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ロビンの帰還2

引き続きロビン視点です。

 キースに連れられてギルドマスターの微妙に酒臭い執務室に入った。本棚には酒瓶が所狭しと並べてあり、処理済みなのか未処理なのか分からない書類が山積みにされた光沢のあるオーク材の机に突っ伏して寝ている大柄なドワーフが居た。サウスソルトの冒険者ギルドのギルドマスターである、封竜のゴドフリーだ。相変わらず飲んだくれているようで、いびきをかいて爆睡している。

 呆れたキースがギルドマスターの傍まで歩いていき、手に持っていたバインダーの角を勢いよく振り下ろした。ふごっという声が聞こえたが、そこは気にしないことにした。



「おお、ロビンよく来た!!!」


「寝ていたくせに良く言うな」


「情報交換で連日の酒場通いでなぁ……」



 しれっと自分が寝ていたことを棚に上げ大あくびをしているギルドマスターは、キースに礼を言いながら、俺にソファに座るよう促した。ソファの前にあるローテーブルには空になった酒瓶が転がっている。



 ギルドマスターの話は俺が想像していた通りだった。勇者が来るのは既に決定事項らしく、討伐に関しては俺だけが出ることになり、ミケにサラの護衛に回ってもらい一時的に街を離れてもらうことで決まった。

 元冒険者で盗賊団の頭であるザシャは、相当頭のキレる人物らしく既にサラに目を付けていたようだった。だが、ギルドマスターはそのことに気付いており、サラには内密に数人の手の者を護衛に着けていた。ただ、その中には例の獣人の小僧もおり、ギルドマスターには、これが良く働くとカラカラ笑いながら言われた。まったくもって面白くない。



「お前さん、勇者はどうでもいいような顔をしているな?」


「勇者とは名ばかりな代物だからな。内面は子供だ。見かけ倒しにも程がある。力量すら及ばん輩は相手をしないに限る」


「国の名代として来ると聞いたが子供か! いやいや、転がすのは楽そうだ。丁度いい時に討伐処理を押し付けられそうな奴が来たもんだ!」



 ギルドマスターは勇者と共闘すると聞いた俺に、それほど感情に乱れがないことに気が付いたようで、不思議そうに聞いてきた。

 勇者には色々と因縁がある俺たち家族だが、俺は関わらなければいいだけだと割り切ってはいる。おそらくサラも同様だろう。それを伝えると納得したようでギルドマスターは討伐後の処理が楽で良いと笑った。



「で、ミケーレにはいつ伝えるつもりだ?」


「今日の夜には言う。勇者が来るのは三日後だろう? それまでにドワーフ国の王都に行ってもらうつもりだ。勇者と言っても、あんたの仕事の後処理までするんだ王都に行く暇なんざないだろうよ」


「戦乱の種になるような奴はさっさとおかえり頂くに限るからな。しかし、そうなるとサラが帰ってくるのは早くて10日後と言ったところか、キースが持つかどうか分からんな……」



 友人でもあるキースが倒れるのは俺も見過ごせないが、今はサラとミケの安全が重要だ。キースに関しては、サラが何か考えているようだったから帰ったら聞いてみることにしよう。

 ギルドマスターは勇者を戦の種と言ったが、それはミケに関しても同様だ。妻は憎悪なんてものとは程遠い雰囲気を持っているが、それは見せかけだ。妾腹とはいえ公爵家令嬢としての教育は受けているため、ひどく感情が読みにくい。俺が騎士団を辞めた時は、剣を持って父である公爵を脅して撤回させようとした程だった。元凶である勇者と近衛騎士団長の殺害を真面目に計画したこともある。そのときは、彼女の兄である宰相様が命がけで説得し事なきを得たが、昔から一度キレてしまうと手が付けられなくなるのだ。

 俺への愛ゆえに怒ってくれたのかと思うと純粋に嬉しいが、同時に元凶に対して怒りを発散できなかったため、未だにミケーレの中に怒りがくすぶり続けているのには嫉妬すら覚えることもある。




 酒瓶を掲げたギルドマスターに飲んでいかないかと誘われたが、ミケとサラが夕飯を作って待っていてくれるため、断って冒険者ギルドを後にした。



 家に帰るとおいしそうな匂いが玄関まで漂っていた。サラは俺たちが帰ってくるのを見越して色々と準備をしていたようだった。

 食卓の上には肉汁溢れるミートローフと、香草入りヴルストが入った具だくさんポトフ、サラダとパンが並べられていた。

 サラダはミケが作ったようで、ドヤ顔をして自慢された。かわいい。



「それで、依頼の話はどうなったの?」


「そっちは飯の後でいい。あまり愉快な話じゃないからな」


「ん、分かった」



 真剣な表情のミケを見てサラが不安そうにしていたが、気持ちを切り替えたミケが微笑みかけてやると釣られてサラも微笑んだ。飯の前に不愉快な勇者の話なんぞ、したくもなかったからこれでいい。

