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商業ギルドの思惑は?

 ギルドマスターにはだいぶ渋られたが理解をなんとか得ることが出来た。ただし無理だけはするなと釘を刺された。それと私が無茶をしそうだからと先に兄さんたちへ報告がいってしまった。仕方がないので兄さんたちに一応の状況説明とお願いごとを手紙に書いて送ってもらうことにした。二人には心配をかけてしまうけれど、ミケ姉さんはやられたらやり返せが心情の人だからこれで大丈夫。

 いつもの飲んだくれが迅速な行動をしやがってとは思わなくもなかったが、家族が一緒にいるのは心強いから一応許した。虎の威を借る狐のようで申し訳ないのですが、強力な後ろ盾が居るのと居ないのでは大違いだと思うので、結果的にはいい方向に向かってくれると思いたい。


 冒険者ギルドの職員さんたちは皆さん私の事情を知っているため、冒険者(奴ら)に脅迫された件については私がギルドマスターの執務室から出たころにはシルヴィさんから全体連絡がとして職員全員に話が回っている状態だった。

 色んな人に心配されたが、心配してくれる人が居るからこそ、私は甘えられるし頑張れるのだ。



 そうこうしているうちにギルのお迎えの時間になった。ギルドマスターが護衛を付けると言っていたので、誰が来るのかと思ったら案の定シルヴィさんだった。



「え、なんでシルヴィさんが居るんですか!?」


「いま、サラの周りが色々と物騒だからね」


「……それって、人族の冒険者のせいですか?」



 やっぱりギルも例の冒険者のことを知っていたようだった。

 現在、シルヴィさんに胸倉をつかまれて事情を説明しろと締め上げられている。

 早々にギブアップしたギルが言うには、酒場でおおいに酔っぱらった奴らが話していたのを偶々耳にしたらしい。それでも酒場は周囲が騒がしすぎる中での会話だったため、その話を聞けたのは隣の席に居た人くらいだろうとのことだった。



「冒険者ギルドの黒髪の女の子ってサラしか思い当たらないし、まさかとは思ったけど本人に聞くわけにもいかなくて、昨日は変な態度とっちゃったし……、ごめんな?」


「いいよ、奴隷だったことも本当だし。これから皆にばらすから問題ないよ」


「え、ちょっとサラ!? なんかとんでもないことを言ってない?!」


「元奴隷だってばらすこと? そんなの事実だもの。公表しちゃえば脅迫されない」


「考え直せ!!」



 道の往来だというのにシルヴィさんとギルが同時に声を上げた。

 この際だから公表してしまえばいいと思ったのだ。

 この国は奴隷制禁止なだけあって、元奴隷だったという人が少なくない人数で居る。もちろん公表している人は少ないけれど、昔奴隷商で見たことのある雰囲気のある人が特に冒険者さんには多い気がする。



「別に問題ないよ。そんなことで目の色を変える人なら、今後も付き合わなくても問題ないもん」


「そんなことをしたら、商人たちからはそっぽ向かれるってわかっているでしょう!! 商人になるのサラの夢だったじゃない!!」


「債務奴隷になった時点で商人失格って烙印は押されているんだから問題はないですよー」


「そんなのサラのせいじゃないんだから仕方ないじゃない!」



 自分の商業ギルドの資格を剥奪されたくないがために、娘を売り飛ばした父親とその正妻のせいだし。シルヴィさんの言うとおり私にはこれっぽっちも責任はない。そういった背景も知らないのに、債務奴隷になったっていう事実だけで資格の剥奪とかね、規約にあることとはいってもあまりにも不当な扱いだと思うので、他にも被害者が居そうだからこの際問題にしてもらおうと思っている。

 この場で話しても仕方がないので、二人にはニコリと笑って誤魔化しておいた。



 翌日、鍛冶屋ギルドから行方不明者の捜索の依頼が入ったとの連絡があった。

 どちらもBランクの実力者で、もしかしたら枝道に入った際にダンジョンが崩落して脱出できない可能性もあるとのことだった。匂いで道を辿るのが上手い獣人とドワーフのペアだったため、冒険者の仕業ではないかとの疑いも出てきたらしい。

