ハーレム勇者を覚めた目で見ている奴隷の話
私は奴隷。
付け加えるならば、勇者様の所有物。
戦闘能力なんか一切ないのに、なぜか勇者様のハーレムの一員に加えられた!
勇者様に買われて2年が経ち、みんなが勇者様と呼ぶ人はただいま絶賛ハーレム要員の聖女のアハーンさん(名前を忘れた)を組み敷いて腰を振っている真っ最中である。聖女は神様に処女をささげるんじゃないのかと思っていたのだけれど、あの人に会ってからはそんな常識が覆りましたとも!
聖女っていうか性女と呼ぶのがふさわしいのではないかと思う今日この頃……。
って言うか、隣の部屋に耳栓をしているのに喘ぎ声がうるさすぎて、全然眠れない。
同室のハーレム要員さん2~4号さんたちは、ぐっすりと寝ているか隣の部屋のアハーンさんに嫉妬の炎を燃やしているかのどちらかで、不穏な空気の中では熟睡ができない!
全くと言っていいほど戦闘能力を持っていない私にとっては、このハーレムパーティに着いていくだけで精一杯で、睡眠は大事な体力回復手段なのに……。
「いい加減、さっさと終わらせてほしい……」
「本当に! あの忌々しい聖女がいなければわたしが勇者君の相手ができたのに!」
ぽそっとつぶやいた独り言に反応したのは、ハーレム2号の貧乳スレンダーな体系のエルフのお姉さんである。
やたら長ったらしい名前だったため、彼女の名前も既に忘却の彼方にすっ飛んでいる。
とまぁ、雑談をするわけでもなく、ギリギリと毛布で歯噛みしているエルフのお姉さんをよそに、隣の部屋でひときわ大きな喘ぎ声をあげたアハーンさんが撃沈したことで、本日の騒音の大本がなくなり私はぐっすりと夢の国に旅立つことができたのだった。
私は元々商人の子供である。正確に言うならば大商人の妾の子。実の母は娼婦をしていたらしい。
なぜ、らしいというのかは物心つく前に父親が私の親権を母から買い取ったからだ。
大商人の家に引き取られたからといって、妾の子である私の生活は丁稚の子供と何ら変わらず、何故引き取られたのかと名ばかりの父親に聞いたことがあったけれど、それは私の持っている鑑定眼に目を付けたからのようだった。
鑑定眼というのは魔眼の一種で、物の価値や状態を見極めることに特化したものである。目利きというスキルもあるけれど、鑑定眼には遠く及ばない。父親はその力欲しさに親権をとったらしい。
迷惑な噂ではあるけれど、いずれは私にこの店を継がせるのではないかと思われていたようで、戦々恐々とした正妻と腹違いの兄弟たちに目の敵にされ、ありていに言えばいじめられた。
どうして母は迎えに来てくれないのかと嘆いたこともあったが、父に売られているから元々望まれて生まれてきたわけでもないみたいだから、早々に諦めることにした。
その頃の父親は貴族に取り入るような動きを見せていて、噂好きな従業員や私が父親が取り入ろうとしている側の貴族が危ういかもしれないと思っていたところで、手を切るタイミングを逃し政争に巻き込まれることになってしまった。
私には貴族の派閥なんかはわからないけれど、王権派と教会派貴族の間での利権をめぐる争いがあり、辺境ではその内政の乱れに付け込んで外国との紛争になりつつあると行商のおじさんたちが言っているのを聞いた。
貴族同士の争いに巻き込まないでほしいと思ったが、瞬く間に父親の商売は傾いて借金を補てんするためという名目で、継母に私は奴隷商人に売られた。
10歳の女。鑑定眼という益になる魔眼持ち。大層高く売れたことだろう。
ちくしょうめ!
そんなこんなで、旅の中で戦闘能力0な私を勇者様は購入された。
初めて勇者様に会ったときに、
『小さい子がこんな檻の中に居るなんて良くないよ、僕に君の力を貸してほしい』
と言われ、子供心に何言ってるんだ?こいつと思った。
私の見えないところで、『ハーレム作るなら幼女奴隷を押さえておかないとグフフ』って気味の悪い声が聞こえ、こいつを信用してはアカンと私の直感が言うのでそれに従うことにした。
あとから政治の中枢にいた聖女のアハーンさんに政争の話を詳しく聞いたところ、原因がご主人様である勇者様が原因だったそうで、間接的とは言えこいつのせいで奴隷にならなければならなかったのか思うと、闇討ちしてもいいんじゃね?と考えること∞回。
しかし、ヘタレようがハーレムを作ろうが性格が悪かろうが、曲がりなりにも勇者ですからね、そんな隙はありませんでしたとも!
