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ロビンの帰還(勇者の来訪ロビン視点)

嵐の前の~勇者の来訪あたりのロビン視点ですので、時間軸が少しだけ巻戻ります。

 村を襲う魔獣化した翼竜(ワイバーン)の討伐完了の報告を入れるために、近くの町にあるギルドに寄った時にその知らせを受けた。サウスソルト鉱山の街のギルドからの一報だった。


『2週間以内に戻れ、盗賊討伐に勇者が来る』


 送った日付とたったそれだけしか書かれていないメモだったが、俺には誰が書いたものかすぐに分かった。拠点にしている街のギルドマスターからの連絡だった。



「誰から?」


「サウスソルトの冒険者ギルドからだ。盗賊退治があるらしい」


「なら一度戻らないとだね、サラにも会いたいし!」


「そうだな」



 勇者のことには触れず、俺は盗賊の討伐があることだけ伝えた。この町からサウスソルト鉱山までの最短ルートは山道を通る必要があるため10日程度かかる。義理の妹であるサラも心配だとミケーレが言ったため、俺たちは商業ギルドから馬を借りて旅程を縮めることにした。




 旅程は町に寄れるなら宿を取る。どうにも俺たち夫婦は生活力というものが欠けているらしく、騎士団時代に野営訓練をしてきたおかげで野宿はできるのだが、料理ができない。肉を焼こうとすれば消し炭になるし、スープを作ろうとすれば得体のしれない物が出来上がる。そのため、野宿をするときは必ずと言っていいほど味気のない携帯食か干し肉だ。二人してサラと一緒に旅をした数か月が懐かしいと思ったこともある。


 次の村まで2日ほどかかるから、道から少し外れた場所で野宿することになった。

 馬の綱を手近な木に結び付け、獣避けの携帯燃料を浅く掘った窪みに放り込み、茶を入れた薬缶を火の傍に置いて温めた。

 茶葉を使ったものはミケや俺が淹れると殺人的な味がするため、サラに教えてもらった薬缶にぶち込んで煮出すだけの穀物茶を使う。穀物茶なら濃くなっても渋くて飲めないということにはならないから結構重宝している。



「盗賊団って言っても、あそこのギルドなら戦力がたくさんいるのに、なんでだろうねぇ?」


「ギルド職員の話だと、元Aランク冒険者が率いている盗賊団らしい。キースたちにはサラが世話になっているからな、力になるくらい問題ないだろう?」


「そうだね。帰ったらサラちゃんと一緒に寝てやるぞー! 嫌がるだろうけど!」


「あの子は甘やかすくらいでちょうどいいからな。俺には気にせずそうしてやれ」


「何を言ってるのよ、私はロビンだって構うわよ?」



 火が弱くなったため追加の小枝を放り込み、穀物茶の入ったマグで暖を取っていると、ミケがつぶやいた。盗賊討伐に俺たちが呼び出されたことが気になっていたようだった。

 さすがにここで勇者が関わるかもしれないと教えてしまうと、馬を潰す勢いで街に向かい、勇者を闇討ちしかねないため、ここでは黙っておくことにした。

 盗賊討伐が元Aランクの冒険者なら、対抗できる人材として俺たちを呼ぶのも理解できるため、その話をすると、ミケも一応納得したようだった。

 ミケも背景に何かあると気付いているだろうが、俺がしゃべらないことを彼女は無理やり聞き出そうとはしなかった。その反対もしかり。何かあれば、お互いに些細なことでも相談する絶対的な信頼があるからこそできることだ。






 

 途中雨に降られたため、予定よりも1日だけ遅くサウスソルトの街に着いた。

 貸し馬を返すために商業ギルドを訪れると、殺伐としており想像以上に今回の依頼が大事なのだろうと思った。自宅に戻るとまだサラは帰っておらず、簡単な荷ほどきだけしてミケと一緒にサラを迎えに行くことにした。

