勇者の未来は?
ロビン視点最後です。
無力化した幹部を縛りあげていると、仲間たちが俺に追いついた。俺がザシャと戦っている間に下級構成員は全員捕縛され、幹部は抵抗が激しく二人を残し全員が死亡したのが確認された。
ベルガが率いていた方には、金庫番ともいえる幹部が常駐していたそうだが、そちらは生かして捕えることができたそうだ。勇者が盗品に手を付けようとするなどの問題を起こしたが、それを除けば討伐の依頼は概ね達成できた。
その後、盗賊団幹部は冒険者ギルドにて尋問を受けることになった。尋問を受けた後はこの国の法によって裁かれることになる。ザシャに関しては、ベルガから元は王国で活動していた冒険者だったことを後になって聞かされた。おそらく、同じ境遇に陥った同胞を捨て置くことが出来なかったのだろう。
それと、下級構成員である難民たちは勇者が王国へ連れ帰ることになるだろう。ただし、盗賊として活動していた経歴の者たちであるため、彼らは難民としてではなく犯罪奴隷としての帰国となる。元はと言えば、王国の情勢が悪いために盗賊に身を落としたのだ、王国の騎士として国の為に働いていた俺としては、何ともやりきれない結果になったと思った。
討伐達成を報告するために冒険者ギルドに戻ると、職員たちもほっとした様子で迎えてくれた。
「おかえりなさい! 怪我とかはありませんか?」
「問題ない」
ベルガが盗品を持って帰ってきているはずなので、主任鑑定士であるキースがさっそく鑑定に入ったようなのだが、普段よりも具合がよさそうなのが気になった。
「キース、いつもより顔色が良くないか?」
「ああ、分かりますか? 仕事柄いつも魔力不足なんですが、サラちゃんに預かったネックレスが魔力タンクの役割を果たしてくれまして、それで調子が良いんですよ」
「ああ、対策を練ってみると言っていたからな」
「いや、俺としては本当にありがたいんです。でも、このネックレス、鑑定したらとんでもない代物で、俺卒倒しそうになったんですけど……」
「……」
キースが苦笑いしながら見せてくれたアイテムは、魔石化サファイアのネックレスという代物だった。効果を聞いたら確かに魔力タンクの役割を果たすのだが、Sランクという等級が付くような代物で、国宝級の代物だと言われた。
宝石の見分けやらアイテムの鑑定は門外漢だが、見たところ確かに良いものだ。サラの趣味はアイテムコレクターではなく、純粋なる金集めをすることだ。ただし、貯金をするのではなく掘り出し物を探して転売して利益を稼ぐのが楽しいと言っていたことがある。おそらくこのネックレスもその一環として買った物だろう。
一度だけサラの持っていた転売用のアイテムを入れる小箱の中身を見せてもらったことがあるが、俺やミケですら持っていないような国宝級の魔道具やら宝飾品がみっちりと入っていたのを思い出して遠い目になったことがあったと思い出してしまった。
あの子の兄としては、ものすごい掘り出し物を見つけてくる目利きと強運と、それを自分で使うでもなく金になると判断したら容赦なく転売してしまう彼女の思い切りの良さに思わずため息が出た。
そんな話をキースとしていると、俺の後ろに忌々しい気配を感じた。
「……生きていたんですね」
「妻を置いて死ぬわけないだろう」
「妻って、ミケーレさんを置いて別の人と結婚したんですか!? 最低だなアンタ!」
ため息をついて、声をかけてきた輩を見下ろした。寄りによって、生きていたかと聞かれて、心底あきれ返ってしまった。
馬鹿だろう貴様、愛しの妻と妹を置いて死ぬわけがないだろうが。キースも同じことを考えていたようで、勇者に向ける視線がゴミを見るような目になっている。
「……。なぁ、キースこいつ馬鹿だろう」
「ええ、まぁなんというか、話を聞かない人ですよねー。知らないみたいだから、教えとくけど、ロビンとミケは結婚しているぞ?」
「なっ!?」
「アホか、俺がミケーレを手放すわけがない」
俺と同じくして騎士団を辞めたミケが俺と袂を分けたとでも考えていたのだろうか?
俺は騎士団を辞めれば彼女も必ず追ってくるだろうと思った。事実、ミケは俺を追いかけ地位と家を捨てた。俺たちの間にあるものは絶対的な信頼だとも言えるが、傍から見たら俺たちはお互いを求めすぎて病んでいると言ってもいいのかもしれない。
「ですよねー、現役騎士時代もラブラブだったのになぁ」
「結婚したって聞いた時に、まだしてなかったのかって思ったくらいだもんなぁ?」
トラブルが起きたのかと、事後処理の指示を出していたベルガがこちらに来た。俺たちが剣呑な雰囲気になっているため、勇者たちの話を野次馬たちから聞いたようで、呆れたような顔になっている。
ベルガは急にキースに話を振られたが、特に疑問に思うでもなく俺とミケが結婚するのは時間の問題だと思っていたといい、キースもそれに同意するように頷いていた。
当たり前だ! ミケが居なければ確実に俺は死ぬだろう。たとえサラが居ようとそこは変わらないと思っている。死ぬ気は全くないが。
そんな話の流れの中で、呆然としていた勇者が、『俺は勇者なのに』とか『奴の方がチートじゃないか』とか、良く解らないことを色々言った後で『俺にはあの子がいるし』とかボソボソ言い出して、一瞬狂ったかと思ってしまった。
満面の笑みを浮かべたギルドマスターに勇者は事後処理の関係で引きずられていったが、その際に勇者のパーティメンバーの面々に視線を移すと、一人は嫉妬、一人は心配、後の二人はあまり関心がないようで、こいつらの人間関係はどうなっているんだと首を傾げたくなった。サラから碌な人間関係を築いていないとは聞いていたが、これほどとは思わなかった。
魔王を倒すために召喚された勇者であるが、まだ精神的に子供だ。深くまで物事を考えず、与えられるものを素直に享受するだけ、長いものには巻かれるような生活が奴の当たり前になっているのだろう。
周りに居るパーティメンバーも、一人を除いて勇者という名前が欲しいだけに見える。
今はまだ国の政治活動に使われているが、そろそろ召喚されて2年が経つ。嫌いな相手ではあるが、本人が自覚しない限りは人が離れていくのが予想できた。
「おい、そこのエルフ」
「な、なによ……」
「勇者が気掛かりなら、周りの人間関係に気をつけろ」
敵に塩を送るようだが、一応は魔王を倒すために必要な人材である。
俺は勇者のパーティメンバーの一人に声をかけた。ミケには劣るが美女であるエルフは訝しげに俺を見たが、勇者を選んだ時点で残念美女に格下げされている。何が楽しくてハーレムを築いている男に惚れたのかと思ったが、恋は落ちるものだ。本人の意思とは関係はないだろう。だが、趣味が悪いとしか言いようがないと俺は思っている。
急に声をかけられ彼女も戸惑ったようだったが、俺の話は一応聞いてくれたようだった。彼女のように親身になってくれる人がいるのだと気づいてくれればいいが……。
もう勇者に会うこともあるまいと思い、俺は冒険者ギルドを後にした。討伐に参加した者たちは宴と称した飲み会をやっており、俺も誘われたがそんな気分ではなかったため参加しなかった。
ミケとサラは王都に行っており、しばらく帰っては来ない。王都を観光するとは言っていたが、ミケは問題を起こしていないだろうか、サラは無茶をしていないだろうか……。
考えるだけで不安になるが、早く愛しい家族に会いたいと思った。