ハーレムを形成するお姉さま方が邪魔だったとも言いますがね!
そんなこんなで、朝です!
昨晩は喘ぎまくっていた聖女なアハーンさんは若干眠そうではありますが、つやつやしてた。
一方勇者様(笑)は腰をとんとんと叩いております。どんだけ酷使したんだか……。
「さて、いい天気だな! 今日は買い出しだ。頼んだぞ、サラ!」
「かしこまりましたご主人様」
変な咳払いをして、私に買い出しをと命じる勇者様だけど、買い出しに出かけるにもハーレムパーティが付いてくる。
とりあえずは、勇者様がいないと仕事にならないため、仕方なく財布の隣を歩く。
この勇者様(笑)のハーレムパーティは子供の情操教育にはものすごく悪いと思うのだが、勇者様(笑)を除けば、ものすごく私にやさしいパーティなのである!
勇者様(笑)にボインな胸を押し付けるように腕を組んだ聖女のアハーンさんは、勇者様(笑)の最初の仲間で私の先輩に当たる。
勇者様が、『ムラサキノウエ計画グヘヘ』と、気持ち悪いにやけ顔で私を見ていたことがあり、その時に『幼子に手を出すものではございません!』と自らを盾に私を守ってくれた。
今思い返せば、幼女に嫉妬し彼の一番は私なのよって感じで、真っ先に手を出してほしかったんだったんだろうなと……。
そのあとの対応も悪かったし。
仲睦まじく見える勇者様(笑)と聖女のアハーンさんの様子を羨ましそうに、じっとりと見つめるハーレム要員2号の貧乳エルフのおねえさんは、私がパーティに加わった後に加入した。つまり私の後輩。
お若く見えて実は勇者様(笑)より、かなり年上なので、パーティ最年少の私との年の差はものすごいことになっている。
彼女は出生率があまり高くないエルフの里出身の為、大の子供好き。奴隷な私にお菓子をくれるのは主にこの人である。
ただ、最近は勇者様(笑)に関する愚痴を私に言ってくるので、もっぱら聞き役に徹している。餌付けされている自覚はあるけれど、この人も幼女に手を出すなんてと勇者様(笑)に非難してくれるため、その時だけは仕方ないなぁとお姉さんになった気分で聞いてあげたりしている。
隣の勇者様とのコンパスの差が大きいので、次第に遅れがちになる私をハーレム要員3号の竜人のお姉さんが抱き上げてくれた。
体力がない私を運んでくれるのは基本的にこの人。
出会った頃は役立たずの奴隷が何故勇者(笑)のパーティに居るのかと、面と向かって言ってきた生粋のアマゾネス。このパーティの資金管理を私が一括してやっていると伝えると、ものすごく驚かれた記憶がある。
だって、勇者様(笑)はすぐ女に貢ごうとするし、聖女のアハーンさんは世間になれていなくて高額な買い物をしようとするし、貧乳エルフのお姉さんはそもそも貨幣がないエルフの村出身だし、仕方なく生粋の商人である私が一括で管理することになったという経緯がある。
そんなこんなで、私がいないとこのパーティの経済は破綻すると理解した竜人のお姉さんは私を丁重に扱うようになった。
「勇者様! これ買ってほしいにゃ!」
「あー、どれどれ? いいんじゃないか、シーに似合いそうだし。なぁ、サラ?」
宝飾品をはじめとした装備品が並ぶ街の一角にやってきたところで、ハーレム要員4号の猫獣人のお姉さんが勇者様におねだりしている。
光物大好きな盗賊職な猫獣人のお姉さんは、獣人としては一応成人しているらしい。ただ私とあまり年が違わないせいか、大変な甘え上手である。今もふわっふわの尻尾を勇者様に擦り付けておねだりの真っ最中。
まぁ、鑑定をして良いものであれば買うのもやぶさかではないけれど―――
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名称:ガーネットのブレスレット
品質:Sランク
さる国の貴族が持っていたブレスレット。既に閉山した鉱山で産出したアンティークの宝石を使用しているため非常に高価である。一流の彫金師が丹精込めて作った一品。装備品としての価値はない。
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これは単なる宝石の付いたブレスレット。宝石の質は良いけれど、守備力が上がるようなものでもないただのアクセサリーだった。
チラッチラッと私に向かって買っていいかなの視線を寄越す勇者様が心底ウザい。
