不具合の原因
第二章 不具合の原因
三が日だけの正月休み明けの一月四日、私は朝から出社していた。
年末には回路は動かなかったものの、原因が仕様にあったことが分かったのは良かったと思う。
課長の原田は十時には出社するそうだ。それまで年末までの調査結果をまとめておくことにした。
あれだけ強く仕様に問題は無いと言っていた原田になんと言ってやろうかと、私は少しばかり意地の悪いことを考えていた。
もちろん面と向かっておまえが悪かったんだとは言えないだろうが、一泡吹かせてやりたいという気持ちが正直なところだ。
何しろ奴がぬくぬくと休んでいる間にこっちは大晦日まで働いていたのだから。
十時をすこし過ぎた頃、原田課長が出社してきた。
「秋村、お疲れ。早速状況を説明してくれ。」
おいおい、いきなりかよ。まあいい。
「はい。取り急ぎ結論から申し上げますと、設計した回路では無く仕様に問題があることがわかりました。」
原田はその瞬間に一気に不機嫌そうな顔になった。
「仕様に?それはないだろう。前のミーティングでも仕様に問題が無いことは確認済みのはずだろ。」
なんだよ、信じてくれないのか。まあ、いつものことだけど。
「測定したデータをここにまとめてありますので、ご確認していただけますか?」
「そんなもの渡されてもよくわからないだろ。口頭で分かるように説明しろ。」
お前だってエンジニアのはしくれだろ?データ見てわからないなんてどういう神経してるんだよ。
私は渋々口頭での説明を始めた。
「つまりですね。前段の回路基板からの制御信号とデータ信号が、私が渡されている仕様書とは違うんです。どう違うかというのは先ほどお渡しした測定データを見ていただければ・・・・」
「だから何がどう違うんだ??」
「ですから、それは測定データと仕様書を見比べていただければ・・・」
「そんなもの見たって分かるわけないだろ。私も部長とお客様に説明しなければならないんだから、私に分かるように説明しろ。」
「・・・・・」
どうしようもないな・・・。
私は測定データと仕様書を原田の前に開いて一つ一つ細かく説明をした。
説明だけで二時間もの時間を使ってしまった。
原田は怪訝そうな表情をしている。
「あの・・・納得していただけたでしょうか。」
原田は少し考えた後、ゆっくり口を開いた。
「で、何で今頃になって、仕様云々の話になるんだ?仕様書は二ヶ月も前に渡していたはずだ。出荷間際になってこんなことを言われても、私だってどうしていいか分からないじゃか。だいたいお客様になんと報告するつもりなんだ?」
は?
私は私が想像すらできなかった原田の発言に、しばらく黙ってしまった。
しかし、私もこの状況で自分の言い分を我慢するほど大人しい人間ではない。
「今頃と言われますが、前回のミーティングで仕様の再確認をお願いしたじゃないですか。その時には仕様は間違いないというお答えを頂いたと記憶してますけど・・・。」
「そんなことを今更蒸し返してどうするつもりなんだ?今は納期に間に合わせることを考えることが先決だろう。納期に間に合わせるために、お前は何をするんだ?」
原田はあくまでも自分の非を認めるつもりは無いらしい。
まあ、この男らしいといえばそうなのだが・・・。
はっきり言ってもう納期に間に合わすことは不可能だ。
前段の電子回路を仕様通りに直してもらうのが筋だが、その作業だっておそらく一週間や二週間で終わるとは思えない。
だいたい前段の電子回路を誰が設計したのかさえ、私は知らないのだ。
しかし、出荷予定日は六日後の一月十日なのだ。
私は意を決して原田に言った。
「前段の回路からの制御信号をデータ信号を仕様書どおりに直していただければ二、三日で作業は終わると思います。」
「直していただくって、誰が直すんだ??」
知るかよ・・・そんなこと・・・
「俺はお前が納期を守るために何をするのかを聞いたんだぞ。」
「私がと言われましても・・・・」
「お前は自分の仕事に責任を持ってないのか?」
責任を感じてるから休日まで返上して仕事してるのに・・・・。
こんな堂々巡りのようなやりとりが一時間ほど続いた。
なんという無駄な時間なんだろうと思いながら・・・。
「秋村、とりあえず、すぐにどうこうできる問題ではないので休み明けに部長を交えてミーティングをするぞ。会社の信用問題にも関わってくるからな。休み明けの八日に会議室を予約しておいてくいれ。」
そういい残して原田は帰宅してしまった。
結局なんの結論もでない不毛な話で一日をつぶしてしまった。
私も帰宅して、残りの正月休みを自宅でゆっくり過ごすことにした。
休み明けにはきっと修羅場が待っているから・・・・。