 久しぶりに会うサラはどんな顔をするだろうか、少しばかり楽しみだったが、窓の外を見るとサラが獣人の少年と一緒に帰ってくるのが見えた。



「あら、サラちゃんも青春かしら?」


「……あいつ、またサラに纏わりついてやがる」



 鍛冶屋ギルドのドミニクの弟子らしいが、俺はそんなことは知ったことではない。一度だけ会ったことはあったが、俺が少しばかり本気の殺気を出したくらいでビビッているような奴だった。そんな軟弱ものにサラはやらんと決めている。



「ふふふ、ロビンそれって妹に言うセリフじゃなくて、娘に対するセリフみたいよ?」


「いいじゃないか、お前だってサラに変な虫が付いたら駆除するだろうが」


「まぁね。でも私からしたあの子は結構いい線いっているように見えるけど?」

 

「いや、駄目だ!」



 こちらの不穏な空気を察したのか、獣人の少年は家の手前でサラと別れた。ほら見ろ、やっぱり軟弱ものじゃないか!

 うちの妹が欲しくば、俺に向かってくるような根性のある奴でないと駄目だ。



「ただいま! お姉ちゃん帰ってきてたんだ! おかえり!」


「ただいまー! あー、久しぶりのサラちゃんだぁ」



 家に入ってきたサラにミケが抱き着いている。何ともほほえましい光景に、さっきのモヤモヤとした感情はどこかに消え去ってしまった。うちの妻と妹は最高にかわいいと思う。



「お兄ちゃんもおかえり!」


「ただいま、サラ」



 抱き着いているミケごとサラを抱き込むと照れたように笑ってくれた。サラはようやくミケの過剰なスキンシップに慣れてきてくれたようだ。



「お兄ちゃんたちは、討伐(・・)で帰ってきたんでしょう?」


「ああ、ギルドに呼び出されたから、これから俺が言って聞いてくる。ミケはゆっくりしていていいぞ?」


「え、いいの!?」


「お前、いつもサラに引っ付いたらしばらく離れないだろうが」


「あー、そうかもー♪」



 おそらくだがサラも勇者がこの街に来る話を聞いているのだろう、勇者に関しては過剰反応するミケのことを理解しているため、サラも余計なことは何も言わなかった。

 猫のように目を細めて相変わらずサラに引っ付いているミケを見て、俺もあれに混ざりたいと後ろ髪をひかれる思いだったが、仕方なくギルドに行って話を聞いてくることにした。



「お姉ちゃんとご飯作って待ってるから、早く帰ってきてね?」


「当たり前だ!」



 俺を見送るために手を振っている二人を見て、俺の中でギルドマスターの尻を蹴っ飛ばしてでも、さっさと帰ることがこの時点で決定した。



 冒険者ギルドは商業ギルドに所属している行商人で溢れかえっていた。何時になったら討伐するのかと職員に詰め寄る輩もいれば、淡々と護衛の依頼を出している者もいた。

 Sランク冒険者として騒がれることも多いため、外套に着いているフードを深めに被ってきて正解だったと思った。もし、ここで素顔を晒していたら大事になっていただろう。


 

「久しぶりだな、ロビン」


「ああ、妹が世話になっててすまないな」


「そんなのいいよ。正直、サラちゃんが来てくれて俺とかカイジとか、裏方は大分助かっているんだ」



 フードをかぶったままだったが、俺が来ていることに気付いたキースが小さく声をかけてきた。キースは騎士見習い時代に負った利き腕の怪我が原因で騎士を目指すことは出来なくなった。その後、数年の冒険者生活を経てギルドの職員として働いている。ここの冒険者ギルドにサラを預ける気になったのは、ギルドマスターの人となりを知っていたこともあったが、キースが居たことも大きな理由だ。

 のらくらとした雰囲気のため誤解されがちだが、キースはもともと真面目な性格の奴で、不真面目なことをする者には徹底的に矯正するようなところがある。キースがサラを褒めているところを見ると、二人の関係はうまくいっているようだ。



「それはそうと、討伐の件だろう?」


「ああ、ギルドマスターは居るか?」


「こっちだ」



 見るからに怪しい俺と、ギルドの職員であるキースが隠れて会話をしているのを行商人たちが訝しげに見ていたが、それを無視して俺たちがギルドの職員しか入れない部屋に入っていった。


ロビンたちが飲んでいるお茶は麦茶と思ってください。

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