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勇者の来訪1(キース視点)

「勇者が盗賊討伐でこの街に来るってよ」


「へぇ、そうなんだ?」



 副ギルドマスターのベルガが話しかけてきた。もともと同じパーティで冒険者をやっていた俺らは一応仲がいい。俗っぽい話が好きなベルガが勇者の話を持ってきたが、特に興味がなかったため一蹴した。

 鑑定眼持ちのかわいい後輩が入ってきたとはいえ、鑑定待ちのアイテムがここのところ多すぎて残業続きの俺は、奴に視線も移さず右から左へ話を聞き流した。別に勇者が来ようがあまり仕事には関係ない話だ。

 最近になって鉱山の街で採れる良質の鉱石を狙った大規模な盗賊団が街道を占拠したという情報が冒険者ギルドに入った。商業ギルドが冒険者を護衛として雇うことが増えていたため今のところ目立った混乱はなかったそうだが、盗賊団の親玉が元Aランクの冒険者であったこととで冒険者ギルドが討伐に乗り出したらしい。

 そのおかげで俺は回収された盗品の鑑定で死ぬほど忙しい。



「でも俺ら職員には関係ないよね? うちのギルドはミーハーな子少ないし」



 このギルドは女性職員はいるものの、みなクールな性格で勇者に興味がある者はいないと言っていい。むしろ、みんなでかわいい妹分のサラをかわいがるあまりに、殺ハーレム勇者!という物騒な合言葉ができていたりする。まぁ、中にはベルガを筆頭とした独身男の僻みもあったりする。



「そういうことじゃなくて、サラちゃんのことだよ! 勇者に見つかっちゃったら確実に連れて行かれちゃうよ」


「それは困るなぁ」



 情勢が安定しない王国からの難民が生活に困窮し盗賊に転身。例の盗賊団の傘下に入り組織だった動きを見せたことで、事態を重く見た冒険者ギルドとドワーフ国の戦士が鎮圧に動くという話になった。

 王国はというと、自国の難民が他国に迷惑をかけていることを知り、勇者パーティにこの鎮圧戦に参加しろとの命を出したようだ。軍を動かせば他国への侵略行為と取られかねないため、王国が勇者のパーティに盗賊団討伐に加わるように指示を出したのは自然な流れといえた。

 ギルドとしては勇者がこの街に来ること自体はあまり歓迎されることではない。非常に優秀な後輩のサラは勇者が所有していた元奴隷だったことが原因だ。彼女は幸いにも借金を返せば自由の身になれる債務奴隷だったこと、本人が知恵を振り絞り勇者を出し抜いたことで、自分で債務を完済してしまったのだ。半ばだまし討ちのような形で逃亡してしまったので、勇者も検問を敷いて探そうとしたらしいが、Sランク冒険者の二人と知り合ったことで、無事にこの街にたどりついた強運の持ち主でもある。

 最初にサラの事情を聞いたときは、勇者に見つかったら勝手に逃げ出した裏切り者として成敗されかねないと思ったくらいだ。


 かわいい後輩を守るため、仕方なく俺もギルドの責任者会議に出ることになった。出席した面々はギルドマスター、ベルガ、シルヴィ、それとカイジと俺の5名だ。

 戦力的にはうちのギルドはSランク冒険者2名を筆頭に、ダンジョン攻略を専門にしている者が多数いるから特別依頼として掲示すれば数十名の人数が集まるだろうとの報告があった。ただし、討伐対象者が冒険者であったこともあり討伐関連の情報が流出する可能性もあり、その中から信頼がおけるものを集めなくてはならなかった。

 それでも、ロビンをはじめとして十数人は高ランクの冒険者が集まるだろうが、戦力が足りなければ鍛冶屋ギルドがある。血の気の多い者が集まっていて本業がなければ冒険者も兼ねるような奴らで、あの連中なら嬉々としてハンマーや自作の武器を担いで加勢するだろう。



「討伐隊はこちらのギルドから出ることになるから、まず近隣の冒険者に声をかけることになる。そうなるとロビンとミケにも声をかけなくちゃいけない。あいつらも勇者に因縁があるが仕方がない」


