第一話 残念な最後
その日、久代 陽凪は愛犬であるリリー(強面のハスキー犬)と散歩に出かけていた。お気に入りの散歩コースである見晴らしのいい土手。まだ四時頃ということもあり子供達がボールで遊んでいたり走り回っていた。それを注意する母親、という構図も何時もの通りだ。
「平和だねぇ…」
整った目鼻立ちの陽凪。彼はぼんやりとした性格であった。それは本人の面構えにも反映されているらしく、その顔立ちが残念なことに締まりのないものとなっていることが殆どだ。人生十八年、一度も告白などされたことはなかった。
「リリー、ちょっと走ってみようか」
というと、リリーも同意したかのようにワン、と一声鳴いた。周りにいた子供達は逆方向に走っていった。
そして陽凪が走り出したその瞬間、
「あ、ボール!!」
「え?」
折り悪く彼の足元に転がってきた赤色のボール。それはまるでピエロの鼻のようで、それに引っかかり転ぶ彼はまるで…
(て、悠長に考えt)
土手から転がり落ちる陽凪。
最後に見えたのは全ての元凶となった赤いボールが顔めがけて飛んでくるというものだった。
久代 陽凪。享年18歳。
その日、三住 綾寧は英語の宿題を家に忘れていた。五時までがタイムリミット。家は近場ということで、放課後急いでとりに帰ったのだった。
(あのくそじじい、数学の先生は明日でもいいって言ってくれたのにー!)
忘れた彼女に非はあるのだが、頭の中で英語教師に対する悪口を延々と繰り返す彼女にそんなことを考える猶予はなかった。
(も、もう4時半!?ちょっとスピード上げないと)
自転車を漕ぐスピードを速める綾寧。愛らしいと評判の丸い瞳はいまや血走り、迫力満点のものとなっている。
いつもの曲がり角でブレーキもかけず急カーブをかける。
彼女は気付けなかった。いつも余裕を持って登校する性であったため、無意識によけていたのだ。
曲がり角にある溝に。
「えっ!?きゃあぁああ!」
思い切り自転車の前輪が溝にはまる。それだけならともかくその溝の縦幅は割と広かったりした。
自転車のみならず、彼女自身ごと突っ込んでいく。
そうして綾寧はタニシとフナとキスをして意識を失った。
三住 綾寧。享年16歳。