「駄目です。その装備は単なるアクセサリーです。よって買うのは無駄だと判断します」
「そんニャあ……。こんなにかわいいにょに……」
この猫獣人のお姉さんは光物に目がない。
こういった宝石の目利きに関してだけは、鑑定眼持ちの私に並ぶと思う。
「かわいそうだぞ、サラ。俺が見てもいいものなんだから買ってあげてもいいだろう!」
「シーさんに買ったら聖女様をはじめとしてみなさんに買わなくてはいけなくなるじゃないですか。以前のように素寒貧になってもいいのであるならどうぞ? 私は奴隷ですので、私のようなものの意見を聞かず、ご主人様のお好きになさればよいのです」
ちょっと突き放した言い方をすれば、すぐこちらの顔色を窺うようなセリフが口から飛び出てくるのがこの勇者様。
そもそも、このハーレムパーティは魔王を倒す目的で、各国から倹しく旅をすれば10年ほどは困らない程の支度金を持たされた上で旅立ったそうで、初めて持参した金額を聞いた時に私は耳を疑った。潤沢にあったお金は勇者様が散財した後だったからだ。
資金を使い果たしてしまったために、お金稼ぎのために冒険者ギルドで依頼を受けてお金を稼いだり、魔物を倒した際に得る素材を売ったりしてお金稼ぎをすることになり、商人スキル持ちの私が仕方なくお金の管理をすることになったのだ。
懲りずに幾度となく極貧生活に陥ったせいで、聖女なアハーンさんと、エルフのお姉さんから冷たい視線が勇者様にちくちく刺さっている。この視線はおそらく、抜け駆けは許さないという嫉妬を含んだものだろうが、私も極貧生活をしたくはないので、一緒になってジト目で勇者様に訴えている。
「サラは奴隷なんかじゃないぞ! 俺たちの仲間なんだ、みんなのことを思っていってくれるのであれば、俺に否はない!」
「うう……。もう野宿はいやにゃ、おなかペコペコいやにゃ、ごめんにゃさい勇者様、シー我慢するにゃ」
自分の財布の中身を減らしたくないがためのおねだりだったが、極貧生活を思い出した猫獣人のお姉さんはあきらめたようだった。ぺたんと垂れてしまった猫耳が大変かわいらしい。
それはそうと、勇者様は私のことを奴隷じゃないと言うのなら、さっさと奴隷の身分から解放すればいいのにと思っている。もっとも解放されたらこんな手のかかる仲間(笑)は解消してさっさとずらかる予定だけど。
食料品や消耗品などを購入した後で、聖女なアハーンさんとエルフのお姉さんが服を売っている店を前にそわそわし始めた。勇者様に選んでもらいたい光線がバシバシとんでくるが、女性の買い物に付き合うことは非常に体力の消耗になるそうで、勇者様がげっそりとしていた。
「勇者様どちらの服が私に似合いますでしょうか?」
「勇者君! こっちも見てくれるとうれしいなw」
「うん、どっちも君たちに似合ってるよー」
それぞれ個人の財布があるのですから出せばいいのに、何故パーティの財布から出そうとするのかわけがわからん!
いくら私がパーティの支出を管理していると言っても、奴隷の私がお金を持っているのは危ないということで、パーティで使う消耗品や装備など購入資金は勇者様の管理。残りはパーティ(私以外)で等分し、それぞれのお小遣いになるよう振り分けることにしている。
それでも、一度吸った甘い蜜は忘れられないもので、散財を覚えてしまったこのパーティは金遣いが非常に荒い。
災害級の魔物を楽々と屠るこのチートなハーレムパーティは、入ってくる収入も半端ないが、我慢が出来ずに支出が抑えられないのが非常につらいところ。一度の魔物の討伐で得る収入は固定費を差っ引いても一般家庭の年収越えのくせに、各人に割り振っているお小遣いだけでは足りないようで、あの手この手で勇者様の紐を緩めようとしているのが見て取れる。(下半身は常にゆるゆるですが)
勇者様の受け答えが次第にいい加減になったところで、各人夕方まで自由行動することになった。
逃げたな勇者様。
聖女なアハーンさんとエルフのお姉さんは一緒にウィンドウショッピング、竜人のお姉さんは鍛冶屋に行くと言って早々に離れ、猫獣人のお姉さんは宝飾品街に走って行った。
私は致し方なく勇者様に連れられて商店街をぶらぶらしている。
だって、私は奴隷。ご主人様から許可なく離れることはできないしねぇ……。(棒読み)
「ほかの方たちと別行動でよろしいんですか?」
「問題ないよ。サラと二人になりたかったしね」
真っ白い歯がきらりと光った。キモイ。