「いや、勇者が参加するなら二人は必要ないんじゃないか? 居たらいたで過剰戦力な気がする」


「そうなんだよねぇ……。でも、こちらも面子ってものがあるからね、うちのトップの戦力は出さないと、でもそうなるとサラの保護者がいない状況になって勇者に見つかる可能性が高くなるという悪循環……」


「それならロビンさんだけ参加してもらえばいいんじゃないか? ミケさんはサラと一緒に別のところに居てもらえば?」


「それが良いかもしれないな。一人でも十分な戦力なんだ、ロビンだけなら勇者を無視するか殺し合いになるくらいで済むだろうからな、そこにミケがいたらこの街が焦土になりかねない……」



 勇者は確実にギルドに顔を出すだろう、そうなるならサラは思い切って休ませてしまった方がいいという結論になった。作戦当日は確実にバタバタしているだろうし、ギルドで裏方仕事をさせつつ匿うのはなかなか難しい気がするからな。

 街中が殺気立っていて何処に伏兵がいるか分からない現状としては、ロビンとミケの弱点になりえるサラが街の中で引きこもっているのもあまり得策とは言えないため、家族であるミケに護衛を任せて一旦街を離れてもらう方向で決まった。

 ちなみに、何故ロビンではなくミケが討伐から外されたのかというと、普段は温和な性格ミケだが一度キレると修羅か羅刹のようになるからだ。そうなったら最後、ロビン以外が止めに入ることはまずできない。しかも勇者とは因縁関係にあるため、そこは離しておいた方が周りの被害が少なくて済むだろうとの判断だ。保護者であるミケがサラの護衛に回ってくれるなら安心だ。



「そうなると勇者がこの街からいなくなるまでキース一人で鑑定することになると思うけど大丈夫か?」


「やるよ? そのくらい。前なんか徹夜でやっていたことだし、あの子を守れるならそれくらいなんでもないよ?」


「お前、本当にサラちゃん可愛がってるのなぁ」


「なに言ってるの。当たり前だろう?」



 以前、鑑定スキル持ちの同僚を商業ギルドに引き抜かれたことがあり、俺がスキルの使い過ぎによる魔力欠乏症で死にかけたことを思い出したのだろう、ベルガが心配そうに問いかけてきたがかわいい後輩の身の方が大事だ、そのくらいなんてことはない。

 その後、会議は討伐隊の編成や情報の入手の話題に移ったため、俺は通常作業に戻った。これから忙しくなるのであれば、少しでも作業は終わりにさせておいた方がいいと思い、眠気覚ましで温くなったコーヒーを口に運んだのだった。




 そうこうしているうちに、勇者が来る前日になった。冒険者ギルドと鍛冶屋ギルドの連携はギルドマスター同士の仲がいいので、もっぱら酒場で行っていたらしい。

 その日程を連絡するのに、鍛冶屋ギルドの爺さんの爺心とでも言ったらいいのだろうか、サラに懸想する鍛冶師見習いのギルベルトが選ばれた日には、うちのギルドマスターが面白がってしまい、サラが居ないところでロビンにギルベルトの存在をばらすと言ったハプニングまで発生した。

 サラに関しては、ギルベルトに対して少しだけ思うところがあるようで、何か悩んでいるようだったが、男の俺が口を出してもロクなことにならなそうだったから、申し訳ないけどシルヴィやミケと言った女性陣に投げた。仕事のことなら相談には乗れるけど、恋愛ごとは俺には荷が重い。



「じゃあ、今日からお休みになりますけど、キースさんは無理しないでくださいね?」


「まぁ、ほどほどに頑張るよ」


「お土産買ってきます。何か疲れにいいもの!」


「おー、楽しみにしてる」



 そんな会話をして、サラは勇者が来る前にミケと一緒に王都に向けて出立した。ギルベルトは一緒に行きたそうな顔をしていたが、ロビンの殺気に充てられて動けなくなっている。ひとまず、サラの安全は確保できたことに俺は胸を撫でおろし、この休暇でサラの抱える悩みが少しは解消されればいいと思った。



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