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少年の災難1

前話の少年視点です。

 俺は獣人と人族の間に生まれたハーフで、獣人寄りの容姿をしている。ドミニク親方の弟子として鍛冶師見習いとして修業をしている。

 親方の用事で鍛冶屋ギルドに行ったときに、そこで運命的ともいえる出会いをした。



 

 つやつやとしている黒い髪、神秘的な輝きの紫色の瞳でツンとした雰囲気の女の子だった。チラッと見ただけだがその女の子を一目見た瞬間、俺は雷撃魔法を喰らったかのような衝撃を受けた。

 名前が聞きたかったけれどその子はすぐどこかに行ってしまい、何処の誰かまでは分からなくてがっかりしながら俺は親方のところに戻った。その後はぼんやりしてしまって相槌を打つのも危ないと親方に怒られてしまったけど、俺はあの女の子のことで頭がいっぱいだった。


 親父が番と会ったら背筋が痺れるぞと言っていたけど、これが番と会うってことなのかと妙に納得してしまった。俺は番に会うとか、滅多にないことだし親父の言っていたことは本気にはしていなかったんだ。だって俺はハーフだし、獣人の血は引いていてもそこまでじゃないと思っていたから。


 でも、あの子を見た瞬間居てもたってもいられなくなった。鍛冶屋ギルドに居たってことは関係者かな? 誰に言えば紹介してもらえるだろう。

 あの子は見た感じは人族のように見えたから、すぐにおふくろに相談してみた。

 おふくろ人族なのにも関わらず親父から熱烈な求愛を受けたって聞いたから、何か教えてくれるんじゃないかと思ったんだ。





 おふくろは俺の相談に対して深いため息をついた。

 恋バナというものを近所のおばちゃんたちと井戸端会議でしているのは知ってるけど、なんで自分の息子のことになるとため息つくんだよ!



「あー、アンタもそんな年になっちゃったかぁ……」


「え!?」


「いい? 獣人はどうにも本能で動いて嫌われることが多いから、絶対に理性的に行動しなきゃ駄目よ! まずは、普通の会話をして、自己紹介をして、友人としてお互いを知ってから告白するのよ! そうじゃないと絶対に嫌われるわよ!」


「わかったけど、なんでそんなに力説するのさ……」


「だって、アンタの父親がそうだもの」



 それから、獣人から人族に対しての付き合い方というか、ものすごく怨念の籠った注意を受けた。なんでそんなに力説するのかと思ったら、おふくろがそうだったからだと爆弾を落とされた。



「えええー!? だって母さんは父さんとめちゃくちゃ仲いいじゃん!」


「なによ、あたしだって初対面で旦那から告白されて、何を言ってるんだコイツってなったもの、間違いはない! 獣人同士なら問題は起きにくいんでしょうけど、種族が違うんだから、それだけは絶対に守らないと駄目よ!! じゃないと初対面で嫌われるからね!」



 初対面で告白はしちゃいけない、普通に会話する、まずは友達から始めること……。

 俺はハーフだし人族みたいに普通に恋愛するんだろうなぁと考えていたから、俺にも本能的に求めてしまう番ができるとは思っていなかった。でも、出会ってしまったからには絶対にあの子に嫌われたくはない。俺はおふくろに言われたことをしっかりと反芻しながら頷いた。




 それから俺は、親方が鍛冶屋ギルドに用事があるたびについていくようになったけど、なかなかあの子に会うことができなかった。休日は町で女の子が行きそうな店をひたすら見て回ったけど、やっぱりいなかった。

 そんな感じであの子に会えないまま3か月が経ってしまい、だんだんと肩を落とす俺を見た親方はどうしたのかと聞いてきてくれた。俺はこの時点でようやく親方にあの子に会えないってことを打ち明けた。

 女に対してフラフラしてんじゃねえとか言われるかも知れないと思っていたけど、親方は獣人の番に対する執着を知っていたから話は早かった。



「それで、お前は番だと思う子を見つけたけど、何処の誰か全く分からんと……」


「そうなんです。生粋の獣人なら臭いで辿れるんだろうけど、俺はそこまで鼻が良くないから分からなくて……」


「なるほどなぁ……。ちなみにどんな子だ?」



 なんだかものすごく首を突っ込みたいと目が訴えているんだけど……。

 ここは協力をしてもらうためだと割り切って、俺が見たあの子の特徴を伝えていったら、次第に親方の顔が微妙な感じになっていった。



「お前さん、随分と難儀な相手を番に選んだな……」


「え、親方知ってるの!?」


「知ってるも何もなぁ。多分あの子だろうがなぁ……。そのうち会えるだろうから、楽しみにしていればいいと思うが。まぁ、後は死ぬなとだけ言っておくか?」



 親方はもじゃもじゃした髭を撫でつけながら、あの子に対して大体の見当をつけたみたいだったけれど、俺に対して心底気の毒そうな顔をした。

 もう恋人がいるとかだろうか。師匠から、死ぬなとかものすごく物騒な単語が並んだんだけど、一体どういうことだ!?




