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冒険者の真意

 この日は受付カウンターの仕事で終わった。鑑定と違って魔力は使わないけど、気疲れが半端ない。護衛の仕事で来た人は、そのまま別の護衛の依頼を受けて街を去ることが多いが、サウスソルトの街は鉱山ダンジョンがあるため、そちらに挑戦する方もチラホラいた。

 ただ、鉱山ダンジョンはダンジョン都市にあるような迷宮になっているものとは違って、坑道に魔素が溜まってしまってできたものであるため、必要な装備も他の場所とは少し違うらしい。元々鉱山だった場所であるため内部は非常に入り組んでおり、崩落の危険や魔素の影響で別の空間に繋がって出てこられない事例も発生することもあり専門に潜る冒険者さんもいたりする。

 そんなこともあり、鉱山ダンジョンに向かった冒険者さんたちは大丈夫かなぁと考えながら、既に恒例行事化しているギルのお迎えで家路についたのだった。





 行商人さんの往来も落ち着いて、護衛の冒険者さんも少なくなってきた頃のことだった。以前見かけたチャラい冒険者さんたちは、しばらくこの街で腰を据えて稼ぐみたいで、度々冒険者ギルドで依頼を受けている。

 まぁ、彼らも鉱山ダンジョンの他にこの街の近辺の魔物の退治をしたりと、なかなか活躍していて買い取りカウンターにいる私を見かけると話かけてくるようになった。



「今日は受付カウンターじゃないんだね?」


「はい、私の仕事は買い取りカウンターが主です」


「そういえば、名前聞いてなかったな」


「鑑定士のサラと申します」



 見た目は良いけど正直言って胡散臭いので、愛想笑いと酔っ払いに対する適当返事で警戒はしているんですがね、この人たち何故かぐいぐい来る。



「俺たち今後こっちに移住も考えているんだ、良かったら色々教えてくれると嬉しいな」


「へぇ、そうなんですかー、それなら私ではなくてそういったことは冒険者さん同士でやり取りをした方が良いですよー?」


「そんなこと言わずにさ、サラちゃん可愛いからさ~、かまいたくなるんだよ~」


「え、ちょっ!?」


「アーノルドそんなに言ったらサラちゃん可哀相だろ? 今日のところは帰るぞ?」


「へいへい、じゃあね~。サラちゃんまた来るよ~」



 うへぇ、見かけ通りで本当にチャラいなこの人たち……。

 それに、この人たちそれぞれが交代で話しかけてくるから微妙に話を逸らすタイミングがずらされてしまい断りにくいことこの上ない!

 あまりに誘いが酷いとシルヴィさんやカイジさんから救いの手が差し伸べられるのだが、微妙に引き際を弁えているせいで絶妙なタイミングで帰っていくため、気疲れどころではなくて裏方仕事の方に引きこもりたい。



 この街ではあまりチャラい人は多くない。

サウスソルトの冒険者ギルドは半数以上がドワーフ族の冒険者であり寿命が長いドワーフ族の若い人たちは、鉱山や鍛冶場で修業をしていることが多く、副業として冒険者をしている方は程よく血の気が抜けて少しばかり落ち着くことを覚えたおじさん(全員髭の為おじさんにしか見えない)が多いのだ。

 そんなドワーフ族に限らず、この街を拠点にする他種族の方も職人さんと冒険者の兼業が多いので、こういったチャラチャラしている人は本当に少ない。

 この街を拠点にするとか言っているけど、鉱山ダンジョンは迷宮とは違って宝箱は出ないから鉱石の採掘以外のうま味は少ないのに。さっさとどこかの街に移住してくれないかなぁ……。




 そんなことを考えながら鑑定の仕事を終えると、きっちり夕方の5時にギルがお迎えにやってきた。私の顔を見て条件反射のようにニカッと笑うギルに、やっぱりお前は忠犬なのかと切実に言いたい今日この頃。



「サラ、迎えに来たぞ!」


「もうそんな時間か、サラもう帰って大丈夫だよ。こっちもひと段落したし」


「わかりました。では、お先に失礼します」



 もはや恒例行事になりすぎて、最近ではキースさんもギルの顔を見るとこれで終わりにして良いよと言ってくれるので、なんだか微妙な気分になる。

 せっかく迎えに来てくれたのでギルと二人で自宅に続く道を歩く。


 ギルの送り迎えに関しては兄さんも忌々しいが私の身の安全を考えるなら一緒に帰ってもいいだろうと、苦々しい顔で言っていたので一応了承は得ている。

 そこに至るには色々な紆余曲折があり、恋人はまだ早いとか友人でもないのに送り迎えをするのはどうなのかとか、ギルが兄さんに色々言われた挙句、本気の殺気で死にそうになっていたので、死なれても困るのでお友達というポジションで落ち着いている。