一般人から見て勇者様は、人並み外れて整った顔立ちの男性だが、先ほどのセリフには背筋にぞわっとした。鳥肌がものすっごい。
蕁麻疹が出たのかと言わんばかりに全身をかきむしりたい衝動にとらわれて、何とか我慢してぎこちない笑みを無理やり浮かべようとして失敗した。
「そうだ、サラも買い物したいよね?」
「え?」
「何か買ってあげようと思ったんだけど、君の場合は自分で選んだ方がうれしいと思って」
さすが勇者様、女に関しては良く見ていると思った。
私がただ単に高いものをもらっても喜ばないことも良く解ってる。しかし、それを別のことに生かせないものかと首を傾げたくなる。
「いつも迷惑をかけているからね、ちょっとだけ色を付けておいたよ」
「こんなに……。私ごときに、よろしいんですか?」
私の掌の上に乗せられたのは、金貨20枚も入ったずっしりと重い革袋。さすが勇者様、金銭感覚が破綻しているな。このお金、一般人の年収3年分くらいあるんだけど……。
「だからそんなに自分を卑下するんじゃないよ? 大丈夫、これは僕のポケットマネーだから。パーティのお金には手を付けてないから安心していいよ」
「でも、奴隷な私がこんな大金持っていたら、どこで盗んだって言われそうで……」
「あ、それならいつもみたいに僕が渡したって一筆書いてあげる! それなら、疑われないでしょう?」
「何から何まで……。ありがたく使わせていただきます、ご主人様w」
「あ、ああ。っじゃあ、サラ一緒に買い物にいこう「あ、今欲しいものあるんです。売り切れていると困るので、行ってきますねー」か」
私は奴隷にしてはかなり破格のお小遣いをもらい、しばしの自由時間を貰うことができた。自分でもこれ以上ないってくらいかわいらしく微笑んで、呆然としている勇者様をその場において私は走り去った。
なあに、心配はいらない。この街は私が育った街だ、このパーティの誰よりも詳しく知っている。
私が向かった先は、この街の奴隷商。私が継母に売られ、勇者が私を買った店だ。
「奴隷商人のおじさん久しぶり!」
「ああ、勇者様に売った子か、どうしたね?」
久しぶりに会った奴隷商人のおじさんは、相変わらず儲けていそうなでっぷり具合だった。悪いイメージが付きまといがちな奴隷商人だけど、この人は割と誠実な商売をしていると思っている。実際に商品になった私が言うのだから間違いはない。
「私を買い戻しに来ました!」
「はぁ!? 奴隷のお前がどうやって金を手に入れたんだ!?」
あ、私が戦闘能力0なの良く覚えている。商品に関してものすごい記憶力を持っているのってすごいことだよね。
「ご主人様がお小遣いでくださいました!」
そういって、今まで貯め込んできたお小遣いという名の大金を奴隷商人のおじさんの前に突き出した。ちゃんとご主人様がお小遣いを渡しましたという手書きの証明書もついている。
鑑定スキルを持っている奴隷商人のおじさんが勇者様の証明書を一枚一枚確認し、革袋の中身をしっかりと枚数を数え、にんまりとほほ笑んだ。
私は奴隷に落ちた時、借金の形に売られたため身分が債務奴隷になった。私は自分が債務奴隷であることをきちんと覚えており、半ば勇者が聞き流していたと思われる奴隷商人のおじさんと売買契約の条件もしっかりと把握していたのだ。
債務奴隷は借金が返済されてしまえば、自由の身。しかも、債務奴隷の債務の支払い先は主となった人だけではなく、売り主である奴隷商人でも良いときた!
実家にいた時にしっかりと商人の勉強しておいて良かった!
「さすがはお前も商人だな、この金は手数料も込みか。どれ、契約を破棄してやろう。こちらに来なさい」
鑑定眼という非常に役に立つ魔眼持ちの私は売値が高く、買い戻すには利子も含めて金貨100枚が必要だった。普通に奴隷生活をするならば一生払いきれない金額だったが、私のご主人様は勇者である。
いつかはチャンスが巡ってくるだろうと虎視眈々と媚びを売り、貞操の危機はハーレム要員のお姉さま方の嫉妬をあおることで守ってもらい、しおらしい振りをしてお小遣いをもらった2年間!
この日をどれだけ待ち望んだことか!
こうして自由の身になった私は、勇者からもらったお小遣いを元手に、商人としての第一歩を踏み出した。
そして、私が抜けた後の勇者ハーレム一行は、各地で更なる魔物の討伐に励み、数年後の時を経て、魔王の討伐に成功したとの報が各地に巡りましたとさ。