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討伐の心得

残酷描写注意です。

 討伐に参加する者には、決行日時と集合場所のみが秘密裏に伝えらえた。その際に誰からも質問がなかったのは、今回のような盗賊討伐がこの街では多々起きることだからだ。

 俺はギルドマスターと一緒に集合場所である森の中に居た。しばらくすると気配を消した冒険者が集まってきて、やがて20人程の集まりになった。



「向こうの討伐の指揮は?」


「ベルガが指揮を執るそうだ。補佐役でドミニクも付けたから問題なかろう」



 あまり人数が多くても気配でばれてしまうため、最低限の人数での決行になる。勇者がいるのはベルガが担当している拠点の方で、ここには居ない。向こうが担当する拠点は斥候役が集まる臨時の拠点という名目らしいが、捉えた構成員の話によると金庫番をしている幹部の一人が常駐しているようだった。敵の人数はベルガの担当拠点の方が少ないが、金庫番がいるということは、おそらく盗品の管理も任されているだろうとベルガは睨んだ。そうなるとザシャに近しい者か腕利きの者が常駐している可能性が高いと思われた。


 ベルガの率いる班は鍛冶屋ギルドの腕利きの者が主戦力である。何故、Sランクの冒険者である勇者が指揮を取らないのかというと、鍛冶屋ギルドの連中は基本的に自らが認めた者しか信用しないからだ。そのため鍛冶屋ギルドの戦力は奴には従わないことが、簡単に予想がついてしまったのだ。

その点、ベルガは副ギルドマスターとして数多くの討伐で指揮をする実績がある。騎士団見習い時代には戦術を練ることに関しては誰よりも才能があると認めた人物だ。あいつが指揮を執り、補佐役としてドミニクが付くなら、たとえ勇者が居たとしてもあちらの連携には問題はないと判断し俺は無言で頷きを返した。



「こちらの班の指揮を執るロビンだ。これから盗賊団の鎮圧、並びに盗賊団首領であるザシャと幹部の討伐に入る。幹部の中には現役の冒険者もいる可能性があるため尋問の対象になっている、なるべくなら生かして捕えてほしい。下級構成員はおそらく王国からの難民と思われる。標的以外の殺害はなるべくしたくはないが、貴殿の身の安全を第一に動いてくれて構わない」



 俺を含めて宵闇に目立つのを防ぐように、スカーフやフードで顔を隠すようにしている。中には念を入れるために顔を炭で黒く塗っている者もおり、それぞれの顔を見ることは叶わなかったが、集まった面々の見渡し、俺は低い声で彼らに今回の目的を改めて伝えた。

 俺が指揮を執ることは既に通達されており、下級構成員の無力化や幹部の捕縛などは各担当が個別に依頼を受けており、そのほかに荒事を専門にするベテランがそろっている。自分の仕事を臨機応変にこなせる玄人が集まっているため、いまさら注意点を説明する必要やこの面子に対する不安は全くない。

 夜間の討伐では目立つ肌の色は隠すのは常識である。闇夜では仲間の顔を判断することもできないため、同士討ちを避ける目的でこの場に居るメンバーには赤いバンダナを配った。腕や剣に巻きつけ、敵と味方の区別ができるようにしておいたのだ。今回の討伐の情報が漏れているときの場合の対策として、俺とベルガで決めた。



「各々の担当は依頼の際に伝えた内容で動いてくれ。我らは冒険者だ。各自臨機応変に動き、期待以上の働きを見せてほしい。俺が言いたいことは以上だ、行動を開始してくれ」



 それだけ伝え、各々自分の持ち場へと移動を始めた。気配を消して暗闇に紛れながら進む。時々、かさかさと草が動く音がするが、風の音か獣の気配なのか素人には決して分からないだろう。

 しばらくすると目的地が見えてきた。廃坑跡地と言ったらいいのだろうか、坑道の入り口は既に崩落しており入ることはできないが、入り口の手前には掘削土(ズリ)を置く場所があったようで、草木はまばらにしか生えておらず広場のようになっていた。鉱夫たちが暮らしていたと思われる建物は廃屋になっていたが、ある程度修復されており、そこが盗賊団の根城になっていた。下級構成員と思われる王国からの難民は広場に簡易テントを張って暮らしているらしい。

 ここまでは冒険者ギルドからの情報でわかっていたことだ、盗賊たちも警戒はしているようで、数人がたき火を焚いて見回りをしているのが見えた。



 こちら味方も定位置についたようで、仲間の一人が口元のマスクを動かしているところを見ると、麻痺の効果がある薬品を使い、下級構成員から無力化しようとしているようだった。他の者は仲間が動きやすいようにと見張りの者を無力化していく、俺も見張りが一人になったところを後ろから羽交い絞めにして意識を落とした。手早くロープで腕を締め上げ、猿轡代わりに古布を口の中に突っ込んだ。



 淡々と無力化していく中で、俺はザシャが居ると思われる廃屋に近づいた。正面の入り口に仲間たちが付いたのを確認し、俺は数人の仲間と一緒に裏口から廃屋に侵入した。

 裏口にも一応見張りは居たのだが、そこは一瞬で近づきみぞおちに当て身を入れた。低いうめき声が聞こえたが、別室に居る者たちには聞こえなかったようだった。



「……どうする」


「建物内に居るのは何人だ?」


「おそらく15人くらいだろう、見張りやテントの中には幹部は居なかった」


「部屋もそれほど広くはない、一気に制圧した方がよさそうだ」



 外の見張りや構成員たちを無力化してきた一人が合流し、ここには俺も含めて4人の戦力が居た。おそらくこの場に居る面々の一人はAランクの冒険者だろう。Bランクに比べて動き方に無駄がない。戦力として信頼できるものを選んだとシルヴィが言っていたことを信用し、一気に乱戦に持ち込むことにした。


