第三話 まだのんきに雑談(心は荒れ狂う)
綾寧が言っていることの9割がたを理解しきれなかった陽凪は、十秒ほどゆったりと考えた。そして口を開く。
「病院は、この世界にもありますか」
草原に、一人の男の叫び声が響きわたった。
「現状を把握しましょう」
大型動物に襲われたかのようにボロボロになっている陽凪。そんな彼のことは無視して綾寧は冷静になる。
彼女は異世界のノウハウを知っているのだ。
(私の愛読本『異世界転生したけど俺ってば世界最強みたいでさぁ』では主人公はこんな時でも冷静だったわ)
……一番冷静にならなければいけないのはおそらく綾寧だが、そんな彼女の心情など知るよしもない陽凪は、冷静に振舞う彼女をみて(すごいなぁ、いまどきの女子高生ってみんなこんなのなのかねぇ)とか考えていた。
「まず、私達は地球で生まれて地球で育った。これには間違いないわよね?」
「うん」
「久代さんも、私も地球人。そして既に死んだはずの人間、でしょう?」
自分が死んだ時のことを思い出す二人。今思い返すと、恐ろしいとかそういう感情より先に穴があったら入りたいと思う最後であった。
「……黒歴史だなぁ」
「私の黒歴史は中学生の頃……いや、関係なかったわ」
どうやらこの少女も闇を抱えているらしい。これまた恐ろしいほどずれた解釈をする陽凪。
「次!ここは地球ではない、そう思う?」
陽凪は周りを見渡す。
「うん……地球だとは思えないな。確実なのは日本にこのレベルの草原は存在しないから、日本ではない」
「そうね…あの街?の様子も現代社会にあるようなものではないから」
綾寧が指さしたのは100mほど先にある巨大な城壁?をともなう街である。中の様子はわからないが、あそこに入ってみないとこのままでは二人を待つのは2回目の死である。
「あの街に入らないと何も始まらないよな」
(はじまりの街!ギルドとかあったりするのかしらっ??廃れた教会とかドワーフの営む鍛冶屋とか鉄板よねっっっっっっっっ!!!!!)
そんな心情はおくびにも出さず彼女は努めて冷静に振舞うのだった。
「あの街を目指しましょう。ここにいたら危険があるかもしれないわ」
「そうだね、じゃああそこまで歩こう。その間にでも話はできるさ」
(街の周りの危険!!突如現れたSSランクの変異種モンスター!集団で現れるゴブリン!それを颯爽と倒す最低ランクの彗星のごとき冒険者の名前はアヤネ・ミスミ…!!!ああああああああああああ治まれ私の心っ…!)
鋭い目に雰囲気を醸し出す綾寧に、頼れるなぁと場違いな感想を抱く陽凪。彼はどうやら相当な天然のようだった。