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異世界召喚→帰還→死んだら幽霊になって異世界召喚←イマココ

作者: 古村香襟

プロローグ的な何か。

ここまで書いたら満足しちゃったので投稿しました。

 異世界召喚されました

 ↓

 世界を救う旅に出ました

 ↓

 世界を救いました

 ↓

 自分の世界に帰還

 ↓

 人生を終えました

 ↓

 幽霊になってまた異世界召喚されました←イマココ!



『どういうことなの……』

「それは、ワタシも知りたい所ですな……」


 草木も眠る真夜中に、すやすやと安眠しておられた御老人の上に幽体でコンバンワしてしまったアテクシこと桐生結です。

 姪っ子甥っ子に看取られて病院で安らかに永眠したハズなのにどうした事か、現在、昔この世界に召喚された十七歳当時の姿の幽霊として再召喚されたみたいです。

 ところで、この御老人はどなた様でせう?


「貴女は相変わらず頭の中が口からダダ漏れかね、ユイ」

『私のお知り合いで!?』

「おやおや、忘れられてしまったとは寂しいものだ。『翡翠の魔法使い』と呼ばれていたと言えば分かりますかな?」

『おっふぅ! キャンちゃんでしたか! だが、素直に名乗ってくれないのはこれ如何に?』

「いやはや、思い出してくれましたかな。良かった良かった」

『相変わらずのシカトスキル! まごう事なくキャンベル君ですね!』


 聞いてください皆様、私に乗っかられている御老人は、かつての仲間であった最年少天才魔法使い・キャンベル君でした。

 昔はおかっぱハニーフェイスでにこやかに毒を吐き場の空気を凍らせたり、ボケかました人をのほほんと物理的に凍らせたり、何かとおっとりと辛辣な少年でしたが、なるほど、それが年を取るとこんな朗らかで優しそうなイケお爺ちゃんになるんですねどうしてこうなった。

 しかし、私に不親切な所といいなだらかな皺に囲まれたアンバーの瞳といい、少年の頃の面影が見て取れます。


『お爺ちゃんでもイケメンとか。いい年の取り方をしたんですねぇ。中身は丸くなりましたか?』

「おやおや、ワタシはいつだってまぁるい中身だったはずですが?」

『自覚があってもなくても質悪いぞこれ』

「ほっほっほっほ」


 随分と愉快気に笑う御老人だ。そういえば昔、「ユイは苦虫を噛み潰した顔が一番素敵ですね」ってまるで明日の天気の話をするようにしれっと言われた事があったわ。一瞬何を言われたのか分からくて、これは口説き文句かと聞いたらぷっすーって含み笑いされた、あの日のしょっぱい思い出。あ、他にも色々虐げられた思い出が溢れ出てきて辛くなってきた……っ。


「それにしても、信じたくはないですがこれも天命、という奴でしょうか」


 フォークで心の柔らかい所をチクチクやられる思ひ出に押し流されていた私の下で、キャンベル君がしみじみと呟く声が聞こえました。

 マウントポジションのまま項垂れていた顔を上げると、柔らかい笑みを浮かべたキャンベル君に頭を撫でられます。

 これは噂に聞くデレ期というものでせうか。旅していた時からいったい幾年経ったのかは知りませんが、やはり老いというのは人間を変えるのですね。


「ワタシは、貴女のような詰めの甘い粗忽者を選んだ天の意思など毛ほども信じておりませなんだが、なんとまあ計ったように二度と見る事は叶わぬと思っていた間抜け面を拝めるとは。まったく、おられるのであれば、神とやらにはもっと真剣に仕事に取り組んでもらいたいものですわ。どうして二度もコレを遣わされたのか。コレ以外に使える人材はいなかったのでしょうか」

『あれ、これ私disられてる?』


 前言撤回します。

 この子全然変わってない。優しくなでなでしながら突然口撃してくる、この上げて落とす戦法は長い年月を掛けて更に磨きが掛かってる。酷いや、私好きで召喚されてる訳じゃないのに。


「貴女が望んでこちらに来たとしたら叩き返しているところですが?」

『とりあえず、言葉と行動が一致してないので、なでなでするかdisるかどちかにしてくれません?』

「では、撫でるのをやめましょう」

『なん、だと……』


 それじゃあ鞭しか残らないじゃないか。飴くださいよ飴。キャンベル君のデレ期なんて、なかったんや……。

 再びガックンと折れそうな首に待ったを掛けたのは、カサカサの木の皮みたいな手の平でした。

 私の頬っぺたを片手で掴んで(両手で()()()じゃないところがミソ)、無理やりべっ甲飴みたいな瞳に映る自分と対面する。自分で言うのも何ですが、たこチュー口が無様です。


「して、貴女はどうして再召喚されたか理解しておいでか? こんな真夜中に、不作法に、か弱い老人の上に、落ちてきた理由を、まさか知らないとはおっしゃらないでしょうな?」


 誰がか弱いだって?