 そんな中、私はというと安全の確保の為にカウンターのお仕事はしばらくお休みになった。日中はカイジさんと一緒に商業ギルドや鍛冶屋ギルドに定期買い取り品を持っていく手伝いをしたりしていたが、色々とやることがあったので午後は私用でお休みを取ることにした。

 仕事中のシルヴィさんに護衛を頼むこともできないため、ものすごく心配されましたが外出先を伝えて寄り道しないでまっすぐ帰ることを条件に外出を許された。




 一度家に戻り姉さんのヴェールの進捗状況の確認をしにアイリッシュさんのお店に行ったが、そこで針子さんに見せてもらったのは想像していた以上のしっとりなめらかな質感の真っ白なレースが出来ていた。完成までにはしばらく時間がかかるとのことだったが、現在の出来だけでもうっとりするような綺麗なレースに完成が楽しみになった。 

 それから商業ギルドに顔を出した。午前中に来たのにまた来たのかという目で見られたが、今回はまるっきり私用である。商業ギルドに登録している人なら誰でもできる手続きをしにやってきたのだ。



「どんな御用件ですか?」


「商業ギルドのブラックリストに追加していただきたい方が居りまして」


「え、きみ冒険者ギルドの職員だよね? 行商人なら分かるけど……」


「商業ギルドの会員ではありますので問題はありませんよね?」



 頻繁に冒険者ギルドの用事で出入りをしているため、私のことは冒険者ギルドの人であるとの認識だったようだ。ほとんど商業ギルドの活動はしていないので、幽霊登録者のような形になっていると思われる。



「まぁ、大丈夫ですよ。しかし、きみも変わったことをするね?」


「ちょっと周りの安全を考えた末に、報告すべきかと思ったので……」


「とりあえず、奥で話を聞きましょうか。上司も同席しますけど良いですか?」


「はい、複数の方の判断は必要だと思うので問題はありません」



 商業ギルドの職員さんは首を傾げながらも、私の話を聞いてくれることになった。そこに上司の人が入ってくるとは思わなかったけど必要なら仕方ない。ブラックリストに載せるということは、商業ギルドに登録している商人にこの人は危険人物であると暴露するものだから。

 別室に通された私は職員さんと相向かいの席に座った。職員さんの隣には上司と思われる人が座る。でも、この上司っぽい人だが冒険者ギルドでキースさんに散々嫌味を言ってきてストレス値をマックスにした張本人で、カイジさんと一緒にやった倉庫整理で仕分け鑑定ミスをした人であった。鑑定スキルの力量的にはキースさんどころか私にも劣るので、嫉妬のせいかいつも嫌な視線を向けられている。

 なんだか先行きが不安になってきた。



「さあ、きみの話を聞こうじゃないか」


「まずは、こちらの資料をご覧ください」


「む、つい先週にこの街に来た行商人の護衛だな」



 鍛冶屋ギルドの行方不明事件で関連があると思われる冒険者の説明用に配られた資料を渡した。



「このパーティをブラックリストに入れろと? 特に問題を起こしたことはないのにどういうことだ?」


「最近になって私を脅迫してくるようになりました」


「理由は? 何か君との間に関係があるのでは?」


「そんなことはありません。向こうが一方的に私のことを知っていたのです」


「ハーゲンさん。彼女の言うとおり、脅迫をしてくるような奴らならブラックリスト入りの対象ですよ?」


「……少し考えさせろ。調査もしないといけないから、今日のところは帰ってくれないか?」



 脅迫されたことに対して気の毒そうな顔をしてくれる職員さんとは違い、その上司の目に何か暗いものを見た気がしたが、そう言われてしまっては長居をするわけにもいかず、私は商業ギルドを後にしたのだった。


 


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