俺の高校の野球部は死ぬほど弱い5
ボールの行方は――。
外野の右中間に落ちた。
ワッと観客が賑わう。
「照橋、走れえええぇぇぇえええぇぇ!」
部長の声とともに部員全員が叫ぶ。右中間に球が転がり、中堅手と右翼手が慌てて球を拾いにいく。
打たれた吉川は唖然とした顔で何が何だかわからない表情のまま球の行方を見守っていた。
照橋先輩は一塁を蹴って二塁に向かう。
「スリーベースヒットになるぞー」
部長の声に従い、三塁にいる部員が手を大きく振り回す。それを見た照橋先輩は二塁も蹴った。
同時に右翼手が球をとり、仲介役で球を取りに来ている遊撃手に返球する。遊撃手のミットに球が収まり、三塁手に球が投げられた。
「ボールが来てるぞー」と部長。
照橋先輩は一気に勢いでヘッドスライディングを決める。それと同時に三塁手のミットにも球が収まった。
審判はその光景を見て、一言。
「セーフ!!」
俺達の高校のボルテージはマックスになる。
「うおおおおおお。よっしゃああああ」
「いけるんじゃないか。これ」
間違いなくいける。完全に流れは俺達にある。
俺は二、三回ほど素振りをし、バッターボックスに向かう。
一点差。ツーアウト。ランナーは三塁。ここで一打決めれば、同点でサヨナラのチャンスも巡ってくる。
ここは俺が打たなければ。
「プレイ!」
審判がコールし、俺はバットを構える。今なら、先頭バッターに三塁打を打たれて動揺しているはずだ。
打つなら今だ。
吉川は球を受け取ると、しっかりと変わらないフォームでキャッチャーにほおる。
今だと思ったら、そこにキャッチャーミットに球があった。
ワンストライク。
155キロ。
「マジかよ……」
思わず、呟いてしまう。なんて精神力しているんだ。
無意識にスピードガンに表示された電子掲示板を見てから、もう一度素振りを行い体勢を立て直す。
考えている暇はない。そして、俺にそんな剛速球を打てる技術もない。なら、方法は一つだ。
吉川が二球目を振りかぶる。俺はバットを寝かせ気味に構え、球をあてることだけに集中する。球さえ当てていれば、次第に目が慣れてくるはずだ。
吉川は二球目を放ち、なんとか俺はバットに当てる。ファールだ。
吉川の三、四球目もファールにして周りは緊張感で包まれる。
「いいぞー。竹寺―!」
「平常心、平常心!」
とベンチの向こうで仲間たちが応援してくれている。この声援に俺はバットで応えなければならない。
俺はグッと力を込める。
自分に力むな力むなと言い聞かせる。ヒットでいいんだ。力みすぎるな。
吉川が五球目を振りかぶって投げる。
速い。けど、ボールになる。
案の定、ストライクゾーンからそれる。
「ボール!」
審判は力強い声でカウントする。
これでツーストライク。ワンボール。
球の速度も徐々に慣れてきた。ここが勝負どころだろう。
吉川は投球モーションにはいる。俺は慎重にかつ的確にタイミングを計りにいく。
そして、六球目を投げる。
だが、俺に放たれた球は150キロ後半を超える速球ではなく、
スローボール。
完全にタイミングを外された。しかし、バットはもう引けない。この状況でなんて緩急だ。
俺は意地でフォームを崩しながらも球を捕らえる。
「いけえええぇぇえええぇぇ!!」
球は捕らえた。
捕らえたと思えた。
しかし、手元で急に変化したのだった。
(ス、スローカーブ!?)
俺のバットは空を切り、審判は高らかに叫ぶ。
「三振! 試合終了!」
そして、俺の高校の野球部はまたしても一回戦を敗退した。
長かったシリーズも次で最終回になります。
最後までお付き合いください。