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動乱の足音

 冒険者ギルドと言うのは、いわば何でも屋の総称のようなもので、力で解決できるものはどんなことでも依頼することができる。鉱山や山野で買い取り品を採集して来たり、通常のハンターのように動物を狩ってきたりするほか、魔物や盗賊などの犯罪者を退治したりするのも冒険者の仕事だったりする。



 この日、私はカイジさんと一緒にアイテムを売りに商業ギルドに来ていた。

 商業ギルドは商人さんが多いのである意味いつも賑やかだが、この日に限ってはみなさん何処か慌てているというか、怯えているようなそんな印象があった。



「今日はどうしたんでしょうね?」


「いや、俺もわからん。おい、そこの!」


「ひ、ひぃ!」


 

 どうしたのだろうと二人で首を傾げ、ひとまず顔見知りの行商人さんが居たのでカイジさんが声をかけたけど、カイジさんを見て悲鳴をあげてどこかに行ってしまった。

 カイジさんは少しだけ強面だけど、そんなに怖い人じゃないのになぁ。むしろ怖いのはシルヴィさんの方……。



「冒険者ギルドから来た者だが、何かあったのか?」


「ちょうどよかった! 盗賊が出たんだ。過去に冒険者ギルドに登録されていた奴だ! そっちの不始末だろう何とかしろ!」


「はぁ!?」



 その言い方はないんじゃないのかなぁ……。

 私とカイジさんは商業ギルドの職員の言い分に呆気にとられてしまった。

 私自身、冒険者ギルドの方針は、かなり大雑把だと思っている。昇格を望む人は一か月に一度は依頼を受けろという決まりがあって、それ以外の私みたいに身分証だけ欲しい人は年に一度だけの手続きだけで済むんだもん。まぁ、それが出来なければ冒険者ギルドの身分証は失効になるだけの話。冒険者辞めるのだって個人の自由だし、依頼を受けるかどうかだって本人の選択だもの。

 でも、そんな冒険者ギルドでも罪を犯した人に関しては、事件が発覚し次第身分証の失効や犯罪の程度によっては指名手配を手配するような処分がある。商業ギルドが過去形で言っているよいうことは、既に冒険者ギルドは処分を下したあとだということだ。

 それにこの商業ギルドの人の言い分は所属していただけで、うちの責任だから始末をつけろってどんな言いがかりだと思った。



「……依頼があるなら、冒険者ギルドを通してくれ。俺は職員ではあるが今この場で言われても困る」


「クソ! 役立たずめ! こっちがどんな思いをしていると思っているんだ! 役所仕事みたいなことしやがって……」



 カイジさんも同じことを考えていたのか、冒険者ギルドを通して依頼を出せと言ったら、商業ギルドの職員から文句を言われた。

 やることもやらないで文句だけ言うって、役立たずなのはそっちだと思うけどなぁ。頭に血が上りすぎて自分のこと棚に上げちゃってるよ。それに、私からしたら普段からお役所仕事みたいなことをやっているのは商業ギルドの方だと思うんだけどな。



「カイジさん、商業ギルドはお休みみたいだから、後でまた来ればいいよ。今日はもう冒険者ギルドに戻ろうよ」


「……そうだな」



 火に油を注ぐようなセリフがぽんぽん飛び出してくるので、拙いなと思ってカイジさんの顔を盗み見てみると、案の定毛が逆立って顔がおっかないことになっている。今にも殴りかかりそうな形相のカイジさんを見た商業ギルドの人は、ようやく自分の失言に気が付いたようだった。余計なトラブルは犯したくない私は、がるがる威嚇しているカイジさんの腕を引いて、ひとまず職場に戻ることにした。

 一応、性分的にやられっぱなしにはしたくない私は、暴言を吐いた相手の名前をこっそり鑑定しておいた。ほーほー、大したスキルも持ってない下っ端職員じゃないか、名前も覚えたし後で商談の材料にさせてもらうとしよう。

 え、鑑定眼を使うのはルール違反? 暴言を吐かれたのはこっちの方だ。そのあたりはあまり気にする必要もないと思っている。むかつくし!




