリッシュさんの名前がありましたので、本人かどうかを確認しただけです」



 商業ギルドの本部の幹部だという話についてはアイリッシュさんの名前が超有名だったので調べる手間が省けた。だって、アイリッシュさんのお店の針子さんに話を聞いたら速攻で教えてもらえたし。

 この人はどう動くかなと観察をしていると、扉をノックする音の方に視線を向けるとそこにはアイリッシュさんがいた。



「お久しぶりです、アイリッシュさん」


「昨日、店に来たと聞いたが、ヴェールの進捗を見に来たのかい?」


「はい。それと確認をしたいことがありまして」


「ほお? それはさっきから聞こえていた、こやつの不愉快な話のことかい?」


「そうです。商業ギルドの方針としては、解放された奴隷には商業ギルドに所属することも、所属したうえで受けられる恩恵も必要ないというお考えのようですが、それで合っていますか?」


「いいや、それは違う。奴隷に落とされた者に関しては、商業活動をすることが出来なくなるから登録を凍結されるだけであって、奴隷から解放されて自由の身になったものに関しては、一般的な登録者と同じ扱いになるはずだよ?」



 ちょっと待って、なんだか一瞬無視してはいけない内容を聞いた気がする!

 奴隷落ちした人は登録が抹消されると思っていたけれど、凍結!? それなら、なんで私は抹消されたのさ!? 凍結されるだけなら私が預けていたお金も一緒に戻ってこなければいけないはずだ!

 これは奴隷だからという侮辱以外にも、聞かなければいけないことが増えてしまった。



「ハーゲンさん。今おっしゃったことをもう一度聞かせていただけますか? アイリッシュさんは聞いていらっしゃらなかったと思うので」


「アタシも聞かせてもらいたいもんだねぇ。どんなふざけた内容だったのか」


「いや、……それは、その……」



 微笑みながらハーゲンさんに言われたことを匂わせつつ、ほらほらさっさと言っちゃえよという雰囲気に持っていった。

 しどろもどろになりながら説明をしだしたハーゲンさんではあるが、アイリッシュさんの目がゴミを見るような眼をしていたため、全部こいつが言ったことは聞いていたんだろうことは普通に予想が付いた。

 事実とは言っても見下されたうえにムカつくことを散々言われたんだから、溜飲を下げるくらいは許してくれるだろう。


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