前編
短編にて投稿した『ハーレム勇者というものを冷めた目で見ている奴隷の話』の続きになります。まずはそちらをお読みになった方が、話が分かりやすいと思われます。
私は勇者様の元奴隷だった。
その気もないのに準ハーレム要員に加えられていたのがものすごく苦痛だったが、今は未来が光り輝いて見える今日この頃!
きれいさっぱり借金がなくなり自由の身になった私を、世話してくれた奴隷商人さんが性格的に合わない勇者なのだから遠くに離れたかろうと理解してくれて、借金の返済が終わった後早々に馬車の手配をしてくれた。
そんなこんなで、さっそく街からの大脱出作戦が決行された!
勇者の元から離れた数日たち、乗合馬車を乗り継いで新天地探しの旅をしているところである。
勇者からもらったお小遣いは、慎ましく暮らせば農村で数年は生活できるほどの金額になるが、私は生粋の商売人! しばらく暮らせて、且つ元手になる金があるなら遊ばせずに何かしら商売をするのがモットーである!
あ、決して農家さんを侮辱しているわけではないよ、食べるものを作ってくれる人がいなければ商人は暮らしていけないもの。
奴隷商人の店を出た後は、速攻で乗合馬車に乗り込み勇者パーティがいる街からの脱出をし、今はこの国の国境へ向けて3回目の乗合馬車に揺られている。
商売がしやすい新天地を探しに旅に出たのは良いのだが、何の商売をするかと悩みに悩み、私の鑑定眼が大活躍する鑑定屋が一番やりやすそうだと判断した。
鑑定屋をするなら、場所も大事である。鑑定するものがなければ商売は成り立たないしね!
ぶっちゃけダンジョン都市やら、辺境の魔物が多い場所の近辺の街が一番仕事にありつけそうなのだが、そういう場所は大抵勇者の出没多発地帯なのである。
とりあえず、速攻で候補から外した。
あとは、魔王がいる場所がどこか分からないが、魔族の国に近い場所はやめておく。人間と敵対している土地だから戦乱に巻き込まれかねないのと、言わずもがな治安が悪い。戦闘能力がない私にはかなり荷が重いだろう。エルフの国は幻術で人間が入れない場所にあるため無理無理。宗教色が強い場所は、聖女のアハーンさんの影響力がありそうだから候補から外した。
そんな消去法で最終候補として残ったのが、この国とドワーフ鉱国の国境付近の街だった。魔族国から遠くてドワーフさんが多いため、宗教色というよりはおっさん色が強く、鉱山がダンジョン化したりするため、冒険者も多い。つまりは仕事に困らない!
鍛冶が有名な街ではあるが勇者は既に聖剣を持っているし、ドワーフ嫌いなエルフのお姉さんはこの街に寄り付こうともしないし、この街のダンジョンに関しては既に彼らは攻略済みだから、この街に立ち寄る可能性が低いだろう。
ちなみに、現在この馬車の中には私を含めてナイスミドルなおじさんと冒険者と思われる若い男女、商人さんと思われるお兄さんの5名が乗っている。申し訳ないけれど初対面になった人がどこで勇者とつながっているかわからないので、相乗りになった人たちは全員鑑定済みである。
馬車にガタゴトと揺られる中、お尻が痛いなぁと考えていると、ナイスミドルなおじさんから声をかけられた。
「お嬢さんは一人でお使いかい?」
「いえ、お使いではなくて、独り立ちをしたので仕事を探しに鉱山の街に行こうと思って」
にこりと微笑みながらこちらに問いかけてくる様子はまさに紳士!
あの変態勇者と比べたら雲泥の差だ。こっちのおじさんの方が断然かっこいいと私は思う。
「えっ!? 見たところ君はまだ成人前のようだけど、親御さんはどうしたの?」
「幼いころに捨てられて……。一応、拾ってくれた保護者はいましたけど、身の危険を感じたので家を出たんです」
「そうか……、小さいのに大変だったね。良かったら食べなさい」
うん、嘘は言っていない。
言っていないこともあるけど。
おじさん含め、乗合馬車にいる人たちがものすごく気の毒そうな顔をしていたけど事実なので気にしない。
おじさんが言っている通り、私は身長が低いため実年齢よりも幼く見えるらしい。幼女時代の栄養状態があまり良くなかったためだと思う。
奴隷だったけど勇者には栄養があるものをたくさん食べさせてもらったから、そこまで小さくはないと思うのだけど。
そういえば、私が勇者に買われた直後くらいの頃だったかなぁ、まだ彼らの本性を知らずにキラキラしい聖女のアハーンさんを見て身長が欲しいとぼやいたら、勇者には『身長を伸ばしたくばミルクを飲め!』と、定期的にミルクが出されるようになったことがあったな……。飲んだふりしてこっそり捨てていたけども。
なぜ飲まなかったかって?