「なぁ、サラ」


「なに?」


「お前さ、なんか困ってる事とかない?」


「特にないけど……、急にどうしたの?」


「いや、ちょっと…な……」



 普段はギルがその日に会ったの出来事を話してくれるのだが、今日は違ってなんだか歯切れが悪そうな感じで話しかけてきたので驚いた。何かあったのかと思ったけれど、ギルはそのまま口を開こうとせず家に着いてしまったのでギルから聞くことは叶わなかった。





 何となく釈然としないまま翌日になり、いつものように仕事をしていたのだが、普段ならそれとなく声をかけてくるドワーフの冒険者さんたちが気まずそうな顔をしてるのに気が付いた。



「何かあったのかな?」


「私も良く解らないんですが……」


「何かあったら、言って?」


「……ありがとうございます」



 チラチラとこちらに視線を向けるわりに、目が合わない不自然さ。言いたいことがあるなら、さっさと言えと言いたくなる。

 キースさんもその様子を見て首を傾げている始末。何があったのか全く状況が分からなかった。


 そんな周囲の雰囲気を気にすることもなく、例のチャラい冒険者パーティの一行がギルドに姿を現した。煤けた荷物が多い所を見ると鉱山ダンジョンからの戻りのようだった。



「サーラちゃん! 今日も買い取りよろしく!」


「はい。順に鑑定しますのでこちらに買い取り品を並べてください」


「はいよー」



 やっぱり妙にテンションが高くて、話を聞いているだけでも疲れる人たちだ。

 チャラい冒険者さんが頭陀袋を逆さまにして取り出したのは、鉱山ダンジョン産の鉱石と魔物の素材でした。以前依頼を受けたヴェノムマンバの素材や蝙蝠系の魔物の素材が並び、流石Bランク冒険者だと思ったが、どこが漠然とした違和感を覚えた。



 鉱石を鑑定しながら彼らの様子をちらっと横目で観察しつつ何処がおかしいのか考えてみると、彼らは身軽すぎるんだと思い至った。


 鉱山ダンジョンは迷宮とは違って専門の装備が必要になる。光源に関してはランタンや魔法で代用は可能であるが、崩落の危険があるので頑丈な頭装備が必須になるのだ。それと蝙蝠や岩場に隠れる蛇系の魔物が多いので、それを探るための杖や鉱石を発掘するならピッケルやスコップのようなものも必要になってくる。

 この人たちを見た限りではそのような装備は見当たらず、それらの装備は魔法の鞄があれば仕舞えてしまう装備ではありますが、魔法の鞄があるならば装備を入れるよりも鉱石を入れて持ってくるべきだった。魔法の鞄はかなり高価なものであるため、持っている冒険者がとても少ない。彼らは初めから鉱石を頭陀袋に入れていたため持っていないのだろうと予想がついた。


 それに、持ち込んだ鉱石を自分たちで発掘したのであれば顔や服が煤けていなければおかしいし、グローブを付けているならグローブが汚れていなければ変である。素手なら爪の先が黒くなっているはずなのだ。かすかに血の匂いがするのは魔物の素材を解体したからだと言われてしまえばその通りではあるのだが……。



 

 考えれば考えるほど彼らが見た目以上に怪しいことに気が付いてしまい、どうやって彼らにばれないようキースさんに伝えればいいのだろうかと私の思考はそちらにシフトした。



「すみません。こちらの鉱石なんですけど私は見たことがないものなので、上司に聞いてきてもいいですか?」


「んー、サラちゃんなら分かるよね?」


「いや、だから私は、見たことないんです」



 チャラい冒険者のリーダーと思われる金髪の人が、私の腕をつかみゾッとするような笑顔で話しかけてきた。

 本格的に拙いと思いながらも、どうにかキースさんのところに逃げたい感情が湧き上がってくるのだが、この人から視線を逸らすことができなかった。



「いいや、分かるはずだよ。鑑定眼持ちの元奴隷のサラちゃんならさ~?」



 その人が私の耳元で囁いた言葉を聞いた瞬間、私の中ですべての音が消えた気がした。


ブックマーク1000件超え記念といたしまして、

皆様への感謝をこめてリクエスト企画を実施しております。


詳細は、11月5日の活動報告に記載しております。

リクエストの締切11月15日(日)の23:59まで


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