 などという反論はしてはいけない。私はそこまで馬鹿ではないのです。


『もっかいよろしくね☆ との事だそうで』

「……もし、本当にそう天啓を受けたのであれば、この世界はさっさと滅んでしまった方が民草のためのような気がしてなりませんな」


 何か、私が呆れられているような雰囲気になってますが、私は無実ですよ。

 今わの際、段々と鼓動を小さくする心臓の音に耳を傾けていると、身体がスーッと空に昇っていく心地がして、私は穏やかに死亡しました。ああ、これから私は黄泉への旅路に出るのだなとベッドの上で事切れた私に縋る甥っ子姪っ子たちの慟哭を、霊体となって苦笑しながら眺めていたんです。

 そしたらですよ、あまりの唐突さに吃驚する暇もなかったのですが、ゆっくりと上昇していた私の霊体が何かの力に引っ張られる様に道筋を逸れたのです。そして聞こえたのは前述のありがたぁいお言葉。

 あ、またか。と漠然と理解してしまいましたとも。悲しいかな、前回もこんな感じの丸投げだったので。

 前回、神様とかいう方はご自分の世界が上手く廻っていない事に頭を痛めておりまして、考え抜いた末に理性もぶち抜いてしまったようで、異世界(地球)というお宅から無理やり引っ張って来た私に『力』という玩具と『天啓』という取扱説明書を持たせ、ご自分のお家(異世界)に放逐されたです。その間、ご本人からの接触は一切なし。私が『救世』という遊びを終えた後はどっからともなくやってきて、沢山遊んだねはい帰った帰ったとばかりに首根っこ引っ掴み、さようならのさの字も言う事を許されずあっという間に帰還。

 神様は傲慢だとよく言われますが、成程と妙に納得してしまったものです。誘拐犯も裸足で逃げ出す逆託児物件ですわこれ。

 当事者と言う名の被害者の私から言わして貰うと、持たされた『天啓』の中にやるべき事は全て書いてあったので、知らない異世界に放り出されて途方に暮れる事もなかったし、遊び場の環境も整えてくださっていたお陰で孤独とは無縁でそれなりに楽しくやりながら、無事偉業をなしとげられましたけれども。

 だがしかし。もっと他にやりようがあっただろうが特に最後空気読めと小一時間問い詰めても罰はあたるまい。


 そして今回もまた同じ事が起きた訳で。

 神様、あんたって人は子供が子供産んじゃった所謂毒親じゃないんですから、自分家の事は自分で何とか出来るようになってくださいよ! 神は人に干渉できないとか言ってる場合じゃないでしょう!! 現に私だって人げ……は? 今は幽霊だろって? ノーカン? 人と接触できるのは一度きり? 前回は自分の世界に神の力を与えた人間が地上に留まらないように私にした? 向こうの世界じゃこの力は使えないだろ? いいじゃん、楽しかったでしょ? ニホンジンって魔法とか剣とか好きなんでしょ?


「おや、どうしました? とてもすて……いや、お辛そうなお顔ですが?」

『……うん、天啓(せつめいしょ)を読んでいたら言い訳の嵐で頭痛くなってきた』


 もーやだこの神様(キチおや)

 私の苦悩する顔が好きだと言って憚らないキャンベル君は、長い年月で少しは体面と言うものを学んだようですけども、言いかけた時点で取り繕っても台無しだから。聞こえてるから。

 前回の召喚であんなに頑張った私に、世界が優しくない。

 くっそ、お前らもっと私を大切に扱え! ばーかばーか! おまえのカーチャン、ゆーかいはーんっ!!


『そんで? キャンベル君はさ、現状をどんだけ知ってるんです?』

「そうですなぁ、百年前、ユイが片っ端から封印していった歪みがどんどん綻んできてるという報告を受けまして、いざ行ってみたら瘴気でまったく近づけない有様でした」

『ふんむー。私が受けた説明とほぼ同じですね。ところで、キャンちゃん今幾つ?』

「百と十五になりましたな。それがこの件と何か関係が?」

『ないっすね!』

「……貴女の神経の図太さというか能天気さには、呆れを通り越してもはや拍手を贈りたいものです」

『いや、結構真面目にキャンちゃん永生きだなって思ってる、いひゃいひゃい、ほっぺふままないれ!!』


 そうやってふざけ合っている内に話は脱線に脱線を重ね、当り前ですが何の実りもなく夜は明けてゆきました。

 爽やかな朝焼けを背負いながら、キャンベル君は物理的に重くなったと愚痴っていた腰をのっそりと上げ、仕方ないけどまた行きましょうかと言いました。まあ、そのために死んでまで放り込まれたのだから、行くしかないでしょうに。

 とまあ、こんなぐだぐだな感じで一人の老人と一体の幽霊は、お互いくっそめんどくせぇなぁと思いながら、再び世界を救うべく旅に出るのでした。

 ちゃんちゃん。


 で、旅を終えたら私は無事に成仏出来るんでしょうかね?

Q:キャンベル君はどうして幽霊に触れるんですか?


A:修行を積んで『賢者』になったからです。彼もまた、人外のようなものなのです。

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