いくら正論を言われたとしても、盛大に鼻血を流した顔で迫られたら誰だって身の危険を覚えるよね? 背筋に悪寒がはしったし……。
とりあえず、おじさんに貰った乾燥果物をこっそり鑑定。
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名称:ココルの実
状態:乾燥・良好
ココルの実を乾燥させたもの。生の状態では程よい酸味と甘みが特徴。
乾燥させると甘みが際立つ。
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人さらいも怖いので貰ったものは一応安全なものかどうかを確認する。特に問題がなさそうだったので、お礼を言って食べた。
おいしかった。
乾燥果物をウマウマ食べる私を見てほっこりしたのか、乗合馬車の空気が和やか雰囲気になった。冒険者のお姉さんも、おじさん便乗して焼き菓子をくれた。お砂糖は貴重だし焼き菓子を持っているなんて滅多にないから、お姉さんの貴重なおやつではないのかと思って辞退しようとしたのだけど、相方と思われるお兄さんが気にするなと言ってくれたので、ありがたく頂戴することにした。このまま次の街に着くまでこの状態でいたいものである。
そして何故か冒険者のお姉さんととても仲良くなった。
おやつを貰って舌鼓を打っているところを、かわいいかわいいとひたすら撫で繰り回されたのが原因というか、気持ちよかったのでひたすらされるがままになっていたのが原因だと思われる。
お姉さんはミケさんと言って、冒険者としては中堅といったところだと教えてもらった。なんかこう、女の人独特のドロドロとは無縁そうなのほほんとした感じのお姉さんである。
相棒は同じく乗合馬車に乗っているお兄さんのロビンさん。がっちりとした鎧を着こんだ剣士さんで誠実そうな雰囲気の持ち主だった。
二人は恋人同士で、お似合いですねと言ったらミケさんにぎゅうって抱きしめられた。二人ともなかなかすごい称号をお持ちだったが、特に怪しくはないのでたぶん信用しても大丈夫。たぶん……。
「そういえば、サラちゃんは一人で国境まで行く気なの?」
「はい、そのつもりです」
背中側から抱き着いたままのミケさんから行き先を聞かれ、特に隠すことでもないから肯定した。その先の目的地は言っていないからたぶん大丈夫。
どこから漏れるかわからないから、詳しい話は言わないでおく。
「いま国境付近は勇者様がお触れを出したせいで検問しているんだが、宿は検問の順番待ちで混んでいるらしいけど大丈夫かい?」
おっと拙い。あの腐れ勇者め、きっちり私を手配してやがった。
別に逃亡奴隷というわけでもないし、債務はきっちり支払い済みである。お小遣いは決してだまして手に入れたものでもなく、証文もしっかり取ってある。奴隷商人からは解放されたとの通達も血判を押して手に入れてあるから問題ないけれど、今の私には戸籍はないし解放奴隷という身分証はあるけれど未成年者で且つ保護者がいない。訳アリそうな子供の一人旅だから、怪しいと言われて通してもらえない可能性が高い。
「それじゃあ、私一人じゃ泊れないかも知れないですか?」
「身分証があればそれほど待たずに通過できるとは思うんだけど……。ギルドの身分証とかある?」
「市民の身分証は一応あるけど、ギルドの身分証は持ってない。でも保護者がいないと怪しまれるよね……」
無事に検問突破できるかどうか、ちょっと不安になってきた……。
商業ギルドは奴隷になる前に登録をしていたけれど、預けていたささやかな貯金は実父に根こそぎ奪われてしまい、奴隷として売られた時にギルドから強制脱退させられた。おそらく、前の記録は残っていないと思われる。
不真面目な検問の担当官ならお金を握らせれば通過できるかもしれないけど、子供が賄賂に使えるような高額な貨幣を持っていれば怪しいことこの上ない。どういう経緯で手に入れたとか聞かれること請け合いだ。
真面目にどうするかなぁと考え込んでいると、ロビンさんは私が落ち込んでいると勘違いをしたらしく頭を撫でてくれた。
「親御さんはもういないんだよね? 冒険者ギルドなら特例で登録ができたりするから大丈夫よ。後見人が必要なら私たちがなってあげる! ロビンもいいわよね?」
「そうだな。宿が見つからなければ、俺らの部屋に泊ればいいしな」
「そ、そこまで迷惑はかけられないです!」
「いいのよ~。サラちゃんはもう私の妹みたいなものだもの。子供はどーんとお姉さんに甘えてなさい!」
な、なんていい人たちなんだ! 齢12歳にしてひねくれている私と全然違う!
こんなに親切にしてくれる人と出会ったのは生まれて初めてかもしれない。私の周りに居たのは腐った大人ばかりだったからなぁ。実の両親も腐れ勇者のパーティも……。
「それにしても、勇者がお触れを出したのは久しぶりだねぇ? 前は聖女様がさらわれたっていうので検問があったけど」
あ、それエルフのお姉さんがハーレム要員に加わった時の聖女さんのプチ家出騒動だ……。
勇者の暴露本を出したら売れるかもしれないな。ちょっと考えておこうと心のメモ帳に記載しておいた。