 冒険者ギルドに戻ると、仕事の依頼をお願いする商人さんたちで溢れかえっていた。職員さんが慌ただしく動く中、珍しいことにギルドマスターも対応に加わって事態の情報収集をしているようだった。



「カイジ、良い所に戻ってきた」


「商業ギルドでも騒いでいたが、それか?」


「ああ、街道を盗賊団が占拠したようでな、護衛の依頼が集中してんだ。詳しい話は商業ギルドの奴らが握っていて良く解らんが、生き残りの奴に話を聞いたんだが被害はかなりの数に上りそうだ。緊急依頼としてある程度のランクの奴らに召集をかける必要もありそうだ」


「そんなに酷いのか!?」


「王国の情勢が悪くてな、難民が各国に流れていてそれが盗賊になってるんだと。恐らく今回のもそれなんだが、頭になっている奴が冒険者ギルドで手配をかけている奴だった」


「誰だ?」



 大人な会話になりそうだったから私は退散した方がいいかなと思ってこそこそしていると、シルヴィさんに首根っこを押さえられた。これは聞いておいた方が良いってことなのかな?



「元Aランクのザシャ・ココシュカ。Sランクに到達しうる実力者だったが、素行が最悪で数年前に殺人を犯してギルドを追放された奴だ。この通り手配書もある」


「そりゃ低ランクの奴らは後方支援にあたるしかねぇな」


「ああ、それと困ったことに王国が介入してくるかもしれない情報があるんだ」



 ベルガさんがちょっと煤けた感じの手配書をその場にいるみんなに渡した。

 おお、これは! 一目見たら忘れられないほどの悪人顔だ!

 それから、懸念事項として王国が介入するかも知れないと聞いた時点で、なんだか嫌な予感が頭をよぎった。



「そりゃないんじゃないか? 普通に国境侵犯に問われるだろうよ」


「いや、そうじゃない。代理人として勇者が来るかもしれないんだ」


「まずいな」


「ああ」



 あー、やっぱりねぇ……。

 私の事情を知っている人たちが、勇者の話が出た瞬間に拙い!と顔に出ていたよ。

 王国はメンツを大事にしすぎる見栄っ張りだから、絶対に勇者を引っ張り出してくると思った。隣国の迷惑を顧みず、俺こんなに頑張ってるんだぜ凄いだろオーラが半端ないというか……。実際に勇者にくっ付いて王宮の中を見たことあったけれど、まともな人は第二王子様くらいだった気がする。あとの王太子様と王様は前述のとおりな感じだった。

 なんにせよこの話があったからシルヴィさんは私に話を聞けとこの場に残したのだろう。私はカイジさんとベルガさん、そしてギルドマスターがおよその流れを決めていくのをシルヴィさんと一緒に黙って聞くことにした。



「サラは隠す必要があるな。そうなるとキースは過労で倒れるだろうが、そこはいつものことだと諦めてもらうか。被害が今のところ行商人中心だが事態が進めば治安も悪くなるだろう。勇者なんぞに手柄を立てさせたとあっちゃギルドの面目が立たないからな、ザシャの討伐にはロビンとミケーレを呼び戻すしかねえな」


「キースの方は問題ないです。日頃サラちゃんを一番可愛がってるのってあいつですからね。快く引き受けますよ。サラちゃんもそれでいいな?」


「はい。あ、でもカウンターから見えないところなら、お手伝い出来ると思うんですけど、それも無理ですか?」



 盗賊が出るということは、盗品の鑑定が多くなるということだ。そうなると私の目よりも所有者履歴が解る鑑定スキルの方が役に立つため、必然的にキースさんの仕事が増えるだろう。私もキースさんよりもレベルは低いけれど鑑定スキルを持っているから、手伝いをした方が良いんじゃないかと考えたのだ。


それに、勇者がギルドの作業場の中に入ってくることもなさそうだからと言ったら、ギルドマスターに却下されてしまった。




「勇者が来なければいつも通りでいいが、来るようだったら休みで確定だな」


「わかりました」


  

「まー、そんなに残念がるな。どうせこの討伐が終わったらキースが過労でしばらく使い物にならないからな、そこで扱き使ってやる」


「わ、わーい……」



 まぁ、来なければいつも通りってこと?

 でも、キースさんが大活躍するのは良いけれど、そこでキースさんが過労で倒れるのはやっぱり確定事項なの!?

 だ、大丈夫だろうか、キースさん……。

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