 数日後、俺は親方に放り込まれた冒険者ギルドに来ていた。この街の鍛冶屋は冒険者との兼業が多く、自分で採ってきた素材で練習するのが一般的なのだそうだ。俺は冒険者登録すらしていなかったからある意味衝撃的だった。

 冒険者登録をしたときに親方から選別と言われて渡された剣を見て、いつか俺もこんな武器を作りたいと心に決めた。



 親方の修行の一環として剣術の訓練も始まった。

 武器を作る職に就いているのだから、自分でも扱えなければ一流の職人ではないと言われ親方にしごかれる毎日だ。

 それから剣術の他にも俺に全力で避けろと言って本気で切りかかってくるようになった。親方が何を考えて避ける訓練を組み込んだのかは分からないけど、冒険者としても熟練の部類に入る親方の斬撃は避けるだけでも神経を使い毎日へとへとになった。

 それに加えて冒険者の為の知識も必要だと言われ、月に数回開かれる初心者講習も受けて来いとニヤニヤした親方に冒険者ギルドに放り込まれた。


 冒険者ギルドでは植物の採集の方法やら見分け方、鉱物の採取の際に気を付けることや魔物の分布などの知識をギルド職員と熟練冒険者が講師となって教えてくれていた。ただし、習うより慣れろと言わんばかりの講習もあり、俺は早々にわけが分からなくなって前に居た子に声をかけてみた。



「なあ、これってどうやって見分けるのかわかるか?」


「え、えーと、この薬草は茎の形を見ると良いらしいです。ほら、切り口が五角形になっているでしょ?」


「なるほど、ありがとう!」



 その子は突然話しかけてきた俺に対して戸惑いはしたものの、丁寧に教えてくれた。わかりやすい説明だったからお礼を言って顔を上げると、そこには俺が探し求めていたあの子が居た。

 瞬間的に顔が熱くなったから真っ赤になっていると思うんだけど、彼女は俺がお礼を言ってすぐ講習の内容に気が向いてしまっていたので、ばれなくてよかったと思った。



 


「あ、ちょっと待って!」


「私ですか?」



 俺は講習も終わって仕事に戻ろうとしている彼女に声をかけた。もう心臓が飛び出そうなくらいにドキドキしてしまっていて、何を話せばいいのかよくわかんなくなっていた。



「うん、さっきはありがとう。俺、植物のこと詳しくなくて助かったんだ」


「それはどういたしまして」



 おふくろのアドバイスを思い出しつつ、即告白はしない!

 なるべく日常会話を心掛けて、友達になってから、こ、告白……。告白する!



「あの、それと……。俺、ギルっていうんだ!」


「ギルさんですか、私はサラです」



 よぉおおし、自己紹介クリアした!

 サラちゃんって言うのか、似合ってる。それに声もなんか聴いていると落ち着くし……。



「俺はドミニクさんの弟子をしていて、君を前に見かけたことがあって、その……」


「なんでしょう?」



 ドミニクさんと知り合いみたいだったから、一応話題にしようと思って名前を出してみたけど、拙い! どうしよう、会話のネタが尽きたんだけど!?

 あと、えーっと、おふくろはなんて言ったっけ!?

 そうだ! 告白しなきゃ!!



「好きだ! 付き合ってください!!!」


「お断りします!!!」



 俺が思いついた言葉を口に出した瞬間、周りの空気が凍った。色んな所から殺気が漏れているのが分かったけど、俺は彼女に言われた言葉でそれどころじゃなかった。

 


「えっ!?」


「私はよく知らない人に付き合ってくださいと言われて付き合うようなバカ女じゃないです! 失礼します!!」



 反射的に聞き返してしまったが、彼女は俺を軽蔑するように冷たい目で睨みつけてさっさとどこかに行ってしまった。

 呆然と立ち尽くし、彼女に言われた言葉が俺の頭の中をぐるぐると駆け巡る。俺は何処で失敗してしまったんだろう。

 周りがうるさいけれど、俺は真っ白になったまま動くことができず誰かに肩をつかまれて別の部屋に連れて行かれたみたいだった。






10月19日(月)の0時に次話を予約投稿いたしました。

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