 合図とともに蝶番が壊れ気味のドア蹴破り、俺たちは突入した。



「おとなしくしろ!」


「チッ」

「クソ、逃げるぞ!!」

「ぎゃああああああ!!!」



 奴らはこの場を襲撃されると思っていなかったようで、俺たちは敵の虚をつくことができた、しかし奴らも元は腕利きの冒険者だったこともあり、一気に混戦に持ち込まれてしまった。数人の敵を切り捨てたところで、討伐対象である幹部たちが窓を割って逃げ出した。

 念のために窓から逃げることも想定して人員の配置をしていたのだが、ザシャと幹部の方が強く逃がしてしまった。他の仲間たちが集まり参戦し始めたため、俺は倒れた仲間を任せ、逃亡したザシャと幹部たちを追った。



 暗い森の中を進むのはその土地に慣れた者でも難しい、俺は奴らの気配を追いながら走った。ザシャが向かうのはおそらく、ベルガが担当している拠点だろう。盗品等が隠してあると思われる場所だ。

 途中、怪我をしておいて行かれた幹部を見かけたが、後から仲間が追ってきている気配がしたため、そちらは任せることにした。



 しばらく走るとザシャ達の気配が不自然に消えた。

 あたりを見渡し覚えていた地形と照合させる。隠れられるような場所やアジトになりうる廃墟がないことを確認したが、それもないと記憶していたため、奴らは俺をアジトに逃げ込んだと見せかけて待ち伏せするつもりだろうと判断した。

 俺は気配を探りながらゆっくりと進み、微かに気配を感じた場所には迷わず短剣を投じた。いくつかは野生動物だったり、風の音だったりしたが、その中の一つが幹部と思われる奴の額に命中したようで、そいつはぐぅという呻き声と共に崩れ落ちた。



「どうして分かった……」


「仲間が殺されて殺気がダダ漏れだ。盗賊団なんぞ結成してお山の大将気取りか」



 味方の一人がやられたことで見つかったと思ったのだろう、殺気を隠そうとせずに、俺の前に姿を現したザシャと幹部が俺に切りかかってきた。先の襲撃の時は室内だったため、武器が制限されていたがここは森の中だ。思う存分剣を振るうことができる。

 幹部の攻撃を避けつつ、ザシャの重い一撃を剣で受け止めると、剣から火花がぢりぢりと落ちた。競り合いになっても負けはしないが、無駄な隙を作ることになりかねないため、俺は後ろに跳ぶこと一度距離を取った。



「居場所のねぇ奴を救ってやったんだ、感謝してほしいね」


「そういうことは正規のギルド員としてやってほしいな!」



 幹部の位置を横目で確かめつつ、ザシャの間合いから抜ける。ザシャだけを倒すのは簡単だが、奴が居なくなった途端に幹部連中は散り散りに逃げるだろう。そうなると捜索するのも面倒になる。先に幹部を倒しにかかるべきと判断した。

 わざと隙を作ってやれば、我先にと言わんばかりに突っ込んでくる幹部を、俺は剣を腕ごと切り落とした。そいつは腕から先がなくなったことで絶叫しているが、そんなものにかまっている暇はない。怖気づいた奴は逃げ出そうと俺から背を向けるが、そういった奴こそ狙い目だ。背中を向けた瞬間に足に短剣を投擲し無力化すると、もう俺にはむかってくる輩はザシャしか居なくなっていた。


 

「天下の剣聖様が、短剣で攻撃してくるとは思わなんだ」


「使えるものは全て利用するのが信条でね!」



 それだけ言うと、激しい斬り合いになった。

 剣のみで戦うことを俺はしない。剣聖という名前は、御前試合でつけられたものだからあまり愛着があるものではない。試合の決まりだから剣のみで戦って着いた二つ名だからだ。そのため、相手は俺が剣しか使わないと思い込むことが多かった。

 俺は知恵、地形、武器といった使えるものならば何でも使う。これは魔獣と戦っていた騎士時代でもやっていたことだ。相手の先入観も利用しない手はないと思っている。

 

 奴が皮鎧を付けているところを見ると、機動力を重視しているように見えたが、そこに力が加わらないとは言い切れない。向こうは既に仲間がおらず追い詰められている状況だ、死にもの狂いで俺に切りかかってくる。

 型に嵌らない動きは、奴が独学で剣を振るっていたことを意味していた。流石Sランク手前まで上り詰めただけあり、自己流でも隙も動きに無駄もなく、それだけに惜しい人材だったと思った。


 ただ、追い込まれている分ザシャには余裕がなく、単調なぶつかり合いになったところで俺は奴の剣を上に弾いた。体制が崩れ、隙が出来た奴を袈裟懸けに斬りはらった。

 ザシャはよろめきながら後ろに数歩下がり、剣を構えることなく膝から崩れ落ちた。浅い呼吸を繰り返してはいるものの、出血が多くどう見ても助かる見込みはないと思われた。



「……何か、言い残すことは?」


「……したの 奴らは……、殺すな……」


「わかった。罪には問われるだろうが、俺たちは殺さない」


「……それな ら……、い………」



 ザシャの最期は、呼吸と声が混じったようなか細い声だった。剣呑な光をたたえていた瞳は、俺が発した言葉で少しばかりその光が和らぎ消えていった。

 もしかしたら、奴は根っからの悪人ではなかったかもしれないと頭によぎったが、いまさらそのようなことを考えても仕方がなかった。俺はザシャの遺体を前に立ち、亡くなった強者に対する黙祷を捧げた。

  



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