 


 サラとミケの心づくしの夕飯を平らげると、俺たちの雰囲気を察したのかサラがお茶を淹れに台所へ行った。本当に気が利くいい子だ、それが勇者のパーティに居た時に身に付いたことだと思うと殺意が沸くが。

 これから勇者が来ることをミケに伝えるのは本当に気が重い。



「依頼の内容は二つある。一つ目は討伐隊へ参加すること。こっちは俺がやる」


「え、二人でやらなくてもいいの?」


「……過剰戦力になるそうだ」



 過剰戦力になるのは間違いない。俺と勇者がいる時点でSランクの冒険者が二人になるのだから。勇者に手柄をやる気はないが……。



「じゃあ、私は二つ目の方を担当するってこと?」


「ああ、そっちはサラの護衛だ。討伐が終わるまで、サラと一緒に王都へ避難していてくれ」


「ちょ、護衛ってどういう事!?」


「討伐対象のザシャがサラを狙っていて、ギルドマスターがひそかに護衛を付けていたらしい」


「……それだけじゃないよね? 護衛だけなら、私がこの街でサラと一緒にいればいいだけだもの」



 そのほかに、ミケに何か隠しているだろうという目で見られて、俺はため息をついた。



「討伐に加わるために勇者が来るんだと……」


「へぇ、なるほどねぇ……」



 そう言った途端にミケの目がすわり表情から感情がなくなっていくが、丁度いいタイミングでサラがお茶を持ってきた。サラの前ではなるべく穏やかな感情でいたいミケだから、勇者に向けた怒りを全部かくして、サラに礼を言ってお茶に口を付けた。



「いいわ、私がサラを守るから安心して。それと、ロビンが勇者をギッタンギッタンにしてくれれば今回だけは引き下がってあげるってギルド言っておいてちょうだい」


「当たり前だろうが。ギルドマスターは奴に討伐後の処理を全部押し付けるつもりだ、手柄は残す必要もないだろう」



 俺の返答に納得したようで、ミケはそれならいいと頷いてくれた。おそらくは自分で勇者にケリをつけたいだろうが、我慢してくれたのだろう。



「お話は終わった?」


「うん、終わったよ。サラは討伐の話を聞いていると思うけど、討伐の間は暇だから私と一緒に王都に観光に行って来よう! サラの行きたいところに連れて行ってあげる!!」


「え、ほんと!?」



 真剣な話をしていた俺たちの空気を察したサラは、お茶を置いた後は少しばかり席を外してくれたようだった。話が終わったころになって、顔を出したので一緒に茶を飲むことにする。ミケが秘蔵の焼き菓子をだして、ようやくのんびりとした空気になった。

 討伐の間の話をするのに、ミケが茶化したように王都に観光に行くぞと言ってくれて、サラもそれに乗り気になっている。そこに俺が混ざれないのが悔しい。



「どこか行ってみたいところでもあるのか?」


「王都の闇市行ってみたい!」


「そうかそうか! 闇市か! 掘り出し物があればいいね!」



 何処か行きたい場所があるのかと思い、聞いてみたのだが。思いもよらぬ場所がサラの口から飛び出した。どうしてサラは闇市なんぞに行きたいと言い出した!?



「ちょっと待て、危ない所には行くんじゃない!」


「大丈夫よ~、私たちも何度も言ったことあるじゃない。そうと決まれば荷造りしなきゃだねっ」


「おい、コラ話を聞け!」


「鬱憤晴らすには丁度いいでしょう。危険な所どんと来いよ、悪人釣り上げて簀巻きにしてくれるー!!」



 確かに俺とミケは何度か闇市を潰すために出入りしたことはあったが、危険な場所なのはミケも分かっているだろう。早速うきうきしながら荷造りに取り掛かっている二人を見て、俺は止めたのだがミケの鬱憤晴らしと聞いて止める気が失せた。ミケの実力なら相当なへまをしない限り危険な場所ではないだろう。毒物を口にすることは警戒心が強いサラが居る限りないだろうし……。

 ここはミケの好きなようにさせた方が、こちらの被害が少ないだろう。見た目以上に大人なサラにミケのお守りをさせるようで心苦しいが、うちの女性陣は頼りになりすぎるのも困ったものだと思った。





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